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2015年3月15日 (日)

シューマン 「女の愛と生涯」 エデット・マティス

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ハートの花キャベツであります。

世では、ホワイトデーとかいう日があったようです。

 そして、哀愁とロマン、ほんわかとした愛情を感じるシューマンの女声用の歌曲を。

Schumann


  シューマン 歌曲集「女の愛と生涯」

     ソプラノ:エデット・マティス

     ピアノ :クリストフ・エッシェンバッハ

                                    (1982)


シューマン(1810~1856)が、歌曲の年1840年に作曲した、女声のための歌曲集「女の愛と生涯」。

その年、訴訟をしてまで、クララとの愛を成就させ、結婚することのできたシューマンは、愛する妻への想いも込めてこの歌曲集を書いた・・・・、のだろうか。

いや、きっとそうだろう。

時代の流れで、その価値観、というか考え方も変わるもの。

夢見るような少女が、男の人に憧れ、恋をして、妹たちに祝福されて、結婚し、そして、可愛い赤子を産み、しかし、夫の死を見送る・・・・。

そんな女性の生きざまは、多様化した生き方のなかで、ほんの一例ですが、原詩も、作曲も、男性の手によるところが、実はとても興味深いところです。
 わたしも、そこそこの年代の人間ですから、自分の母が、そのような生き方をしていたと感じていたし、父は、早くに世を去ってしまったから余計です。
男性からみた視点には限界があります。

もっと後年、女性を多面的に描くことでは、天才的だったR・シュトラウスは、ホフマンスタールというパートナーも得て、格別な存在であったと思います。

 フランス系ドイツ人の作家シャミッソーの同名の詩集を選んだシューマン。
原作は、それこそ、女性の生涯を描いていて、夫亡きあと、孫の婚礼までを詩にしているものの、シューマンの歌曲では、夫との別れで終了。
 筋立ては、もしかしたら、一方的ですが、シューマンの素晴らしすぎる音楽は、そんなことをちっとも感じさせません。

 1.あの人に会ってから

 2.彼は誰よりも素敵なひと

 3.わからない、しんじられない

 4.わたしの指の指環

 5.手伝って、妹たち

 6.やさしい人、あなたは見つめる

 7.わたしの胸に、わたしの心に

 8.今、あなたは、初めて、わたしを悲しませる


以上の8曲で、さほど長くはないので、いつでも、軽い感じで聴けるのは、その内容が、7曲目までは、幸せに満ちていて、明るい色調だからです。

それでも、同じ、幸せな思いも、それぞれのシテュエーションによって、それぞれに異なる喜びが歌い込められてますね。

出会ったときのときめきを、じわじわと歌う第1曲。
ピアノの伴奏が、全編にわたって、いかにもシューマンらしいロマンティシズムに満ちているのも素敵です。
 毅然として、彼への愛を歌う第2曲に、揺れ動く女心も感じさせる3曲目。
自分の指にはまった指環を見ながら、しみじみとする第4曲。
婚礼のわくわく感を、妹たちへの想いに込めただい5曲目。
 そして、愛する人とふたりきり。愛するがゆえの不安の涙も。
でも、やがて生まれ来る天使への予感も静かに歌いこんでる6曲目は、いかにも、シューマネスクな世界です。
 そして、我が子を、その胸にした喜びの表現は短いけれど、幸せに溢れている第7曲。

でも、一転、曲調は短調に転じ、夫の死へと直面する第8曲。
止まりそうなくらいの独白に胸が詰まる。
 でも、「あなたがわたしの世界だった・・・・」と歌い、そのあとは、長い長い、ピアノの後奏が、しみじみと続いて、静かに曲を閉じますが、この部分は冒頭と同じ旋律。
ここで、聴き手に与えられる、安らぎと、安堵感は、ほんとうに感動的です。

さらに、物語を発展させて欲しいという思いも、このシューマンの美しい音の世界の中に、見ごとに完結される思いです。

すばらしき、シューマンの歌曲とピアノの世界の融合。

 清潔・清廉な、エデット・マティスの歌声で聴く「女の愛と生涯」。
それは、麗しく、正直で、疑いもない、美しい愛の結露と聴こえます。
加えて、ドイツ語のディクションの正しさも、耳にさわやかです。

 そんな歌に、エッシェンバッハの雄弁なピアノは、不釣り合いと思われるでしょうが、それが、それぞれに、美しい均衡を保っているところが、またシューマンの歌曲のゆえでしょうか。
聴き惚れるほどに巧みな、ナイーブなピアノに、まっすぐなソプラノ。

この曲の、名演のひとつですね。
                 

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