メンデルスゾーン 交響曲第1番 ヘンゲルブロック指揮
この夏は、富士山がよく見えました。
低気圧の影響で風が強く、雲もかかってましたが、ふだんの夏だと、気温の上昇で遠景は霞んでしまって、まったく見えないのです。
毎日、風が強いのも、今年の夏の特徴かも。
メンデルスゾーン 交響曲第1番 ハ短調
トーマス・ヘンゲルブロック指揮 北ドイツ放送交響楽団
(2011.3 @コングレスハレ、リューベック)
残暑に負けないように、さわやかな音楽を続けて聴きます。
1825年、15歳のメンデルスゾーンの作品は、そんな若書きとは思えないくらいに充実した内容の交響曲であります。
4つの楽章できっちりと古典の流れを汲みつつ、自在さもあって、そこここに、初々しいロマンの萌芽が見受けられます。
この曲の作曲時点では、ベートーヴェンの第9のさなか。
ただし、1924年初演の第9を、メンデルスゾーンが、当時の情報網からして知っているとは思えませぬ。
シューベルトは、「未完成」ぐらいまでの時点。
ウェーバーは、あらかたのオペラを書き終わり、最後の「オベロン」にとりかかっていた頃。
こんな風に俯瞰してみるとよくわかるメンデルスゾーンの立ち位置。
完全に、初期ロマン派の存在。
でも、もう少し視点を広げてみれば、古典派の末裔、かつ、純正ロマン派の狭間の存在のメンデルスゾーンが見えてきます。
その存在すべてを馥郁たる、たっぷりとしたロマン主義で解釈すると、交響曲は、サヴァリッシュやハイティンクの演奏が理想的。
軸足を、少し戻して、1番という作品の立ち位置を考えた場合に成り立つのが、今宵の演奏、ヘンゲルブロックの指揮によるもの。
この演奏は素晴らしい。
はつらつとした活力と、伸びやかな歌心。
それらを、現代楽器によるピリオド奏法により、完璧に導きだしてます。
豊かなスピード感と、鮮やかな歌い回し、キレのいいリズム。
疾風怒涛的な終楽章は、こんな軽やかかつ、ビンビンの演奏で聴くと、ブラボー多発注意報が発令されそうです。
われわれにとって、ハンブルクの北ドイツ放送響は、ヴァントとの厳格なブルックナーの演奏のイメージが強くて、いまの首席指揮者、ヘンゲルブロックの指揮ぶりが、どうなのか、CBSということもあって、今後も、まったくわからない、そんな状況にあります。
でも、あの北ドイツのオケを、古楽奏法もいとわない、極めて柔軟な演奏スタイルに変えてしまったすごさ。
ピリオド奏法の陥りがちな、貧血ぎみのせわしさとは無縁のふくよかさと、柔らかさがここにはありますよ。
だから伸びやかなメンデルスゾーンにも、ピリオドがOKなのでした。
古楽の演奏から、現代音楽まで。
驚くべき広大なレパートリーと、それぞれに応じた演奏スタイルの選択。
これからの指揮者のあり方の、ある意味先端を走るヘンゲルブロックなんです。
オペラにおいてもヘンゲルさんは、無敵で、バロックから、ワーグナーまでを手掛けてます。
バイロイトに、早くも呼ばれ、新演出の「タンホイザー」を指揮したのは2年前。
鮮烈だけれども、ドラマと歌を大切にした、ごくまっとうな指揮でしたが、1年で降板。
そうです、クソみたいなへんてこ演出では、指揮できませんよね。
まだ記事にしてませんが、一昨年あたりから思っていた、バイロイトの陳腐化と、普通のドイツの劇場へのなりさがりっぷり。
レコ芸の海外評でも、我が意を得たり的なことが書かれてました。
くそ演出では、いい音楽を奏でることができませんよ、まったく。
そのあたりは、また、夏の終わりに。
ヘンゲルブロックは、ドイツの期待の星だと確信します。
ティーレマンとは、まったく異なる個性ゆえに。
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