ブリテン 戦争レクイエム マルヴィッツ&ティーラ
靖国神社の外苑の慰霊の庭には、こうした桜をモティーフにした陶板があります。
東京の開花宣言の標本木があるように、靖国神社といえば、「桜」でもあります。
各都道府県の土を実際に使用して、各都道府県の陶芸家が作成。
こちらは茨城県笠間市。
夜間は中にある照明で、うっすらと輝きまして、とても美しいのです。
こちらは兵庫県丹波篠山。
靖国神社は国のために命を燃やした英霊たちを祀ってますが、坂本龍馬や吉田松陰、高杉晋作ら、幕末の志士たちも含まれてます。
戦士した方も、一般の戦没者も、終戦の日には、心から慰霊の念を込めて黙祷します。
毎年、ブリテンの「戦争レクイエム」をこの時期に聴きます。
1961年に作曲完成、1962年に初演。
今年と来年で60年となります。
心からの反戦主義者であったブリテンが、オーウェンの詩とラテン語典礼文を巧みにつなぎ合わせて作った平和希求のレクイエム。
ブリテンの見て思った戦争は、ヨーロッパ戦線でしょうが、日本の太平洋戦争はあまり視野にはなかったかもしれない。
ヨーロッパの街々が戦場となりましたが、終戦から15年を経過したイギリスにいたブリテンに、焦土と化した被爆地や無差別爆撃を受けた街の様子は届いていたでしょうか。
しかし、日本には、戦争レクイエムの22年前、シンフォニア・ダ・レクイエムを奉じてます。
皇期2600年の祝典になにごとぞ、ということにはなりましたが、結果としてはそちらも鎮魂曲として、平安を祈る音楽となっていて、ブリテン好きの日本人としてはありがたい思いです。
今年は女性指揮者たちによる「戦争レクイエム」を。
いずれも海外のネット配信を録音して個人的に楽しんでいる音源です。
ついにバイロイトにも女性指揮者が登場し、世界のオーケストラのシェフにも女性の名前が目立つようになりました。
女性だから、ということでなく、真に実力のある指揮者たちが、ここ数年で多く輩出され、第一線で活躍するようになった。
ブリテン 戦争レクイエム
S:アンネ・デロアード
T:タデウシュ・シュレンキェール
Br:サンミン・リー
ヨアナ・マルヴィッツ指揮 ニュルンベルク州立フィルハーモニー
ニュルンベルク州立劇場合唱団
ハンス・ザックス合唱団
ニュルンベルク・コンサート合唱団
テルツ少年少女合唱団
(2019.7.13 @マイスタージンガー・ハレ、ニュルンベルク)
1986年生まれ、ヴァイオリンとピアノを学びつつ、指揮にも興味を持ち、ハノーヴァーでピアノに加え、指揮の勉強もします。
ここでは放送フィルハーモニーにいた大植英次にも学んでます。
ハイデルベルクの劇場でオペラデビュー、次席指揮者となり、さらに次はエアフルトのオペラハウスへと移り女性初の音楽監督となる。
ここでは、座付きオーケストラを、コンサートオーケストラとしても機能させる仕組みをつくります。
ピアノのソロをつとめつつ指揮を行うコンサートも評判に。
そして、2018年には、さらにステップアップして、ニュルンベルク州立劇場の音楽監督に就任し、現在に至ります。
シーズン最初の演目は、プロコフィエフ「戦争と平和」「ローエングリン」で、その後「ピーター・グライムズ」「ドン・カルロ」も指揮。
地方のハウスから、州立劇場の指揮者に、かつてのドイツのオペラ指揮者のような叩き上げ方式の躍進ぶりです。
2000年には、ザルツブルク音楽祭初の女性オペラ指揮者として、コロナ禍の「コジ・ファン・トウッテ」を指揮したことはご存知のとおり。
しかし、先ごろ、マルヴィッツは、ニュルンベルクのポストを継続せず、任期の2023年に終了させることを発表しました。
妊娠したこと、それから、そろそろまた後のことを考えるため、と語っているそうで。
すぐれた芸術家は、先を見据えた考えや行動がとれるものです。
子育てをしながらも、次はどんなポストに就くのか、その生き方とともに、とても楽しみです。
マルヴィッツの演奏は、CDとしては「メリー・ウィドウ」がありますが、そちらは未聴。
ザルツブルクの「コジ」は視聴済み。
ネット放送で、シューベルトやベートーヴェン、悲愴、夏の野外コンサートでのガーシュインやバーンスタインなど、記事にしたローエングリンなどを聴いてますが、いずれも明快・率直でオーケストラもよく鳴らせて気持ちのいい演奏です。
凛々しいマルヴィッツさん。
指揮姿も長身で、腕も長くピアニストならでは、指先までもニュアンスゆたか。
ブリテンの音楽のひっ迫感とのっぴきならない緊張感をみごとに引き出してる。
オペラの道を歩む指揮者として、劇性も豊かにダイナミックで、聴いていてレクイエムにはなんですが、わくわくさせてくれるし、ニュルンベルクのオケのブラスセクションの迫力と優秀さをも感じさせてくれます。
ドイツの「戦争レクイエム」という感じで、次に取り上げる、ザルツブルクの演奏とはちょっと違ったローカル感もあり。
ソロ歌手3人は、劇場の専属メンバーで、ややオペラ風に傾くところが、とくにバリトンの方がなんではありますが、合唱もふくめ、日ごろのチームをしっかりまとめ上げ、きっとおそらく、みんなが初めて戦争レクイエムを演奏したであろう方々を、見事に率いたマルヴィッツの実力は間違いないと思います。
ドレスデンとの契約を満了後は更新しないと言うティーレマンのあととか、バイロイトとか・・・・・
勝手に妄想中。
ブリテン 戦争レクイエム
S:エレナ・スキティナ
T:アラン・クレイトン
Br:フローリアン・ベッシュ
ミルガ・グラジニーテ=ティーラ指揮
グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ
ウィーン放送交響楽団
ウィーン学友合唱団
ウォルフガンク・ゲーッ合唱団
ザルツブルク音楽祭、劇場少年少女合唱団
(2021.7.18 @フェゼンライトシューレ、ザルツブルク音楽祭)
演奏会の冒頭に、メンデルスゾーンの短いカンタータ「私たちに平和を与えてください」が穏やかに演奏されて、そのまま静かに「戦争レクイエム」が始まります。
グラジニーテ=ティーラは、コンサートのプログラミングがとてもうまく、その切れ味のいい音楽造りとともに、いつも驚きを与えてくれる指揮者であります。
1986年生れなので、マルヴィッツと同い年です。
リトアニアの音楽一家のもとに生まれ、チューリヒ、ライプチヒ、ボローニャ、グラーツ各地で学び、2011年にハイデルベルクの劇場指揮者からキャリアスタート。
ベルン、ザルツブルクのそれぞれの劇場を経て、オペラキャリアも積み、アメリカではシアトル、サンディエゴ、そしてロスフィルも指揮して、ロサンゼルスでは2014~16年に、ドゥダメルのもとで副指揮者となります。
同時にザルツブルク州立劇場の音楽監督となり、ザルツブルク音楽祭でも、マーラー・ユーゲントを指揮してデビューします。
2015年にネルソンスのもとでバーミンガム市交響楽団の首席客演指揮者となり、2016年にはバーミンガムの音楽監督に就任。
こんな風に、その実力に裏付けられたキャリアを着実に歩むティーラさんなんです。
昨年は、第2子を身ごもりながら、コロナ感染してしまい、しかし、それも見事に完治し、赤ちゃんも生み育てるしっかりものです。
DGと専属契約も結び、CDも徐々に出始めてますが、残念ながら、バーミンガムのポストは任期満了となる2022年には更新しないと発表してます。
一部情報によると、ザルツブルクで子供たちと過ごすなか、イギリスのEU離脱で、イギリス入国手続きが煩雑になったことなどがあげられてます。バーミンガムは首席客演指揮者となって良好な関係は継続するとしてます。
それにしても、バーミンガムは、ラトル、オラモ、ネルソンスと実力指揮者が次々と歴任し、それぞれに録音にも恵まれました。
さて、今年のザルツブルク音楽祭の開幕をかざったミルガの「戦争レクイエム」。
昨年、本拠地バーミンガムでの演奏がコロナ禍で中止となり、今年はザルツブルク音楽祭に手兵を引き連れて凱旋する予定だった。
しかし、これもまたコロナ対策で、待機スケジュールがうまく取れず、バーミンガムの訪墺が不可となり、マーラー・ユーゲントとオーストリア放送響との演奏になりました。
劇的なマルヴィッツに比べ、ホールの響きの違いもありながら、ミルガさんの演奏は、流麗さを感じる美しいものに感じました。
ことに典礼文を歌う合唱部分の静けさ・美しさは特筆で、ラスト、「リベラ・メ」の「彼らを平安のなかに、憩わせたまえ・・・」には涙がでるほどに感動した。
この終結部に至り、冒頭のメンデルスゾーンの清らかな音楽と、ブリテンの切実な音楽とが、しっかりとつながり、関連付けられるのも実に見事なものでした。
実績ある、3人の歌手たちは、それぞれ、ロシア、イギリス、ドイツと初演のときと同じ国柄を採用していて、いかにも国際色豊かな音楽祭であります。
なかでも、スキティナのソプラノがきらりと光ってます。
ふたりの若い女性指揮者の「戦争レクイエム」、どちらも捨てがたい桂演でした。
先輩指揮者の、シモーネ・ヤングさんや、オールソップさんの演奏も聴いてみたいものです。
作曲者自身の63年の録音を原典として、作者以外の指揮による録音は83年のラトルまでなされなかった。
ブリテンのオペラも含めて、いまや、指揮者や劇場のレパートリーとして定着しました。
ブリテンの死後、いやラトルによる録音後に生を受けている女性指揮者たちが、こうしてブリテンの名作を取り上げていることに、隔世の感を抱くとともに、音楽をこうして聴いてきて、こんな多彩な楽しみができることに大きな喜びを禁じえません。
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以下は、毎度の再掲。
我ながら、よくまとまってるので、自分で聴くときに参照にしたりしてます。
3人の独唱、合唱、少年合唱、ピアノ・オルガン、多彩な打楽器各種を含む3管編成大オーケストラに、楽器持替えによる12人の室内オーケストラ。
レクイエム・ミサ典礼の場面は、ソプラノとフルオーケストラ、合唱・少年合唱。
オーエン詩による創作か所は、テノール・バリトンのソロと室内オーケストラ。
この組み合わせを基調として、①レクイエム、②ディエス・イレ、③オッフェルトリウム、④サンクトゥス、⑤アニュス・デイ、⑥リベラ・メ、という通例のレクイエムとしての枠組み。
この枠組みの中に、巧みに組み込まれたオーエンの詩による緊張感に満ちたソロ。
それぞれに、この英語によるソロと、ラテン語典礼文による合唱やソプラノソロの場面が、考え抜かれたように、網の目のように絡み合い、張り巡らされている。
①「重々しく不安な感情を誘う1曲目「レクイエム」。
戦争のきな臭い惨禍を表現するテノール。
曲の締めは、第2曲、そして音楽の最後にあらわれる祈りのフレーズ。
②第2曲は長大な「ディエス・イレ」。
戦いのラッパが鳴り響き、激しい咆哮に包まれるが、後半の「ラクリモーサ」は、悲壮感あふれる素晴らしいヶ所で、曲の最後は、ここでも祈り。
③第3曲目「オッフェルトリウム」。
男声ソロ二人と、合唱、二重フ―ガのような典礼文とアブラハムの旧約の物語をかけ合わせた見事な技法。
④第4曲「サンクトゥス」。
ピアノや打楽器の連打は天上の響きを連想させ、神秘的なソプラノ独唱は東欧風、そして呪文のような○△※ムニャムニャ的な出だしを経て輝かしいサンクトゥスが始まる。
⑤第5曲は「アニュス・デイ」。
テノール独唱と合唱典礼文とが交互に歌う、虚しさ募る場面。
⑥第6曲目「リベラ・メ」。
打楽器と低弦による不気味な出だしと、その次ぎ訪れる戦場の緊迫感。
やがて、敵同士まみえるふたりの男声ソロによる邂逅と許し合い、「ともに、眠ろう・・・・」。
ここに至って、戦争の痛ましさは平和の願いにとって替わられ、「彼らを平和の中に憩わせたまえ、アーメン」と調和の中にこの大作は結ばれる。
3つ並んだ東京、神奈川、千葉の桜。
この1都2県を行ったり来たりしてる自分です。
過去記事
「ブリテン&ロンドン交響楽団」
「アルミンク&新日本フィル ライブ」
「ジュリーニ&ニュー・フィルハーモニア」
「ヒコックス&ロンドン響」
「ガーディナー&北ドイツ放送響」
「ヤンソンス&バイエルン放送響」
「ネルソンス&バーミンガム市響」
「K・ナガノ&エーテボリ交響楽団」
「ハイティンク&アムステルダム・コンセルトヘボウ」
「デイヴィス&ロンドン響」
「ハーディング&パリ管」
「パッパーノ&ローマ聖チェチーリア」
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