ブリテン 聖ニコラス ブリテン指揮
国内も、国外も、身の回りの狭い社会にも、いろんなことが日々、ハイスピードで起きてることを感じてしまうのは、SNSなど、ネット社会の行きつきつつある、ひとつの現象だろうし、これからも、ますます加速する流れだと思います。
四季のメリハリもなくなりつつあるなか、必ずやってくる私の大好きなクリスマスシーズン。
有楽町駅前の、毎年おなじみの交通会館のイルミネーションです。
ほどよく華美でありながら、銀座の入り口のひとつでもあるので、その落ち着きが美しい。
ブリテン 聖ニコラス
T:ピーター・ピアーズ
BS:デイヴィット・ヘミングス
ベンジャミン・ブリテン指揮 オールドバラ祝祭管弦楽団・合唱団 ほか
(1955.4.14 @オールドバラ 教区教会)
「聖ニコラス」、すなわち、サンタクロースの起源として知られるギリシア人司教「ミラのニクラウス」のことであります。
正教会と西側西方教会とで、その伝説の中身が違ったりもしますが、基本は、弱気ものを密かに助けるという聖人の姿。
貧しいものや、罪を着せられたものに、施しを授ける伝承から生まれたサンタクロース伝は、あまねく世界にプレゼントを配る、おおらかなあのお姿に昇華され、さらには商業的なキャラクターにもなって、愛されキャラとして確立したものと思います。
戦後、1948年、ブリテンは、サセックスのランシングカレッジ100周年記念のために、この聖ニクラウス伝説をもとにした平易なカンタータを作曲。
いつものように、ピーター・ピアーズを前提としたテノール独唱に、合唱、少年合唱、弦楽合奏、オルガン、ピアノ、打楽器といった、ブリテンならではの編成。
このピアーズのソロ、弦楽合奏と打楽器以外は、アマチュア音楽家を想定しているというところもまた、ブリテンらしいところです。
オペラでも、こうした楽器編成を取ってますが、ブリテン独特のミステリアスでクールな響き、でも暖かい音楽といった二律背反的な音楽がここにもあります。
全編、50分を要する意外な大作。
9つの部分からなりますが、概要は次のとおり。
①イントロダクション
いまを生きる人々よりの、ニコラスへの呼びかけ。
ニコラスの話をしよう。
②ニコラスの誕生
ニコラスは母親のお腹のなかから叫んだ、「God be glorified!」
明るく、ホッピングするような曲。
ブリテンが、その叫ぶ声に選んだのは、少年合唱のなかの最少年者で、その拙さがまたピュアに聴こえます
③ニコラスの神への献身
成長したニコラスは、テノールソロによって歌われ、
そのテノールと弦楽だけの③
かなりシリアスなムードにおおわれる。
両親が亡くなり、家に一人、そして広い世界と人間の過ちを知る。
神への奉仕の人生を歩む。
④パレスチナ(エルサレム)への旅へ
ニコラスの航海が描かれるが、男声による船員。
かれらは、聖人に敬意を払わない
その報いとして海は大荒れ、船員は絶望に
嵐は、少女たちの声が代弁、なかなかに荒涼たるサウンドが展開。
しかし、ニコラスは祈りで船員たちを落ち着かせ、そして神に向かって祈り、静かに終わる
⑤ニコラスはマイラへ、そして司教に
マイラ(ミラ、現トルコ内)に到着したニコラスは、その地で司教に選出。
ニコラスは、神の前に誓い、そして讃美歌に包まれる。
Old Hundred=詩編第100編からの讃美歌が全員で歌われ、きわめて感動的。
「世に住むすべての人々は、明るい声で主に歌いましょう
彼は喜んで使える、その称賛は語り継がれる
あなた方は、彼の前に来て喜びなさい・・」
⑥獄舎からのニコラス
ローマの支配下となり8年。相次ぐ迫害。
獄舎でのパンの施しの孤独な秘蹟を行いつつも、この現状を憂うニコラス。
罪なき市民の処刑を助けた伝説からの場面。
ここでは、③のようにニコラスのテノールと弦による少し切迫した音楽。
⑦ニコラスと漬物少年(ピックルスボーイ)
凍てつく冬、旅行者たちが空腹のため食事をとろうとする。
ニコラスにも勧める。
しかし、ニコラスはそれを制止し、行方不明の3人の名前を呼びかける。
すると肉屋に殺された少年たちが蘇り、ハレルヤを歌いだす。
これもニコラス伝説のひとつ。
子供たちの守護聖人であること、サンタクロース伝説であります。
ここでは行進曲調の音楽と、子供たちを憂う母の女声合唱、そしてニコラスの祈り。
そして、子供たちの純真な「アレルヤ」がオルガンを伴って広がり、
最後は、明るい行進調で曲を閉める。
⑧敬意と素晴らしき業績
40年に及ぶ、ニコラスの慈悲、善意、慈善の行い、優しさなどを、いくつものエピソードで短く回顧。
ト長調の平和なムードの音楽で、ピアノのアルペッジョと弦の優しい背景のなか、合唱と少年少女たちが掛け合いのようにニコラスを称えい合います。
⑨ニコラスの死
死を前にしたニコラスは、畏れと歓喜とともに、天で待つ神への愛に熱くなり、そして受け入れます。
テノールの絶叫のようなソロで始まり、合唱も伴い熱いソロです。
そして、それが鎮まると、オルガンが静かに序奏し、そこから超感動的な讃美歌が始まる。
「神は神秘的な方法で動く 実践するその不思議
彼は彼の足跡を海に植え そして嵐に乗る。・・・・ 」
こちらは、⑤の讃美歌Oldと違って、New Londonとして編されてます。
暗闇から輝く光、これを讃えたもの。
この堪えようもない、感動をどう捉えようか。
ブリテンの作品、彼のオペラにも通じる、エンディングのマジックです。
聴衆には、この讃美歌をご一緒に、という一言もあります。
荘厳に鳴り響くオルガン、輝くシンバル、とどろくティンパニを伴った心浮き立つ讃美歌。
このように、シンプルながら見事に構成された作品で、聴くほどに味わいがあります。
無垢の子供たち、気の毒な人々を愛した博愛のブリテンならではの、素材選びだし、それにつけられた音楽も素晴らしいものとなりました。
取り上げたCD盤は、モノラルなので、教会的な空間の広がりはここに求めることはできませんが、デッカならではの鮮明でリアルな録音で、曲の良さは十分に堪能できる。
なによりも、特徴的なピアーズののめり込んだような歌唱がいい。
そして、作曲者の直伝の指揮は、この曲のモニュメンタルな存在として、今後の指標にもずっとなるものでしょう。
ほかにもいくつか録音はありますが、まだそれらは聴いてません。
あとよかったのは、今年BBCのネットで録音した、クレオバリーのキングスカレッジ勇退のライブ。
ケンブリジのキングズ・カレッジ教会の響きが心地よく、実の神々しい感じでステキな演奏だった。
今年のクリスマスシーズンは、天皇陛下のご即位や、新元号のスタートなどがありながらも、多かった災害なども身近に感じたりして、どうもきらびやかさは控えめのように感じます。
特に、千葉県民だから、そう思うのか、県内の商業施設など少し抑制ぎみ。
静かに過ごしたい12月ですが、きっと慌ただしくなるのでしょうねぇ・・・・
| 固定リンク
コメント