ビゼー 「カルメン」 マゼール指揮
バラの花。
バラは漢字ではまず、書けませんな。(さかき・・・なんとかがあって覚えたフシもありますがむにゃむにゃ)
「バラ」、「ばら」、「薔薇」の3通り。
R・シュトラウスのオペラは、「ばらの騎士」と書くのが多い。
J・シュトラウスのワルツは、「南国のバラ」。
シューベルトの歌曲は、「野ばら」。
シューマンのカンタータは、「ばらの巡礼」。
そして、運命の女、いや、男をダメにする女、ファム・ファタールが口にくわえた花は、「薔薇」。
って漢字が合う。
カルメンは、ホセに、この薔薇を投げ、ホセは「お前が投げたあの花、牢屋でも枯れるまで握りしめていた・・」と虜にしまう。
メリメの原作は、どうやら薔薇ではないようだが、オペラでは、やっぱりバラじゃないとしまらない。
チューリップじゃ可愛いすぎるし、カーネーションじゃマザコンになっちまうし、桜だったら日本ではありそうだけど、蝶々さんになっちまう。
やっぱり薔薇だ!
で、「カルメン」だ。
ビゼー 歌劇「カルメン」
カルメン:アンナ・モッフォ ドン・ホセ:フランコ・コレルリ
ミカエラ:ヘレン・ドナート エスカミーリョ:ピエロ・カプッチルリ
スニガ:ホセ・ファン・ダム モラレス:バリー・ダグラス
フラスキータ:アーリン・オジェー メルセデス:ジャーヌ・ベルビエ
ダンカイロ:ジャン=クリストフ・ベノワ
レメンダード:カール・エルンスト・メルカー
ロリン・マゼール指揮 ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
シェーネベルク少年合唱団
(1970 ベルリン)
長い指揮活動のなかで、オペラのポストで成功したのは、ベルリン・ドイツ・オペラ(1965~1971)だけで、ウィーン国立歌劇場は1982年に総監督となりながらも途中降板してしまった。
コヴェントガーデンやパリ、スカラ座にもたびたび客演したものの、劇場の運営や監督には、やはり向いてなかったのだろう。
あと、オペラの正規録音が、イタリアオペラとフランスオペラばかりで、ドイツ物は少ないのが残念。
ワーグナーはトリスタンの日本ライブが出たが、シュトラウスはその全曲録音がひとつもない。
バイロイトでのリングやローエングリンを是非正規化して欲しい。
そんななかで、「カルメン」は2度録音していて、マゼール向きのオペラであることがわかります。
ただし、2度目のものは、聴いたことがありませんし、サウンドトラック的な録音との印象もあるので、ちょっと。
この1回目の「カルメン」は、いまでは主流となったセリフ語りのアルコーア版での世界初録音でした。
これに先立つデ・ブルゴス盤は、オペラ・コミーク初演版、このあと、70年代は、バーンスタイン、ショルティ、アバドと、アルコーア版による録音が相次ぐこととなりました。
発売当時の驚きは、豪華キャストで、この共演は、他の演目では見られず、もしかしたら一期一会的な組み合わせでもありました。
最盛期を過ぎ、リリコのイメージをかなぐり捨てたモッフォ。
こちらも、引退直前のコレルリ。
バリバリのイタリアバリトン、カプッチッリ。
モーツァルト歌手だったドナート。
それを束ねる、ベルリン・ドイツオペラの海千山千の当主マゼール。
そして、出てきたレーベルが、当時の日本コロムビア。
発売時は、3枚組6,000円もしたので、中学生の自分には高値のバラ=花でして、ちゃんと聴いたのはCD時代になってから。
上のジャケット写真は、当時のレコ芸の表紙です。
名作なだけに、名録音も多数。
しかし、存外にわたしのCD棚には少ないもので、このマゼール盤、デ・ブルゴス、アバドと3種しかありません。
カラスですら持ってないし、全曲聴いたことがないかもしらん。
映像もなし、舞台は新国で1度だけ。
オペラとしての人気、トップクラスなだけに、いつでも聴けるという感覚からか、あまり聴かないという自分にとって不思議な存在のカルメンなんです。
ベルガンサと作り上げたスタイリッシュなアバド盤、オペラ座のカルメンなデ・ブルゴス。
そしてマゼールは、なんでもありのインターナショナルなごった煮カルメン、かな。
面白いくらいに個性むき出しの歌手たちが、鮮烈なのマゼールの指揮のもとにあって生き生きとして感じる。
マゼールのテンポ設定は、相変わらずで急なアクセルや、驚きのアッチェランド、強弱の激しさなど、かたときも耳を離すことができない。
ジプシーの歌なんて、あまりに遅く、そしてあまり静かに始まるのでボリュームをあげてしまうととんでもないことになる。
そう、どんな演奏よりも激しい、うずまく熱狂が待ってるのだから。
久しぶりに聴いて、この前おなじように、笑っちゃうくらいになった「春の祭典」を思い出してしまったww
こんなこと、あんなことをしでかしながら、すべてがオペラとしてのドラマを語っていて、その場面を引き立てる必然であることがマゼールたるゆえんで、いつまでも生命力を失わない演奏となったのだと思う。
モッフォの若い頃の、ほの暗さも伴った声が大好きだけど、ベルガンサとは違った意味で、堂々たるカルメンを否定するような、ひとりの女性としてのカルメンを歌いこんでいる。
「ソフィア・ローレンのカルメンでなく、ブリジット・バルドーのカルメンであろうとした」と彼女自身がこのとき語ったそうな。
誇張やおっかなさを表出することなく、なんだか、悲しみさえ感じさせるモッフォのカルメンが好きです。
これに対し、直情一直線的なホセを、ありあまる声で歌いぬいてるのがコレルリ。
大ベテランの味わいもあるが、モッフォの知的なカルメンに比べると、まるで制御不能のオテロのように感じるのが面白い。
同様に、イタリアオペラを歌うかのように、豊穣たる声をなみなみと聴かせるカプッチルリは、声の豊かさという点で破壊力抜群だ。
イタリア男たちにくらべ、儚く、可愛い、理想的なミカエラを歌うドナートは、まったく違和感なく、この個性豊かなカルメンの出演者たちのなかにあって、一服の可憐な清涼剤的な存在か。
ファン・ダム、オジェー、ベルビエらの名前がうかがえるのも、実に楽しく、当時のベルリン・ドイツ・オペラがいかに充実していたかがわかる。
これが録音された年、ベルリン・ドイツ・オペラは来日して、マゼールはローエングリンとファルスタッフを指揮してました。
よき時代かな。。
東日本はこれから梅雨かよ。
もう充分暑いよ、疲れたよ。。
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コメント
やはり高校時分、このマゼールの「カルメン」買う寸前まで行きました。石丸2号店で手に取ったら居合わせた級友に「(モッフォの)顔で買うのかよ?」と茶々入れられ、小癪のあまり同じく3枚組のブーレーズの「ペレアス〜」にした記憶が。結局「カルメン」はアバド盤発売まで見送りの憂き目で。でもLDでマゼール新盤とレヴァインは入手しましたが実演は未見ですし、やはり今ひとつ縁薄いオペラなのかも。
ところで大昔、モッフォの唄わない出演映画を観た朧げな記憶が。「ローマのしのび逢い」なる不倫よろめきドラマでしたが、予告編だけで本編は観ていないかも。かなり大胆なシーンもありましたがもともと若き日に女優でスカウトされたそうですし。'74年来日時の音友のインタビューも印象的でした。インタビュワーが「Vissi d'Arte…」と切り出したら「あら、私の生き方?」と切り返すなど、賢い女性だなあと。翌年のメト初来日には同行しませんでしたが。
先年マゼールの訃報を聞いた日に、何か追悼にと考えて「トスカ」を注文しました。ニルソンvsF=ディースカウの対決の迫力もですが、例によってのマゼールらしさが横溢で。'80年代になると「ドン・ジョヴァンニ」「カルメン」「オテロ」と映像のサントラに熱心で、そのあたりも指揮の様変わりと関連ありかと。
昨年は夏場に動悸息切れが悪化し、ついに救急搬送される羽目になりましたので今年も戦々恐々です。まあ一年前とは比較にならない品行方正ですが。何につけても不穏な世情と日々、くれぐれもご自愛下さいませ…。
投稿: Edipo Re | 2021年6月11日 (金) 21時34分
Edipo Reさん、こんにちは。
そうですか!カルメンのかわりに、ペレアスとは実に渋い高校生でしたね。
レコード店でカートンケースに入った3枚組は、ズシリと重くて、レジに持っていくのもドキドキ興奮ものでした。
モッフォの件の映画シーン、そこだけ見ちゃいまして、憧れ感が増してしまった青年時代。
インタビューも覚えてますし、その時の写真も美しくてもう・・・
メットの初来演では、ヴィオレッタかミミが予定されてましたね。
超豪華な布陣と高額チケット、当時は驚きましたが、ふたを開けると、来日しなかった歌手が多数でした。
マゼールのトスカは、全曲盤とドイツ語版ハイライト、両方楽しいです。
ご指摘のとおり、80年代以降は変わりましたね。
より大胆な60~70年代が好きです。
関東は、これから梅雨と蒸し暑い夏のはじまりです、ろくなことない世相ですが、ゆったりとお過ごしください。
投稿: yokochan | 2021年6月14日 (月) 08時25分
マゼールの「カルメン」高校時代に買いました。来日したベルリン放響を指揮するマゼールの格好いい姿のテレビ映像に釘付けになった思い出があります。このレコード、特別なカッティングを売るものにし実際音もよかったです。ほぼ同じ頃にスイトナー指揮ドレスデンシュタツカペレの「魔笛」が発売されました。これも音がよかったです。確か両盤ともオイロディスクの録音だったように記憶しています。そんなこともあってコロンビアレコードから発売されたのではないでしょうか。
投稿: | 2021年6月14日 (月) 09時55分
コメントありがとうございます。
わたしも、ベルリン放送響との来演をテレビで見ました。
ベートーヴェン8番と、ティルなどでしたが、指揮棒を持たずオケを縦横無尽に操る魔術師のように感じました。
コンマスは豊田さん。懐かしいです。
ご指摘のとおり、マスターソニックというカッティングで、音の良さも売り物でしたね。
コロムビアのマゼールといえば、ニュー・フィルハーモニアを指揮した「シェエラザード」があるのですが、いまだにCD化されてません。録音も演奏もよかったと記憶してます。
投稿: yokochan | 2021年6月15日 (火) 08時42分