コルンゴルト 「死の都」 ヴァイグレ指揮
一日の終わりは、壮麗な夕焼けで幕引きになるのが好き。
そして、後ろ髪をひかれるようにして、昼は去り、夜がやってくるのだ。
社会人になると東京と千葉へ。
去ったけど、一生去れない場所。
終わりがなければ始まらない。
そんなことをいくつか繰り返してきたけれど、この春にも大きな変化があったことは、これまでに書いた通り。
マーラーの10番をピークに別れを音楽で追い求めたものだ。
そして、ここしばらくは、コロンゴルトの音楽に足を止めようではないか。

コルンゴルト 「死の都」
パウル:クラウス・フローリアン・フォークト
マリエッタ、マリーの幻影:タチアナ・パヴロフスカヤ
フランク、ピエロ:ミヒャエル・ナジ
ブリギッタ:ヘドヴィク・ファスベンダー
ユリエッテ:アンナ・ライベルク
ルシエンヌ:ジェニー・カールシュテット
ガストン:アラン・バルネス
ヴィクトリン:ユリアン・プレガルディエン
セバスチャン・ヴァイグレ指揮 フランクフルト歌劇場管弦楽団
フランクフルト歌劇場合唱団
(2009.11@フランクフルト歌劇場)
またかとお思いでしょうが、コルンゴルトのオペラ「死の都」であります。
このヴァイグレ盤、このところ毎日のように流し続けていて、4年前に入手していらい、以前はさほどでもなく思っていた、フォークトのパウルが実に素晴らしいことに、いまさらながらに気が付いた。
誰もが、フォークトの美声と、そのユニークなヘルデンの常識を覆すような不思議なほどの力感に驚かれていることの思います。
しかし、よく考え抜かれた歌唱は、どんな役柄でも、フォークトなりの完璧さでもってなりきってしまうことの凄さ。
パウルという役柄の難しさは、全幕ほとんど出ずっぱりで、没頭感をもって、ドラマティックな力感を伴った歌唱を駆使しまくらなくてはないらいし、甘美さや、ほろ苦い諦念も歌いこまなくてはならないので、パウル歌手は、これまで限定的な存在だった。
ルネ・コロ、J・キング、イェルザレム、T・ケルルなど、いずれもジークムントやトリスタンを歌うような歌手たちの持ち役だ。
そんななかにあってのフォークトの歌の存在。
パウルの心情に同化してしまったかのような、繊細極まりない知的かつ、情熱的な歌唱。
すべてが考え抜かれ、言葉をじっくりと歌いこんでいるのがわかる。
華奢ななかにも、スピントの効いた力強さと、圧倒的な声量も。
きらきらした退廃具合も申し分なし。
このフランクフルト・ライブは、歌手ではフォークトの独り舞台かもしれないが、マリンスキー育ちのパヴロフスカヤは、悪くないが、フレミングの声に似ていて、ちょっと隈取りが濃いかも。
ナジのフランク&ピエロはよい。
バイロイトでもウォルフラムなどで活躍のイケメンバリトンは、今後とも注目。
ライブながら、録音は実によく、オーケストラ・ピットの生々しい音が臨場感豊かに聴こえる。
ヴァイグレの整然としつつ、全体のバランスをよく見通したスタイリッシュな指揮はこれでよいと思う。
まだ音源は多くはないが、過去の正規音源のなかの指揮者では、一番いい。
添付のリブレットには、舞台写真が豊富に載せられていて、想像力を刺激してくれる。
フォークトはスキンヘッドで、詰襟を着ていて、ちょっと病的な感じだし、死神や老婆もたくさん・・・・、マリエッタは赤いドレスで、普通に美しいし。
映像で観てみたいものです。
映像といえば、新国で観たホルテン演出の舞台のDVDでは、フォークトなんだよな。
手に入れねばね。

現実と夢想が、行き来して、リアルな現実も、夢も、どっちも明滅するように、それこそ、自分の夢に出てくるようになった。
しかし、現実の人間たる自分は弱いけど、妙に強い。
いまの現実は、前では考えられなくなった違った忙しさに包まれるようになった。
こんな男の心情にぴたりとくるものを描きつくした、若きコルンゴルトに、啓稔をすら感じます。
わが憧れ、わが惑いが、この夢に蘇る。
踊りで得て、そして失ったわが幸せ
ラインの川沿いで踊る
月光のなかで、青い瞳が、この身に
切なる眼差しをそそぎ
辛い思いを訴える
ここにいて どこにもいかないで
故郷を見守って、静かに花開く幸せを
わが憧れ、わが惑いが この夢に蘇る
遥かなる魔力が この魂に 火をともす
踊りの魔力に誘われ
役者へと たどりつく
優しすぎる あの女に従い
涙ながらの口づけを知る
酔いと苦しみ 惑いと幸せ
これが曲芸師の定めか
わが憧れ わが惑いが
この夢に蘇る
蘇る 蘇る・・・・
(訳:広瀬大介)
この身にとどまるしあわせよ
死から生が別たれる
憐れみなき避けられぬさだめ
光溢れる高みでこの身を待て
ここで死者がよみがえることはない
(訳:広瀬大介)
過去記事
「死の都」 ラニクルズ盤
「死の都」 インバル盤
「ヴァイオリン・ソナタほか」 ファン・ビーク盤
「シルヴァー・ヴァイオリン」 ニコラ・ベネデッティ
「マリエッタの歌~ヘンドリックス、メスト&フィラデルフィア」
「ピエロの歌~プライ、スコウフス」
「マリエッタの歌~コロ、ケール」
「トリステン・ケール アリア集」
「死の都 新国立劇場公演」
「ピエロの歌 ニコラ・ベネデッティ」
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