ブリテン 戦争レクイエム ネルソンス指揮
終戦の日が巡ってくる真夏の日本。
70年が経過し、今年ほど、この年月を振り返ることが、さまざまなかたちでなされ、そして、安保法制への賛否、近隣国との関係、原爆を落とした側の非正統性などが、はっきりと議論されるようになったことはありません。
感情や、主義主張に流されることなく、公正な目線でもってそれぞれの意見を眺めなくてはいけませんが、なかなかに難しいものです。
いろんな対立軸はあるにしても、でも、戦争だけは絶対に許されざること。
この思いは共通だと信じている。
今年も、この曲を聴いて、恒久平和を胸に刻み、祈りたいと思います。
ブリテン 戦争レクイエム
S:スーザン・グリットン
T:トービー・スペンス
Br:ハンノ・ミュラー=ブラッハマン
アンドリス・ネルソンス指揮 バーミンガム市交響楽団
BBCプロムス・ユース合唱団
(2014.8.21 @ロイヤル・アルバート・ホール)
ふたつの世界大戦は、多くの作曲家たちに、あらゆる影響を及ぼしましたが、ブリテンほどに、戦争を憎み、反戦の思いを強烈にその作品に反映させた人はいません。
戦争レクイエムと、シンフォニア・ダ・レクイエム、英雄のバラード、これら3作がブリテンの反戦3部作といえるかも。
イギリスの伝統としての制度、「良心的兵役忌避者」の申告をして、その条件として、音楽ボランティアに従事することを宣誓し、予芸以上の指揮とピアノで、戦時下の人々を慰め鼓舞する仕事に従事する一方、その傍らでも、熱心な創作活動を継続したブリテン。
その行動の根に常にあった「平和主義」でありました。
いまの若者が、戦争行きたくない、と主張するのもわかるが、寝ぼけたような平和主義ではなくて、ブリテンは、骨の髄からの筋がね入りの反戦・平和主義者でした。
伝統的な「死者のためのミサ曲」の典礼文に基づく部分と、ウィルフレット・オーエンの詩による独唱による部分を巧みにつなぎわせ、「反戦」と「平和希求」をモティーフとする、独自の「レクイエム」。
1962年の初演以来、作曲者自身の指揮によるレコードが、この作品のスタンダードで、それ以外には、録音すらなかった時代が長かった。
いまでこそ、世界各国の指揮者とオーケストラによる音盤がたくさんありますが、そんな中で、作曲者以外の演奏として、大胆に登場して、驚きを持って迎えられたのが、サイモン・ラトルのEMI盤でした。
ラトル盤は、いつかベルリンか、ロンドン響で、再録音がなされるものと期待し、そのときまで取っておこうと思いまして、今年は、そのラトルが育てあげた、バーミンガムのオーケストラの今の指揮者、アンドリス・ネルソンスのライブを聴きます。
そのネルソンスも、今シーズン限りなのですが、こちらの演奏は、昨年2014年のプロムスにおけるもので、BBCのネット放送を録音したものです。
2012年には、このコンビは、戦争レクイエムが初演されたコヴェントリーの聖ミカエル教会で、初演50年の記念演奏会を開き、その模様はDVDにもなってますが、そちらは未視聴です。
その2年後の、こちらのライブは、演奏を重ね、自信も深めた結果が、よく反映されているようで、かつ気合も充分にこもった、充実の演奏となっています。
まず、その尋常でない集中力と緊張感。
それは、しばしば、言葉のひとつひとつを噛みしめるような、じっくりとしたテンポの取り方にもあらわれております。
演奏時間は、1時間30分と長め。
重々しい足取りがやるせなくなる「レクイエム」。
さらに、のたうつような苦しみと怒りにあふれた「ディエス・イレ」は、こんなに重く、遅いのは初めてだ。
その半面、「サンクトゥス」の壮麗さと、輝かしさの対比が活きてくる。
曲は、終結に向かうほどに感動の度合いを高めてくるのは、この素晴らしい音楽ゆえですが、このネルソンスの演奏は、ライブゆえに、巨大な会場も息をひそめて、音楽に感じ入っている様子がよくわかります。
いつもは、ざわついたりするプロムスの聴衆が、咳もろくにせずに、静まり返っている。
最後の、感動の和解のあと、静かな祈りのうちに、このレクイエムは終わりますが、音が消えたあとも、ずっとずっと静寂のまま。
約2分の沈黙がありました・・・・・・・。
ヤンソンスゆずりの、演奏者と聴衆をのせてしまい、音楽を巧みに聴かせ、感動の高みを築きあげることの才能を、ネルソンスは持っています。
オペラも上手く指揮する彼は、全体を俯瞰する構成能力の才も豊かです。
ボストン響との新たな関係を、早くも2022年まで延長したネルソンス。
まだ36歳です。
例年どおり、過去記事からコピペで、曲の概要を再び記しておきます。
「重々しく不安な感情を誘う1曲目「レクイエム」。
戦争のきな臭い惨禍を表現するテノール。
曲の締めは、第2曲、そして音楽の最後にあらわれる祈りのフレーズ。
第2曲は長大な「ディエス・イレ」。
戦いのラッパが鳴り響き、激しい咆哮に包まれるが、後半の「ラクリモーサ」は、悲壮感あふれる素晴らしいヶ所で、曲の最後は、ここでも祈り。
第3曲目「オッフェルトリウム」、男声ソロ二人と、合唱、二重フ―ガのような典礼文とアブラハムの旧約の物語をかけ合わせた見事な技法。
第4曲「サンクトゥス」、ピアノや打楽器の連打は天上の響きを連想させ、神秘的なソプラノ独唱は東欧風、そして呪文のような○△※ムニャムニャ的な出だしを経て輝かしいサンクトゥスが始まる。
第5曲は「アニュス・デイ」。
テノール独唱と合唱典礼文とが交互に歌う、虚しさ募る場面。
第6曲目「リベラ・メ」。
打楽器と低弦による不気味な出だしと、その次ぎ訪れる戦場の緊迫感。
やがて、敵同士まみえるふたりの男声ソロによる邂逅と許し合い、「ともに、眠ろう・・・・」。
ここに至って、戦争の痛ましさは平和の願いにとって替わられ、「彼らを平和の中に憩わせたまえ、アーメン」と調和の中にこの大作は結ばれる。」
最後に至って、通常レクイエムとオーエン詩の、それぞれの創作ヶ所が、一体化・融合して、浄化されゆく場面では、聴く者誰しもを感動させずにはいない。
敵同士の許し合いと、安息への導き、天国はあらゆる人に開けて、清らかなソプラノと少年合唱が誘う。
このずっと続くかとも思われる繰り返しによる永遠の安息。
最後は、宗教的な結び、「Requiescant in pace.Amen」~彼らに平和のなかに憩わせ給え、アーメンで終結。
過去記事。
「ブリテン&ロンドン交響楽団」
「アルミンク&新日本フィル ライブ」
「ジュリーニ&ニュー・フィルハーモニア」
「ヒコックス&ロンドン響」
「ガーディナー&北ドイツ放送響」
「ヤンソンス&バイエルン放送響」
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コメント
コヴェントリーの映像は、BSでオンエアされ、録画しました。近年大注目を浴びるネルソンスの、才能の凄さを実感した演奏であります。
それと同時に、改めてブリテンのレクイエムの素晴らしさを認識させられました。
ラトルとバーミンガムの演奏もいいとは思うけれど、ネルソンスの方が感動的なんだなぁ・・・。
来年1月のハーディングによるライヴ、今から楽しみです。
投稿: IANIS | 2015年8月15日 (土) 17時55分
IANISさん、まいどです。
ラトルの若き日の演奏は、当時は、まったく清新なものでした。
そして、同じバーミンガムでネルソンスが、こんなにスゴイ演奏をやってのけるとは、思いもしなかったことですね。
あらゆる地球人に、感動をもよおすブリテンの名作であります。
ハーディングは、だぶりで行けないかもしれず、残念です。
投稿: yokochan | 2015年8月17日 (月) 23時59分