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2018年9月 8日 (土)

チレーア 「アドリアーナ・ルクヴルール」 ピド指揮

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9月第一週は、大型台風の襲来による四国・関西地区での被害に加え、北海道では、胆振地方での大きな地震。
さらには、いずれも停電をともなう、インフラ損傷の2次被害。

心よりお見舞い申し上げます。

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     チレーア 歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」

     アドリアーナ・ルクヴルール:アンナ・ネトレプコ
     ザクセン公マウリツィオ:ピョートル・ベチャーラ
     ブイヨン公妃 :エレナ・ツィトコーワ
     ミショネ    :ローベルト・フロンターリ
     ジャズイユ僧院長:ラウル・ジメネス
     キノー     :ライアン・スピード・グリーン
     家令      :パーヴェル・コルガティン
     ジュヴノ    :ブリオニー・ドゥイエル
     アンジュヴィル:ミリアン・アルバノ
     
   エヴェリーノ・ピド 指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団
                   ウィーン国立歌劇場合唱団
               
              演出:デイヴィット・マクヴィカー

            (2017.11.12 ウィーン国立歌劇場)


以前に、BBCで放送されたものを録音しました。
ウィーン国立歌劇場における「アドリアーナ・ルクヴルール」の公演の音源。
コヴェントガーデンを初め、リセウ、パリ、サン・フランシスコの各オペラカンパニーとの共同制作。
こんな輪に、新国も入れればいいなぁ、とも思うが、東洋の島国だと、装置の融通などがコスト的に厳しいんだろうな・・。

さて、あらゆるオペラのなかで、かなり好きな作品にはいる、「アドリアーナ・ルクヴルール」。
何度も書いてますが、1976年のNHKの招聘していたイタリア・オペラ団の演目のなかのひとつが、このオペラでした。
カバリエ、コソット、カレーラスという名歌手3人が、それこそ火花を散らすような歌と演技でもって日本のオペラファンを虜にしてしまった。
広いNHKホールで、その興奮にひたっていたひとりが、この私でもあります。

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 ヴェルディ(1813~1901) 

  ・ボイート      (1842~1918)
  ・カタラーニ    (1854~1893)
  ・レオンカヴァルロ(1857~1919)
  ・プッチーニ    (1858~1924)
  ・フランケッティ  (1860~1942)
  ・マスカーニ    (1863~1945)
  ・チレーア     (1866~1950)
  ・ジョルダーノ   (1867~1948)
  ・モンテメッツィ  (1875~1952)
  ・アルファーノ   (1875~1954)
  ・レスピーギ    (1879~1936)

ヴェルデイ以降の、イタリア・オペラの作曲家。
プッチーニの存在感が図抜けているものの、その他の作曲家の個々の作品には、聴くべきものがそれぞれにあります。
一様に、ヴェリスモ・オペラとひとくくりに出来ない、激情的なドラマと音楽ばかりではありません。
そんな中での愛すべき作品が、「アドリアーナ・ルクヴルール」。
そして、作曲家としての、チレーアは、これらヴェリスモ派のなかでは、もっとも抒情的で、穏健な作風を持っています。

チレーアの残されたオペラは、5作品。
「ジーナ」「ラ・チルダ」「アルルの女」「アドリアーナ・ルクヴルール」「グローリア」。
チルダ以外は音源入手済みですが、「ジーナ」は若書き風で、ちょっとイマイチ、「グロリア」は、なかなかですが、リブレットがイタリア語のみで、内容把握がまだまだ。
あとは、器楽曲、声楽曲が少々。

イタリアの長靴の先っぽのほうにある、カラブリア州のパルミ生まれ。
そう、南イタリアの体中に歌にあふれたような人なのだ。
ナポリの音楽院を優秀な成績で出て、作曲家としてイタリア全土に名をはせたのが、アルルの女とアドリアーナ。
一時、フィレンツェで教鞭を執るも、最後の教職をナポリで終え、その生涯は、今度はイタリアの北西、ジェノヴァの西側にある美しい街、ヴァラッツェで亡くなっている。

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1902年の作曲で、その頃には、プッチーニは、「トスカ」で大成功をおさめ、次の「蝶々さん」を準備中。ちなみに、「カヴァレリア」は12年前、「パリアッチ」は10年前。
マーラーは、5番の交響曲を作曲、R・シュトラウスは、初期オペラ「火の欠乏」を仕上げたあとで、大半のオーケストラ曲は作曲済み。

こんな時代背景を頭に置いて聞くのも大切。
どの作曲家も華麗なオーケストレーションと、大胆な和声に、その筆の業を繰り出していた。
そこへいくと、チレーアの音楽はおとなしく感じるが、主人公たちにライトモティーフを与え、それらが、歓び、哀しみ、怒りの感情とともに、巧みに変化していくさまは、登場人物たちの心情の綾を、デリケートに描いていてすばらしい。
 さらに、グランドオペラ的な側面も、劇中劇としてのバレエ音楽の挿入などで、華やかな一面も。
しかし、そのバレエ音楽は、バロック調の新古典的な音楽で、これまたチレーアの音楽の冴えた一面だ。

 あと、なんといっても、4人の主人公たちに、短いながらもふんだんに与えられたアリアのメロディアスかつセンチメンタルなこと。

ことに、わたくしは、陰りをおびた、マウリツィオのアリアがみんな好き。
ひとりの女性への愛と、祖国への愛、ふたりの女性のはざまで、悩む軍人でもある男。
ピカピカしたテノールより、少々疲れた焦燥感がある声で歌われることが相応しい。
まさに、カレーラスのイメージ。

アドリアーナは、まさに大女優然としたプリマドンナの役柄。
堂々たるグランドマナーが必要、でも、繊細な歌いまわしも最後には求められる難役。
目をつぶって聴くカバリエの歌声が最高だし、テバルディもすばらしいが立派すぎか。
ラストシーンは、儚く、哀しい・・・



ブイヨン公妃は、このオペラでは、ちょっと憎まれ役だし、意地悪で、最後の最後のはひどいことしやがる。
そんな女だけど、愛するマウリツィオ様には健気で、いじらしい。
そんな可愛い側面と、何が何でも、自分のものと、荒れ狂う嫉妬の鬼と化す二面が必要。
これまた、コソットが思い出だ。
実際に見聞きした、カバリエとコソットの恋のさや当ては、鳥肌ものだった!

あと何気に、同調できるのがミショネ。
黙って、哀しみの背中を歌いださなくてならない、いいひとバリトンの役柄。
これまた、NHKのドラーツィが味のある歌に演技だった。
普段は剛毅なバリトン役を歌う、ミルンズもすごくいい。

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今回聴いた、ウィーンのライブ。
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4人の歌手がよくそろっていて、しかもビジュアル的に、もきっとよかったに違いない。
全体に、ふくよかになり、声も重く、最近では、ある意味、鈍重にも聴こえるネトレプコ。
彼女の場合は、映像がないと映えないのが残念なところだが、舞台で朗読を聴かせつつ、それがだんだんと、熱を帯びてきて、超激熱な叫びの歌に転じてゆくところの迫真ののめり込み具合が実にすさまじく、さすがネトレプコと感心した。
前半は繊細さをもう少し望みたいところだが、終幕の「スミレ」のアリアから、死へ向かうところも、まさにお得意の薄幸の女を地で演じ、歌っていて、とても感動的だ。

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相方の、ベチャーラ。これが、私にはとてもよかった。
この歌手のここ数年の進境の著しさといったらない、知らなかった自分を悔いるくらいだ。
この夏のバイロイトの「ローエングリン」で関心したのも記憶に新しい。
もともと、リリックな声に、力強さが加わり、喉を突き抜けるような力のある高音が出るようになった。
そして、品のある声質もいい。
わたしの理想とする、カレーラスに迫るようなイメージの、ベチャーラのマウリツィオ。

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あと、実は今回の歌手の中で、一番驚いたのが、ツィトコーワのブイヨン公妃。
なんとクリアーな、メゾソプラノの音域の歌手だろう。
声の威力も申し分なし。
強い声も、これまでのメゾソプラノが演じてきた、ブイヨン公妃の名歌唱とひけをとらないし、そんな強い歌唱とともに、女性的な優しさや、揺れ動く感情も歌いだしている。
 あー、素敵だ、と思いつつ、途中で気が付いた。
彼女の名前が、しばらくぶりで聴く、あのツィトコーワたん、だったこと。
 小柄なロシア出身のメゾ。
その小柄で金髪の可愛い風貌にもこだわらす、その声は、声量と声の上下の幅が極めて豊かな、ビジュアルも好感度以上の歌手だ。
新国で、オクタヴィアン、フリッカ、ブランゲーネを聴いて、その所作のカワユサに、虜になっていたんだ。
その彼女が、憎々し気な適役を、まさに的確に演じ歌っている。
音域の広いこの役柄を完璧に歌ってますし、どうしようもない心の葛藤も、その一本気な歌から聴き取ることもできます。
ほんと、すてきな、ツィトコーワ。

その彼女のインタビュー。

歌手として、音楽家としての風格や、いい雰囲気が出るようになりました。

ロシア、マリンスキー系の歌手たちの躍進が続いているように思います。

日本にも帰ってきて欲しいですね。

この演奏、ウィーンフィルのメンバーも大半の、国立歌劇場の美音をつかさどる、イタリアオペラの歌心満載の実務的なピドの指揮も、オケの柔らかな音色の魅力も伴って最高にステキです。

正規音源も数々聴いてますが、あと印象にのこるのが、80年代のJ・パタネの指揮する、バイエルンのシュターツオーパーのFM録音音源。
M・プライスのクリアーなアドリアーナ、N・シコフの壊れそうなぐらいの情熱の塊のマウリツィオ。

「アドリアーナ・ルクヴルール」が大好きです。

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コメント

 あっちこっちネットを徘徊して、何となく書きたくなったら書き込んている者です。
 最後のNHKイタリア歌劇団ですよね。高校生だったかなあ。初めてのオペラライブ経験で、抽選に当たってドミンゴの初来日初日が観れたし、風邪気味で親に止められそうになったのを強行してのアドリアーナでした。やめないで良かった。カバリエはとても良かったのですが、私にはピアニッシモになっての小さい歌声がNHKホールの大きなな空間に響き渡っているように聞こえたのが印象的でした。
 コソットも良かった。サントゥッツァもね。確かに二幕はカバリエとの丁々発止の競い合いみたいで、三幕の最後のところが盛り上がりますよね。その後コソットはボローニャの来日公演でもフレーニとやっていますね。歌手としては結構な歳だったと思うのですが、この時も変わらず素晴らしかった。
 アドリアーナは上演機会の少ない演目ですか、やはり二幕の最後のところで火花を散らすような競い合いで聞きたいところで、そこまでやり切れる二人がなかなか集まらないですかね。

投稿: yamaman | 2018年9月17日 (月) 10時27分

yamamanさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
わたしも高校生でした。
ドミンゴはスルーして、シモン・ボッカネグラとアドリアーナの二本でして、チケット売り場のオバさんに、え?ドミンゴいいの?と驚かれた覚えがあります(笑)

あの巨大なNHKホールで、大きなカバリエのピアニシモが隅々に響いたことは、いまでも耳に残ってます。
そのあとの、カラスの代役でのトスカも、FMで聴き、そこでもあのピアニシモ。
コソットも含めまして、当時のような大歌手は少なくなり、いまはビジュアルがよくて、演技もウマイ、マルチ歌手になったような気がします。

投稿: yokochan | 2018年9月17日 (月) 14時33分

 早速の返信コメントありがとうございました。さらにコメントを付けるのは珍しいかもしれませんが、いろいろ懐かしくなって昔話をもうちょっと。

 もちろんシモンも行きました。カプッチルリとリツチャレッリもだったか初来日でしたよね。
 カヴァレリアと道化師だってややマイナーな演目なのに、さらにアドリアーナ、シモンとで、生初体験の私はもっとメジャーなやつもやってほしかったなと思っていました。でもタイトル・ロールなどの歌手の魅力を満喫できる演目でもあったような気もしました。

 カプッチルリはバリバリに歌いまくるような評判だったと思いますが、シモンは比較的落ち着いた感じの役柄で、しっとりと言えばいいのか、味わい深く歌っていた印象。それとアドリアーナに対抗してじゃないけど、ギャウロフとの低音での凌ぎ合いが凄かったかな。
 私にとってカプッチルリの一番は、かなり後での藤原歌劇団の道化師での前口上。あまりの凄さに客席が盛り上がり、拍手がやまず幕をあけられず、オペラでは珍しいアンコール。(アンコールなんて私はこの時だけだな。)最後の方のこのオペラのテーマみたいな話のところをまた歌ってくれました。しかし既に思いっきり歌いきったせいか、声がちょっと安定しないで、疲れていたみたいなところがかえって良かったかな。

 とにかく歌いまくるみたいな人って最近はいないかな。

投稿: yamaman | 2018年9月27日 (木) 16時31分

yamamanさん、こんにちは。
シモン・ボッカネグラは、このときのイタリア・オペラ来演で、大好きなオペラとなり、後年のアバドとスカラ座の公演でも、カプッチルリとギャウロウ、そしてフレーニという黄金トリオを堪能しました。
 カプッチルリは、その後のガラコンサートでも何度か聴きましたが、わたくしは、ありあまる声を巧みにコントロールできる知的な歌手だったと思ってます。
内省的なシモンに、悩めるリゴレット、友愛のロドリーゴ、そして熱いトニオやジェラール、どれもこれも絶品ですね。
タイムトンネルで、70年代に戻りたいものです(笑)

投稿: yokochan | 2018年9月30日 (日) 17時25分

脱線話題、よろしいですか?
カラヤン指揮のヴェルディ『ドン-カルロ』全曲盤で、カルロ-メレッティなる名前の歌手のクレジットが在りましたが、実はカプッチッリさんが歌っていたらしいんです。Oさんと言うこの歌手を聞くためにだけ、ウィーンのシュターツオーパーに飛んだ大のカプッチッリ信奉者の方が見抜いたとか‥。

投稿: 覆面吾郎 | 2019年10月 4日 (金) 10時33分

そうそう、カラヤンのドン・カルロの秘話、聞いたことがありました。
カプッチッリのファンは、日本に多かったですね。
ちゃんとしたアリア集があれば、なおよかったです。

投稿: yokochan | 2019年10月 6日 (日) 10時58分

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