夏の音楽 その2
お盆の過ぎたあたりの夕方の空。
百日紅の花とマッチした空は、晩夏にふさわしく、秋の先取りも感じます。
夏の音楽も、もう季節外れすれすれ。
英国版に続き、大陸版で。
R・シュトラウス アルプス交響曲
ルドルフ・ケンペ指揮 ロイヤル・フィルハーモニック
夏山の登山を、まんま音楽にしてしまったシュトラウスの交響曲。
登りと下りで、滝のシーンも雰囲気が違っていたりで、ともかく芸が細かい。
レコード時代は、ちょうどてっぺんのあたりで、盤面が切り替わることになり、感興を削ぐことおびただしかった。
CD時代の申し子のような曲でもあり、広大なダイナミックレンジの再生もCDならバッチリ。
ケンペの旧盤は、ステレオ録音の一番乗りだったかな?
わたくしが、この曲を聴いたのは、NHKのAM放送の音楽の泉かなにかで、ベームのモノラル盤を、曲の解説を交えながら場面ごとに流す放送でのものでした。
そして親戚の家にあった、このケンペ盤は、マッターホルンを普段とは違う側から見たパノラマ写真で、ジャケットを含め、中学生のわたくしを虜にしてしまったものでした。
その後は、もうたくさんの音盤に囲まれてまして、お気に入りは、この旧盤にケンペ新盤、メータLAPO、ハイティンク、ヤンソンスBRSOなどなど。
どの季節に聴いても、登山気分にさせてくれる。
レスピーギ 交響詩「ローマの祭り」
ファビオ・ルイージ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団
ローマ三部作のなかの、いちばんハデめな音楽は、賑やかな夏祭りの音楽に感じる。
どっかーん、と爆発するような主顕祭の激したエンディングには、いつも興奮の坩堝と化すが、甘味な十月祭は、10月なのに、それこそ夏の夜っぽい、色気と物憂さを感じるセレナードです。
主顕祭もクリスマスシーズンだし、この曲の祭りは、実際には、夏以外のものが多いけれど、わたくしには、この曲の雰囲気は「夏の音楽」なんです。
「噴水」も「松」も、きらびやかで、涼し気だったりで、なんだか夏っぽい。
レスピーギのほかの音楽も夏っぽい。
今日は、ルイージ盤を取り上げたけれど、好きな曲なもんだから、たくさん楽しんでますよ。
デ・サバータ、トスカニーニ、オーマンディ、バーンスタイン、マゼール、ヤンソンス、マリナー、ガッティなどなど
ベルリオーズ 「夏の夜」
Ms:ヴェロニク・ジャンス
ルイ・ラングレー指揮 リヨン国立歌劇場管弦楽団
ベルリオーズのこの瀟洒な歌曲集も、その名のとおり、夏。
フランスの詩人、ゴーティエの夢見るような詩の内容に、しなやかに沿うような音楽をつけたベルリオーズ。
幻想交響曲のような派手めな音はここにはなく、抒情と洒落たセンスが漂う名品です。
ヴィラネル、ばらの精、入り江のほとり、君なくて、墓地で月の光、未知の島
透明感あふれる、ジャンスの歌は、心地よいばかりか、ベルリオーズの音楽の持つ抒情性と、ある意味、いびつな輝きとでも言おうか、屈折したクリスタルな光のようなものを感じさせてくれる。
古楽を歌う彼女ならではの美しい歌唱に、美しいフランス語です。
シンシナティ響の指揮者を務めるラングレーの指揮もおしゃれです。
アルヴェーン 「夏至の徹夜祭」
ネーメ・ヤルヴィ指揮 ストックホルム・フィルハーモニー
沈まぬお日様、北欧の夏。
大陸内陸部と違って、北欧には海と山、そして独特の民族音楽がある。
誰もが聴いたことある親しみある旋律からスタートする、全編楽しい曲。
冬は暗く、閉ざされてしまう北欧にあって、夏は明るく、開放的になる人々。
行ってみたいぞ、北欧の夏!
親父ヤルヴィと、本場オケのアルヴェーン全集は、ジャケットもステキだ。
オネゲル 「夏の牧歌」
レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
晦渋で、シリアスな音楽をその交響曲や声楽作品には感じるオネゲル。
でも、一方で、描写的な音楽は明快で、わかりやすさがあります。
ラグビーとか、パシフィック231とか。
そして、爽やかな「夏の牧歌」も、一陣の夏のそよ風のような音楽です。
両親のふるさと、スイス・ベルン州のベルナー・オーバーラントで書かれた、その地方の雰囲気そのまま。
行ってみたいな、スイスの野山。
バーンスタインは、こんな作品でも気合が入ってますし、リアルサウンドです。
ウェーベルン 「夏風の中で」
~大オーケストラのための牧歌~
ベルナルト・ハイティンク指揮 シカゴ交響楽団
ウェーベルンの作品番号1のパッサカリア以前の初期作品で、番号はなし。
後期ロマン派風の作風で、シュトラウスやマーラーに近く、濃密な響きとともに、オーストリアアルプス風の爽やかなな風が吹き込んでくるような音楽。
以前、ヤンソンスの指揮の演奏でこの曲を書いたときには、この作品が生まれた経緯となった、モンドリアンの風景画を推察し、紹介しました。
オネゲルのラテン系の眼で見たスイス地方の景色と、ウェーベルンのオーストリア人から見たアルプス高原地方の景色との色合いの違い。
ともに爽快ではありますが、ウェーベルンの音楽にある陰りは、どこかに不安な眼差しも感じさせます。
その後の、無調、12音へと進んでいく作風の変化。
その前触れは感じることはできませんが、この作品も、ウェーベルンの当時あった立ち位置や、人々との交流関係をあらわすものであり、重要な作品に思います。
シカゴの完璧なアンサンブルと、ハイティンクのふっくらとした音楽づくりで聴く「夏風の中で」。
冷房のかけすぎで、「夏風邪」をひいてしまった方にも、そうでないひとにも、等しく爽やかであります。
スーク 「夏の物語」
キリル・ペトレンコ指揮 ベルリン・コーミッシュオーパー管弦楽団
ドヴォルザークの娘婿、ヴァイオリニスト・スークのお爺さんにあたる、作曲家スークも、その作風を途中で大きく変えた人です。
国民楽派的な民族色豊かな穏やかな作風から、当時の時代に即した、後期ロマン派風の作風へと転身。
そんな作風で満たされた大きな作品のひとつが、「夏の物語」。
このCDは、以前も取り上げ、そのあと、フルシャと都響のコンサートも聴きました。
夏の1日を、人生の長い生涯に置き換えたような、1日の始まりと暑い夏の暮れゆく終末、ロマンティックで濃厚な音楽であります。
右側のスークのタグから、過去記事を御照覧ください。
本日、8月23日に第9で、ベルリンフィルの首席指揮者としてのポストに正式に就任するペトレンコは、こうした曲や、あらゆるオペラにも精通した指揮者です。
あらたなコンビが、この先、どうなっていくか検討もつきませんが、願わくはこうした本格的な音楽を、どんどん取り上げて欲しいものです。
メンデルスゾーン 「真夏の夜の夢」
サー・ネヴィル・マリナー指揮 フィルハーモニア管弦楽団
夏の音楽の老舗。
シェイクスピアの戯曲をもとにした劇音楽で、いちばん親しみのある音楽。
もうなにも言うことはありませんね。
夢幻性、ユーモア、豊富な名旋律の数々、まさにロマン主義まっさかりの音楽です。
爽やかさんの代名詞、サー・ネヴィルとフィルハーモニア管の演奏、録音もとてもよろしい。
マーラー 交響曲第3番
スビン・メータ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニック
多忙な指揮活動の間をぬっての作曲活動、その多くは夏に行われたが、この3番は、なかでも「自然賛歌」の音楽であり、牧場、森の獣、夜、天使、そして愛が、それぞれ、「私」に語るという音楽でもあります。
そして第1楽章は、パン(牧神)が目覚める「夏の音楽」であります。
果てしなく多くの演奏を聴いてきましたが、わたしにとって、3番のナンバーワンは、アバドのウィーン盤です。
レコード時代に発売即購入で、連日連夜聴いたものです。
そして、その後に入手したのが、メータのロスフィル盤。
くったくない、朗らかな、明快カリフォルニアサウンドで、デッカ優秀録音も含めて気持ちいいこと極まりない。
アバドよりは、「夏の音楽」を感じさせます。
が、アバドの持つ陰りの部分や、まろやかなウィーンサウンド、そして人間味にはかなわない。
夏の朝の、この曲を思い出は、実家に朝帰りしたとき、FMでラインスドルフ指揮のライブが流れていて、爽やかな夏の朝から、日差しが強くなっていって、眩しい太陽が真上に昇っていく様子を、この音楽を聴きながら体感したこと。
もう、30年以上前のことです。
愛する3番の好きな演奏・・・アバドの3種、メータ、バーンスタイン旧盤、ハイティンクCSO、ベルティーニ、レヴァイン。
もう風は秋を先取り。
夏の音楽も、そろそろ聴き納め、とかいって年中聴いてますが。
まだまだ「夏の音楽」はあるとは思いますが、このあたりで筆をおきます。
夏の終わりは寂しいものです。
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