メノッティ 「アマールと夜の訪問者」
イエスが生まれたときに、星に導かれて、当方よりベツレヘムに拝みにやってきた3人の博士。
そのとき、イエス・キリストが公になられたという意味合いで、1月6日からを「公現節」として、「降誕祭」のあとの大きなお祭りともなってます。
バッハのカンタータにも、この節にちなんだ作品はあり、クリスマス・オラトリオの第6部もこの節のものです。
厳密には、クリスマスと切り分けて考えるべきでしょうが、イエスの降誕を祝う流れとしては同一。
クリスマスの飾りにも、この博士たちもあるし、何といっても、クリスマス・ツリーのてっぺんには、星が輝いているわけです。
欧米の文化であるキリスト教徒としてのクリスマスと、商業主義が先行し、なぜかしっかり生活に根付いた「日本のクリスマス」。
25日が済んだら、もうクリスマスムードは払拭されてしまうけど、日本ではやむを得ないか・・・
イタリアに生まれ、アメリカ人オペラ作曲家として活躍したメノッテイ(1911~2007)の愛すべき作品を。
欧米、とくにアメリカではクリスマスイブの定番です。
メノッティ 「アマールと夜の訪問者」
アマール:アイケ・ホーカースミス
母親:キルステン・グノールセン
カスパール王:ディーン・アンソニー
メルヒオール王:トッド・トーマス
バルタザール王:ケヴィン・ショート
王の従者:バート・レファン
アルスター・ウィリス指揮 ナッシュヴィル交響楽団
ナッシュヴィル交響合唱団
シカゴ交響合唱団
(2006.12 @シャーマーホーン・シンフォニーセンター)
幼少より音楽の才能を発揮し、ミラノのヴェルディ音楽院に入学。
もしかしたら、クラウディオの父、ミケランジェロ・アバドが院長かなにかで在籍していた頃かもしれず、そうした歴史の綾も面白いものです。
渡米後は、フィラデルフィアのカーティス音楽院から活動をスタートさせ、そこでバーバーと知り合い、それこそ、長年のオトモダチになるのでした。
このオトモダチ関係は、早世してしまう指揮者、トマス・シッパースにのちに引き継がれ、多くのオペラ作品の理解者と初演者として強い味方になるのでした。
あんまりオトモダチ関係を意識すると、メノッテイの音楽への目が曇ってしまうのですが、こうした自由こそがアメリカの社会のよさであり、噂やスキャンダルとは無縁に、才能をいかんなくその作品に注いでいくことができるのでありましょう。
そのオペラ作品は短時間のものが多く、戦後のアメリカの豊満な家電生活に即したように、テレビで観るオペラなども開拓し、逆に、まるでテレビドラマのようなオペラも生み出したわけです。
声にこだわり、オペラにこだわったイタリアの血。
そして、豊かな経済のなかにあって、芸術をメディアも駆使して、一般大衆にも楽しめるようにしたアメリカの背景。
メノッテイのオペラ作品はまだ、ほんの少ししか聴いてませんが、イタリアとアメリカの融合、それも戦後の西側のひとつの姿としてみることで、その理解が深まるものと思います。
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オペラの内容
時代は、まさに、イエスが生まれた、そのとき、ベツレヘムの近郊。
羊飼いのアマールは、松葉杖に頼らないと歩けない少年。
今日も、笛を吹きながら楽しい歌を歌い、とても大きな星が出てると言う。
母は、すこしばかり彼の歌や話が法螺話ではないかと心配してる。
夜になり、ふたりは床につくが、見知らぬおじさんたちの歌声とともに、ドアをノックする音が・・・
アマールは、母さんに、なんか来たというが、嘘おいいじゃないよ、というやり取りがなんどか。
でも、ほんとうに、3人と従者のおじさんが3人やってきた。
生まれた素晴らしい子供に貢物をささげる旅をしているので、ひと宿貸してほしいとのこと。
貧乏な寡婦でございますが、どうぞと家に招き入れる母。
アマールは、それぞれのおじさんの持ち物などをみつつ、親しげに質問、耳の遠い王様もいて笑。
母は、なけなしの焚火を用意し、村人に声をかけ、旅人を食べ物や踊りでもてなす。
(若い女性たちのダンスの音楽などは、なかなかのものです)
村人も帰り、旅人もアマールも床につきますが、母は、いまの不自由な生活を嘆き、悲観にくれ、ついに王様の黄金に手をつけてしまう。
これに気づいた従者が騒ぎ立て、母を引っ立てますが、そこにアマールが必死の抵抗を。
メルヒオール王は、とっておきなさい、生まれた聖なるみどりごにはお金など必要なないのですと語る。
母は、黄金をともかく返し、いまの自分には、なにひとつ捧げるものや贈り物もない・・・と嘆きます。
それを聞いたアマールは、母さん、この松葉杖があるよ、これをあげようと差し出します。
するとどうでしょう。
奇跡が訪れました。
不自由だった足が・・・「ぼく、歩けるよ!歩ける」とおっかなびっくりで、アマールは杖なしで。
王様たちと従者は、天を仰ぎ奇跡をたたえ、母は涙にくれます。
アマールは、王様たちと一緒に、彼の救い主に会いにいくために、母に旅支度を手伝ってもらって村を出ていきます。
幕
思わず涙ぐでしまう展開です。
この50分ぐらいの物語が、1951年にテレビでアメリカのお茶の間に流されたとき、熱心なキリスト教徒であり、常勝のアメリカの正義を疑っていなかった国民は、心から感動し、家族でのクリスマスの一夜に華を添えたことでしょう。
トランプの出現は、そんな時代の良き・強きアメリカを訴えてのものかもしれません。
語法ややり口は強引ですが、アメリカとはシンプルでハッキリしたそんな国なのです。
でも、混とんとした、世界にあって、アマール君の気持ちと母の愛は、絶対に不変のものです。
問題は、この不変のものが通念として通じない、価値観の程遠いあの国(C)です。
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少年役がキーですが、母親のモノローグもなかなかに深くて悲しい。
平易な旋律が全編流れるわかりやすい曲です。
アマールの吹く笛が、とても気にいって四六時中あたまから離れません。
感動的な場面で出てくる旋律も印象的。
そう、それは、これまたクリスマス映画のひとつである、「ホームアローン」の音楽を思い起こさせます。
あの映画も、少年の母との愛の物語ですね。
シッパースによる初演録音も持ってまして、トスカニーニとも親交のあったメノッティらしく、オケはNBC交響楽団です。
かなり鮮明な録音で、曲のよさは楽しめますが、デジタル録音の言葉も明瞭なナクソスのステキな2006年録音のほうが、やはり感動の度合いが違います。
ホーカースミスという少年のアマール君が、きわめて愛らしく、いとおしいです。
音楽の都、ナッシュヴィルのオーケストラもすがすがしい雰囲気です。
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期せずして、アメリカのオーケストラシリーズ。
ナッシュヴィルは、テネシー州の州都で、人口は67万だけど、周辺の経済圏を入れると190万人の大都市圏。
なんたって、カントリーミュージックの聖都であり、ミュージックシティと呼ばれる所以もそこにあり。
出身のミュージシャンを調べたら、わたしごときが知ってる方ばかり。
チェット・アトキンス、ジョニー・キャッシュ、エイミー・グラント、ダナ・サマー、ドリー・パートン、エミリー・ハリス、パット・ブーン、ジミー・ヘンドリクス、ブレンダ・リー・・・・etc
大リーグ球団は3Aクラスで、アメリカンフットボールが強い感じ。
ナッシュヴィル交響楽団は、もともとは1920年に創業。
その後大戦で停止、1946年が正式創立年度。
あまり知らない指揮者ばかりが続き、1893年にケネス・シャーマーホンが首席となって鍛え上げ、2005年まで継続。
シャーマーホーンの名前を冠したホールが本拠地で、そのシャーマーホーンとの録音もかつては多くありました。
その後、スラットキンが継いで、2009年からは、ジャンカルロ・ゲレーロというメキシコ系の指揮者が率いていて、この盤と同じく、ナクソスレーベルへの、このコンビの録音もかなり制作されている状況にありまして、ナクソスレーベルに感謝しなくてはなりませんね。
なかなかの実力派オケで、来年は、よくあるアメリカオケのように映画音楽やポップなクラシック音楽などとともに、マーラーの10番クック版みたいな本格派もやるみたいです。
よきクリスマスを。
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コメント
ようこそ「アマール」をご紹介下さりありがとうございます。初めて演奏したオペラです。当時、オペラは日本語の歌詞で上演されることが多い時代でした。私の関係したアマールも同様。東方の3博士が登場の時に「おお寒い冬空よ」と同じフレーズを次々に歌うシーンがあります。一瞬で3人の歌唱力が比較される場面です。秋田県の歌唱指導の第一人者が一番ヘタクソという事実が誰の目にも明らかになるのです。イヤイヤ、、、私たち弟子は大師匠の下手な歌にリハーサルも本番も振り回されるのです。大学時代の懐かしい思いでです。
投稿: モナコ命 | 2019年12月27日 (金) 18時03分