オペラストリーミング大会の軌跡 ⑨
バラの季節も去り、紫陽花の色づきも濃くなりました。
関東は梅雨入りを待つばかりですが、相変わらずオペラデイを満喫中。
しかし、オペラ疲れも否めない。
6月一杯は、ウィーンもMETもストリーミングプログラムを予告していて、ほかのハウスも限定配信を継続中。
でも正常化したとしても、オペラ上演はオーケストラ以上に判断が難しいだろう。
野外オペラは一手かもしれないが、観客数をどう確保するか。
無観客での常時有料配信が、正常化後は常態化するかも・・・・
コロナであぶりだされた問題が世界で続出、しかも米中を中心に特筆すべき事態に突入しつつある・・・
でも、わたくしはオペラ配信に感謝しつつ、平和を祈るのみ。
Twitterでの呟きを転載し、自身の記録としておくべきブログ⑨
プッチーニ 「マノン・レスコー」 MET 5月28日
「マノン・レスコー」 MET 1980
レナータ・スコットを称えて、ということで過去の名舞台をうれしい配信。
スコットもドミンゴもぴかぴかしてた頃、しかもレヴァインも熱血漢だった。
セピア調に古めかしい映像にサウンドだけど、昔はブラウン管テレビで、こんな映像を見て音楽生活を養ってきたもんだ。
演出がメノッティであることも歴史そのもの。
2幕の二重唱の熱さ、間奏曲の陶酔感、4幕のスコットの迫真のアリアの素晴らしさ。
贅沢なもので、声の垂れ流しともいえるドミンゴの豊饒さに、こちらの耳が疲弊するような思いがした。
耳が飽きを覚えたんだろうか
齢86歳のスコットさん、ずっと健やかに!
今日は、なんてこった、トロイとトリスタンだよーー。
しかも月末だし、時間が・・・・
昨日のリンドストロムのサロメを確認し、ラストの文字通りの「オチ」に脱力す・・・・
そう、ウィーンのサロメで、最後の音が完全に落ちた。
ヘロデがあの女をころせーといったと、急転直下のエンディングの3つのジャカジャン、その最後ティンパニと金管の一部(たぶん)がそっくり落ちたんです。
だからへろへろな感じの末尾でした(笑)
振り落としですかね、オケですかね・・・
ベルリオーズ 「トロイアの人々」 MET 5月29日
「トロイアの人々」MET 2013
この前のウィーンに続いて、この長大なベルリオーズのオペラが観劇できることに感謝。
欧米ではレパートリー化したこの作品、新国あたりでもなんとかと思いますが、当面無理かも。
実質デビューのイーメルのエーネアスが大喝采。
バカでかい声で存在感満点。
この役のパイオニア、ヴィッカースにも似てる。
あとディドを当たり役にする、S・グラハムの女性らしい、そして知的な歌唱が素晴らしかった。
ルイージの熱狂に溺れない歌にあふれたオーケストラもよかった。
おかげさまで、このオペラがますます、親しめるようになりました。
ワーグナー 「トリスタンとイゾルデ」 ウィーン 5月29日
「トリスタンとイゾルデ」 ウィーン 2015
マクヴィカーの演出で、2010年に新国で観劇。
でも、微妙に違うような感じ。
二人は、そもそもが魅かれあう、愛し合う存在で、媚薬は単なるきっかけ。
飲んだあと、待ってましたとばかりの熱い抱擁。
そのあとは死をひたすら求める二人という解釈。
テオリンさまは、新国でこのイゾルデ、ブリュンヒルデ、トゥーランドットを観劇したけれど、ややヴィブラートが増したが、その気品と強い声は素晴らしい。
リリックだった、元ルチア・ポップの旦那、ザイフェルトの心境著しいトリスタンも見事。
で、で、シュナイダー先生の指揮が万全!
ベルリーニ 「夢遊病の女」 MET 5月30日
「夢遊病の女」MET2009
DVDで出てるけど初見、面白かった♪
スイスの山村が舞台の牧歌的な背景を、NYのビルの一室のミュージカル演習場に置き替え。
恋愛リアリティーゲームみたいな展開でこの時期なんとも・・
夢遊病で客席や、ビルの窓の外を歩くアイデア。
しかし最後はちゃんとスイスきた!
ナタリー・デセイの繊細で完璧、精緻な歌。
この公演の数年前、彼女の来日コンサートを聴いたけど、裸足で歌う集中力高い名唱の数々と、殿方(ワタクシ)の心を奪うステキなステージマナーもいまだに忘れられない。
指揮は、その時もピドさん。
フローレスも相変わらずスゴイもんだ!
楽しかった♬
R・シュトラウス 「サロメ」 MET 6月1日
「サロメ」MET 2008
歌って踊れる、しかも高度な演技を要求されるサロメ。
驚きだったマッティラの挑戦は大成功かと。
わがまま少女→魔性の女→狂気走る女
この3段階を見事に歌い演じた。
おっかないドラマテックな強いサロメとは違う側面のはしりだったかもしれない。
ベグリーのヘロデが、サロメが首を所望したときに酒を吹く場面が最高じゃん。
演出のユルゲン・フリムはバイロイトのミレニアムリングを担当した人で、ちょびっと政治色をにじませる方。
アメリカっぽい他民族・多様さもちょっと出してた。
モダーンな感じだけど、味わいは因習的。
新国で伝統的なエヴァーディング演出を観て、その後の二期会のコンヴィチュニーが衝撃的だった。
観客席に普通にいた人が、最後に、あの女をやれーーっと立ち上がって叫んだ。
ヘロデじゃなく、観客から声が上がるぐらいに敢えて過激な内容に仕立てたビックリ演出。
METではこんな過激さは無理かも。
R・シュトラウス 「アラベラ」 ウィーン 6月1日
「アラベラ」 ウィーン 2017
2度目のストリーミング配信。
前回はシルマーの指揮で、キリリとしたシュトラウスで、今回はシュナイダーのベテランならではの、馥郁たるウィーンの香り感じさせるオーケストラ。
共通キャストも含め、この年の配役もステキなもので、可愛いズデンカが好き。
レイスさん、2008年に新日フィルのばら騎士でゾフィーを聴いて、とても好ましく思った。
そして、新国で観たアルロー演出の「アラベラ」は、演出の意図として、ズデンカに視点を向けたものだった。
思えば、彼女の行動がすべてのキーポイントなんだ。
ニールントは最高のシュトラウス歌手になりました。
マンドリーカは、スコウフス。
このあたりは往年のヴァイクルが懐かしいな。
ラストシーンのコップの水、好きなシーン。
R・シュトラウス 「影のない女」 ウィーン 6月2日
「影のない女」 ウィーン 2019
5月のプリミエに続いてのありがたい配信。
ティーレマンと映像で確認できたほぼウィーンフィルが重厚自在で前よりよい。
ニールントとシュティンメが相変わらず素晴らしい。
われらが藤村さん、前半は中低域がやや不調に感じたけど後半は見事。
シャガーとコニチュニの男声陣は5月(グールドとコッホ)の方がよし。
ぎっしり満載のオケピット。
しかし、無料で楽しみながら文句言うのは演出。
音楽と歌の力を信じないんだろか、無駄に人が出てきて説明的にすぎて、想像力を阻害する。
魔笛にも通じる夫婦への試練の場が妙になった感じ。
シェローに学んだフランスの若手演出家。
猫好きらしいから、まあいいか。
ベームのFM録音で刷込み。
84年のドホナーニ&ハンブルクオペラの来演で初観劇。
リザネック、ジョーンズ、デルネッシュというワーグナー歌手に酔いしれた。
3幕の皇后の語り、Ich will nichit !
泉の輝きが皇后のリザネックの顔に反映、その言葉とともに真っ暗に、背筋に戦慄が走りました。
あの時自分は若かった・・・・・
アデス 「テンペスト」 ウィーン 6月3日
アデス「テンペスト」 ウィーン 2015
MET上演の配信はスルーし、ちょっと躊躇したけど観てみたらとてもよかった!
英国音楽好きとしては受入れ可能な、保守的な作風。
ルパージュの演出は、嵐で漂着した先がスカラ座という舞台設定。
主役のプロスペローは、ウォータンのように槍っぽいものを持ってる。
その復讐相手の弟の息子と愛娘が恋に落ちる。
愛するわが娘の旅立ちと別れもあるので、ウォータンでも納得感あり。
黒子てきな妖精さん役のコロラトゥーラが、それこそ超々高音駆使のハイコロラトゥーラでとんでもない。
シェイクスピアの原作ゆえか、ブリテンの真夏の夜の夢にも似た役柄設定も。
愛する二人には、こんな美しい場面もありました。
これを哀しくも見守る父プロスペローでありました。
他の作品も次週METでありそうなので観る!かも。
ベルク 「ルル」 MET 6月4日
Black Tuesdayで公開時間が半日に。
早寝なので、早朝ルルにチャレンジ。
途中で止まるかとヒヤヒヤしてたけど大丈夫だった。
ブラウザを消さなければ、今も繰り返し見れちゃうということに今さらわかったオジサンです。
で、我、ファムファタル・ルルにまたも魅せられし男なり。
手書きのイラストの映像やマッピングが多用される演出。
ルル逮捕後の監獄シーンは、ベルクが映像を利用と指定していたことをいいことに、全編背景が目まぐるしいことおびただしい。
ルル役は、リリックな声とコロラトゥーラ的な技量と力感も必要で歌だけでも難役。
ペーターゼンは理想的なルル。
ラスト、切り裂きジャックによる殺害シーンはなしで、映像でルルの似顔絵が血に染まりつつも、だんだん優しい顔に浄化される。
道連れグラハムのゲシュヴィッツ譲がいい。
いつも思うが、ベルクが描いたルルには確たる意思はなく、なされるがままに生きて破滅していく哀しさがある・・・・
早朝ルルは血圧上がるな....
1週間分終了して現在に近づいた。
ウィーンとMETばかりになりつつあるが、どちらも保守的な劇場だから、あれこれ考えたり、推量したりして悩むことが少ない。
でも、最近のプリミエ演出になればなるほど、現代風のテイストを混ぜ合わせつつ、保守的な観客とも折り合いをつけたような舞台となってる感じだ。
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コメント
ウィーンの「サロメ」、そんな幕切れだったのですか。少し前にエッシェンバッハ&N響の「復活」を視聴してたら冒頭の低弦がガタガタで、終結の和音も同様なんてことが。何とも締まらないことで。
METの「トロイ人」'80年代にいち早くLDを買ったのですがノーマン、トロヤノス、ドミンゴで充実のキャストでした。あまり繰り返し観ることなく他のLD同様に断捨離の対象と相成りましたが😢。
コンヴィチュニー演出のチューリッヒだったかの「魔弾の射手」で、やはり客席から隠者が声を上げたのを記憶しています。今さら「異化効果」でもないでしょうが、ルーティンになっているとしたらそれもまた?で。
それにしても連日のオペラ三昧、お疲れ様です。当方は年とともに心身とも無理が効かないもので。某女流作家がかつて
「昼は歌舞伎、夜はオペラのはしごが大好き」
などとほざいていて、良く消化不良を起こさないものと感心よりむしろ呆れ果てましたが。映像とはいえくれぐれもご自愛ください…。
投稿: Edipo Re | 2020年6月 6日 (土) 15時48分
はい、みごとなまでに落ちました。
毎晩上演があるし、オーケストラも超複数いるので、いろんなことが起きますね。
歴代の音楽監督の悩みは、メンバーが不定だという、そんなところにもありましたね。
METは、スペクタクルな場面があるからか、トロイ好きのようで、今回の演出はレヴァインのものと違うものです。
かなり堂にいった上演となっていて、定番となりつつある様子です。
コンヴィチュニー演出は、いずれも観客もオペラの一部であり、参加者であるというスタンスが元にあると思います。
幕間でも、必ずなにか仕掛けてきますので、
気が抜けませんし、トイレも安全ではありません(笑)
ご心配ありがとうございます。
取捨選択をしつつ、仕事もしつつ、家事も、外歩きも、ともにストレスなくやってます。
逆に、見逃してしまうことがストレスとなっているくらいです・・・
投稿: yokochan | 2020年6月 7日 (日) 21時24分