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2022年8月27日 (土)

マーラー 交響曲第3番 ベルティーニ指揮

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夏の野辺を飾る鮮やかで美しい花が、百日紅(さるすべり)。

大陸の期限の植物で、その幹がすべすべなので、お猿も滑り落ちるということからその名が付いたそうな。

百日紅という名前には、悲しい後付けの悲しい物語があるようですが、そんなのは気にせず、ともかく夏のこの時期に長く花をつけることから、百日、ということになったのでしょう。

ごもあれ、夏の花。

暑いけど、夏の終わりにマーラーの3番。

いまのように、パソコンなんてなく、インターネットなんて言葉すらなかった私の音楽の聴き始めの頃。
もちろん、CDなし、カセットテープもまだ出始めたばかり。
音楽を聴くには、生の演奏会か、レコードか、オープンリールテープか、ラジオ(テレビ)に限定。
音楽情報は書籍のみ。
マーラーの大作なんて聴くすべもなかったし、そもそもマーラーという作曲家のなんたるかも書籍でも紐解くことがなかなかできなかった。
音楽の友社の出していた名曲解説全集の交響曲編上下2冊と同じくオペラ上下が、中学・高校時代の愛読書で、交響曲は4つの楽章が基準なのに、このマーラーとかいう謎の作曲家は、5つも6つも楽章がある、いったいなんなのだ?
という疑問が先立つマーラーへの印象でした。

それがいまや、いくつもの全集をそろえ、日々、簡単に、どんなときでも聴くことができる、身近な作品たちにマーラーの音楽はなりました。
いまでも、名曲解説全集は手元にありますが、その版の一番最新の作品はショスタコーヴィチの10番までとなってます。

こんな時代を過ごしてきました。
でも不便だったし、音楽を聴くにもお金も手間暇もかかりましたが、ともかく貪欲に、まさにすり減るくらいに、徹底的にレコードを聴き、あらゆるジャンルの音楽をこの身に吸収していった幸せな時代だった。

いまはどうでしょうね。
音楽を消費するように聴いてないか、聴いたことを主張したくて聴いてないか?

不便だったあの時代の気持ちに立ち返って、慈しむように音楽を聴かなくてはと思う次第だ。

Mahler-3-bertini

  マーラー 交響曲第3番 ニ短調

     Ms:グウェンドリン・キレブリュー

  ガリ・ベルティーニ指揮 ケルン放送交響楽団
        西部ドイツ放送・バイエルン放送女声合唱団
        ボン・コレギウム・ヨゼフィーヌム児童合唱団

            (1985.3 @ケルン)

ベルティーニのマーラーをこのブログで取り上げるのは初めてかもしれない。
聴かなかったわけじゃありません、いつもアバドやハイティンクばかりを取り上げているので、ベルティーニの出番がなかっただけなのです。

ベルティーニのマーラーを初めて聴いたのは、ベルリンフィルに客演した1981年のFM放送を録音してから。
当時、奇矯なる作品だと7番を思っていた自分だが、この演奏でその美しさに目覚めた。
抜群の切れ味と響きの美しさ、オケのべらぼうな巧さなどに魅かれ何度も聴いた。
その後、ベルティーニのマーラーは、ウィーン響やドイツ各地の放送オケのFM放送で聴き、着目していた。

そして1985年、ベルティーニは都響に客演し、マーラーを4曲指揮して、私は、2、5,9番を聴くことができました。
さらに1987年には、N響との3番を聴きました。
いずれも、鮮やかかつ、くどいようですが、美しいマーラーで、小柄なベルティーニが眼光鋭く、きびきびした指揮ぶりで、オケを見事にコントロールしていたのが忘れられません。
しかし残念ながら、ケルン放送との来演でのマーラー・チクルス、都響音楽監督就任後のマーラー・チクルスはなぜか一度も聴くことはありませんでした。
公私ともに忙しくなった時期と、着目していたのに、みんながベルティーニのマーラーはいいよと絶賛しただしので、ちょっと天邪鬼のワタクシは足が遠のいたのかもしれませんね。
しかしこの1985年は、2月にベルティーニ、9月にバーンスタインとイスラエルの第9、10月にはコシュラー都響で千人。
翌86年には、小澤BSOで3番、ショルティ・シカゴで5番を聴いてました。
バブルにさしかかり、音楽聴き人間には、財布に厳しくもいい時代でしたね。

でもCDでのベルティーニ、マーラー・シリーズは求め続けました。
まだ欠番があって、全集を買い求めるかずっと検討中で、いまに至るです。

いちばんに求めたCDが3番。
それこそ、20年ぶりぐらい聴いた。
もう素晴らしくて、感動のしっぱなしで、夢中になって一気聴きの105分。
ベルティーニのマーラーは、総じてゆったり目で、細部に渡るまで目が行き届いていて、すべてにおいて精度が高い。
ネット情報や、のちのベルティーニのマーラーを聴いてる方の話だと、ベルティーニは歳を経ると早めのテンポを取るようになり、より厳しさも増して行ったとか。

でも、自分にはこのケルン盤が懐かしく一番、これでいいです。
磨き抜かれた音のひとつひとつは、繊細美的で、録音技術もあがったデジタル録音にもピタリと合う演奏でした。
細部にこだわりつつ、大きな流れも見失わず、でもそこにあるのは音を突き詰める厳しさと、そもそものマーラーへの音楽への愛情。
ほんとうに美しい演奏だと思う。
絵画でいうとフェルメールみたいに、遠近のたくみさ、光と影が、1枚の絵のなかにみんなちゃんと描かれている感じ。
大好きなアバドとウィーンのナチュラルで、純粋な眼差しと心情にあふれた演奏と双璧で好きな演奏ですよ。
あとハイティンクとシカゴ、バーンスタイン旧盤もですね。

Abent

それにしても6楽章の折り目正しい歌い口はいかばかりだろうか。
26分あまりをかけて、じっくりと歌い上げるこの演奏に、夏の終わりの夕焼けが実に映えました。
なんどもいいます、美しい演奏です。
終楽章の最長の演奏はレヴァイン、アバドVPOも、ベルティーニと並んで長い。
逆に短いのが、テンシュテットとメータ。

暑かった夏。
でも、夏の終わりはいつも寂しいもの。
長いマーラーの3番で、行く夏を惜しみました。

Radian-3

ベルティーニは優れたオペラ指揮者でもありました。
ベルカント系も録音があり、マーラー編のウェーバーのオペラもありました。
このあたりも、もう一度再評価していい指揮者だと思います。
気質的にワーグナーもよさそうでしたが、ユダヤ系だからどうでしたでしょうか。

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コメント

先日「グロリアーナ」でコメントした者です。今回昔の話を書かれていたので懐かしくなりこちらにもコメントします。

私はブリテンを足かけ50年以上聴いていますが、マーラーも同様に好きで、就職で関東に引っ越してから、85年にベルティーニ/都響で「復活」を聴きました。そのときに入っていたチラシにコシュラーの「千人の交響曲」の合唱団募集のチラシを見つけ、合唱経験や音楽経験もないのに思い切って参加し、それ以来10年近く合唱をやってました。その間には都響だけでなく、新星日響「戦争レクイエム」(ヴォルフ)や東フィルのブリテン「春の交響曲」(大野和士)にも参加しました。

「千人の交響曲」はコシュラーの後、山田一男/新響、シノーポリ/フィルハーモニア、高関健/桐朋、レナルト/新星日響、インバル/都響、ベルティーニ/都響で、「復活」もインバル/フランクフルト放響に参加しました。

都響ではヤナーチェク「グラゴル・ミサ」(コシュラー)、シェーンベルク「ワルシャワの生き残り」、ヒンデミット「レクイエム」(若杉弘)など、特に珍しい曲が多かったです。その他にも秋山/東響「グレの歌」などにも参加しました。

今は会社を定年退職した後、中部地方に引越して別の会社で仕事をしていますが、家はまだ川崎にあるのでときどき東京に行っています。ちなみに大野/都響の「グラゴル・ミサ」に行く予定です(その代わりに名フィルのアダムス作品が聴けません)。

長文失礼しました。

投稿: ブリテン&マーラーファン | 2022年8月29日 (月) 23時32分

ベルティーニのマーラー3番、いいですね。冒頭のホルンのテーマはホルン奏者にはたまらないシーンです。オケで私の担当はチェロですが、休憩時間にメンバーから借りてこのテーマを吹いた所、大いに盛り上がったことがありました。学生時代の思い出です。ベルティーニが登場する前のバーンスタイン一色のマーラー時代です。ご紹介のベルティーニの演奏、よこちゃん様が「これで良いのです。美しい!」と評されています。言い当て妙であります。力みも衒いも無い自然な演奏です。この年になると心に沁みます。時にマーラーのチェロパート細かい動きや私には演奏不可能な場面が多く聴く一手になっています。N響とか都響とか本当にうまい(失礼)と思います。ケルン響とかウィーンフィルとか神ですね。底辺の奏者の私と比較する事自体がけしからんのですが、少しでも経験すると凄さがリアルに分かります。本日は心が折れる事がありましたので緩徐楽章を中心に聴きたいと思います。

投稿: モナコ命 | 2022年8月30日 (火) 19時12分

ブリテン&マーラーファンさん、コメントどうもありがとうございます。
コシュラーの千人は、客席にいた私の周りは、少年合唱のご家族ばかりで、とてもアットホームな雰囲気のなか、とてつもない感銘を受けました。
舞台にいらしたのですね。
そして、千人のエキスパートですね、ほとんどの千人公演に参加していらっしゃいます!
ほかにも錚々たる公演の数々、いくつかは私も聴いてます。
私も神奈川の片田舎に移動しましたが、都内のコンサートに出向くのも億劫になってしまった今日この頃です。

投稿: yokochan | 2022年9月 5日 (月) 08時24分

モナコ命さん、こんにちは。
チェロのご担当なんですね。
マーラーのチェロやコントラバス部は、聴いていてもとても難しそうに感じます。
なんの楽器もできない私からしたら、それだけでも尊敬に値します!
オーケストラの世界的なレヴェルの向上には、マーラーもきっと寄与しているんじゃないかと思います。
先ごろ、ネットでベルリンフィルの7番を聴きましたが、もうもう、とんでもなくウマくて凄まじい技量でした。
どこまでオケがうまくなるのか、ある意味恐ろしく感じます。
 そうです、ゆったりした気持ちにしてくれるのもマーラーの緩徐楽章ですね。

投稿: yokochan | 2022年9月 5日 (月) 08時31分

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