ストラヴィンスキー 「春の祭典」 メータ指揮
またしても靖国神社の御霊祭ネタで恐縮です。
青森ねぶたを始めとする、提灯系の艶やかかつ、原初的な各地の祭りの飾りがいくつか展示されてました。
青森や弘前のねぶた(ねぷた)は、本格シーズンでは観たことありませんが、祭り前の展示物は、何度か拝見しました。
ともかく大きく、細工も精巧で、ねぶた、いや、そもそも年に一度の祭りにかける人々の情熱を強く感じました。
そして、ねぶたの印象的なところは、これまた原初的な、そして、日本人の心に潜むリズム感を刺激する、そのお囃子。
心と体にビンビンきますね!
そして、どうしようもなく暑い、暑いから、「春の祭典」だ
ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」
ズビン・メータ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニック管弦楽団
(1969.8 @ロイスホール、LA)
わたくしの、初ハルサイが、このメータ&ロスフィルの名盤。
1971年に発売され、その年のレコードアカデミー賞管弦楽部門に、選ばれました。
中学生のわたくしは、即座に、このレコードを買い求め、その演奏もさることながら、この「春の祭典」という、当時、超モダンで、激しくダイナミックな、ゲンダイオンガクに、心の底から魅せられ、学校から帰ると連日、聴きまくったものでした。
スピーカーの配置を、いろいろ試しつつ、このデッカ特有の目にも耳にも鮮やかな分離のよい、芯のある録音の良さを楽しみましたが、以前にも書きましたが、あるとき、ためしに、勉強机と一体化した本箱の上に、そのスピーカーを置いて聴いてみたときのこと。
あまりの重低音と、鳴りのよさに、安くて軽量なスピーカーが暴れだし、本箱の上から、机の上に見事に落下。
あやうく、頭部への一撃は免れましたが、机には、大きな傷を残すこととなりました。
どっかの評論家先生じゃありませんが、メータのハルサイは、命がけなのであります(笑)
この思いで満載の、メータ・ロスフィルのハルサイをCDで買い直したのは、そんなに昔のことではありません。
この演奏以降に、とくに、70年代は、個性的かつビューティな「ハルサイ」が、たくさん出現したものだから、それらのCD化盤をともかく先に買い直したり、初聴きしたりで、何故かメータの原初盤は、後回しになっていたのです。
メータのハルサイは、ほかにもいくつもあるもので、そちらの音盤を持っていたから、後回しになっていたということもあります。
わたくしの、「ハルサイ」ナンバーワンは、申すまでもなく、アバド盤です。
あの軽やかで、スマートなハルサイは、まるでロッシーニのように軽快かつ、スピーディなものです。
そして、メータ・ロスフィルのハルサイは、同じくして、スピーディで、各所にみなぎるスピード感は、もしかしたら、ハルサイ史上の中でもトップクラスかも。
でも、そこに重量感と、濃厚な味わい、完璧なまでの統率力と切れ味の豊かさ、これらが恐ろしいほどにビンビンと来て、「ハルサイ」に感じる野卑なイメージも見事に表出しているものだから、年月を経ても色あせない凄演になっているのです。
あのときのメータと、ロスフィル、そして、デッカの録音陣、三位一体にして出来上がった名演奏・名録音だと思います。
当時のアメリカは、70年代初めにかけて、大統領はニクソン、そして長引くベトナム戦争は泥沼化しつつあり、映画では、「明日に向かって撃て」や「イージー・ライダー」「真夜中のカウボーイ」の時代。
東海岸のバーンスタインは、ニューヨークをそろそろ抜けだして、ヨーロッパへと活動の場を求める時期。
そんな時代背景にあった、メータ&ロスフィルの黄金時代。
69年「ツァラトゥストラ」、71年「春の祭典」、72年「惑星」、74年「ヴァレーズ・アルカナ」。
毎年、このコンビは、日本のレコード・アカデミー賞を獲得しました。
グラマラスな音楽造りと、鮮やかな録音がなす、まさに、レコード芸術でした。
いずれも、豪華で、ガソリンを大量消費するパワーあふれるアメ車を乗りこなすようなゴージャスな演奏。
いま聴けば、こんなに豊かな演奏は、ほかにありません。
ちまちました小手先だけの演奏や、解釈にこだわりすぎた干からびた演奏が多くなってしまいました。
演奏も、録音も、豊かに、輝いていた時代のひとコマだと思います、メータ・ロスフィル。
ズビン・メータ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック(1977.8)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1985.8)
メータは、ロサンゼルスを卒業後、ニューヨークへ。
CBSへ移籍後の第1段が、得意の「ハルサイ」。
テンポは、快速から、中庸に変わりましたが、その重量級かつ、ド迫力の推進力には変わりはありません。
慎重さから、一気呵成の元気さは不足しますが、NYPOという名器を手にした喜びと、でも、かつての手兵と違う、どこか遠慮がちなメータも、初めて経験したものでした。
いま、CDで聴き直すと、初めて聴いたときとは違って、力感のみが強調されて聴こえるのも、面白いものです。
ともかく、ハルサイ好きのメータ。
イスラエルフィルとも、始終演奏していて、エアチェック音源も複数ありますが、同団とのものは、結構、のびのびと、自由自在な感じです。
そして、お馴染みのウィーンフィルとも、何度も演奏してまして、ザルツブルクライブも音源化されてます。
あのウィーンフィルとは思えないくらいに、軽い感じでドライブしていて、重厚でありつつも、色気を持たせつつ、さらりと演奏してしまいました。
マゼールが、オケの首を絞める勢いで、ぎくしゃくとした妙にナイスなハルサイを残したのにくらべ、メータは、あくまで自然な感じです。
さらに、テルデックにも録音するようになったメータ&NYPOは、80年代後半(?)に、再度録音。
こちらは、残念ながら未聴です。
そして、2013年、77歳にして、オーストラリア出身の世界オーケストラメンバーと、ハルサイを録音しました。
どんだけーーー==
ブーレーズと、きっと双璧の、ハルサイ指揮者ですよ。
でも、メータさん、不思議なことに、「ペトルーシュカ」は指揮しても、「火の鳥」を絶対にやらない。インド人もびっくりの、ハルサイ・おじさんなのでした。
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コメント
ご無沙汰しております。メータが好きなのに彼の大得意曲であるハルサイは、まだどの音源も未聴の不届き者の越後のオックスです。メータ&ロスフィルの演奏をパワフルなアメ車を乗りこなすような演奏だというのはブログ主様らしい卓抜な表現だなーと感心いたしました。ロスフィル時代のメータは私も本当に好きで、メータとデッカの技術陣というのは誤解を恐れずに申し上げれば、映画界であればクロサワと三船に匹敵するほどの名コンビだったと思っております。ニューヨークフィルに移ってソニーに移籍してからのメータの凋落は、クラシック史上の七不思議の一つだと思っております。失恋でもしたのか、ヘンなものでも食べたのか…(笑)。先々月でしたか、デッカのメータ23枚ボックスを聴き終えました。どのオケを振った演奏も華麗で光彩陸離とした名演奏ばかりで心底感動しました。ただ、このボックス、不満なのはデッカ時代メータ完全全集ではないことです。件のハルサイも、ヴァレーズもリストのレプレ以外の交響詩もシューマンも入っていません。カラヤンやショルティやセルのほぼ全音源を収めた全集ボックスが出ていますので、メータボックスもデッカ音源完全全集にしてほしかったです。今のメータは健康問題も全く耳にしませんし、当分は現役最高の巨匠としてアバドやマゼールの分も活躍してくれそうですね。願わくば、ベートーヴェンとブルックナーとマーラーの全集をつくってほしいところです!
投稿: 越後のオックス | 2015年7月25日 (土) 11時29分
越後のオックスさん、こんにちは。
ご無沙汰です、そして、ご返信、遅くなりました。
暑くて参ってますが、越後の地も暑そうですね!
暑い日には、暑苦しい音楽を聴くのも一興であります。
その代表格が、ハルサイかもしれません!
5種もあるメータ・ハルサイですが、その原点であるロスフィル盤は、「春の兆し」の、超ハイスピードが、彼の後発の演奏よりも引き立ち、ハルサイ史上、最速の「春の兆し」となってます。
是非、お聴きいただければと思います。
いまでも、喜々としてハルサイを指揮するメータさん。
おっしゃるとおり、いつまでも健在で、全集魔と化して、未完のシリーズを完結して欲しいものですね。
投稿: yokochan | 2015年7月29日 (水) 23時11分
演奏家によるレパートリーの、こだわり。これ、確かにございます。プロコフィエフの2曲在るVn協奏曲、シゲティは第1のみハイフェッツは第2しか手掛けられませんでした。アルゲリッチもラヴェルのピアノ協奏曲はト長調しか録音せず、左手の為の競争は頑として、弾かれませんし‥。音楽家により、作品への共感や没入のしづらい、御自身の資質とは相入れない音楽と言う物が、おありなのでしょうかね。
投稿: 覆面吾郎 | 2019年9月20日 (金) 09時15分
レコード会社の要請や、全曲録音という目標から、おのずと録音するパターンが多いのですが、メータのこだわりは、なかなかのものに思います。
ベートーヴェンやマーラー全集を残すことがありそうもないですし。。
投稿: yokochan | 2019年9月22日 (日) 16時32分