« シェーンベルク、ウェーベルン、ベルク アバド指揮 | トップページ | ブリテン 戦争レクイエム K・ナガノ指揮 »

2016年7月10日 (日)

マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」 ハーディング&新日フィル

Suntry_1

もう1週間も前ですが、ほんとに久方ぶりのサントリーホール。

夏、カラヤン広場は、ビアガーデン風になってましたよ。

ありがたいことに、いつもお世話になってます音楽仲間の方から、チケットをお譲りいただきました。

演目は、「千人の交響曲」

Suntry_2

 
  マーラー 交響曲第8番 変ホ長調 「千人の交響曲」

     S:エミリー・マギー、ユリアーネ・バンゼ、市原 愛

     A:加納 悦子、中島 郁子

     T:サイモン・オニール

     Br:ミヒャエル・ナジ   Bs:シェンヤン

  ダニエル・ハーディング指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団
                    栗友会合唱団
                    東京少年少女合唱団
                    合唱指揮:栗山文昭、長谷川久恵

                      (2016.7.4@サントリーホール)


Music Partner of NJPの称号を持つ、ダニエル・ハーディングのポスト最後の演奏会。
本サントリーホールの前に、本拠地トリフォニーで2回の演奏を重ね、練られ、磨き上げられた3度目の終演。
実に素晴らしい演奏でした。

満席のサントリーホールを、揺るがすような大音量ではなく、そして、この曲がおちいりがちな壮大さだけのこけおどし演奏でもなかった。
満場の聴衆の、それこそ、吐く息や、鳴りそうなお腹さえも聴こえてしまいそうで、それを意識して控えたくなるような、そんな絶妙なピアニシモ。
その静寂の美しさと、静寂での歌心。

そう、わたくしは、ハーディングの背中と指揮姿を見ながら、クラウディオ・アバドのことを思っていた。

オルガン一声、第一部は、わたくしは苦手なのですが、そんな気分を察してくれたのか、さっさと音楽は進行し、バンダ吹き荒れるその終結部も、かなりあっさりと早めのテンポで終了した。
まぁ、ひとつには、久しぶりのコンサートでもあり、心がちょっと虚ろだったこともありますが・・・・。

そして、第2部。
緻密かつ憂いに満ちた冒頭部、そして、オケの右側に登場した二人の神父が情熱的に歌う。
ナジの美声、ただでさえ、この歌が大好きなものだから、わたくしの眼は決壊してしまった。第1次決壊である。
次ぐ冥想する教父は美声ではあるものの、声が届きにくい声質だったかも。

しかし、ここから始まる、千人交響曲のオペラ的な展開は、何度聴いても、没頭できるし、ファウストの物語の源流にある女性賛美、女性的なるものへの憧れ、それを音にしたマーラーの凄さに震える。
 マリアを讃えるテノール、オニールが素晴らしかった。
プロムスやバイロイトの放送で、ワーグナー歌手として認識していたオニールだけど、ちょっと荒っぽい印象を持っていたが、ここでは全然違った。
もっとリリカルで、これもまた美しい声だった。
一方でパワフルな声量も。
 

次ぐ第3部の静かなオーケストラの展開。
ここで、決壊第2波。
何度も聴いてきたエミリー・マギーの豊穣なる声にうっとり。

もうひとりのソプラノ、バンセも連日の猛暑からでしょうか、声にやや疲れを感じたけれど、彼女ならではのリリカルで優しい歌声は魅力的。
 涼しげなオーケストラのパレットも常に素晴らしくって、ハーディングはよく歌わせ、そしてよく抑えていた。

2階席左手から歌った市原さんの聖母の歌声に、はや昇天の気分。
そこに追い打ちをかけるように、マリア崇拝のテノール。
このあたりにくると、もう、ワーグナーのオペラのラストシーンのように、ヘルデンテノールが音楽を締めるような感じで、胸が高鳴ってきて、ここで第3次決壊にいたった。

ハープ、チェレスタが天上の趣きを醸し出し、ピッコロが気持ちをいやがうえでも高めるなか、静寂のなか神秘の合唱。
第4次決壊では、思わず、嗚咽しそうになってしまった・・・・。
高まりゆく感動が、自分でも抑えがたく、あらゆる辛いことや、哀しいことも、すべて飲みこんでしまうように思えてきた・・・・・。

感動の大団円。
お約束のフライングブラボー。
ものすごい拍手の嵐。

そんなことは、もうどうでもよかった。
涙にあふれ、わたくしは、しばらく拍手もできなかった。

 いっさいの無常なるものは、ただ影像たるにすぎず。
 かつて及ばざりしところのもの、ここにはすでに遂げられたり。
 永遠に女性的なるもの われらを引きてゆかしむ

                       
こんな美しい千人交響曲を聴かせてくれたハーディング。
もう10年も前だろうか、マーラー・チェンバーと初来日して、モーツァルトの後期交響曲の鬼気迫る演奏で驚かせてくれた。
 今回の節目のコンサート。
彼は、秋に、パリ管でシューマンの「ファウストからの情景」を取り上げる。

大きな拍手の応えて、マイクをとったハーディングは、これまでのこと、そして3.11のマーラーのことなどを語り、最後は、ちょっと許してねと、ポッケからスマホを取り出し、オケや聴衆をバックに自撮り。
 さらに舞台がひけても、鳴りやまない拍手に応えて、シャツ姿で登場して、われわれとの別れを惜しんでました。

こんな素晴らしいコンサート、Sさん、ほんとうにありがとうございました。

Njp_7

|

« シェーンベルク、ウェーベルン、ベルク アバド指揮 | トップページ | ブリテン 戦争レクイエム K・ナガノ指揮 »

コメント

Twitterでも評判の演奏でしたね!!
いいなあ。
こちらでは京都市交響楽団のシーズンラストに広上さんが取り上げる予定で今から待ち遠しいです。

投稿: 通りすがり | 2016年7月13日 (水) 18時58分

おお!またまた書き込み!
ありがとうございます。
私が住んでいる町でマーラーの8番を聴くチャンスは今までもこれからもありません^^;
すごくうらやましいです。
LPレコードとCDの世界なんです。
ハーディングの指揮とか。いいなー。。
何回か意を決して、東京までおのぼりしまして
コンサートに行ったことがあります。だめなんです。田舎者の私には、東京に着いた段階で落ち着きがなくなり、会場に行くだけで体力を使い果たし、演奏内容は全く入ってくることもなく、感想を聞かれてもトンチンカンな応答しかできないのです。
それでも、いつか聞いてみたい。マーラーの8番の生演奏。

投稿: モナコ命 | 2016年7月15日 (金) 20時26分

またまた勝手に書き込みます。
本日で、仕事が一段落しました。ありがたい。自分の時間が全く無しの時期をようやく抜け出ました。呼吸も苦しかった。。。
高校のころ校歌に「己をおさめて世のため尽くす」という一節が好きで、「いつかは私も世に出でて!」との思いを抱いていました。あれから数十年。同じ校歌にある「我が生、我が世の天職いかに」という歌詩をしみじみと思う年代になりました。組織の中にいたならそろそろ定年。人生の終わりに近づいているはずなのに、私の仕事はまだまだ現役で続けなければなりません。ありがたいようなつらいような、苦しいような嬉しいような。
心の支えはオペラだったり落語だったり、ドライブだったり美食だったり。この年になると家族と答えるようになってきています。
東北地方の梅雨明けももうすぐ。私の心も仕事も快晴となりますように。さまよえる様のブログでグチを言ってしまいました。申し訳ありません^^;これからもこちらのブログのファンです。

投稿: モナコ命 | 2016年7月18日 (月) 21時28分

おはようございます。
さまよえる様、いかがお過ごしでしょうか。
他の方の書き込みから、仕事で大変なご様子が感じられました。勝手ながら心配をしております。私のほうは今日で今年度の仕事の終了となりました。やっとレコードが聴けそうです。
夏といえば高校野球ですが、私の母校は早々に予選敗退を決めまして、受験体制に入るらしいのです。
午後から車で30分の会場で決勝戦が行われます。家族を説得して生で見たいのですが、なかなか応じてくれそうもありません。自宅でTV観戦になりそうです。もう2時間くらい説得してみたいと思います。
最近、マスカーニが指揮した「カヴァレリアルスティカーナ」のSPレコードセットを入手しました。野球の説得に失敗した時は、このレコードをのんびり楽しみたいと思います。のちほど報告します。

投稿: モナコ命 | 2016年7月25日 (月) 08時41分

夏真っ盛りです。
今日は私の町も35度くらいになるらしい。というより、すでに35度前後になっています。。自宅で熱中症にかかりそうです。
マスカーニ指揮の「カバレリア」のSP11枚組。聴きました。楽しい^^唯一の当たり曲だったのを知っている本人の指揮。とても丁寧にゆっくり味わい深く演奏しています。SP録音のため3~4分で演奏が中断されるのですが、考えられた箇所でそれが行われています。テナーのジーリも作曲者の遅すぎるテンポにきっちり合わせて朗々の美声でトゥリッドゥを歌いきっています。
こちらの第一面に作曲者本人のイタリア語によるメッセージがあるのですが、さまよえる様、これってどっかに対訳とかありますか??あったら教えて欲しいです^^

投稿: モナコ命 | 2016年7月29日 (金) 12時23分

マーラー8番といえば、バーンスタインのLD。LDも死語になってしまいました。繰り返し楽しんだ演奏です。
LDプレーヤーが壊れた現状ではこれもかなわなくなりました。私の周りは悲しみに包まれているのです^^;
ところで、ハーディングって私と同い年!なんですね!
若いというか年がイッチャッテルというか、これからっていうか。指揮者は寿命の長い職業でうらやましい。
マーラーは生で聞いた体験がありません。作品はレコードで知っているつもりでも生で聴いたらシアワセなんだろうなー、とか田舎者の私はひがんでいます。
いかん、夏の暑さでついついグチっぽくなっている。老人の傾向がはっきり現れてきました。

投稿: モナコ命 | 2016年7月30日 (土) 13時43分

さまよえる様、お元気ですか?私は元気です^^(小学生レベルですね)
ついに梅雨明けが宣言されました。長く、暑く、暗い夏の始まりです。仕事が休みシーズンになったら、あれもしよう、これもしようと色々思っていたわりには、のんびりダラダラの毎日が続きます。SPレコード&LPレコード三昧です。家族にはすっかり見放されました。
私が小学生の時に、自分のおこづかいで初めてレコードを買いました。買ったレコードはヘンデルの水上の音楽、コロンビアのダイヤモンドシリーズ1000の中の1枚です。何回も引越しをし、アノ荷物この荷物とやっているうちに、そのレコードはいつの間にかなくしてしまっていました。
ところが、最近オークションで同じレコードを見つけ、何も迷わずに購入しました。痛みや汚れがありましたが、当時のまま、帯もついている状態の品です。
ネットで見つけたときの驚き!落札した時の興奮!!
そして、自宅に届いた時の動揺!手にしたときの感動!!!言葉で言い表すことができません。。。
はい、聴いています!聴いています!
所有するレコードが2枚とか3枚のアノ時代。思い出します。何回も何回もというより、何十回も何百回も聴きました。小学5年生の当時の思い出がありありと浮かびます。どうしてる!同級生たち!今どこにいる!元気でいるか!会いたいです。。。レコードジャケットを見るだけでも涙が止まらない。レコードをプレーヤーにかけると家族がいてもおかまいなしに泣いてしまう。
いかん、いかん。。。
涙もろくなっている。。。
やはり老人の傾向がますます強く現れてきています。

投稿: モナコ命 | 2016年7月31日 (日) 15時00分

さまよえる様、なんとかまたまたブログを更新してください。お待ちしています。とても楽しみにしているのです。

投稿: モナコ命 | 2016年8月 2日 (火) 09時18分

信じられないほどの暑さが続きます。
さまよえる様、いかがお過ごしですか。
オリンピックが始まりましたね。グータラ生活まっしぐらの私は夜の放送を次々録画して、のんびり次の朝に起きては、日本人選手が活躍している場面だけをせっせと見ながら楽しい時間を過ごしています。

投稿: モナコ命 | 2016年8月 7日 (日) 14時01分

モナコ命さん、こんにちは。
そして、多くのコメントを頂戴いたしておりまして、その都度お返しできなくて、本当に申し訳ありません。

そして、暑中お見舞い申し上げます。

そう、古いネタですが、この時期においしいおつまみを。
わたしがよくやるのは、豆腐の上に、単純に納豆をのっけてしまいます。
大豆on大豆、略してDonDです。
大葉や、オクラ、ふりかけ、海苔などをトッピングしてもウマいです。

さて、今日は、ひと記事かきました。
8月ネタです。

投稿: yokochan | 2016年8月 7日 (日) 16時24分

書き込みありがとうございます。DonDですね!やってみます。大葉にオクラ、ふりかけand海苔ですね。楽しそうです。月収の少ない私は毎日ビール!と言いたいのですが、毎日発泡酒で夏を楽しんでいます。もちろんSPレコードとLPレコードです。低所得者のささやかな贅沢です。

投稿: モナコ命 | 2016年8月 7日 (日) 20時34分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: マーラー 交響曲第8番「千人の交響曲」 ハーディング&新日フィル:

« シェーンベルク、ウェーベルン、ベルク アバド指揮 | トップページ | ブリテン 戦争レクイエム K・ナガノ指揮 »