ワーグナー 「ローエングリン」 バイロイト2018&コヴェントガーデン
もう日は経ちますが、今年も、靖国神社のみたままつりに行ってきました。
猛暑のなか、今年から屋台も復活し、老若男女・日本人も外人さんも、ほんとにたくさんの人出で、おおいに賑わいました。
そして、同じ時期、本格的な夏の到来とともに、海外では夏の音楽祭の始まりとなります。
ここ数年、ネットで同時配信され、遠い異国の地にあってもすぐさま視聴することができる。
Proms、ザルツブルク、そしてバイロイトが、わたくしの夏の楽しみです。
今年のバイロイトのプリミエは、「ローエングリン」。
ワーグナー 歌劇「ローエングリン」
ローエングリン:ピョートル・ベチャーラ エルザ:アニヤ・ハルテロス
テルラムント : トマス・コニュチニー オルトルート:ヴァルトラウト・マイヤー
ハインリヒ :ゲオルク・ゼッペンフェルト 伝令:エギルス・シリンス
クリスティアン・ティーレマン指揮 バイロイト祝祭管弦楽団
バイロイト祝祭合唱団
合唱指揮:エーベルハルト・フリードリヒ
演出:ユーヴァル・シャロン
舞台・衣装:ネオ・ラウヒ&ローザ・ロイ
(2018.07.25 バイロイト)
当初、発表されていたロベルト・アラーニャが降りてしまい、代わりに起用されたベチャーラ。
ドレスデンでティーレマンとも共演していて、実績もあり、このところ売れっ子テノール。
あと、18年ぶりにバイロイトに帰ってきたマイヤーも注目。
そして、このローエングリンを指揮することで、バイロイトで上演される主要作すべてを手掛けたことになるティーレマン。
もしかしたら、戦後バイロイトで全作コンプリート指揮者は初かも。
こんな風に、なんだかんだいって、バイロイトは毎年、話題にことかかない。
そして耳で聴いた演奏は、なかなか素晴らしいものだった。
まず、ベチャ-ラのタイトルロール。
10年ほど前に、チューリヒ・オペラの来日公演で、ばらの騎士でのテノール歌手を聴いているが、その時の印象ではきれいな声、ぐらいのもので、今回のローエングリンを聴いて、スピンとする、その力強い声とともに、あふれる気品に、かつてのジェス・トーマスを思い起こしてしまった。これからも楽しみな歌手。
あと、久々のマイヤーさん。
相変わらずの魅力的な中音域に、やや硬質なキリリとした声。
凄みはあるが、憎々しさを覚えないのは、イゾルデの声で聴きなれたせいか。
でも四半世紀前のアバド盤でのマイヤーに比べると、味わいは増しものの、さすがに声の威力は減じた感じだ。
ハルテロスのエルザは、まずまず。1幕は、ちょっと不調ぎみで、苦しかった。
あとになるほどよかった。
ドイツも猛暑らしくて、歌手たちは体調管理が大変だ。
ハルテロスも、もう13年も前だけど、新国でエヴァを聴いていたが、当時の日記を見てみたら大きな体で、よく声が出ている、なんて書いてて何とも言えない。
来年のエルザは、ネトレプコとの報もあるけど、どうなんだろう。
テルラムントのコニュチニーと、ゼッペンフェルトのハインリヒは万全の歌いぶり!
ティーレマンの指揮は、快速。
いつも重厚長大なワーグナーを、ゆったりめのテンポで堂々と推し進めるのに。
1幕の前奏曲からしてそう感じるし、3幕の前奏も早い。
演奏タイムは、全幕で3時間22分。
あとで取り上げるネルソンスは、3時間30分、ペーター・シュナイダーが3時間38分。
なにもテンポの速い、遅いが演奏の良し悪しを決めるものではないが、オペラの場合演出や舞台の流れに即した解釈ともなることもありうるから、このあたりは、いずれ観ることができるであろう舞台映像で判断したい。
ということで、ティーレマンにしては、全体に軽く感じたわけだが、それでも要所要所で、タメを設けたりするところが見事に決まったりするところは、彼らしいところではあります。
で、演出。
「青=ブルー」の世界。
青の舞台の画像のいくつかを見て思ったのは、ヴィーラント・ワーグナーのローエングリン。バイロイトを始め、ウィーン、ベルリンでも、東京でもおなじみのあの青。
生誕101年のヴィーラントへのリスペクトか?
過去記事 →ヴィーラントの青
この舞台のコンセプトは、装置・衣装のラウヒ夫妻が長らく準備してきたものとのことで、演出のロサンゼルス・オペラのシャロンの起用の決定は、その準備以降のこととのことなので、この舞台と演出は3者の完全共作ということのようだ。
画像を見て、毎度想像をめぐらすわけだが、変電所が舞台で、ローエングリンは送り込まれた電気技師。貴族・豪族たちは、ディズニーのお伽の国の人物のようで、羽根が生えてる。それに対し、民衆たちは、バロック調のリアルな衣装で、それぞれが三者三様。
舞台背景もよく見ると絵画的。
せっかく電気をもたらしたのに、追われてしまう寂しいローエングリン。
それを見送るエルザの背には、サバイバル電源のようなバックパックが。
う~む、想像はこのあたりまでにして、映像を待ちたいと思います。
聴衆のブーがほとんどなかったので、穏健な落としどころがあったのでしょうね。
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ワーグナー 歌劇「ローエングリン」
ローエングリン:クラウス・フローリアン・フォークト
エルザ:ジェニファー・デイヴィス テルラムント: トマス・ヨハンネス・マイヤー
オルトルート:クリスティン・ゴアーク ハインリヒ :ゲオルク・ゼッペンフェルト
伝令:コスタス・スモリギナ
アンドリス・ネルソンス指揮 コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
コヴェントガーデン王立歌劇場合唱団
演出:デイヴィッド・オールデン
(2018.07.01 ロンドン)
6月から、ロンドンでは、オールデン演出によるプロダクションが上演。
指揮は、バイロイトで実験ネズミのローエングリンを指揮したネルソンス。
そして、いまや世界一ローエングリンを歌っているであろうフォークトを迎え、エルザには、当初、ネルソンスの奥さんのオポライスが予定されていたが、こちらも降板し、アイルランド出身のジェニファー・デイヴィスという若い歌手が起用され、その彼女が一躍スターとなった(らしい)。
そんな上演の様子、音源だけは、BBCのサイトで期間限定ネット配信されてました。
まず、ここでは、ネルソンスの安定感のある指揮ぶりを称えたい。
ティーレマンよりいいかも。オケの雰囲気は、バイロイトの方が劇場の鳴りも含めて上に感じますが、全体のとらえ方のバランスのよさと個々の場面の緻密な描き分けが、とても見事。歌手も、オーケストラもこんな指揮ならとてもやりやすいのではないでしょうか。
2幕のダークサイドチームたちの暗黒の緊迫感ある場面は見事。
そして、3幕の禁断の問いの場面での切迫感と無常感。
で、最後の大団円は、思いっ切り引っ張って、とてつもない効果を引き出してました。
歌手では、フォークトが完璧。いうことない。
若いジェニファーさん、どちらかというとリリックな声で、エルザやエヴァがお似合いの感じですが、ここぞという場面では、けっこう頑張ってます。
ゴアークというアメリカ人メゾによるオルトルートは、おっかないです。
ヴィブラートを巧みに用いて、亭主の尻をたたき、とエルザをたらしこみますが、ちょっと何度も聴くとくどい印象を受けるかもです。
お馴染みのマイヤーのテルラムントも聴きなれた声だけに、私には安心感がありますが、フォークトのような完璧感はちょっとないです。
バイロイトと同じく、ここでもゼッペンフェルト。
さて、写真で妄想。
オールデンの実際の舞台は観たことがないけれど、社会性のあるテーマをぶっこんでくる演出家。
ここでは、20世紀に時代設定をもってきて、爆撃後の焼け跡復興が舞台っぽい。
2幕の婚礼シーンには、白鳥の彫像がナチスを思わせるし、3幕(死体が右に転がっているので)のローエングリンの告別の場面では、それらしき旗が。
国王は、顔色悪く、ダーティなイメージだし、ダークサイド組と聖なる組とでは、黒と白で対比。労働者たち、市民は表情が暗く硬い。
戦後の暗い社会に現れた救世主に、ナチスの申し子を重ね合わせようと皆が願望したが、エルザの一言で、その白い戦士は帰って行く。
こんなことを想像しましたぞ。
勝手な妄想ですので、お許しください。
短期間に、ふたつの優秀なローエングリンの上演の様子を聴くことができました。
ネットとはかくもありがたいものです。
さぁ、この夏も各地の音楽祭聴き、いそがしーーー。
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コメント
ほほう、バイロイト
こりちねぇのかな ナチス
確かにナチスのあれのバリエーション
ワグナーの楽劇を上演することで知られるバイロイトの町は、むざむざと降伏するよりは最後の決戦を選び、まったく無益な戦闘をいどんだとありんすな
この挑戦にこたえた米軍は、結局砲火を浴びせて、この街を吹っ飛ばしたと今借りておる御本にはありんすな
独逸はおもろい国でんな 独逸に占領され屈服したおフランスおもろいでっせ
戦前おフランスにいった日本のお方、けっこうもてもてでな 高木東六の旦那も人妻と・・・・・
さ、こんどは レジスタンス の御本だな 借りたもんだか結構破かれてるんなぁ
投稿: 真坊 | 2018年7月28日 (土) 21時35分
真坊さん、こんにちは。
ナチスを思わせる画像は、コヴェントガーデンのものです。
バイロイトは、自らの批判ともとれる自虐的な世界からすでに脱したものと思ってます。
デコボコはありますが、伝統の打破や多様な意味合いを持たせた舞台、本来の実験劇場的な存在へと向かっているのではと。
いずれにしても、ワーグナーの音楽は演出家たちを刺激してやみません。。
投稿: yokochan | 2018年8月18日 (土) 09時49分