ベートーヴェン ミサ・ソレムニス クレンペラー指揮
年も押し迫ってまいりました。
東京タワーの前にあるクリニックのイルミネーション。
星と地球、そしてラッパを吹く天使たち。
音楽が聴こえてきそうなモティーフが好きで、毎年、楽しみにしてます。
ベートーヴェン ミサ・ソレムニス
S:エリザベート・ゼーダーシュトレーム A:マルガ・ヘフゲン
T:ヴァルデマール・クメント Bs:マルッティ・タルヴェラ
オットー・クレンペラー指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
ニュー・フィルハーモニア合唱団
合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ
(1965.9 @キングスウェイホール ロンドン)
今年最後の記事は、ベートーヴェンの究極の名作、ミサ・ソレムニス。
「荘厳ミサ曲」と呼ぶよりは、わたくしは、「ミサ・ソレムニス」。
ずっと、不遜にも、「ミサ・ソレ」と呼んできたから。
12月に入ると、演奏会は、第9だらけ。
ほぼすべてのプロオーケストラが、等しく第9で、たまには違う第9や、声楽曲を取り上げるオーケストラがあってもいいと思うんだけど。
それでも、今年は、共に代役だった、鈴木優人氏と、ゲッツッル氏の第9はとても気になりましたが。
そして、クリスマスが終わると、テレビやスーパーマーケットなどのBGMは、「喜びの歌」だらけになってしまう。
もう耳を覆いたくなる・・・。
でも、第9は好きですよ、ことに3楽章までは。
で、年末に聴くのは、第9でなく、ミサ・ソレの今年なのでした。
第9が、シラーに詩の内容に沿うように、歓喜、自由、友、世界と神などを希求するものとなっているのに対し、ミサ・ソレは、ラテン語のミサ典礼文が歌詞であり、その詞からは、ミサ・ソレの音楽の内容や本質はくみ取りにくい。
熱心なカトリック信者でもなかったベートーヴェンが、ミサ・ソレの第1曲、キリエの冒頭に書き込んだ言葉。
「願わくば、心より出て、そして再び心に帰らんことを」
これがモットーのように、ベートーヴェンの信条として、この作品を貫いている。
心の平安と世界の平安。
この想いは、ベートーヴェンの晩年の作品に共通のもので、澄み切った、透徹した心情が、その音楽に反映されているわけだ。
第9の3楽章とか、ピアノ・ソナタの最後の3作、後期弦楽四重奏曲など。
わたくしが、この偉大な作品に、初めて感動したのは、クーベリックとバイエルンのFM放送のエアチェックテープをじっくり聴いたとき。
大学卒業の春、就職を控えたある日に、何気なく聴き始めたら、集中して一気に聴き進め、ベネディクトゥスで落涙してしまった。
以来、ミサ・ソレには、厳ついイメージでなく、優しい柔和なイメージを抱くようになった。
が、しかし、社会人になり、結婚して、子ももうけ、やがて子供らも大きくなった、そのあとに、ようやく聴いたクレンペラー盤。
無言で佇む、巨大な音による造形物を前に、そのときのわたくし、言葉も感情も失い、ただただ聴き入るだけでありました。
この辛口ともいえる、厳しい演奏のなかから、ベートーヴェンの「心より、心へ」のあの言葉が立ち上ってくるのを感じる。
どうしても耳が美しさを求めてしまいがちなベネディクトゥスでは、確かに美しい音楽が奏でられるものの、その前段にあるサンクトゥスの幽玄な美の方と、ベネディクトゥスへの移行の場面が、この演奏では極めて素晴らしかったりする。
でもなかでも圧巻は、クレド。複雑なフーガも、厳しい指揮棒のもとに、一糸乱れず、劇的な効果など、目もくれずにひたすらに音を重ねていく感じ。
バイロイトの合唱の神様、ピッツの指揮する合唱団のすばらしさは、録音のイマイチさを突き抜けて感動させてくれる。
シュヴァルツコップでなくて、ゼーダーシュトレームだったことも、この演奏の成り立ちとしてはよかった。北欧歌手に特有のクリアで、色気の少ない歌声がいい。
タルヴェラも北欧系だが、そのふくよかバスは、滋味深いマルケ王を思い出させてしまう。
ワーグナーつながりで恐縮ながら、ヘフゲンも、ながらくバイロイトのパルジファルのアルトの歌声の方。安定的なそのお声は、こうした宗教作品とクレンペラーの演奏にふさわしい。
少し甘めクメントも、ここでは端正で凛々しい歌声。
こんな感じで、合唱も、独唱も、対抗配置のオーケストラも、クレンペラーの下に、厳しくも、真摯にとり組んだミサ・ソレムニスの巨大な名演なのでありました。
あまりに巨大なので、そう何度も繰り返し聴くことも憚れる。
ときには、ウィーンの魅力満載のベーム盤や、ふっくらした響きとオーケストラの機能的な響きが結びついたハイティンク盤、同じバイエルンで、歌心にあふれたクーベリック・エアチェック盤、意外やロマンティックなリヒター盤、ドミンゴにはずっこけながらも大らかなレヴァイン盤なども聴きます。
そして、なんと、バーンスタインとカラヤンは、持ってない。
いずれもその新旧録音を聴いてみたい。
人類にとっての至芸の音楽のひとつである「ミサ・ソレムニス」。
年末に、思い切り聴きこんでみました。
よいお年をお迎えください。
| 固定リンク
| コメント (6)
| トラックバック (0)
最近のコメント