BBC Proms Japan BBCスコテッシュ交響楽団演奏会 ダウスゴー指揮
ロンドンのロイヤルアルバートホール(RAH)を中心に、イギリス各地で行われる、BBC放送局がバックについた夏の大音楽プロジェクト。
その催しが、この秋、日本にやってきました。
英国音楽好き、Proms好きには逃せない引っ越し公演です。
ネットの普及で、ここ10年ぐらい、毎年7月の終わりから、9月半ばまで、連日のRAHのコンサートをリアルタイムとオンデマンドで聴くことが出来る喜びを満喫しておりました。
年々、音質も向上し、楽章ごとに起きてしまう拍手にも、最近は苦笑とともに、新鮮な聴き手のストレートな感想として素直に受け止めるようになりました。
毎年、大きなテーマを定めて曲目が決められるものだから、ある作曲家の交響曲が全曲とか、主要オペラのほとんどとかが、まとめて聴けるという利点もあり、そして、私のような英国音楽好きには、毎年、例外なく取り上げられる英国作曲家の作品の数々の魅力にあります。
有名どころから、私ですら知らない作品、さらにはBBCの委嘱作といった新作も、惜しげもなく演奏され、放送されます。
その引っ越し公演ですが、印象としては、まずは無難なところに着地を目指したという感じです。
本場でのレジデントオーケストラは、BBC交響楽団ですが、今回は、スコットランドのグラスゴーからBBC局傘下の、BBCスコテッシュ交響楽団が、現在の首席指揮者、トマス・ダウスゴーに率いられて来日。
ラグビー・ワールドカップに萌えるさなかの、ナイスなタイミングでもあります。
ちなみに、連邦制のイギリスには、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの自治国があって、オーケストラでいうと、それぞれにBBC局のからんだ団体があります。
イングランドには本拠本元のロンドンのBBC響とマンチェスターのBBCフィル。
ウェールズには、尾高さんでおなじみとなった、カーディフのBBCウェールズ響。
スコットランドには、グラスゴーのこのたびのBBCスコテッシュ響。
北アイルランドには、BBCの直接のオーケストラはない(はず)で、アルスター管。
こうしたBBC系と自治国オーケストラのほかにも、イギリスには、ロンドンのBBCを含む5大オケに、BBCコンサート響、ボーンマス響、ハレ管、バーミンガム市響、ロイヤル・リヴァプールフィル、ロイヤル・スコテッシュ響、そのほかもオペラの座付きオケもありますので、イギリスのオーケストラはほんとにたくさん!
前置きが長すぎますが、そんななから、今回のProms Japanの座付きで来日した、BBCスコテッシュ響を聴き逃すわけにはいかなかったのです。
メンデルスゾーン 序曲「フィンガルの洞窟」
チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調
P:ユリアンナ・アブデーエワ
マーラー 交響曲第5番 嬰ハ短調
エルガー 行進曲「威風堂々」第1番
トーマス・ダウスゴー指揮 BBCスコテッシュ交響楽団
(2019.10.30 @文化村オーチャードホール)
来演第1弾のプログラムは、ご覧のとおりの豪華盛沢山。
ご当地もの、旬の奏者による超有名曲、指揮者も得意とする人気曲、そしてお約束の定番。
午後7時にスタートし、終演は9時30分。
本ブログは2部に分けて書きます。
①まず、良かったこと、褒めたいこと。
・デンマークの指揮者、ダウスゴーはこれまで毎年promsや一部のCDで聴いてきたけれど、余剰な感情に走らない、ストレートな解釈が、かえって音楽の本質に迫ることで、マーラーやシベリウス、ブラームス、ツェムリンスキーなど、とても気に入ってました。
昨年のpromsでもこのコンビで演奏した5番が、この日の演奏会でも、わたしには、とても新鮮かつ気持ちのいい演奏となりました。
人によってはそっけなく聞けるかもしれない快速基調のマーラーだが、指揮姿を見ていると、かなり細かく、丹念に振り分けているし、奏者への目配りやキューも的確。
バーンスタインやマゼール、パーヴォなどと対局にあると思われるスッキリ系だけど、マーラーのスコアや、音楽自体が透けて見えるようなクリアーかつ客観的な演奏なのだ。
おまけに、速いか所ではたたみ込むようにしてメリハリをつけながらも、3楽章は、ホルン氏の艶やかな見事なソロが光り輝き、ワルツの楽しさと、ピアノ部分の静けさの描き方がとても素晴らしく、オーケストラの精度の高さも、ここで発揮されたように思う。
さらに、その良き流れでアダージェットは、連綿たる抒情ではなく、透明感の勝る抒情で聴かせる今宵イチの名演であったと思う。
5番のコンサートは、これまで何度聴いたかわからないが、アダージェットで目頭が熱くなり思わず落涙したのは初めてではないかと記憶します。
ほかの楽章も、いずれも自分には鮮度高い、素敵な聴きものであったことをここに記しておきます。
対抗配置もことさらに効果的だった。
そして、ホルン首席氏、大きなブラボーをひときわ浴びてました!
・マーラーのあとに、アンコールなんて、あんまりありえないことだけど。
ダウスゴー氏が進み出て、本場では、これ!、みなさんご一緒に、ってようなことをお話しして、「威風堂々」。
思わず、手拍子も起き、そして、あのメロディーでは、観客席を向いて指揮。
一部、歌っている方もいらっしゃったけど、大半はハミング、わたしは、GodとGloryとHopeぐらいしか記憶にないから、むにゃむにゃ言いながら歌いましたよ。
オーケストラも、ホールの聴き手も、ここではノリノリで、深刻なマーラーのあと、こんなに開放的になるなんていいのかな?なんて思いは言いっこなしでした。
コンマス(ミストレス)の態度は??でしたが、スコットランドの方がどれほどいらっしゃるかわからないが、メンバーの開放的な明るさも、とても印象的でした。
・アブデーエワ、髪をまとめあげて、黒のパンツスーツに赤いパンプス。
遠目にも美人、そしてその演奏も美人な演奏。
技巧の鮮やかさをひけらかすような、みてくれだけの演奏でなく、指揮者の早めのテンポにのりながらも、チャイコフスキーの抒情を弾きだす美しいピアノでした。
ここでも2楽章が、オーケストラとのやりとりも含めて、とても素敵なものでした。
彼女のアンコールを期待したけれど、あっさりコンミスが、真っ先に席を立ち、後味いまひとつ。
・冒頭の、メンデルスゾーンは、オケも聴き手も、まだ腕も耳も温まってないから、手さぐり的な状態。
それよりも、間接照明のステージライトアップがのっけから気になった・・・。
②良くなかったこと、指摘しておきたいこと。
・ステージライトアップは、本場のアルバートホールでも、よくやっていることだけど、曲によってはナシもあるはず。
メンデルスゾーンは海を思わせるマリンブルー、チャイコフスキーは赤、マーラーは薄いブルー、エルガーは忘れた。
こんな感じで、ステージの両サイドと、正面に掲げられたPromsのロゴマークがライトアップされたわけだが、わたしは好きじゃない。
ことに、マーラーはやめてほしかった。
音楽祭だけど、普通のコンサートステージでよかったんじゃないかな。
それよりも、オーチャードホールという選択肢が・・・・、大阪がうらやましい
・曲目からして、長い演奏会になることから、最後の時間が運用側やオーケストラのサイドからも厳しく決められていたのであろう。
オーケストラは休憩時間内に席についていたし、先にも書いたが、コンサートミストレスが、拍手を打ち切るようにして、挨拶もそこそこにステージを去ってしまうから、強制終了となるイメージ。
エルガーの終演後、余韻にひたりたかった団員は、われわれに深々と挨拶したり、お互いに成功を祝ってハグしたりしてたのに・・・・
たくさん聴けたのはうれしいことだけど、もっと余裕のあるプログラムの設定や、会場サイドの特別例外処置なども検討すべきでは?
・会場運営側といえば、極度の写真撮影の禁止。
ロビーにある、ホール内を映すモニターすら、撮影禁止の札。
終演後、団員も引き上げたステージを映そうとした方に気が付いた係員が、飛んでいって、止めてくださいと制止している光景もみた。
ロビーにあった大きな看板はOK。
promsのロゴやデザインの使用に関する運用上の約定があるのかしらんが、ここまで厳密にやる必要はあるのか?
それともオーチャードホールっていつもそうなのか?
ほかのコンサートでも、毎度思うけど、演奏者を映すことはダメだけど、ホールや奏者のいないステージの様子などは、聴いた方の思い出や、それをSNS等で紹介したり、また宣伝効果にもつながるので、過度でなければ多少のことはいいのではないかと思いますが。
なにごとにも厳密すぎる日本人ではあります・・・
自分はパンフで隠して映しちゃったけどさ・・・
・プログラムを買うのに行列しなくてはならない苦痛と、その内容のイマイチっぷり、グッズも高いしイマイチ。
ちなみに、威風堂々は最終日にプログラムに載っているが、イギリスで歌われる歌詞は、そのプログラムに記載あり。
しかし、アンコールでこれをやるのなら、歌詞をあらかじめ配るか、字幕を出すなどすればいい。
そして、そのプログラム誌、メイン演奏者は、今回の音楽祭を通じ、オーケストラと指揮者であるはずなのに、その彼らの紹介が数行で、わずかちょっとしか出ない日本人演奏家たちと同じような扱いと配列になっている。
さらに、オーケストラのメンバーの一覧すらなく、CDや音源の宣伝もなし。
大きなページを占めているのは、特別協賛の会社の宣伝、しかもGOALSときた、すきじゃない。
・主催者の実行委員会のメンバーを明かしておこうじゃないか。
ぴあ、テレビ朝日、博報堂DIY、読売新聞、BS朝日がメンバーで、協賛がKDDI、特別協賛が大和証券・・・・
クラシック系の音楽事務所の名前はなし。
妙な商業主義を表に出すのでなく、アーティストと聴き手第一のプロモーションを心がけて欲しいものだ。
日本の聴き手は、もっとレヴェルが高いよ。
文句ばっかりになったけれど、ともあれ、「Proms」の名を冠したコンサートの企画自体はありがたく、これが今後も発展形で継続してくれるといいと思うのでありました。
ハロウィン前夜、渋谷の街に降りて行ったら駅前はこんな感じ。
正面のセンター街へ繰り出す人、そこからこちらへ向かってくる人。
音楽祭を楽しんだけど、こんな祭りはいやだな・・・でも楽しそうじゃないか、若者は。
学生時代を過ごした街、渋谷はいずこへ・・・
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