アルウィン 「オータム・レジェンド」 ヒコックス指揮
秋の吾妻山。
今年は、まだ帰っていませんので、ちょっと前の、今頃の晴天の景色。
秋だけど、季節は、冬に向かってまっしぐら。
ここ数年、秋の出番は少なめで、冬が早く来て、遅くまでのさばる陽気が続いてます。
日本人の心情としては、春と共に、秋を長く味わいたいものです。
アルウィン 「オータム・レジェンド」~秋の伝説
コール・アングレと弦楽のための
コール・アングレ:ニコラス・ダニエル
サー・リチャード・ヒコックス指揮 シティ・オブ・ロンドン・シンフォニア
(1991.1 @ロンドン)
ウィリアム・アルウィン(1905~1985)は、ブリテン、ウォルトン、ティペットたちと、同時代の英国作曲家。
ついこの間まで存命したわりには、保守的な作風。
でも、ウォルトンやティペットと同系列に考えるならば、かなりモダーンな雰囲気の音楽が多い。
一方で、RVW,ハゥエルズなどの抒情派にも通じる個性もあります。
作曲とともに、フルートも学んで、ロンドン響でエルガーやRVWのもとでフルートを吹いていたこともあるアルウィン。
ロンドンでの活躍を経て、後半生はサフォーク州のカントリーサイド、ブライスバーグで作曲に油絵(このジャケット)に、のびのびと暮らしました。
5曲の交響曲、あらゆる楽器のための協奏曲複数、これもまた多様な楽器による室内楽曲、オペラふたつ、歌曲、映画音楽60と、かなりの多作家。
オペラを是非聴いてみたいものですが、アルウィンの奥さまマリーさんと共同して、残された作品のレコーディングに情熱を注いだシャンドスレーベルですが、ヒコックスの逝去もあって、いまはひとまず終了している様子。
1954年、ブライスバーグの自身のアトリエで、まさに、画家・詩人のロセッティが、そこにあるのを感じつつ、絵筆をとりつつも、先達の絵にインスピレーションを得た、素敵な音楽を作曲しました。
ゲイブリエル・ロセッティ「祝福されし乙女」(The Blessed Damozel)
若くして亡くなった乙女が、天の宮殿から、地上の恋人を慕って歌う、そんな内容です。
具体的には、この絵に添えられた、ロセッティの詩の一節がそうです。
Surely she leaned o'ver me-her hair
Fell all about me face・・・・
Nothing: the Autumun fall of leaves
The whole year sets apace
確かに、彼女は、僕の頭のうえに身を乗り出した
髪が、僕のあたまのあたりに、はらりと垂れた
でも、なんでもなかった、秋の落葉だったのかな
こうして、1年は、すぐに過ぎてしまうんだ
この詩は、天の乙女が大半を歌いますが、唯一、地上の青年の独白がありまして、それがこの場面です。
まさに、天上と、地上の絵を耽美的に描いたその絵画は、静謐で抒情的なアルウィンの音楽を聴くと、ぴたりときます。
この詩に、そのまま音楽を付けたのは、まさに、ドビュッシーで、「選ばれし乙女」という声楽作品になりました。
さて、アルウィンの10分あまりの、あまりに美しい作品。
沈鬱な前半部分は、寂しそうな弦楽のうえに、コール・アングレの物悲しい音色を巧みに活かした楚々とした歌が淡々と続きます。
これを聴いていると、シベリウスの「トゥオネラの白鳥」を思い起こしたりもします。
少しテンポをあげて、音楽は動き出しますが、基調は短調で、それはきっと、早くに別れなくてはならなかった恋人への思いの焦燥感を感じます。
そして、後半が実に素晴らしい。
彼女の長い髪が、頬にふれた、そんな優しい感触を、秋の落葉に対して青年は、とても暖かい気持ちでもって受けとめるのでしょう。
優しく、慰めにあふれた旋律が、弦楽器から始まり、コール・アングレもそれに応えて暖かく応じます。
やがて、かすかな諦念も感じさせるなか、静かに、静かに音楽は終わります・・・・。
こんな美しい音楽は、是非、ひとり静かに聴いてください。
コンサートでもやって欲しくない、自分のお部屋で聴くのが一番。
できれば、窓の外に、色づいた葉をのぞみながら。
このCDには、あと、わたくしの愛するもうひとつのアルウィン作品、「リラ・アンジェリカ」が収録されております。
アルウィン 過去記事
「リラ・アンジェリカ」
「交響曲第5番」
「リチャード・ヒコックスを偲んで」
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