ハーティ 「アイリッシュ・シンフォニー」 トムソン指揮
1月の相模湾の夕暮れ。
箱根の山と、真鶴半島。
そして、輝かしい黄金の夕陽。
こんな景色を子供のときから見てました。
海や山に沈む夕焼けの絵をよく書いていたものです。
夕焼け大好き。
そんな景色には、イギリス音楽がお似合いで、そんな嗜好から、ますます英国の音楽にのめり込んでいったという経緯がございます。
ハミルトン・ハーティ 「アイリッシュ・シンフォニー」
ブライデン・トムソン指揮 アルスター管弦楽団
(1980.10 @ベルファースト)
ハーティといえば、ヘンデルの「水上の音楽」のフルオーケストラ・バージョンを編みあげた人として高名です。
作曲家として、指揮者として、マルチ的な存在でもあります。
その作品を取り上げるのは、これで、3度目。
もっとも初期に、録音されたハーティ作品が、今日の、「アイリッシュ交響曲」。
その名もズバリの、アイルランド生まれのハーティの、ソウルシンフォニー。
1879年生れ、1941年没。
英国作曲家では、ヴォーン=ウィリアムズやホルストの数年後輩。
そんな世代で、第一次大戦も体験し、第二次終了前に亡くなってます。
北アイルランドのヒルズバラに生まれ、父は、その地の教会のオルガニスト兼音楽教師でした。
10人の子だくさんの家庭でしたが、その父の手ほどきを受け、自身もオルガニストとしてのキャリアを12歳ではじめ、生地の南、ブレイに16歳で赴き、正規オルガニストとして活動をスタートさせ、作曲も始めます。
そして、20歳の頃には、首都ダブリンで、ピアニスト兼作曲家として、その名も知られるようになったハーティ。
ダブリン音楽祭の作曲コンクールへ寄稿し、作曲家としての頭角を現しはじめ、弦楽四重奏などの大きな作品も残し、賞金も得るようになりました。
1901年、音楽祭は、「伝統的なアイルランド民謡に基づく組曲、ないしは、交響曲」の作曲コンクールを行う旨を発表し、1904年、ハーティは、まさに「アイリッシュ・シンフォニー」を作曲、見事に1位を勝ち取ります。
そのとき、ハーティは、25歳。
成功した大出世作となります。
ダブリンで行われた、ドヴォルザークの新世界交響曲に刺激されて発想が浮かんだともあります。
アメリカの民謡や黒人霊歌とボヘミアを重ね合わせたドヴォルザークの名作は、1893年ですから、ハーティのこの作品の10年前となります。
4つの楽章からなり、それぞれの楽章に、ひとつ、ないしは、ふたつのアイルランド民謡が巧みに使われていて、その楽章には、アイルランドにちなんだタイトルが付されております。
第1楽章 「ネイ湖畔にて(Neagh)」
第2楽章 「定期市の日」
第3楽章 「アントリム丘にて」
第4楽章 「7月12日」
ベルファーストの西側にある、大きな湖、ネイ湖。
ホルンのかっこいい咆哮により始まる第1楽章は、そのあと「Avenging and Bright」という民謡があらわれ、ついで、ふたつめ「The Croppy Boy」という、ちょっとノスタルジックな雰囲気の民謡も出てきて、このふたつの硬軟の取り合わせで、曲は進行します。
最後の方に出てくる、フィドルを思わせる独奏ヴァイオリンとフルートやオーボエとのからみは、「「The Croppy Boy」で、このメロディアスな雰囲気はとても素晴らしいです。
楽しい、わくわく感満載の第2楽章。
誰もが聴いたことある「The Girl I Left Behind」が異なる調で、同時進行し、なかなかの効果をあげておりまして、ハーティの腕の冴えを感じさせます。
長いオーボエによるソロは、まさに新世界交響曲を思わせる、懐かしい雰囲気が満載の第3楽章。
「Jimin' Mo Mhile Stor」というアイルランドの古謡がメインで、この曲はyoutubeなどで聴くことができますが、極めてステキです。
そして、英国系音楽を愛する者たちにとって、この楽章は、この交響曲の白眉とも呼ぶべきノスタルジーに溢れた名品なのです。
レント・マ・ノン・トロッポの速度表示を持つ、ゆったりとした流れの中に、美しい自然の風景を垣間見させてくれるようですし、郷愁に満ちたこの雰囲気は、日本人のわれわれにも、とても親しいものであります。
アントリムは、ネイ湖の北東部にある街で、広大な湖を望むようにして、丘陵地帯が広がっているようです。
このCDジャケットは、そのアントリムから見たネイ湖の神秘的な姿です。
7月12日という日は、1690年のその日、イングランド・オランダ連合軍とアイルランド軍との戦いが行われた、「ボイン(Boyne)川の闘い」を象徴する日です。
活気にあふれたこの楽章は、「Boyne Water」という民謡を中心に進行しますが、後半に、は、3楽章の「Jimin' Mo Mhile Stor」が改めて登場します。
そして、最後のコーダでも、ホルンが、このメロディーを神々しく奏して、感動を呼び醒ますのでありました。
親しみやすいメロディ満載の、聴きやすい音楽です。
スコットランド出身のブライデン・トムソンと、地元オケ、アルスター管の名コンビによる名演のひとつは、キレもよく、旋律の歌わせ方も、心のこもった熱いものです。
いまは、入手難かもしれませんが、ナクソスからも出てますので、是非。
悲しい出来事がありました。
日本も、きな臭い世界のなかで、どう舵取りをしていくべきなのか。
しかし、命は尊く、なにごとにも替えがたい。
かつて、北アイルランドも、大きな紛争のなかにありました。
なにも考えることなく、この曲を選択しましたが、今朝は、「アイリッシュ・シンフォニー」の3楽章がとても沁みました。
人間の英知を信じたい。
ハーティ 過去記事
「ヴァイオリン協奏曲/ピアノ協奏曲」
「ロンドンデリー・エアほか 管弦楽曲集」
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