R・シュトラウス アルプス交響曲 メータ指揮
静岡県の伊豆。
涼しげなこの滝。
「浄蓮の滝」とよばれ、シダが生い茂る自然の宝庫でもあります。
かの、天城越えの舞台のひとつともなっていたみたい。
何年か前に行きました。
中学のときの、熟の遠足で。
そのあと、大学生のときに友達と。
そして、家族と。
わたしの好きな場所のうちのひとつですよ。
R・シュトラウス アルプス交響曲
ズビン・メータ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニック管弦楽団
(1975.5 @ロイスホール、UCLA)
夏、音楽の涼味感を味わえる曲の代表格が、こちらでしょう。
わたくしも、毎年、夏にこうして記事にしてきてますが、同じことをまた書いちゃうと、この曲がCDも演奏会でも、いまや、こんなに、ひっぱりだこになるとは思わなかった。
ベーム&ドレスデンのDGモノ録音ぐらいしかなかった60年代に、あらわれたのは、ケンペ&ロイヤルフィルのRCA盤。
その後、始まった「アルプス」競争は、いまに至るまで、とどまることがないです。
オーケストラの演奏技量の急速な向上と、録音技術の進化と、デジタル化、CD登場など、すべてが後押ししたアルペンブーム。
その一翼を明らかに担ったのが、メータ&ロスフィルのレコードでした。
ツァラ、英雄の生涯、家庭交響曲、ドンキホーテ。
ロスフィルとのメータのシュトラウスシリーズは、ついにアルペンで、聴かなくても、鮮やかで重厚なデッカ録音の目覚ましさが、ここでも炸裂。
録音のイメージが、その演奏や、演奏者を形作ってしまうことが多々ありますが、メータ&ロスフィルのコンビは、まさにデッカの録音チームが生み出した、最良の組み合わせでした。
いま聴いても、ほんとうに音がいい。
安い装置でも、高い装置でも、等しく平等に、よく鳴ってくれる音盤。
デッカ=ロンドン=メータ=ロスフィル
だいたいにおいて出来上がった鮮やかなイメージですよ。
この演奏、ほんとうにわかりやすいし、痒いところに手の届く面白さ満載。
こういう、いい意味での平易な面白さ、楽しさを労せずして展開することができたのが、メータのあの頃の手腕なのですね。
描写的なシュトラウスの手の込んだ表現も、まるで鼻うた混じりに、次々と展開をしてみせるし、爆発的ないくつもの場面におけるフォルテも、いろんな度合いが秘められていて、巧みに登頂でのピークが築かれ、シビレルほどの感動、いや、興奮を与えてくれちゃう。
これはこれ、いいんです。
ケンペや、プレヴィン、そして同類の演奏の先端、カラヤンらの、味わい深い、アルプス登山と人生回顧には及びませんが、何度もいいますが、ともかく面白いし、かっこいいんデス。
そのメータは、15年後の90年に、カラヤン臭がまだ残るベルリン・フィルを指揮して、この曲の再録音をやってのけました。
基本路線は変わりませんが、すみからすみまで、音がびっしり充実のベルリンフィルを前にしては、ロスフィルはさすがに分が悪くて、比較すると、音の隙間を感じることもあります。
でもですよ、やっぱり、メータはロスフィル。
輝かしく、心から、気持ちいいサウンドに酔いしれることができるのは、旧盤のLAPOですよ。
切れ味がなんたっていいし、聴いてて、あのメータの縦横に、まさに切るような指揮ぶりが、思い浮かびます。
そのあたり、少しの粗さも含めてロスフィル盤は、若さの代償としての半面の、音楽の勢いを感じさせ、それが若さにも、大胆さにもつながっていたんです。
78歳となったメータ。
若手三羽烏とよばれた70年代、メータが筆頭を走り、次いで、オザワ、アバドだった。
メータだけが、いまもまったく変わらずの活躍ぶりで、レパートリーも普遍で、まったくブレがありません。
長老大巨匠の域と達した現在も、メータは、鮮やかさと、音選びのたくみさ、キレのよさでもって、若手となんら変わらない鮮度を保っていると思います。
登山のときの涼しげな滝と、下山とときの、切羽詰まったせわしなさの中の滝。
メータの演奏では、そんな面白さが、見事に引き立ってます。
さぁ、滝を思い浮かべ、シュトラウスの筆致のスゴサも思いつつ、「アルプス交響曲」を聴いて、クールダウンいたしましょう
最後に、ロサンゼルスフィルは、なんだかんだで、メータが最高っ
この素晴らしいオーケストラを、いまはドゥダメル君が無欲に導いていって欲しい。
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コメント
yokochanさん
アバドが逝き、マゼールが逝き、もうメータは「最年長巨匠」になってしまいましたね。アバドは例外として、マゼールもメータも、今となると若い30代の頃の名声が一番評価されていた気がします。あるいは30代であまりに優れた力を見せてしまったため、その後の過ごし方が難しくなってしまったんですかね。結局「無難な指揮者」の範疇に入ってしまった二人に比べて、アバドは最後まで拡大を続けていたのは今思うと凄いし、また、(特に健康上の)無理をしていたのかな、と思います。
マゼールの最終的代表盤は28歳の時のベルリンフィルとのブラームスだと思いますし、メータはやはりロスフィルとのツァラトゥストラが、現時点で、彼の過去の最大のレコードだと、私は思います。アルプス交響曲もベルリンフィルとの演奏は、確かに練れてるし、技術も完璧だと思いますが、演奏の躍動感というか、切れはロスフィルとのものの方が、私は強く感じています。評論家的には新盤の方が評価は高いでしょうね。
メータはまだ健康問題は聞きませんし、是非これからも活躍してほしいですね。
投稿: 安倍禮爾 | 2014年8月 9日 (土) 18時10分
安倍禮爾さん、こんにちは。
マリナー、ブロムシュテット、ハイティンク、小澤さん、そしてメータあたりが、いまや大巨匠・長老の域に。
メータの若い頃からかわらぬ演奏や、レパートリーも、ご指摘のとおり、むしろ今では無難な巨匠の域となってしまった感がありますね。
オペラもオケも両方極めたメータに宿る力は、インド人ならではのカレーパワーなんでしょうかね?
カレーは長寿の秘訣かもしれません。
まだまだ、メータらしさを発揮して活躍して欲しいと思います。
投稿: yokochan | 2014年8月10日 (日) 13時29分
お早うございます。クラヲタ会は本当に楽しそうで私もいずれ参加したいものです。料理は美味しそうだし、皆さんの話も本当に楽しそうです。メータボックス23枚組が先月上旬に届きました。16枚ほど聞きました。60~70年代のメータの演奏は宝の山ですね!まさに大胆不敵な若き巨匠です。ウィーンフィルを指揮したのもロスフィルのもイスラエルフィルのものも素晴らしい演奏ばかりです。ベートーヴェンの7番などは、あの世評の高いマーラーの復活とほぼ同時期の録音だけに本当に見事な演奏で、クライバー指揮ウィーンフィルの演奏と同じぐらい気に入りました。スポーツ的(笑)な活気と覇気がありますね。評論家のセンセイ方には、「精神性とか哲学性とか小難しいことは言いなさんな」と言いたくなりました。80年代のメータはへタレになってしまい、多くのファンを失ってしまいましたが、21世紀に入ってからは現代を代表する巨匠のひとりとして活躍していると思います。ワーグナーのバレンシア・リングのDVDが非常に評価が高いので観てみたいのですが、日本語字幕付きのやつはかなりお高いですね…
投稿: 越後のオックス | 2015年3月 4日 (水) 10時41分
越後のオックスさん、こんにちは。
やたら反応が遅くなりました。
メータのデッカ・ボックスは、だぶりが相当にあったので、手を出しませんでしたが、そのなかで、どうしても聴きたかったのは、ベト7です。
レコード時代、ちょっとバカにして、手を出さなかった一品です。
FMで聞いた記憶がありますが、それこそ、年を経た、いま聴きたいところです。
最近、知人の装置で、スターウォーズを聴かせていただきましたが、デッカの録音とともに、そのゴージャスな、ばりっとしたサウンドは、もう希少価値ものだと思いました。
メータのワーグナーは、マイスタージンガーを体験しましたが、無難にすぎるのが難点でしたが、聴かせる上手さは、まったく素晴らしいものでした。
投稿: yokochan | 2015年3月10日 (火) 21時04分