ワーグナー ニュルンベルクの「ローエングリン」 マルヴィッツ指揮
令和元年。
新元号を迎えて1か月。
すっかり馴染みました。
ワーグナー 「ローエングリン」
ハインリヒ:カール・ハインツ・レヒナー ローエングリン:エリック・ラポルテ
エルザ:エミリー・ニュートン テルラムント:リー・サンミン
オルトルート:マルティナ・ダイク 伝令:キム・デホ
ヨアナ・マルヴィッツ指揮 ニュルンベルク州立フィルハーモニー
ニュルンベルク州立劇場合唱団
演出:ダヴィット・ヘルマン
(2019.5.11 @ニュルンベルク州立劇場)
CDもあんまり出てないし、ほとんど聴くことのできない、ドイツの由緒ある歌劇場のひとつ、ニュルンベルク州立劇場のライブをバイエルン放送局のライブで聴くことができました。
ドイツの劇場は、画像の公開も積極的なので、その数々の写真から、毎度のことながら、観てもいないのに、あれこれ想像を巡らせながらその放送を聴くことができるのも、ネット時代のありがたみです。
ニュルンベルクの劇場は、その起源は、17世紀に遡り、現在の姿は、1905年に築造されたもの。
隣にはシャウシュピールハウス(コンサートホール)が併設され、人口50万のバイエルン州第二の都市の音楽の中心なのです。
そして、ニュルンベルクといえば、マイスタージンガーゆかりの地。
旧市街地は、グーグルマップでみても、中世の雰囲気が色濃く残るさまが見て取れます。
劇場の歴代の音楽監督で、目に付く方を列挙すると、ティーレマン、P・オーギャン、ペリック、そしてボッシュと続き、2018年から、注目の女性オペラ指揮者、ヨアナ・マルヴィッツが就任してます。
ちなみに、オペラ部門の芸術監督は、2018年から、ヤン・フィリップ・グローガーで、バイロイトで、ダンボールと扇風機の「オランダ人」を演出した人です。
マルヴィッツは、ピアニストでありながら、カペルマイスター的なオペラハウス叩き上げの存在で、ドイツ各地のハウスで、すでにかなりの舞台を指揮しており、レパートリーもドイツ物中心にかなりの数を築き上げてます。
ニュルンベルク劇場のオケは、同時に、コンサートオケも兼ねており、ピットからあがるオーケストラの響きは、シンフォニックかつ、劇場ならではの雰囲気豊かなものでもあり、ワーグナーの音楽に不可欠な力強さと、豊かな響きの混ざり合いを聴くことができるのでした。
それを統率する、マルヴィッツの指揮は、とてもスタイリッシュで、重苦しさのない今風のもの。
速めのテンポは、ドラマの勘どころをしっかりと押さえつつ、聴き手を音楽とその舞台に引き込ませるに十分なもの。
無理のない音楽造りなので、歌手たちも歌いやすいのでは。
ちなみに、演奏タイム。
Ⅰ(58分) Ⅱ(79分)Ⅲ(60分)
エルザのアメリカ人ソプラノ、エミリー・ニュートン以外、わたくしには聴いたことのない歌手たち。
そのニュートンの感動さそう、渾身の歌唱もよかったが、ラポルテのローエングリンにちょっとびっくり。
似せているのかと思わせるくらいに、ルネ・コロ+フローリアン・フォークトの声なんだ。
カナダのケベック圏出身のリリックテノールで、甘さと気品のよさが、ちょうどよく両立しているが、耳あたりがよいだけとも言えなくはない。でも、いい声で、気持ちのいいテノールだ。
ほかの諸役も、劇場のアンサンブル的な意味合いでも、とてもよくそろってる。
ドイツの劇場を中心に、中国・韓国系の歌手の活躍が増えているのも昨今のトレンドだ。
というわけで、ドイツの地方オケやオペラの、もこもこした響きや録音、ヘタクソな歌唱という過去のイメージを完全払拭してしまう、鮮やかな演奏と録音でありました。
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しかし、同時に確認することのできる舞台画像や、評論を見ると、ちょっとがっかり。
もう普通じゃいけないんだろうな。
ブラバントの後継者争いが焦点。
キリスト教徒的な王やエルザ、そして市民たちの半分。
北欧やフン族のような異教徒的な、テルラムント夫妻と、市民たちの半分。
これら異なる宗教のもとにある人々の信教の争いでもあるように見受けられる舞台。
ローエングリンは、絵本に出てくるような、森の番人みたいな、グリム童話的な姿。
しかし、極めつけは、3幕。
前奏曲を聴いてると、男のうめき声のような、掛け声ともとれる声がする。
評論と画像からすると、二人のカップルの結婚式にあたって、「ウォータン」が胸を誇張したワルキューレたちと登場し、猪を生贄として屠る様子なのだ。
オルトルートたちの奉じる神々は、まさに北欧神話の神々たち。
だからって、出てくることはないでしょうに。
さらに、禁を破られ傷心のローエングリンを襲うテルラムントをアシストするのは、なんと「ウォータン」。
ついでに、こんどは、ローエングリンの父、「パルジファル」も登場してきて助太刀。
たしかに、ローエングリンの物語には、そうした背景はあるけれども、まさに、なんじゃこりゃ、なんです。
そして、論評を読んでると、やられたはずのテルラムントは、「パルジファル」によって、生き返らされ、なんと、次の後継者として指名されるようだ。
ローエングリンは、待って!と、倒れこむエルザのまん前で、森の騎士たちに、引きづられるようにして舞台奥に引っ立てられていってしまう。
こんな不条理な幕切れの様子。
当然に、ブーの応酬。
歌手と指揮者には、ブラボーが。
演出家が出てきたときには、盛大なブーイングが。
このクセ玉まじりの変化球のような読み替え演出に、やはり「過ぎたるは及びがたし」の思いが。
もちろん、実物や映像全体を見ずに断じるのは、よろしくはありませんが。
ニュルンベルク・オペラのyoutubeサイトには、数々のトレイラーが公開されてまして、コンパクトな舞台ながら、極めて内容の濃い、そして過激な上演の数々を確認することができます。
ドイツ各地にあるオペラハウスが、市民たちの日常生活とともにありながら、こうして常に新しいものを希求し続けることに、音楽芸術の根付く強靭さを強く感じます。
しかし、マルヴィッツさんの、この美しき指揮姿に、豊かな音楽性。
オペラ指揮者としてのますますの活躍に期待であります。
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