ヴォーン・ウィリアムズ 音楽へのセレナード
今年は、最初は涼しく、その後の暑さが厳しすぎたせいか、吾妻山の早咲きのコスモスは少し精彩に欠くような気がしました。
でもその名の通り、初秋に咲く、この花の色合いや佇まいはとても美しい。
こんな教会の中で演奏された曲をネットで聴きました。
そう、英国音楽好きを自称しておきながら、こんなに美しい音楽を知らないできた。
いや、でもメロディーはなぜか知っていた。
しかも、6月から8月にかけて、イギリスでの演奏会でのものを3種類も。
ヴォーン・ウィリアムズ 音楽へのセレナード
~16人の独唱者とオーケストラのための~
ステファン・クレオバリー指揮 ブリテン・シンフォニエッタ
キングズ・カレッジ・コーラス
(2019.06.29 ケンブリッジ、キングズ・カレッジ教会)
マーク・エルダー指揮 ハレ管弦楽団
ハレ合唱団
(2019.05.23 マンチェスター)
マーティン・ブラビンス指揮 BBCスコティッシュ交響楽団
BBCシンガーズ
(2019.08.13 ロイヤル・アルバートホール)
短い間に、3回も演奏されます。
そう、それにはいわれがあります。
指揮者ヘンリー・ウッドの指揮活動50年を記念して、ほぼ同年代だった朋友のヴォーン・ウィリアムズは、この素敵な作品を1938年に作曲した。
ヘンリー・ウッドは、指揮者として、作曲家・編曲者として、そして、音楽プロデュースにおける改革者として、ビーチャム、さらには、ボールトやバルビローリらの先人として英国音楽界にその足跡を残した人です。
プロムス、すなわちプロムナードコンサートの第1回目の指揮者でもあり、その後もクィーンズホールから現在のロイヤルアルバートホール(RAH)に至るまで、ずっと指揮者として活躍し、いまは、プロムスの期間中、そのホールに胸像が掲げられてます。
そのウッドの生誕150年が今年だったわけです。(1869~1944)
今年のプロムスでは、ブラビンスの指揮で演奏され、6月には、キングス・カレッジを長年率いたクレオバリーのフェアウェルコンサートのなかで、そして5月には、ハレ管のマーラー2番の、驚きのアンコールで演奏されました。
このように、ウッドと所縁があることで、今年多く演奏され、放送も多く聴くことができ、この作品がことさらに好きになった次第です。
聴いたことがあるメロディ、CD棚を探しまくり、いくつかある交響曲の全曲のカップリングにもないかと思ったが、残念ながら手持ちのCDにはありません。
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作曲時に選ばれた16人の歌手とオーケストラによるこの作品、歌手たちはソロであったり、重唱であったりで、
のちに、ソロを4人とし、合唱とオーケストラによるものへと編曲。
さらに、ヴァイオリンソロを伴うオーケストラ版にも編曲されました。
わたくしは、きっと、このオーケストラ版をどこかで聴いたのだろうと思われます。
歌詞は、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」からとられてます。
この物語は喜劇でありながら、ユダヤ人とキリスト教者との当時の微妙な関係が描かれたりもしているのですが、ヴォーン・ウィリアムズはそのあたりはスルーして、この戯曲に出てくる音楽にまつわるシーンから美しい言葉を取り上げました。
物語の概略は、ヴェニスの商人、その親友が結婚をしたがっているが資金がない、それを用立てるために、ユダヤ人高利貸しから借金をするが、期日に返すことができずに、証文通りに、心臓を差し出すことになってしまう。その裁判で、裁判官に扮した親友の婚約者の機知によって助けられ、高利貸しは財産没収とキリスト教への改宗を命じられてしまうというオハナシ。
ここで、ヴォーン・ウィリアムズが選んだシーンは、①婚約者が裁判に勝利して、家に帰ったとき、幸せにあふれた気分で月を見上げ、もれてくる音楽を聴いたときの気分、②もともと父に反発していたた高利貸しの娘が、判決で得た父の没収財産の半分を得て、婚約者のキリスト教徒の若者と駆け落ち、夜空を見ながら天体の音楽を語り合う、このふたつです。
曲の最初は、美しい、美しすぎるメインテーマが、ソロ・ヴァイオリンによって奏でられます。
そう、あの「揚げひばり」をお好きな方なら、すぐに、このメロディーは忘れられないものとなります。
優しさと慈悲にあふれた旋律です。
そのあとに、こんどは16人の重唱で。
「月明かりが、ここにのぼり、そこに眠るなんて、
なんて甘い想いなのでしょう
ここに座りながら、音楽が。
私たちの耳に忍び寄るように
静かな夜、甘いハーモニー・・・」
ソプラノソロが、of sweet harmony と寄り添うように歌います。
このソロと、その歌詞は、曲の最後にも歌われ、まさに癒しのサウンドを持って印象的に静かに終了する重要なモティーフです。
曲は途中、ヴォーン・ウィリアムズならではの、ミステリアスな進行を伴った神秘サウンドもあらわれますが、最終は、幸福なムードのなかに終わります。
13分ぐらいの曲ですが、何度もいいますが、ほんと美しい。
「天体の音楽は人には聴こえない」とシェイクスピアの原詩にはありますが、ヴォーン・ウィリアムズは、それをわれわれの耳に届けようとしたのかもしれません。
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3つの演奏、ともに素敵です。
クレオバリーの教会での演奏は、雰囲気そのものが素晴らしく、響きもいい。
エルダーは、マーラーで歌ったソプラノがそのまま歌っているのか、ソロが素晴らしく感動的。
プロムスのブラビンスは、巨大な響きのいいホールを美しい響きで満たしてしまい、賑やかな聴衆を静まりかえらせてしまったくらいに、集中力あふれた演奏。
ボールトのCDを今度は聴いてみよう。
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