シューマン 「女の愛と生涯」 エデット・マティス
ハートの花キャベツであります。
世では、ホワイトデーとかいう日があったようです。
そして、哀愁とロマン、ほんわかとした愛情を感じるシューマンの女声用の歌曲を。
シューマン 歌曲集「女の愛と生涯」
ソプラノ:エデット・マティス
ピアノ :クリストフ・エッシェンバッハ
(1982)
シューマン(1810~1856)が、歌曲の年1840年に作曲した、女声のための歌曲集「女の愛と生涯」。
その年、訴訟をしてまで、クララとの愛を成就させ、結婚することのできたシューマンは、愛する妻への想いも込めてこの歌曲集を書いた・・・・、のだろうか。
いや、きっとそうだろう。
時代の流れで、その価値観、というか考え方も変わるもの。
夢見るような少女が、男の人に憧れ、恋をして、妹たちに祝福されて、結婚し、そして、可愛い赤子を産み、しかし、夫の死を見送る・・・・。
そんな女性の生きざまは、多様化した生き方のなかで、ほんの一例ですが、原詩も、作曲も、男性の手によるところが、実はとても興味深いところです。
わたしも、そこそこの年代の人間ですから、自分の母が、そのような生き方をしていたと感じていたし、父は、早くに世を去ってしまったから余計です。
男性からみた視点には限界があります。
もっと後年、女性を多面的に描くことでは、天才的だったR・シュトラウスは、ホフマンスタールというパートナーも得て、格別な存在であったと思います。
フランス系ドイツ人の作家シャミッソーの同名の詩集を選んだシューマン。
原作は、それこそ、女性の生涯を描いていて、夫亡きあと、孫の婚礼までを詩にしているものの、シューマンの歌曲では、夫との別れで終了。
筋立ては、もしかしたら、一方的ですが、シューマンの素晴らしすぎる音楽は、そんなことをちっとも感じさせません。
1.あの人に会ってから
2.彼は誰よりも素敵なひと
3.わからない、しんじられない
4.わたしの指の指環
5.手伝って、妹たち
6.やさしい人、あなたは見つめる
7.わたしの胸に、わたしの心に
8.今、あなたは、初めて、わたしを悲しませる
以上の8曲で、さほど長くはないので、いつでも、軽い感じで聴けるのは、その内容が、7曲目までは、幸せに満ちていて、明るい色調だからです。
それでも、同じ、幸せな思いも、それぞれのシテュエーションによって、それぞれに異なる喜びが歌い込められてますね。
出会ったときのときめきを、じわじわと歌う第1曲。
ピアノの伴奏が、全編にわたって、いかにもシューマンらしいロマンティシズムに満ちているのも素敵です。
毅然として、彼への愛を歌う第2曲に、揺れ動く女心も感じさせる3曲目。
自分の指にはまった指環を見ながら、しみじみとする第4曲。
婚礼のわくわく感を、妹たちへの想いに込めただい5曲目。
そして、愛する人とふたりきり。愛するがゆえの不安の涙も。
でも、やがて生まれ来る天使への予感も静かに歌いこんでる6曲目は、いかにも、シューマネスクな世界です。
そして、我が子を、その胸にした喜びの表現は短いけれど、幸せに溢れている第7曲。
でも、一転、曲調は短調に転じ、夫の死へと直面する第8曲。
止まりそうなくらいの独白に胸が詰まる。
でも、「あなたがわたしの世界だった・・・・」と歌い、そのあとは、長い長い、ピアノの後奏が、しみじみと続いて、静かに曲を閉じますが、この部分は冒頭と同じ旋律。
ここで、聴き手に与えられる、安らぎと、安堵感は、ほんとうに感動的です。
さらに、物語を発展させて欲しいという思いも、このシューマンの美しい音の世界の中に、見ごとに完結される思いです。
すばらしき、シューマンの歌曲とピアノの世界の融合。
清潔・清廉な、エデット・マティスの歌声で聴く「女の愛と生涯」。
それは、麗しく、正直で、疑いもない、美しい愛の結露と聴こえます。
加えて、ドイツ語のディクションの正しさも、耳にさわやかです。
そんな歌に、エッシェンバッハの雄弁なピアノは、不釣り合いと思われるでしょうが、それが、それぞれに、美しい均衡を保っているところが、またシューマンの歌曲のゆえでしょうか。
聴き惚れるほどに巧みな、ナイーブなピアノに、まっすぐなソプラノ。
この曲の、名演のひとつですね。
| 固定リンク
コメント