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2022年5月28日 (土)

シューベルト 「美しき水車小屋の娘」 シュライヤー

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春から初夏にかけての野辺は、少し荒れ気味だけれど、こうした野放図な自然さがあるから美しい。

グリーンでブルーな感じが好き。

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  シューベルト 歌曲集「美しき水車小屋の娘」

     テノール:ペーター・シュライヤー

     ハンマークラヴィア:シュテフェン・ツェール

         (1980.2 @ウィーン)

31歳で亡くなったシューベルト(1797~1828)、同様に詩人のヴィルヘルム・ミュラー(1794~1827)も33歳になる数日前に世を去っている。
活動時期もかぶるこの二人、実際に相まみえたことはないようだが、ほぼ一体化したミューラーの連作詩とシューベルトの歌曲集には、主人公の粉ひき職人を目指す「ぼく」と相棒の「小川」に「水車小屋」、そして愛する「娘」といった主人公たちに加え、「田園」「水」「花」「緑」といったモティーフたちが、極めて叙事的に描かれているように思う。

ベートーヴェンの田園は牧歌的であり、自然と語る風情があるが、シューベルトの水車小屋はドラマであり、自然と人間が一体化してしまい、死すらともにしてしまう。
ゲーテのヴェルテルが、当時の若者に与えた影響は大きかったと言われるが、水車小屋の詩と音楽に感じる「死の影」というものは、いまの現代人の感性からしたら、とても推し量ることのできないものでもある。

元気に意気揚々と旅に出た若者が、恋をして、嫉妬をして、自暴自棄になり、やがて絶望して静かに死を選ぶ。
こんなストーリーのなかで、わたくしが好きな7曲目「いらだち」と、悲しいけれど18曲目「しおれた花」。
恋をして舞い上がった心持ちで、何度も「Dein ist mein Herz」わが心はきみのものと歌うところが好き。
こんどは、辞世の句を訥々と歌うかのように、しおれ、色褪せた花たちを歌う、この寂しさも好き。
ともにこの歌曲の二面の心情であり、シューベルトの音楽の神髄を感じさせると思います。

ペーター・シュライヤーは、これら2篇を選んで聴いただけでも、そのお馴染みの声でもってわれわれを惹き付けてやみません。
2年半前に亡くなってしまったシュライヤーには、水車小屋の録音は4種あります。(たぶん)
最初がオルベルツ(71年)、ついでギターのラゴスニック(73年)、ついでハンマークラヴィアのツェール(80年)、最後はアンドラーシュ・シフ(89年)

シューベルト当時の市井の仲間内で、さりげなく手持ちの楽器を伴奏にして歌ったかのようなギター版。
NHKテレビで放送もされたのでよく覚えてますが、シュライヤーはギターの横で座って、語りかけるようにして歌ってました。
次は、シューベルト当時のピアノ、いまでいえば古楽器ともいえるハンマークラヴィアと録音したのが本日のCD。
ピアノのような多彩な音色でなく、朴訥かつ地味な色合いで響きも少なめで、滑らかさはなくギクシャクして聴こえる。
でもどこか懐かしいレトロな感じは、かつて日本のどこでもあったような田んぼやあぜ道、おたまじゃくしがいるような小川をどこか思い起こしてしまった。
実際に子供時代は、そんな田園や野辺で遊んだものだ。
想像の広がりも甚だしいが、水車小屋のピアノをハンマークラヴィアで聴くというのも、そんなオツな感じだったのです。

70年代までのシュライヤーは、清潔で端正な歌いまわしで、劇的な要素というのは過度ではなかったが、70年代後半からオペラでもミーメやローゲを歌うようになって表現の幅が大きくなりました。
でも、ここで聴くシュライヤーの声は70年代の録音で聴き親しんだ優しく、誠実な歌に変わりはない。
ドイツ語を聴くという語感を味わう美しさもここにはある。

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雨上がりの新緑と青空が窓の外に見えます。

こうして聴いた、この時期ならではの「美しさ水車小屋の娘」、目にも耳にも優しいものでした。

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コメント

お久しぶりです。PSの水車屋ですね。3つ目と4つ目の演奏は未聴のため発言できません。最近はレコードはもちろんCDのセッティングさえ億劫に感じてきました。加齢です。まして手間を楽しむ蓄音機は眺める一択に落ち着いています。一番聴くのはドライブ中かもしれません。それもセットしたCDを交換するのが面倒で同じのを何度も繰り返し聴いている状態です。いかん、、、音楽鑑賞の活動って莫大なエネルギーが必要なんですね。無限にあるソフトの中からこれはという一枚を選択して熱く語るヨコちゃん様、尊敬です。最近はPCを開くのも機会が激減し、携帯で済ませてしまっています。いかん、、、ヨコちゃん様を見習います。SPレコードを蓄音機でとまでいかずとも、LPレコードで水車屋を聞いてみます。PSかDFDかプライか悩みます。多分ヴンダーリッヒかアクセルショッツあたりをレコードで聴きそうです。あー、梅雨に入ったからなー、、レコード出して聴くかなー、、多分ヴンダーリッヒのCDを車で聴くことになりそうです。顛末を後で報告します。

投稿: モナコ命 | 2022年6月24日 (金) 11時47分

モナコ命さん、お久しぶりです。
関東は、信じられないくらいの暑さで、それこそ音楽なんて聴いてらんない日々です。
CDをプレーヤーで聴く、という行為/行動、わたしもめんどくさくなり、もうやってません(笑)
CDはパソコンにすべて取り込んで、PCオーディオ派になりました。
かんたんに再生できるし、恐る恐る指紋を気にしつつCDを扱う必要もありません、楽なもんです。
作曲家順にアルファベットでインデックスをつけてファイリングしてますので、行方不明になることもなく、聴きたい曲と演奏を簡単に絞り込めます。
 あとは、海外のネット放送を日々録音して、最新の音楽界を勉強してます。

でもですね、古いもの、自分がずっと聴いてきたものは、やはり格別で、ジャケットを手にしないと気が済まないものもあります。

そんななかで、やはりヴンダーリヒは格別ですね。
あのジャケットも素晴らしいし!

投稿: yokochan | 2022年6月28日 (火) 09時12分

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