テレサ・ベルガンサを偲んで
スペインの名花と呼ばれた、テレサ・ベルガンサが亡くなりました。
2022年5月13日、マドリード近郊にて、89歳でした。
こちらの画像は、スペイン政府の国立舞台芸術音楽研究所のツィートを拝借しました。
オペラでは、モーツァルトとロッシーニ歌いとしてメゾでありながらケルビーノ、ロジーナ、チェネレントラなどの決定盤的な録音を残したことだけでも偉大な存在です。
アバドのファンとしては、若き日のアバドのロッシーニには、ベルガンサの存在はなくてはならないものでした。
装飾過多のロッシーニ演奏に一石を投じたアバドの初オペラ録音は、躍動感とともに透明感としなやかさにあふれたものでした。
そこにピタリと波長を合わせたかのようなベルガンサの清潔かつ、ほんのり感じる色香ある歌唱。
久々に聴きなおしても、すっきりした気分になれる歌唱にオケでした。
セビリアのロジーナも同じくして70年代のロッシーニ演奏の最高峰だと思う。
ベルガンサにはデッカへの旧録音もあり、まだろくに聴いたことがないので、そのヴァルビーゾ盤を手当てしたいと思います。
新しいカルメン像を打ち立てたベルガンサは、初のカルメン録音にもアバドを選びました。
当初、ショルティ&パリ管と録音すると噂されましたが、ベルガンサが体調を崩したとかで、ロンドンでトロヤノスとの録音になったことはご存知のとおりです。
このブログでも何度も書いてますが、DGがアムネスティのために豪華アーティストによるオペラアリア集を出しましたが、そこでベルガンサは、クーベリック&バイエルンとハバネラを歌い、これが初カルメンとなりました。
豪華絢爛の出演者たちの綺羅星の歌唱のなかにあって、ベルガンサのカルメンは実に香り高い歌声で、当時、カラスやホーンなどの強いカルメンしか知らなかった時分には、実に新鮮なものに聴こえましたね。
同様にクーベリックの鮮烈な指揮も印象的でした。
そして、ほどなく登場したアバドとの全曲盤。
アバドとの共通認識のもとに生まれた「ベルガンサのカルメン」は、レコ芸では「カルメン像の修正」と評された。
自分の過去記事~「カルメンの既成概念からの解放。
先にわたしが書き連ねた運命の女カルメンは、ベルガンサが歌うと、もっと女性的で明るくハツラツと息づくひとりの女。
そして、宿命の死へと淡々と運ばれてゆく女。」
DGとデッカの追悼ツィート。
イエペスとのスペイン歌曲や、ファリャ、コジなど、まだまだ聴いていないベルガンサの歌はたくさんあります。
亡き名歌手を偲びつつ、それらを揃えていく楽しみも残されてます。
テレサ・ベルガンサさんの、魂が安らかなること、お祈りしたいと存じます。
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コメント
yokochan様、早速のアップありがとうございます。悲報を知り、様々な思いを巡らせる数時間を過ごしておりました。
思えば高校時代にイエペスとの中世〜ルネッサンス歌曲集を聴いて以来、当方にとって随一のディーヴァとなりました。ほぼ皆勤の来日公演ではやはり以前にお伝えしましたが、その直前に病を得てS国際病院に入院していた亡母に後押しされて出向いた‘04年7月のフェアウェルリサイタルが印象的です。‘83年に銀座ヤマハで頂戴したサイン入りの西独テルデックの2枚組モーツァルト&ロッシーニアリア集が断捨離で手元にないのは痛恨の極みです。
若き日に批評家から
「ヴェルディを歌うまでは評価出来ない」と言われ、
「貴方に評価していただく日は訪れないでしょう」と返したとのこと。確かにアムネリスやエボリ、アズチェーナにも無縁で世界的メッツォとなった最初の存在でした。アバドとの出逢いもまさに時を得たのでしょう。後を追ったメッツォの道筋を付けたことも。先年某音大のマスタークラスで来日の折も若い歌手たちに自分の声質や特質をわきまえてレパートリーを選ぶ大切さを繰り返し説いておられたとか。
あのリサイタル以来、長いシングル介護の日々から自分の体調不良などで演奏会とも縁遠くなってしまいましたが、せめて数多い手持ちのCD、DVDでわが無二のディーヴァの在りし日の姿を偲ぶことにいたします。R.I.P.
投稿: Edipo Re | 2022年5月14日 (土) 14時40分
yokochan様
我らが『マザー・テレサ』、お亡くなりになったのですか。ロッシーニのオペラのヒロイン(ロジーナ、イザベッラ)、ケルビーノをお歌いになっては、並ぶ他歌手の居ない境地で、ありました。各国歌曲に於ける、知性溢れる深い解釈。音盤に刻まれたこれらの演奏も、『遺産』になってしまいましたか。どちらもEMIに収録されたクレンペラー及びバレンボイム指揮による、二種の『フィガロの結婚』の、彼女の登場場面トラックを選び、個人を偲びたく存じます。
心よりご冥福祈念致します。
投稿: 覆面吾郎 | 2022年5月15日 (日) 12時09分
Edipo Reさん、こんにちは。
ベルガンサの逝去、ご体験から察するに、音楽かの訃報のなかで、今回ほど悲しいものはないとご思料いたします。
ベルガンサのあと、その切り開かれたメゾのタイトルロールの道は、現在最高峰のバルトリにいたるまで、まさにベルガンサの功績かと存じます。
彼女のマスタクラスで学んだ日本の歌手たちも、悲しみのツィートをしておりまして、幅広く影響を与えてくれたものだな、そして日本も愛してくれたものだな、と感嘆しております。
手持ちを調べたら、存外に少ない自分のライブラリーを充足すべく、いろいろ聴いていきたいと思います。
投稿: yokochan | 2022年5月19日 (木) 12時13分
覆面吾郎さん、こんにちは。
わたしの手持ちのベルガンサのケルビーノは、同じくバレンボイム盤とアバドのスカラ座ライブです。
どちらも清廉でピュアな歌唱で、心洗われます。
そして、いまチェネレントラのラストも聞いております。
アバドのロッシーニにはなくてはならないベルガンサの声。
気持ちいい五月晴れの空を見ながら、言葉に尽くせない気分となりました。
いつも言いますが、歌手の逝去は堪えます・・・
投稿: yokochan | 2022年5月19日 (木) 12時27分