ベートーヴェン 交響曲第9番 アバド指揮
冬の六本木、けやき坂。
今年もきれいに輝いてました。
コンサートから遠ざかって久しいですが、さすがに日本の年末は第9大国であります。
各オーケストラは、対策を万全に施しつつ、第9をこぞって演奏。
海外指揮者組も来日してくれたのも心強い限りです。
演奏側も、聴き手側も、今年の第9、歓喜の歌は、万感の思いでありましたことでしょう。
わたくしの方は、今年最後の記事を兼ねつつ、敬愛するアバドの指揮で第9を。
ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調 op.125
クリムトのベートーヴェン・フリーズをジャケットにあしらった、アバド1回目の第9は、85年のライブ録音。
そのまえ、1981年に毎年恒例のウィーン交響楽団の第9に登場して指揮したものがアバドの第9、1号です。
S:マーガレット・プライス MS:ヘルガ・デルネッシュ
T:ジークフリート・イェルサレム B:ゴットフリート・ホルニク
クラウディオ・アバド指揮 ウィーン交響楽団
ウィーン・ジンクアカデミー
(19811.1 @ウィーン)
ウィーンフィルでないウィーンのオケを指揮した他流試合ですが、より自在を感じるし、思い切った表情付けもあり、そして劇的な高まりも素晴らしい。
あとワーグナー歌手を揃えた豪華な歌手陣も!
S:ガブリエラ・ヴェニャチコヴァ Ms:マリアナ・リポヴシェク
T:エスタ・ウィンベルイ Br:ヘルマン・プライ
クラウディオ・アバド指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
(1986.5 @ウィーン)
長年聴きなじんだ安心感すら感じる自分にとって安心のアバドの第9はこれ。
やはり、ウィーンフィルの音色、ムジークフェラインの響きは魅力的だし、アバドの歌心も活きてる。
S:カリタ・マッテラ Ms:マルフレーダ・ホジソン
T:ウォーレン・エルスワース Br:ハルトムート・ウェルカー
クラウディオ・アバド指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
日本プロ合唱連盟
(1987.5.28 @サントリーホール)
わたくしのお宝の秘蔵ライブ。
87年5月に、ニューヨークと東京で、アバドとウィーンフィルは、ベートーヴェンチクルスを行いました。
サントリーホールでのその演奏は、NHKFMですべて生放送され、全部録音できました。
自家製CDRにして、大切に保管してますが、久しぶりに第9だけ聴いてみたら、これが実に素晴らしい。
ウィーンでのDG盤より、燃え盛っていて、アメリカと日本のツアー最後という意気込みも入って、ライブで熱くなるアバドの指揮ぶりをまともにとらえてます。
この時のベートーヴェンチクルス、正規音源化したら、世界遺産級のものになると思いますね。
S:ジェーン・イーグレン Ms:ワルトラウト・マイヤー
T:ベン・ヘップナー Br:ブリン・ターフェル
クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
スウェーデン放送合唱団
エリック・エリクソン室内合唱団
(1996.4.2 @ザルツブルク)
ウィーンでの録音から10年後。
ザルツブルクイースター音楽祭での演奏会に合わせて、会場で録音したのでライブではありませんが、演奏会の前なので、やや慎重さはあるものの、盛り上がりは十分。
なによりも、ベーレンライター版を参照しており、流れるようなテンポで流麗さも感じる解釈。
ロマン派のベートーヴェンだったウィーンとくらべ、やや古典に傾いた感じのベルリン盤。
スウェーデンから連れてきた合唱団の精度が高く、ピリリとしており、ここでもソロ歌手たちの声が光るが、ターフェル君、歌いすぎ。
S:カリタ・マッテラ Ms:ヴィオレタ・ウルマーナ
T:トマス・モーザー Br:トマス・クヴァストフ
クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
スウェーデン放送合唱団
エリック・エリクソン室内合唱団
(2000.5.4 @ベルリン)
4年前のザルツブルク録音より、ベーレンライター版をより徹底している演奏。
ベルリンフィルとの全集をライブ録音するという一貫なので、それはさらにそうした意気込みも感じる。
この全集が出たとき、即購入して聴いてみたが、自分にとって初のベーレンライター版ベートーヴェン全集で、その速いテンポと切り詰めた響きにショックを受け、アバドよお前もか・・・・的に思った当時の自分。
いまきけば、そんな思いはまったくなく、ピリオド奏法になれた今の自分の耳からしたら、全然普通に聴こえるのも時代の流れか。
フル編成でない第9は、とてもすっきりしてて、ぜい肉が完全にそぎ落とされスリムだ。
このベルリン盤を聴くと、96年のザルツブルク盤は、まだまだ手ぬるいと感じるくらいに、集中力と緊張感は増し、ベートーヴェンの厳しさ優しさもともに完全表出。
同時にアバドならではの淡麗さと、しなやかさ、そして速い中にも優美な歌を聴かせる3楽章が美しい。
終楽章のスウェーデンの合唱団の透徹した歌声も素晴らしい。
そして、ベルリンフィルはベルリンフィルだ、機能性と分厚さ、そして音色の明るさも!
病で倒れる前のベルリンでのライブ録音、そして、その病を克服して2001年2月にローマでも全曲チクルスを映像収録。
この映像の音声をCD化した全集も出ましたが、第9のみは、同じベルリンでのライブが採用されました。
ローマでの演奏も聴いてはみたいですね。
合唱がローマの聖チェチーリアのものだったので、そのあたりに、アバドの思いがあったのかもしれません・・・・
映像でのローマの全集でも、第9は、DGライブと違う日、ヨーロッパコンサートで演奏されたものが収録されていて、バリトン歌手のみウィレム・シュルテに代わってます。
2000年の5月の第9演奏、その頃、私は秋にやってくるアバドの「トリスタン」のチケット争奪戦に参戦してまして、その発売日が子供の運動会の当日だったものですから、大きな声援のなか、シートの上で携帯でヒソヒソ電話してめでたくチケットゲットしたものでした。
ところが、そのあと6月に、アバドは病気療養のため静養します、との報が舞い込み大ショックを受けました。
トリスタンはともかく、アバドの無事を祈るばかり。
そして、11月の末に、アバドは痩せこけた姿でしたが、日本のわれわれの前に帰ってきてくれました!
文化会館のピットに現れたアバドを見て、わたしは泣きました・・・・・
S:メラニー・ディーナー Ms:アンナ・ラーソン
T:ヨナス・カウフマン Br:ラインハルト・ハーゲン
クラウディオ・アバド指揮 ルツェルン祝祭管弦楽団
マーラー・チェンバー・オーケストラ
バイエルン放送合団
(2007.8.10 @ルツェルン)
ベルリンフィルを退任して、アバドの元に集まった名手たちとルツェルンで毎夏コンサートを開くようになりました。
2003年から始まった、ルツェルン音楽祭でのマーラーシリーズ。
2007年には、3番と併せて、ベートーヴェンの第9を取り上げました。
この前年、アバドとルツェルンは、日本にやってきて、マーラー6番とブルックナー4番を演奏。
そのどちらも聴きましたが、これがアバドとのお別れになろうとは、その時は思いもしなかった。
そしてこちらの第9は、DVDにもならず、正規には発売されませんでしたが、さる方のご厚意で聴くことができてます。
ベルリンでベーレンライター版での解釈の到達点を達成したアバド、ここでは、厳しさは柔和さにとってかわり、全曲にわたって微笑むようにして指揮する、笑顔のアバドが感じられます。
タイム的には、ウィーンの頃に戻ったように感じますが、音楽の表情はより多彩で、かつ自然。
このナチュラルさが、ルツェルン時代のアバドだったように感じます。
余計な解釈は施さずに、以心伝心の気の合う仲間と無垢なまでに音楽そのものに向き合う姿。
そこには透明感や無の世界を感じます。
ことさらに3楽章は絶品でありました。
ウィーンの日本ライブのような熱狂は最後ありませんが、それでも堂々とした着実な歩みを感じさせる終楽章に、アバドの到達した高みを感じ取ることができます。
※ウィーン87は、古いカセットテープが音源ですので、回転速度がやや早いとも思われます・・・
アバドの第9を聴くこと6種。
版を変えたことも大きいですが、アバドの音楽の歩みを感じとることもできたその変化に驚きでした。
常に進化をやまなかったアバドに敬意を表したい思いでいっぱいです。
今年は、たいへんな年となってしまいました。
でもおかげで室内で過ごすことが多くなり、海外のネットストリーミングで数多くのオペラを見ることもでき、見聞がまた広まりました。
観劇したオペラの数、数えること200あまり!
どんだけ見てんだよ、2日にひとつはオペラ見てるって・・・
音楽はやめられない、そのためにも、心も身体も健康で元気にいることが命題です。
良い年になりますように。
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