ハイティンクを偲んで ④ VPO、BPO、BSO
ハイティンク最後の指揮は、2019年9月6日。
ルツェルン音楽祭で、ウィーンフィルとベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(アックス)とブルックナーの7番。
ウィーンフィルとの付き合いも長く、1972年2月が初回で、そのときもメインはブルックナーの5番。
ウィーンフィルのアーカイブを見ると、ハイティンクは111回のコンサートを指揮しております。
ウィーンフィルのもつ柔らかい暖色系の音色は、コンセルトヘボウで育ったふくよかハイティンクの音楽造りと相性は抜群だった。
このコンビの初録音は、幻想交響曲で、こちらは1979年4月のデッカへの録音でアナログ末期。
オーケストラの個性を優先し、そこに乗りつつも、重心の低いがっちりした枠組をつくりあげ、柔らかな弦主体の歌心をその上に載せる。
そんなハイティンクの個性が、優美なウィーンフィルと見事に結びついた「幻想」。
ウィンナワルツのような2楽章、ウィーンの管の音色の素晴らしさ満載で、かつ弦楽器の延々と続く伸びやかな歌が素適な3楽章が、時を重ねた自分にはしっくりくる音楽と感じる。
ブラームス ドイツ・レクイエム
S:グンドゥラ・ヤノヴィッツ
Br:トム・クラウセ
(1980.3 @ムジークフェライン)
これぞ、ハイティンクの追悼に、そして、ハイティンクとウィーンフィルのコンビの美点がたくさんつまった演奏。
同じウィーンフィルでもカラヤンの何度目かの演奏などは、耽美的にすぎて怖いものがあるが、ハイティンクの指揮は美的な造形などには目もくれずに、ブラームスの音楽そのものをじっくり、純音楽的に音にしてみせた。
そこに構えの大きさと、指揮者とオーケストラ相互の信頼感も加わり、なんとも大人の演奏に感じる。
オーケストラと合唱のバランスと音の溶けあいもすばらしく、オペラでも場を重ねた成果が出ているんだと思う。
2枚組のレコードで発売されたとき、「運命の歌」とカップリングされていたが、CD化ではそれがなくて、聴いてみたいと思ってる。
このレコードは、評論家諸氏に絶賛され、このあたりからハイティンクの評価が高まったが、ワタクシは違いますぜ、とあの頃ずっと思ってた。
ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」
(1985.2 @ムジークフェライン)
ウィーンフィルとのブルックナー全曲録音に挑んだハイティンク。
最初は4番で、ベームに続いて、4番をウィーンフィルの音色で聴ける幸せを味わったものだ。
コンセルトハボウとの若き日の演奏と比べたら、ゆったりとした大河のごとく、大らかな演奏となっていて、曲の最大公約数的なものもぃsつかりつかんでいて、安定感抜群。
厳しさや、透徹感は弱めだけれど、ムジークフェラインで聴くがごとく、自分の部屋でゆったりと、橙色に暮れていく夕空を見ながら聴くと遥かなるヨーロッパが見えてくる・・・・
ハイティンクとウィーンフィルのブルックナーは、3,4,5,8番で打ち止めとなりました。
ベルリンフィルとのマーラーも同じ憂き目にあい、その後、フィリップスレーベルはユニバーサルミュージックの一部となり、やがてデッカ傘下となって、レーベルも終了してしまった・・・・・
ハイティンクのフィリップスレーベルへの録音のジャケットにデッカマークは似合いません・・・・・
今後は、ウィーンフィルのライブ音源の掘り起こしに期待。
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ウィーンと同様、ベルリンフィルでも長く指揮台に招かれ続けたのがハイティンク。
ウィーンよりも早く、1964年にデビューし、ウィーンフィル以上の200回以上のコンサートを指揮してます。
ウィーンフィルとブルックナーの7番を最後に指揮したように、ベルリンフィルとも2019年5月に同じ曲を指揮しまして、これがベルリンフィルとの最後の演奏会。
カラヤンが他の指揮者の客演も監視してたし(たぶん)、録音なんてできなかったし、レーベルの垣根もあった。
ゆえに、ハイティンクとベルリンフィルの録音はずっと後になって実現し、1987年から始まったマーラーチクルスで、1番が最初。
喜び勇んで即購入し、まず、フィリップス録音で聴く鮮やかな音に驚いたものだ。
DGが、マスとしての音塊をまずとらえるような音だったの対し、フィリップスは音の広がりを巧みに捉えたもので、ともにフィルハーモニーザールの見事な音響を再現したものと感じた。
そして、ハイティンクの指揮の意外なほどの若々しさは、同時期のアバドの手垢のつかない無垢なマーラーとも違う大人の演奏にも感じ、変なたとえだけど、色でいえば、「青」、ブルーを感じたものだ。
いま、聴きなおしても、そうしたイメージは変わらない。
マーラー 交響曲第1番「巨人」、第5番
(1987.4、88.5 @フィルハーモニー)
5番の音楽としての素晴らしさをこの演奏で体感しました。
同時にオーケストラの優秀さと、ハイティンクの指揮へのリスペクトも強く感じる演奏。
1989年7月にカラヤンは亡くなり、その年の10月に、オーケストラ楽員による芸術監督選抜の総選挙がありました。
以前、アバド追悼の記事で詳細を書きましたので、抜粋して引用します。
・予備選で選択された指揮者が13人。
「アバド、バレンボイム、バーンスタイン、ハイティンク、ヤンソンス
クライバー、クーベリック、レヴァイン、メータ、ムーティ
小澤、ラトル」(abc順)
・13人を8人に絞り込む投票を行う。
「バーンスタイン、ハイティンク、クライバー、レヴァイン
マゼール、ムーティ、メータ、ラトル」
※この時点で、アバドはもれています・・・・
・受諾の意思なしの「バーンスタイン、クライバー、メータ」除外
・辞退者が出た場合は、最初の選出者を再度交えて投票とのルール!
この10人の指揮者に対して、楽員たちが、その思うところを、推薦演説。
・再度の投票で選択された6人
「アバド、ハイティンク、レヴァイン、マゼール、ムーティ、ラトル」
ここで、いままで後手に回っていた、アバドを押す声が次々に高まる。
・2回目選出投票で3人。
「アバド、ハイティンク、マゼール」
・3回目選出投票で2人。
「アバド、ハイティンク」
・最終投票→打診→OK 「アバド」に決定
こうして、ハイティンクはカラヤンのあとのベルリンフィルの指揮者になる最終候補者でした。
アバドもハイティンクも大好きな指揮者だったので、わたしにとっては結果オーライ。
これほどまでに、ハイティンクは楽員から大きく評価され、愛されていました。
ちなみに、ベルリンフィルの指揮者が決まったその翌月、1989年11月9日には、ベルリンの壁が崩壊しました。
日本でも、この年は昭和天皇が崩御され、平成が始まり、ついでに消費税も始まった年でした。
ついでに、わたしも結婚した年で、初の欧州旅行にまいりした。
世界も日本も、自分もターニングポイントの年です。
ハイティンクは、その後、ベルリンフィルの名誉団員となりました。
しかし、ベルリンフィルとのマーラーは、1993年の「復活」を最後に、1~7番までで途絶えることとなりました。
ウィーンフィルの稿でも書いたとおりです。
このコンビは、あとはストラヴィンスキーの3大バレエ(未聴)と、EMIへの「青髭公の城」、自主レーベルでの、ブルックナー4,5番、マーラー9番、映像でのヨーロッパコンサートなどになります。
こちらも、ふんだんにあるアーカイブから正規音源化を期待しておきます。
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ボストン交響楽団の追悼SNS。
ネルソンスの哀悼の言葉もつづられていました。
ボストン響への登場は1971年2月で、メインは「英雄の生涯」。
2018年5月の客演(ブラームス2番まで、289回も指揮台に立ってます。
1995年からは首席客演指揮者、2004年には名誉指揮者となりました。
コンセルトヘボウとロンドンフィルを除くと、一番結びつきの強いオーケストラだったといえます。
ヨーロッパのオケに近い音色を持ち、RCAレーベル専属から脱し、DGやフィリップスが録音を始めたことあたりも、ハイティンクが常連指揮者になっていった要員だと思います。
さらに小澤征爾にはない、ドイツ的なものも求められたのではないかと。
しかしながら、正規録音が少ないのが残念です。
ブラームスの交響曲とピアノ協奏曲、ラヴェルの管弦楽曲集のふたつの全集しかないものですから。
R・シュトラウスやチャイコフスキー、ドビュッシーも録音して欲しかったものです。
とかいいながら、そのラヴェルはまだ全部聴けてませんので、今後の自分のお楽しみです。
ブラームス 交響曲第4番
(1992.4 @ボストン・シンフォニーホール)
馥郁たる、香り高いブラームス全集(90~94年録音)となったなかでも、落ち着いた古雅な雰囲気に満ち満ちている4番の演奏が好き。
ボストン響の響きと、各奏者たちのソロにおける腕前など、コンセルトハボウとはまた違ったオーケストラの個性を引き出していると思う。
ついでにまたもやここで、フィリップスのボストンシンフォニーホールの音を的確にとらえた録音の素晴らしさも讃えたい。
ウィーン、ベルリン、ボストンと録音にも恵まれたハイティンクの名盤たち、これからも大切に聴いていきたいし、まだ聴いてない音源を集める楽しみも残されてます。
長い企画となってしまいましたハイティンク追悼シリーズ。
いかに世界のオーケストラに愛されていたか、あと数回書きますので、しばしおつきあいください。
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コメント
EMIへのBPOとの「青髭公の城」はワタシの愛聴盤です❗LP時代にはブーレーズ(旧)やケルテス、サヴァリッシュなど聴いておりましたが、CD時代の決定盤だと思っております‼️「エディプス王」なんかもやってもらいたかった。この盤にもWマークは似合わない気が…。
投稿: アキロンの大王 | 2021年11月10日 (水) 22時25分
青ひげ、ハイティンクの指揮するベルリンフィルが圧倒的ですね。
オッターとトムリンソンのふたりの歌手も素晴らしいです。
あと、ブーレーズのシカゴ盤もすごいと思ってますが、ノーマンが立派すぎるのがちょっと・・・
そしてそうですね、なにもかもWマークになってしまいましたね。オリジナルジャケットが復刻されても、あれでは・・・・
投稿: yokochan | 2021年11月11日 (木) 09時10分
この2ヶ月、ハイティンクの録音を聞き続けています。
やはりウイーンフイルとのブルックナー4番がブログ主様の言う通りというところで、繰り返し聞いております。無理がなくブルックナーの音が流れている感じです。もう購入から30年になるでしょうか。このCDのせいで?この曲の実演に接してもなかなか満足感が得られなくなったのは困ったことです。あとこの時期に7番の正規録音がほしかったです。
ベルリンフイルとのマーラーも堅固そのものという感じです。2番と3番の録音を愛聴しています。同じく、5番も立派な演奏ですが、個人的にもう少しスリルとサスペンスがほしいとの印象です。(我ながら、大胆なコメントすいませんが。)
今回ボストンとのブラームス1,2番の交響曲を購入しました。世評も高く期待していたのですが、ボストンの音が若いのか、内声部の音の動きや響きに少し違和感を感じています。もちろん立派な演奏なのは間違いありません。ブログ主様の推薦の4番の交響曲まで近いうちに聴いてみたいと思います。
ハイティンクの安定と王道の音作りの中で、さらに突き抜けた演奏のCDを求めているのは、自分ながら贅沢な時間だと感じます。
私の住む新潟は毎日、氷点下の気温と雪と風の日々が続いております。厳しい1,2月なのですが、3月に雪解けの頃に聴くシューマンの交響曲1番「春」はとても風情があるのです。 もちろんハイテインクとコンセルトヘボウの録音で聴くのが楽しみです。
東京、神奈川も寒いと思います。ご自愛委ください。
投稿: beaver | 2022年1月19日 (水) 21時45分
beaverさん、こんにちは。
寒風中お見舞いもうしあげます。
ウィーン、ベルリン、ボストン、いずれもハイティンクの王道をゆく指揮をしっかりと受け止め、オーケストラの個性もしっかり聴かせてくれたコンビだと思います。
いずれも、ブラームス、ブルックナーとマーラーばかりだったのがちょっと残念で、チャイコフスキーやショスタコーヴィチ、ワーグナー、シュトラウスなんかも残して欲しかったですね。
ブルックナーでは、2番と6番。マーラーでは、9番。
欲を言えばキリがないです。
私もまだ聴いてない音源が多数ですし、もしかしたら今後もいろいろ出てくるかもしれず、ハイティンクを聴く楽しみはまだまだ続きますね。
シューマンの「春」、うららかで、ふっくらとしたハイティンクの演奏は雪解けに最高にお似合いです。
今年はことさらに、寒いですね。
コメントありがとうございます。
投稿: yokochan | 2022年1月26日 (水) 08時43分