癒しのベートーヴェン
日本も、世界もたいへんなことになってしまった。
家で過ごさざるをえない状況に、いまこそ、お家で、ベートーヴェン。
思えば、3.11のあとも、こんな企画をしたな・・・
そのときは、テレビがみんなAC広告機構で、ぽぽぽ、ぽ~ん、だった。
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交響曲第6番 ヘ長調 op68「田園」 第2楽章「小川のほとりの場面」
ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮 ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
困ったとき、辛いとき、寂しいときの「田園交響楽」。
そう、誰しもの心を開放し、最高の癒し効果をあげることのできる音楽。
それが「田園」。
そして、やはりウィーンフィル。
往年の60年代のウィーンフィルの音色を楽しめるデッカ録音で。
雲雀鳴く、小川流れる日本の原風景のような田舎の風景を思い、はやく正常化することを切に祈る。
ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op19 第2楽章
スティーブン・ビショップ・コワセヴィチ
サー・コリン・デイヴィス指揮 BBC交響楽団
ピアノ協奏曲の緩徐楽章は、みんな歌心にあふれていて素敵であります。
そのなかで、一番の穴場が2番。
こじんまりとした作品だけど、この2楽章の抒情は見逃せません。
冬の終わり、かぐわしい花の香りがただよう晩に、夜空を見上げると星が輝いていた・・・
そんなようなイメージを持っちゃいます。
若きビショップとデイヴィスの全集はレコード時代に接した思い出のベートーヴェンのひとつ。
「皇帝」らしくない「皇帝」も実にいい演奏です。
ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 op24「春」
Vn:アリーナ・イブラギモヴァ
Pf:セドリック・ティベルギアン
この柔和なヴァイオリンソナタからは、あのいかつめ顔のベートーヴェンの姿は想像できない。
緩徐楽章を抜き出すまでもなく、まさに「春」を感じさせる全4楽章を今日は、ほのぼのと聴きました。
「田園」もそうだけど、これを聴けば、いつでも麗らかな春の野辺を散策する気分になる。
今年は、桜見物はお預けだ・・・・
イブラギモヴァのビブラート少な目のすっきりサウンドが、実に耳にさわやか、かつ清々しい。
ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 op97「大公」第3楽章
Pf:アンドレ・プレヴィン
Vn:ヴィクトリア・ムローヴァ
Vc:ハインリヒ・シフ
「大公」という構えの大きすぎるタイトルだけど、この曲は全体に歌と豊かな感性にあふれたおおらかな作品だと思います。
第1楽章も大いに癒し効果があるが、変奏曲形式で書かれた緩徐楽章にあたる第3楽章がとても素晴らしい。
ピアノトリオという3つの楽器の溶け合いが、これほどに美しく、効果的なことを存分に楽しめる。
常設のトリオでない3人の名手。
プレヴィンの優しい下支えするようなピアノが柔和でよろしい1枚。
ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 op13「悲愴」第2楽章
マウリツィオ・ポリーニ
さて超名曲、超名旋律といったらこれ。
編曲され、歌までつけられ親しまれている。
初期ベートーヴェンのほとばしる思いが、悲劇性の強い前後の楽章に挟めれた、この2楽章では、ロマン性とともに、憧れをここに封じ込めています。
なんて優しい、美しい音楽なのでしょう。
そして繰り返しますが、1楽章と2楽章の厳しさとの対比の見事さ。
成熟の極みにあるポリーニの明晰な演奏で。
3月21日の吾妻山の菜の花と桜。
今頃は満開。
そして、いまは家に閉じこもって音楽を聴くのみ。
各国の音楽ネット配信も多く、嬉しくも忙しい。
メットの「リング」も毎日1作、全部観れてしまった。
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後期のベートーヴェンの澄み切った境地は、なみなみならぬものがあり、ひとことで、癒し~なんて言っていられない。
ミサ・ソレニムス op123 ~ベネディクトゥス
カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
「願わくば、心より出て、そして再び心に帰らんことを」
ベートーヴェンの信条としての「心の平安と世界の平安」。
澄み切った、透徹した心情。
とくに晩年の様式に多く反映されている。
心が疲れた時、こうした音楽は、その気持ちに寄り添うようにしてくれる。
ヴァイオリンソロを伴う、祈りの世界でもある。
ともかく、美しく、もしかしたら甘味な官能の領域すれすれのところも感じる。
ベームが自身の演奏で、会心の出来だったと語ったウィーンでの録音。
歌手・オーケストラ、合唱とすべて揃った名演。
ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op109
ウィルヘルム・バックハウス
ミサ・ソレニムスとほぼ並行して書かれた晩年の3つのソナタ。
そのなかでも、一番の抒情をたたえた曲。
そんなに長くないから、晴朗感にあふれた全曲を聴かないと。
さりげなく始まる1楽章から、ロマン派音楽の領域に踏むこんだベートーヴェンの完成された筆致を感じるが、なんといっても素晴らしのが、変奏曲形式の終楽章。
「歌え、心からの感動をもって」
こう記された、曲中最大の楽章は、まさに感動なしには聴かれない。
あるとき、ふとしたことでこの楽章を聴いたとき、私は落涙してしまったことがある。
仕事が行き詰まって生活にも苦慮していたときである・・・
最後に、主題が回帰されるところなど、安堵感とともに、心が満たされた思いになるのだ。
もちろん、残りふたつのソナタも素晴らしいけれど、心に、耳に、優しく響くのは30番・作品109のソナタです。
安心のバックハウスの演奏で。
レコード時代、私のレコード棚に百科事典のような存在で鎮座していた全集です。
弦楽四重奏曲第15番 イ短調 op132
ゲヴァントハウス四重奏団
少し晦渋な領域に踏むこんだ晩年の弦楽四重奏曲にあって、一番、親しみやすい作品。
病に倒れ、そこから復調した思いが5つの楽章、45分あまりの作品の真ん中、長大な3楽章にあらわれている。
「病気が治った者の神への聖なる感謝の歌」
じわじわ来る、しみじみとした音楽。
苦境から脱するという、喜びと感謝、そしてさらなる希望。
なんと素晴らしい音楽なのでしょう。
終楽章の完結感もベートーヴェンならではかもしれません。
明晰なゲヴァントハウスSQのすっきりした演奏で。
暮れようとする富士と桜。
日常が戻るのはいつになるのか。
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