R・シュトラウス ツァラトゥストラはかく語り ロンバール指揮
ある日の竹芝桟橋の夕暮れ。
大島あたりを往復する高速船が基地へ帰還するところ。
遠くはお台場に、羽田に降り立つ飛行機も見える。
R・シュトラウス 交響詩「ツァラトゥストラはかく語り」
アラン・ロンバール指揮 ストラスブール・フィルハーモニー
(1973 @ストラスブール)
自分にとって、また懐かしい1枚を。
新しい演奏もいいけれど、こうして我が青春時代を飾った演奏を、歳を経て聴いてみるのも、音楽を聴く喜びのひとつ。
とかいいながら、いつもそんな聴き方をしているわけですが。
アラン・ロンバールは、今年79歳になるフランスの指揮者。
かなり若い頃から指揮者デビューして、20代にはEMIよりオペラ録音デビュー。
そして、私たちにとって、いちばん親しみがあるのは、ストラスブール・フィルの指揮者となり、エラートとの共同で、多くの録音が日本でも発売されるようになったこと。
70~80年代にかけてのストラスブール、そのあとはボルドー、そしてスイス・イタリア語管へ。
だんだん、尻すぼみになってしまったそのキャリア。
いまはどうしているのでしょう。
結局、ストラスブール時代が、ロンバールがいちばん輝いていた。
画像検索をすると、かなりふくよかになってしまったが、ビジュアル的にも、スマートでかっこよかったストラスブール時代だ。
フランスのオーケストラということで、瀟洒でおしゃれな響きを期待するけれど、どっこい違います。
ご承知の通り、ライン川を挟んでドイツとの国境を有する都市として、交通の要衝の地。
ドイツ語では、シュトラスブルクということになります。
かつてより、独領となったり、仏領となったりと、歴史上も重要な街なのでありました。
大指揮者ミュンシュもこの地に生まれ、当時はドイツだったので、ドイツ人。
しかし、のちにフランスに帰化してフランス人となります。
ドイツ音楽にも精通したミュンシュこそ、ストラスブールの街の性格そのものだと思ったりもします。
ボストン響に君臨したミュンシュですから、ストラスブールとボストンは、姉妹都市にもなってます。
ロンバールとストラスブールフィルのR・シュトラウス。
浮ついたところのない、正攻法の堂々とした演奏です。
もちろん、現在のより高度なオーケストラや録音による切れ味のいい、精度の高い演奏からすると、緩い部分は多々あります。
しかし、押さえるところはきっちり表現し尽くしているし、一点の曇りのない、明晰な演奏であるというのも、わたくしにはシュトラウスの明朗なる音楽を聴く、必須の要件を満たしていると思われます。
ブラスとティンパニをはじめとした打楽器のバリっ冴えわたる響きも魅力的。
ただ弦は、やや落ちるといった感じかな。
当時はもうアルコーア版による「カルメン」録音が主流となりつつあった70年代初め、ロンバールは、ストラスブールでクレスパンそタイトルロールにしたその演奏では、従来のギロー版を採用していたように記憶します。
フランスの地方都市であった当時のストラスブールにあって、レーベルも含めて、ちょっと保守的であったのかもしれません。
ヴェルディのレクイエムや、オッフェンバックのラ・ペリコール、グノーのファウストなど、70年代ならではのストラスブールでの録音。
いまこそ、聴いてみたいと思います。
そんな想いを抱かせるような、久方ぶりのロンバール&ストラスブールのツァラトゥストラなのでした。
過去記事
「ロンバールの幻想交響曲」
竹芝桟橋からレインボーブリッジを望む。
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コメント
またお邪魔致します。ロンバール&ストラスブール・フィルは'76年5月の来日時に上野で聴きました。浪人中の身ながら出かけたのですが、フォーレ「ペレアス」「海」「幻想」とアンコールに「バッカスとアリアーヌ」終曲と、フランス色満載のプロだったので。
ただしオケ全体としてはいささか非力な感が拭えず、当時ストラスブールパーカッショングループとしてエラートから何枚もリリースしていた打楽器パートの優秀さのみが印象的でしたが。またお書きのように、ロンバールのカッコ良さには瞠目しました。当時のグラマーボーイだったメータの向こうを張るのではなんて?
その後あまり活躍を聞かないまま歳月が経った感が強いですが、指揮者の円熟というのも興味深いテーマですね。先日引退したハイティンクのように若い頃は軽んじられ勝ちだったのが、年齢を重ねるうちに巨匠の名を不動にしたマエストロもいるわけで。ホーソーン「人面の大岩」そのものですが。
そう言えばホーソーン同様、ドーデ「最後の授業」も小学校の教科書で知りました。フランス語必修の学校でしたので、明日からフランス語が使えないアルザスの学校の事情はそれなりに呑み込めたのですが、クラスの大半はウチの学校もそうなれば良いのになあなどと考えていたかも。
ジェシー・ノーマンの訃報は残念。'81年春にロンドンで「大地の歌」を聴いたのですが(ヴィッカース、デイヴィス&LSO 旧フィリップス盤と同じ)、圧倒的な印象でした。ツイッターにお書きの小澤&新日との共演その他は都合が合わず聴けなかったのが痛恨事です。あと佐藤しのぶさんもサントリーホールの柿落としで若杉弘氏指揮「千人」の第三ソプラノで聴いたのみで。第一ソプラノのルチア・ポップもそれが唯一の機会でした。「去る者日々に疎し」の感ばかりつのる今日この頃で…。
投稿: Edipo Re | 2019年10月 5日 (土) 07時17分
ロンバールの来日は、レコ芸の文化会館での写真で記憶してます。
それにしても魅惑のプログラムですね。
ストラスブールフィルは、その後、グシュルバウアーが引き継ぎましたが、いまの指揮者も調べましたが、名前の知らない方でしたので、ちょっと残念。
フランスの各地のオーケストラに興味があるものですから、いろんな形でもっと聴けるようになるといいとは思うのですが・・
そしてロンバール氏、名前も聞かなくなり、スイスイタリア語放送オケとは寂しいですが、もうじき80歳、パリのオケとかに客演して欲しいです。
齢を重ねれば、円熟して行くということは、芸術家はともかく、一般人でも必ずしも当てはまらないのかもしれませんね・・
環境が押し上げる面もありますが、メータのように、若き頃の才能をそのままに年齢を重ねた指揮者もいる一方で、ロンバールのような例もありますから、わからないものです。
でも、エラート時代のいくつかの録音、いまでも好きですね。
ロンドンで聴かれたノーマンのマーラー、うらやましいです。
内外の名ソプラノの逝去、寂しい限りで、ふと思い出して、フレーニはいまどうしているんだろうと、調べたりもしました・・・・
投稿: yokochan | 2019年10月 6日 (日) 11時15分
ロンバールの振ったErato原盤のオペラ全曲盤、一旦はCD化なったのでしょうか。クレスパン、ピィ他の『カルメン』、カバリエ、アラガル、プリシュカらを揃えた『ファウスト』、そしてテ-カナワにシュターデとストラータスの魅惑の女声トリオの『コジ-ファン-トゥッテ』。今の耳で、聴き返したいものです。
投稿: 覆面吾郎 | 2019年10月 8日 (火) 09時23分
ロンバールのエラート録音オペラは、コジ以外はCD化されてないように思います。
EMIへの同時期のトゥーランドットは、ハイライトCDを持ってますが、こちらもなかなかのものです!
とくにファウストを聴いてみたいですね!
投稿: yokochan | 2019年10月 9日 (水) 08時47分
ロンバール指揮、カバリエ、フレーニ、カレーラス他の旧EMIの『トゥーランドット』、Warnerが薄手のケースで再発して呉れている、Home-Opera-Seriesで、発売されていたのでは?タワレコ、HMV等で検索お薦めします。
投稿: 覆面吾郎 | 2019年10月 9日 (水) 10時25分