サー・ネヴィル・マリナーを偲んで
サー・ネヴィル・マリナーが、去る10月2日に亡くなったことは、もうすでにご存じのとおり。
日本でも、かなり報道されましたね。
92歳という高齢ながら、いつまでも現役を貫き、指揮台でも、椅子に座らずかくしゃくたるその指揮ぶりは、まだまだ、ずっと・・・・という思いを聴衆やオーケストラにも思わせるものでした。
事実、10月の6日には、アカデミーと、10月半ばには、カダケス管とのコンサートが予定されていたうようです。
ですから、本人にも突然、訪れた死ということになります。
しかし、その安らかなる死は、ある意味で、いかにもサー・ネヴィルらしい、ともいえますね。
マリナーを始めて聴いたのが、1973年頃、以来、フルオケを指揮するようになっても、絶対変わらない、マリナー節を愛し続けて40年以上。
アバドのときのような大きなショックはなくって、今回は、自分的には、あぁ、マリナーも・・・・、って感じの受け止めでした。
マリナーとの出会いは、これ。
ヴィヴァルディの四季は、イ・ムジチで親しんできた多くの人に驚きを与えました。
サーストン・ダートや、ホグウッドらの徹底した考証を経て、不純物を取り除いたかのような清涼感と切れ味を伴った、新鮮な四季となりました。
ピリオドがあたりまえとなった今でも、マリナーの四季は鮮度高く、そして、わたくしには懐かしい。
ほどなく出たのが同じバロックの分野から、バッハの管弦楽組曲とヘンデルの水上の音楽。
どちらも、四季と同じく、より切れ味と爽快なまでの、早めのテンポでもって、感覚にも訴えてくるような鮮やかな演奏でした。
ロンドン・レコードのダブルジャケットも豪華なものでしたな。
それより録音は前かもしれなかったけど、レコード時代はFM放送から楽しんだチャイコフスキーの弦楽セレナード。
CD時代になって購入したビューティフルな演奏。
のちに再録音したチャイコフスキーは、「くるみ割り人形」とのカップリングで、爽快さに加え、節回しも味わいを増したマリナーでした。
こちらは、フィリップスの録音が素晴らしく、雰囲気豊かで、ジャケットもとてもステキなものです。
マリナー&アカデミーは、チャイコフスキーの交響曲全曲も録音してしまうように、室内オケを変幻自在にフルオケにスケールアップするような広大なレパートリーに取り組むようになりました。
「ヴォーン・ウィリアムズの爽やかな世界」という、キャッチ・コピーでもって、大いに流行ったのが1975年発売のこちら。
その名のとおり、曲も演奏も、ともかく爽やかだった。
初夏の音楽って感じだったけれど、わたくしは、「揚げひばり」がともかく好きになりましたね。
ブレンデルと組んだモーツァルト。
全曲はCD時代になって聴いたけれど、真摯であたたかなブレンデルのピアノに、寄り添うようなウォームなマリナーとアカデミー。
ともかく、あぁ、モーツァルトってなんていいんだろって、つくづく思わせる演奏。
協奏曲の指揮者として、奏者たちから愛されたマリナーでもあります。
録音の主力をフィリップスに移したマリナーは、70年代後半から、さらにその録音の数を増やしていきます。
カラヤンか、マリナーかと言われたくらいの録音量!
そして、アカデミー以外のオーケストラとの録音も続々と。
モントゥーのもとで第2ヴァイオリンを弾いていたロンドン交響楽団とのビゼー。
これが実に素晴らしい。
たっぷりとした奥行き豊かな録音も実によくて、爽やかかつ明るいビゼーだ。
アバドとともに、大好きなアルルの女ですよ。
そしてお国もの、英国音楽もさかんに取上げてくれました。
コンセルトヘボウとのコンビで、ホルストとともに録音されたエルガーの「エニグマ」
フィリップスならではの企画でしたね。
ここでもまた録音の素晴らしさを絶賛しておきましょう。
さらにこの曲は、アカデミーとも後に再録音。
こちらの方がさっぱり感が増しているのが面白いところ。
アカデミー以外では、ロサンゼルス室内管、ミネソタ管、そして、シュトゥットガルト放送響の指揮者をつとめたマリナー。
ブリテンの痛切な鎮魂レクイエムは、オケの機能性も活かした、充実の演奏。
初めてマリナーのライブに接したのも、じつはこの曲。
都響に客演して、ヘンデルのアリア(シュトッツマン)と、このブリテン、そして、エニグマ演奏曲というプログラムだった。
1997年だったかな・・・。
もう20年前、自分も若かった・・・・
海外盤とまったく違うジャケットだった、英国の四季と題するこちらは、マリナーの数ある音盤のなかで、ジャケット大賞をあげたくなる一品。
ディーリアス、ブリッジ、バックスなどをおさめた、英国の四季薫る、上品かつ美麗な音楽と演奏だ。
まだまだ、マリナーの思い出を語れる音盤はとめどなくあります。
モツレク、ハイドンのネイムズ・シンフォニー、ベートーヴェンの交響曲、シューベルトに、メンデルスゾーン、そしてロッシーニ・・・・
でも最後にはこれ。。。。。
フィンジ作品集。
こちらのジャケットも美しい。
息子アンドリューと共演のクラリネット協奏曲。
曲も演奏も、泣けます・・・・
サー・ネヴィル・マリナーさん、長く、その音楽を楽しませていただき、ありがとうございました。
その魂が安らかでありますように。
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コメント
NHKのニュースサイトで知りました。
若い頃は、サー・ネヴィルの端正な指揮に共感できませんでしたが、年を経るにつれ、彼の音楽に親しみを感ずるようになって来ました(一般的なレパートリーで)。
yokochanさん同様、あの刺激的な(今にして思えば、随分やんわりしたものですが)「四季」にドキッとさせられたのが懐かしいです。
故人の冥福をお祈りいたします。
投稿: IANIS | 2016年10月24日 (月) 19時29分
今日は。
レニーやカルロスの時ほどショックではなかったですけれど、マリナー卿の訃報に接して得難い名匠をなくしたのだなと感慨が深かったです。でも天寿を全うされたのだし、ご本人もそれほどご無念ではなかったのではないかと想像したりして自分を慰めているところです。前代未聞といっていいほどレポートリーの広い方でしたけれども、バッハやヘンデルやモーツァルトで本当にお世話になった方です。モーツァルトは大学時代に購入した交響曲全集を今でも愛聴しております。レニーやカラヤンやムラヴィン閣下みたいな強烈なオーラやカリスマはあまりなかったかもしれないけれど、優しくて穏やかで外連がなくて端正な演奏で聴き手を魅了する方でしたよね。ご冥福をお祈りいたします。
話題が変わりますけれど、マスクス・シュテンツがケルンのオケを指揮したシェーンベルクのペレアスは素晴らしい演奏です。私的にはカラヤンやブーレーズ&シカゴ以上です。カップリングされているヴァイオリン協奏曲もシェリング&クーベリック・バイエルンに匹敵する名演奏ですね。ブログ主様はペレアスをフェチ曲にしておられるようですが、シュテンツはお聴きになって損はないと思います。今はCDを買わなくてもナクソスミュージックライブラリーなどがありますし…
投稿: 越後のオックス | 2016年10月29日 (土) 12時05分
IANISさん、いまさらのコメント申しわけありません。
元気だったマリナーが急逝してしまいましたが、マリナーのすごいところは、ある意味、若いころと、巨匠になったころと、その音楽がまったく変わらなかったことかもしれません。
晩年は、ブラームスやベートーヴェンの大掛かりなものに集中しましたが、やはりマリナーの真髄は瀟洒な音楽にこそあると思いますね。
ブレンデルとのモーツァルトを昨日は聴きました。
投稿: yokochan | 2016年12月 5日 (月) 12時57分
越後のオックスさん、いまさらながらのご返信、申しわけありません。
膨大な音源のオリジナルでの整理・復刻が望まれる故マリナーです。
そして、シュテンツのペレアスの情報ありがとうございます。
ケルンのあのオケは、前任のコンロンに後期ロマン派系の音楽をたっぷり仕込まれてますから、オケも含めてきっと素晴らしいのでしょうね。
マーラーを実演で聴いたことがありますが、シュテンツの実力はもっと評価されてもいいですね。
投稿: yokochan | 2016年12月 5日 (月) 13時01分
yokochan様
92歳という長命を保たれたお方でしたから、『あれっ、もう生誕百年にお成りに?』といった感じなのですけれども、輸入盤取扱店のサイト広告にて、Warnerが販売権を持つ音源の集大成セットが、紹介されておりますね。
某評論家より、『彼の表現は良い意味における、ムード音楽である。』と書かれておりましたけれども、第一回目のバッハ『ブランデンブルグ協奏曲』(Philips)やウィリアム・ベネットのソロによる同『管弦楽組曲第二番』やラヴディ独奏のヴィヴァルディ『四季』(Argo)などは、御指摘のように優れたブレーンのお方の考証に基づき、フレッシュである種の挑戦的な姿勢も垣間見える演奏ぶりでした。
それでも最近跋扈しておいでの、聴き手の神経を逆撫でするような(笑)解釈ではなく、ある種の爽快さに気持ち良さをお持ちだったのが、素晴らしいかと存じます。
まだまだ拝聴していない音源、たっぷりです。カラヤン、マゼール、それにマリナーは、一個人の財力と探索力では、コンプリート・コレクションをし難い指揮者の御三家じゃ、ないでしょうか。それでは。
投稿: 覆面吾郎 | 2024年4月21日 (日) 10時07分