バントック 「サッフォ」 ハンドレー指揮
10月の終わりから、11月の始めにかけて行われた、横浜のスマート・イルミネーション。
環境に配慮した、優しいイルミで、創作的な作品も数多く、隣国からもいくつか展示がありました。
こちらは、実はゴミ袋なんですよ。
いまのクリスマスイルミネーションは、煌びやかですが、彩りはあっても、優しいほの暗さがよいですね。
バントック 「サッフォ」
~メゾソプラノとオーケストラのための前奏曲と9つの断章~
Ms:スーザン・ビックレー
ヴァーノン・ハンドレー指揮ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
(1997.2 @ロンドン)
サー・グランヴィル・バントック(1868~1946)は、ロンドン生まれの作曲家。
あまり知られてませんが、極めて多彩な方で、その作品数は多いですが、ほぼ演奏されません。
大規模な編成を要するオーケストラ作品や劇作が多いことも、その要因のひとつかもしれません。
以下は、以前の記事を少し編集して、そのまま記載します。
外科と産婦人科の父のもとに生まれたグランヴィルは、恵まれた環境において、幅広い教養を身に付け、音楽もその教養のひとつでした。
当初は、化学工業を学ぶものの、20歳にして、南ケンジントン音楽館で、数々の譜面を読んで、作曲を学び、音楽に目覚め、やがてトリニティ・カレッジで本格的に勉強をするようになり、さらに30歳にして、ロイヤル・アカデミーに入学して、さらに指揮者としての活動も行い、同時代を含む自国の作曲家たちの作品に親しんでゆく。
これは、やがて、バーミンガム市響の設立への関与にもつながります。
あきれるほどの教養人で、ヨーロッパ各国語はおろか、ペルシア語やアラビア語・ラテン語までも体得し、日本をはじめとするアジア文化にも興味大だったバントック。
その豊富な探究心から、極めて多岐にわたる題材でもってたくさんのオーケストラ作品や声楽作品を書いた。だから表題音楽がたくさん。
日本や中国、アラビアにまつわる作品もあります。
でもその神髄は、ほかの英国作曲たちが同じく魅せられたケルトの世界。
神秘的であり、ロンドンっ子からしたら心の故郷の世界でもあった。
4歳違いのR・シュトラウスとも相通じるものがあるし、ときに巨大性も発揮するところは、親友ブライアンをも思わせるところがあり、さらに、しなやかさでは、フランスの印象派風の響きにも通じるものがあります。
その音楽は、シュトラウスと同じく、時代を考えれば、どちらかといえば保守的。
甘味さと自然賛美の大らかさが同居する、世紀末風の音楽でもあり、地味さと派手さも共存してる。
わたくしには、極めて魅力的な存在で、濃厚すぎない官能性がたまらなくよろしくて、そこに自然を感じさせるのもよろしいのです。
以前は、その名もまさに、「ケルト交響曲」を取り上げております。
そちらは、まさに、絶海を思わせる素敵な作品でした。
オケ付きの歌曲と、オペラオラトリオのような長編「オマル・ハイヤーム」も、ただいま挑戦中。
いずれも、亡きヴァーノン・ハンドレーが、ハイペリオンとシャンドスのふたつのレーベルに、これらを含むバントック・シリーズを録音してまして、ほんとうにありがたい指揮者でした。
そのハンドリーの遺作の中から、「サッフォ」を。
サッフォ(サッポー)は、古代ギリシアの女流詩人で、紀元前7~6世紀の頃の方です。
途方もない昔ですが、恋愛詩人として、夫と死別してのち、独身をつらぬき、多くの若い女性に様々な芸術を指導したとされます。
余談ながら、そうしたこともあり、また、官能的な詩作もあることから、彼女は同性愛とも後に噂され、サッフォさんが、レスボス島の出身であることから、レズビアンという言葉も生まれたといいます。
ちなみに、本CDのジャケットの絵は、その名も「レズビア」。
イギリスの世紀末画家、ラインハルト・ウェッグリンの作品です。
バントックより、20歳上で、同時期に活躍してますので、この絵の雰囲気が、彼の音楽にぴったりと寄り添って感じるんです。
ハイペリオンのバントック・シリーズは、ウェッグリンの絵が多く使われてます。
この古代の詩を選択するところが、教養人としてのバントックの見識だと思いますが、英国語への訳詩は、ヘンリー・ウァルトンという人のもの。
それを、バントックの妻である、ヘレン・バントックが校正したもの、9作が選ばれてます。
ヘレンは、もとの名は、ヘレナ・フォン・シュヴァイツァーで、ドイツ系。
Helenaのaを取って、Helenとなりました。
彼女も、才人で、詩人であり、画家でもありました。
夫の作品にも詩を提供しております。
オーケストラによる10分の長い前奏曲のあと、その前奏曲にあらわれる旋律が、さまざまに登場する、9つの歌。
詩のタイトルと、その中身は、正直言って、対訳がないと、さっぱりで、難敵です。
1.「Hymn To
Aphrodite 」
2.「I Loved Thee Once, Atthis, Long Ago」
3.「Evening Song 」
4.「Stand Face To Face, Friend」
5.「The Moon Has Set」
6.「Peerof Gods He Seems」
7.「In A Dream, I Spake」
8.「Bridal Song」
9.「Muse Of The
Golden Hrone」
これらのタイトルから、なんとなく、その詩の内容と、それに付したバントックの音楽を想像してみてください。
ときに劇的に、そして甘味かつ、官能的で、香り立つような芳しさと、優美さ、夢見心地の切なさ、優しさ・・・・・。
この音楽を聴いていると、こんな言葉が次々に浮かんできます。
すべてのエッセンスは、オーケストラによる前奏曲に集約されております。
1906年の作曲で、初演は、作曲者の指揮で、1911年。
この音盤を手にしてから、4年。
もう、何度聴いたことでしょうか。
すっかり、バントックのこの音楽が心と身体にしみついてしまいました。
なにかの拍子に、ふっと、浮かんでくる旋律たちのひとつともなりました。
透明感と、すっきり蒸留水タイプの英国歌手ならではの声質の、リバプール生まれのスーザン・ビックレーが、極めて素晴らしいです。
それを支える、美麗このうえない、ロイヤル・フィルとハンドレーの指揮でした。
余白には、この作品と音楽的にも関連づけられた、「Sappho Poem」が収録されてます。
こちらは、本作の雰囲気をそのままに、チェロの独奏付きのオーケストラ作品でして、ジュリアン・ロイド・ウェッバーが素敵に弾いておりました。
過去記事
「ケルト交響曲 ハンドレー指揮」
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