ワーグナー 「恋愛禁制」 ボルトン指揮
紅梅とライトアップされた東京タワー。
もうひとつ、こちらも品種はわかりませんが、一番一般的な白の方。
芝公園にある梅園で、銀世界と呼ばれてます。
江戸時代に新宿あたりにあったものがこちらに移植されたものだそうな。
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主要作での全作サイクルは何度もやってますが、初期3作を含む全作サイクルは2度目の挑戦。
「妖精」に続いて、「恋愛禁制」まいります。
しかも、映像として出てますので喜び勇んで購入。
演出も含め、めっちゃ面白いです。
ワーグナーの完成されたオペラ第2作目。
色恋は禁止、というか、男と女がアレしたら死刑、というとんでもない法律にまつわる、ばかみたいな話の歌劇。
「妖精」を完成させたあと、すぐに「恋愛禁制」の台本と作詞にとりかかり、2年後23歳の若さで完成させたのが1836年。
同年3月に指揮者を務めていたマグデブルグで初演されたので、「妖精」初演がワーグナー没後だったので、自身の作品の初上演だった。
この初演の前、11月に熱愛中だった女優のミンナ・プラーナーと結婚し、うきうき・ラブラブ中だったワーグナーだけど、ミンナはなかなかの浮気性でその後、駆け落ちまでされちゃう。
そんな時期の「恋愛禁制」というタイトルが皮肉にも見えるのが、これもまたワーグナーらしいところ。
シェークスピアの「尺には尺を」という戯曲に基づいて、ワーグナー自身が台本を書いたもので、イタリアのパレルモを舞台にした完全な喜劇作品。
深刻なワーグナーらしからぬ、陽気な雰囲気が横溢するのは、喜劇であることと、舞台が陽光あふれるイタリアであることにもよります。
(以下、以前の自分のブログより一部コピペ)
カスタネットやトライアングルが鳴りまくるその序曲を初めて聴いたとき、なんじゃこれ??的な思いになった。
全曲は、全2幕、2時間30分、CD3枚の大作で、そのすべてが序曲的なハチャムチャイメージではなく、随所に後年のワーグナーらしい響きが聴き取れるのがうれしい。
修道女であったヒロインが修道院で祈るシーンでは、「パルジファル」やメンデルスゾーンの「宗教改革」で流れる「ドレスデン・アーメン」が響いてきて、なかなかに味わい深い。
そんな巧みな仕掛けも、よくよく聴くとたくさんあります。
後年、ワーグナーはこのオペラを「若気のいたりで、恥ずかしい」と言ったとされるが、イタリアオペラやフランスグランドオペラの影響下にあった、前作「妖精」よりも、ずっと進化している。
ワーグナー 歌劇「恋愛禁制」
登場人物が多くややこしいので整理しときます
総督フリードリヒ 国王外遊中で、王代行を務める。
恋愛禁止令を発布した傲慢な人物。
若い貴族ルツィオ 禁制に怒る人物。
ヒロイン・イザベラと恋仲になる。
〃 クラウディオ ルツィオの友人で、イザベラの兄
女性とイイことして禁制に触れ逮捕される。
〃 アントニーノ 友達貴族仲間
〃 アンジェロ 〃
イザベラ 両親を亡くし、修道院に入っている。
しかし、兄逮捕の報を受け兄を救出にでる。
マリヤナ 修道院で一緒になったイザベラの幼馴染。
総督フードリヒに捨てられたかつての恋人
ブリゲラ 総督フリードリヒの手先の衛兵隊長
ウェイトレスのドーレッラに色目を使う
ドーレッラ ウェイトレスさんで、ルツィオとも関係があった。
のちイザベラのために働き、ブリゲラの求愛も受け止める
ポンティオ 居酒屋の給仕さんで、のち看守に昇格
ダニエリ 居酒屋の店主
フリードリヒ:クリストファー・マルトマン
ルツィオ :ペーター・ローダール
クラウディオ:イルカー・アルジャユィレク
アントニーノ:デイヴィッド・アレグレット
アンジェロ :デイヴィッド・イエルザレム
イザベラ :マヌエラ・ウール
マリヤナ :マリア・ミロ
ブリゲッラ :アンテ・イエルクニカ
ドーレッラ :マリア・ヒノヨーサ
ポンティオ :フランシスコ・ヴァース
ダニエリ :イサーク・ガラン
アイヴァー・ボルトン指揮 マドリード王立歌劇場管弦楽団
マドリード王立歌劇場合唱団
演出:カスパー・ホルテン
(2016.2.19 @テアトロ・レアル、マドリード)
※シェイクスピア没後400年記念上演
第1幕
第1場
パレルモの歓楽街で、兵士たち(警官)が酒場や遊郭を破壊していて、中から若い貴族たちが逃げ出してくる。
店主と給仕、ウェイトレスが衛兵隊長ブリゲッラに逮捕されて出てくる。
皆でくってかかるが、総督フリードリヒが出した遊興歓楽姦淫禁止令を読み上げられ、唖然とする。
そこへ、クラウディオが、恋人と一緒に寝たばかりに逮捕され、死刑を求告されるとして引ったてられてきて、皆で彼を救う手立てはないかと考える。
クラウディオは、友人のルツィオに修道院にいる妹のイザベラに窮状を伝えて助けて欲しいと言いにいってくれと依頼。
第2場
修道院の中。
クラウディオの妹イザベラと3年ぶりに会った幼馴染のマリヤナが神に祈りをささげている。。
マリヤナは、かつて貧乏なドイツ人と密かに結婚していたが、彼が王に認められ出世してしまった、それが今のフリードリヒ、と語りイザベラを驚かせる。
そこへ、ルツィオが、兄逮捕&死刑の報をもってやってくる。
しかし、ルツィオはイザベラに一目惚れして、求婚するが、今はそれどころじゃないと、ピシャリ。
イザベラは皆で出てゆく。
第3場
法廷。総督がまだやってこないので隊長ブリゲッラは気を効かせて、また下心をもって、勝手に裁判を開始。
ポンティオに追放令が出して、ウェイトレスのドーレッラに禁酒法違反の罪を問うが、彼女のお色気作戦にメロメロに・・・
その後、総督フリードリヒがやってくるが、アントーニオが現れ、せめて謝肉祭だけは許可して欲しいと誓願するが、フリードリヒは嘆願書を破り捨てる。
次いでいよいよクラウディオの審理に入るが、若気の過ちという本人の主張を退け、死刑を宣告。
そこへ、イザベラが登場して、お願いの筋これありで、人払いを頼む。
イザベラはフリードリヒに、ただ一人の肉親の兄を助けて欲しいと訴えるが、フリードリヒは頑として受け入れない。
怒ったイザベラは、恋をしたこともない男だ、と蔑み厳しくあたる。
一方、フリードリヒは、イザベラの美貌に目がくらみ、兄の味わった快楽を共に分かち合うなら許してつかわそう、わたしを楽しませなさい・・・。
と言うものだからイザベラは怒りまくり、皆にこの偽善をばらすと息巻く。
フリードリヒは、わしが愛を語ったと言っても誰も信じないだろうよとずるがしこさを発揮。
そこで、皆が再登場するが、首尾が思わしくないことに落胆。
イザベラは、これはマリヤナを身代わりにしようというアイデアが浮かび、フリードリヒとの密会を約束する。
第2幕
第1場
牢獄の中庭。
クラウディオのもとにイザベラが訪れ、兄の命乞いをしたら貞操を求められたと話すと、兄は怒り狂うが、でも生きていたいから是非そうして欲しい、と妹に言うのでイザベラもこれにはあきれ怒る。
そして、フリードリヒとマリヤナに、仮装して謝肉祭に来るようにとの手紙をしたため、ドーレッラに託す。
ルツィオがやってくるが、ドーレッラがかつて付き合っていたことを話し、彼を困らせるが、なんとしてもイザベラは守ると言い、彼女を喜ばせる。
看守になってしまった給仕のポンティオを買収して、兄に出る令状を真っ先にイザベラに渡すようにさせ、準備は整う。
第2場
フリードリヒの部屋。
連絡を心待ちにする心情を歌うが、愛と罪にさいなまれるバリトンのモノローグとしては、ワーグナーらしいところ。
そこへ待ちに待った手紙がやってきて、カーニバルに出かければ、イザベラに会えると喜ぶ。
でも法は曲げられない。兄クラウディオの放免状でなく、死刑執行書を書き、自分も今宵、同じ運命になるどろうが構わないと歌う。
隊長ブリゲッラとドーレッラが現れ、二人して仮装して出かけようと示し合わせる。ふたりは急接近したのだ。
第3場
パレルモの街の目抜き通り。
人々は禁制を破って謝肉祭に浮かれ騒いでいる。
賑やかな序曲の再現で、ルツィオを中心に浮かれ騒ぐ。
そこへ隊長ブリゲッラが現れ、謝肉祭は禁止だ、と叫ぶので、人々は不承不承立ち去る。
ブリゲッラはさっそく仮装して、ドーレッラを探しにゆく。
イザベラとマリヤナが現れ、マリヤナを励まし、イザベラは去り、マリヤナも期待を胸にした歌を歌う。
仮装したフリードヒがそわそわと現れ、それと知ったルツィオにからかわれる。
そこへ、マリアナが合図を送り、イザベラと思い込んだフリードリヒはそそくさと付いてゆく。
ルツィオは、これを見てイザベラだと思っているから、これを追いかけようとするが、運悪くドーレッラがやってきて、ブリゲッラと勘違いしてこれを離さない。しかたがなく、接吻をしてごまかし走り去るルツィオ。
さらに、これを見ていたイザベラはショックを受ける。
ということでまったくややこしい。
ポンペオによって真っ先に兄の令状が届き、なんと死刑執行令だったので、これを見たイザベラは怒り、ルツィオに復讐を頼むが、ルツィオはすっかり誤解しているので乗り気でない。
そこへ、姦淫の咎で一組の男女が捕えられてくる。
仮面を取れば、男はフリードリヒ、女は自らをその妻と名乗る。
イザベラは、これまでのいきさつを洗いざらい話し、フリドーリヒが嘘をついたと詰るが、フリードリヒは自分を死刑にしろと開き直る。
そこで、人々は恋愛禁制の法律はもう破り捨てたから無効だ、と言ってフリードリヒを許す。
クラウディオも登場し、ルツィオもイザベラに謝罪し、修道院に帰ろうとするイザベラは、皆に止められ、かわりにルツィオの胸に飛び込む。
そのとき、国王帰国の知らせが入り、王を迎えようと謝肉祭は大いに盛り上がる。
幕
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筋だけ読んだだけでも、ややこしいでしょ。
シェイクスピアの原作もややこしいが、ワーグナーの台本は、まだ未成熟ゆえか、あらゆるものを盛り込みすぎの印象を受けます。
シェイクスピアの「尺には尺を」をWikiしてみましたが、そのタイトルは「マタイ福音書」の一部の章からのものとされます。
マタイ伝7章2項~人を裁くことをやめなさい~
「自分が裁かれないために、人を裁くのをやめなさい。あなたが人を裁く同じ方法であなたは裁かれ、あなたが使う尺(量り)であなたは量られるだろう」
なるほど、まさに総督が出した法令に、自らが引っ掛かり、民衆の前に恥をさらしてしまった。
思えば、よくある話です、だって、人間だもの(笑)
ワーグナーの喜劇、後の円熟期の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の原型をここにとらえることもできます。
総督フリードリヒは、ベックメッサーに通じる、どこか憎めないキャラで嘘と偽善、権威主義の固まりのような人物で、のちにワーグナーが闘うことになる評論筋や反ワーグナーの連中に重ねることもできるかもしれない。
ヘルマン・プライが両方の役柄を歌って新境地を開いたのも懐かしい思い出です。
貴族のクラウディオとルツィオのお友達コンビは、マイスタージンガーのワルターとダーヴィッド。
ちょっと軽薄だけどクラウディオは、ほんとは愛に燃える一本気な男で、ルツィオは謝肉祭では、マイスタージンガーのヨハネ祭で踊り歌うダーヴィッドとまったく同じ役回りを演じる。
お嬢様エヴァに相当するのは、強いて言えばマリアナですが、この役には夢見心地のアリアが1曲与えられてるだけで、ちょっと人物表現が弱いと感じる。
逆に、イザベラは縦横無尽の活躍で、コロラトゥーラ的なアリアもあるし、聴かせどころがたくさん。
イタリアオペラ的な存在で、ワーグナーの諸役にはあまりないタイプかもしれない。
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歌手はよく頑張ってますが、サヴァリッシュ盤に比べると非力です。
しかし、こと細かな演出に沿って歌うのも大変だったろうとも思う。
マヌエラ・ウールは、歌が少し不安定だけど、この難役をよく歌いました。
どこかで聞いたソプラノだなと思ったら、シュトラウスの「ダナエの愛」で聴いていて、同じ印象をそこで書いてた。
一番有名な歌手がマルトマン、歌とユーモラスな演技は最高でしたし、キモさまでうまく表出。
テノール二人はまずまず、あとは、ドーレッラを歌ったスペインのソプラノ、ヒノヨーサ(と読むのかな?hinojosa)が色っぽくてお気に入りになりましたよ。
あとボルトンの指揮するマドリードのオーケストラ、サヴァリッシュのような切れ味はないけど、明るい音色で、この作品を楽しむに不足はないもの。
序曲では、スクリーンにワーグナーの顔が映し出され、音楽に合わせて顔芸をするのがなんともユーモラスでありました。
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このDVDをこれから見ようという方は、以下はネタバレ含みますので読まないで
この映像作品、ともかくカラフルです。
ホルテンの演出舞台は、新国の「死の都」でもってとても関心したけれど、小道具の使い方が毎度うまい。
時代設定を現代にして、スマホをみんなが使いまくり。
取材のマスコミは、テレビカメラも使いつつ、スマホで写真撮りまくりだし、一般人もみんなそう。
愉快だったのは、獄中の兄と妹の会話で、対面じゃなくてスマホ電話での会話。
妹は怒って、スマホ電源をブチっと切るしで。
あと、謝肉祭の仮装は、みんなワルキューレの世界。
総督は、ルートヴィヒ2世顔負けのワーグナーかぶれ、ミュンヘンのサッカーリーグを応援し、ビアジョッキを愛飲、さらにはマザコンか・・・
こんな風に、ドイツからパレルモに来た傲慢な総督を描いている(ように思う)。
そんな恋愛もまともにできないイタリアから見たドイツ人。
最後は驚きの女首相がルフトハンザで帰国し、ユーロをばらまき、イタリア人たちは金にひれ伏したかのように、カジノへ・・・・
こんなオチをつけるホルテンの演出は、やりすぎには感じず、ワーグナーの音楽のこの時期の単調さを助けるようなオモシロぶりでありました。
早咲きの河津桜。
うまいこと写真におさまりました。
桜の開花の報も届くようになりました。
いろんなサイクルをやっているので、なかなか進まないワーグナーチクルス、次は「リエンツィ」。
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コメント
yokochan様、しばらくご無沙汰で失礼致しました。一週間遅れで右肩の手術を受け、今月初めに退院致しました。まだ外出時は装具が取れず、リハビリも続いて不自由な日常ですが何とか暮らしております。ありがとうございました。
さて昨日、ジミー・レヴァインの訃報に接しました。思えば3年前、レヴァインのパルジファルで最初にコメントさせて頂いたのですね。「♯MeToo」の嵐に見舞われたレヴァインの窮地に一言発せられたことに共感を表明したことで。
危惧した通りレヴァインの名誉回復も指揮台復帰もならず、さぞ無念のうちに世を去ったのではと考えると心が痛みます。初期のワーグナー作品をレヴァインが振ったらさぞ新鮮な演奏だったのではなどと思いますが、メトの運営状況では不可能だったでしょうか。
またよろしくお願い致します。
投稿: Edipo Re | 2021年3月18日 (木) 05時01分
Edipo Reさん、こんにちは。
リハビリ中とのこと、久しくお声が聴かれないので、安心いたしました。
春に向かって、快方に進んでおられることと存じます。
さて、そうなんですよ、レヴァインの訃報に驚きました。
ローマあたりで再起とかの計画が昨年あったものの、コロナや体調不良で流れ、ほんと失意にあったジミーさん。
運命は厳しいものです。
メットの映像を大量に観ることができましたが、レヴァインの指揮ぶりを見て、歌手たちもオケもみんなやりやすいし、尊敬と仲間を見る眼差しでいるのがよくわかりました。
当時はよかったのです、やはり根っからのオペラ指揮者でした。
初期3作、とくにリエンツィあたりは、レヴァイン向きの作品ですね!
投稿: yokochan | 2021年3月19日 (金) 08時46分