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2023年3月10日 (金)

ラフマニノフ 交響的舞曲

Atami-02

早咲きの桜、温泉と海の街、熱海に咲くのが「熱海桜」

Atami-04

かなりの濃いピンクと、小ぶりの花は市内を流れる糸川沿いに咲き誇ります。

1月末から咲きだして、このときは2月半ばで、数日前のあいにくの雨と風でかなり散ってしまったといいますが、それでも美しく可憐で、鳥たちが蜜を求めて木々を渡ってましたね。

  ラフマニノフ 交響的舞曲 op.45

3つの交響曲と交響的舞曲、さらに交響合唱曲「鐘」は、ラフマニノフのシンフォニックな一連の作品で、5つの交響曲ともいえるかもしれない。
2023年はラフマニノフの生誕150年。
メロディアスな音楽の好きなワタクシ、これまであらかたのラフマニノフ作品を聴き、blogにも書いてきました。
ピアノ協奏曲なら2番、交響曲も2番というのが日本でのラフマニノフ。
ほかの作品もルーティン感あるものの、なかなかに桂曲で、欧米ではいまや2番の交響曲と同じくらいに演奏頻度のたかまったのが「交響的舞曲」です。
わたしの正規CDは少なめだけど、海外の放送で始終取り上げられてるので、録音音源が最近やたらと増えて、たくさん手元にある交響的舞曲をここにまとめておこうと思いました。

Atami-06

ラフマニノフのほぼ最後の作品。
ピアノ連弾による作品をオーケストレーションしたのが1940年で、亡命先のアメリカのビバリーヒルズで亡くなる3年前。
本国への憧憬にも満ちた哀愁ただようシンフォニックダンス。
陽光あふれるハリウッドで生活しつつ、スイスにも行き来していたラフマニノフは、忘れえぬロシアの感傷を音符に乗せたわけです。

オーマンディに献呈し、フィラデルフィア管弦楽団で初演。
アメリカは作曲家も指揮者、奏者、歌手たちが自由を求めて拠点を移す、輝きあふれる国だった。
いまのおかしくなってしまったアメリカとは大違いに、当時はヨーロッパからやってきた芸術家たちの楽園であったと思う。
この当時のアメリカがあったから、いまわれわれはヨーロッパから逃れた作曲家たちの作品や、演奏家たちの録音を聴くことができるわけだし。

バレエ音楽としても想定していたからから、その舞曲の名が示すとおり、全編弾むようなリズムが漲る。
1楽章が行進曲調、2楽章はワルツ、3楽章はスケルツォ、そしてジャズっぽいリズムと熱狂。

甘味な旋律とうねり、むせぶような情念とメランコリー、当時埋もれていた第1交響曲の引用や、ラフマニノフ作品に毎度おなじみの、ディエス・イレの引用もちゃんとある。 
ピアノも活躍し、サキソフォーンの活用が画期的。
ワルツも瀟洒で哀愁に満ち溢れていて、しかも暗さ漂い、お酒飲みつつ聴くと憂鬱さえ酒のツマミになる
しかし最後には、舞踏の祭典、スピーディな展開の中に、終結のディエスイレの場面に向けて音楽が収斂してゆき、ダイナミックにジャーンと音楽を閉じる。
銅鑼の一音がオケが引いたあとも残る印象的なエンディング。
すっごくかっこいいよ。
この銅鑼の響きが終わらぬうちに拍手が始まってしまうのがこれまで聴いてきたライブ音源の常。

Symphonic-dance

楽譜では銅鑼は、ほかの楽器が止んでも倍以上伸ばすように書かれていて、演奏によって長さも異なるし、あまり聞こえない演奏もあったりするので、そのたりも比較して聴くのも楽しい。

 【フィラデルフィア】

Rachmaninov-1-seguin

  ヤニク・ネゼ=セガン指揮 フィラデルフィア管弦楽団

          (2018.9 フィラデルフィア)

CD初期のマゼールの演奏で目覚めたこの曲、正規CDは10種ほど保有。
そんななかからフィラデルフィアの3種。

最新のものは、セガンと初演オケのDG盤で、これを皮きりに交響曲を全部録音するそうだ。
生々しい録音でやや潤い不足だが、セガンの持ち味である生き生き感と若々しい歌いまわしはほんとに気持ちがいい。
ほんとに巧いオケ、いいオケと実感できる演奏。
でも陰りや望郷感は不足。いまはそれでいいのだろう。ある意味客観的で長く安心して聴ける。
最後のドラは、うわ~ん、うゎ~とよく鳴る。
カップリングの交響曲第1番のほうがよいかも。
セガン氏、DGとどっぷりで録音も性急にすぎるかも。
かつてのモントリオールの仲間たちとの録音にある新鮮さと大胆さがなつかしく、フィラデルフィアでは慎重にすぎるのかも。
メットで劇場経験をさらに積んで次のステップに期待だ。
わたしは、ワーグナー指揮者になることを予見しているがどうだろう。

Rachmaninov-sym3-dutoit1

   シャルル・デュトワ指揮 フィラデルフィア管弦楽団

         (1990.10 フィラデルフィルフィア)

同じく初演オケを指揮したデュトワ盤は、このオケの首席に就任前の録音。
デッカらしからぬ録音の冴え不足が、このシリーズに共通の弱点。
どこかしっくりこない、燃焼不足、潤いや張り不足で、ピチピチしてたモントリオールでのデュトワとなんか違う。
モントリオールはセガンのオケとは違うが、ここでもモントリオールだ。
スタイリッシュに過ぎるのも難点で、この音楽の尖がった部分がスルーされてる。
ラストの銅鑼は少なめ。

1996年のN響ライブ音源も聴いたが、同じ印象で、さらにNHKホールの殺伐とした響き、あと当時のN響の重くて硬い音色も・・・

Rachmaninov-ormandy

       ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団

        (1960 フィラデルフィア)

初演コンビの20年後のCBS録音。
ゆったりと堂々とした演奏で客観的ななかにも哀感や切実さもありで、もしかしたらオケのなかにも、そんな昔でない時期に欧州・露から来た人も多かったかもしれない。
アメリカから見たロシア、いまの敵対と憎しみの感情とはまったく違った、まさに望郷感あるいにしえの音色。
指揮者もオケも、新世界にいながら過去を見ているような演奏だと思う。
きらびやかなフィラデルフィアサウンドは、郷愁と裏返しだったのではないかと、ほかの演奏を聴いても感じるようになった。

皮肉なもので、フィラデルフィアの3つの正規録音、古いものが一番好みだった。
いまのアメリカの社会の行き過ぎた狂気は各大都市では深刻で、民主党政権の牙城である西海岸やペンシルバニア州など、そこでの暗澹たる映像を目にすることができる。
そんななかでも衝撃だったのは、フィラデルフィアのダウンタウンでの薬中で自滅・壊滅している人間を失った人々の姿・・・・
世も末感あり。
アップストリームにあるオーケストラの面々には無縁だろうが、かねてより憧れたアメリカのメジャーオケとそこに紐づいた都市の印象が、片側だけ崩壊してしまった気分なのだ。

 【ベルリン・フィル】

Rachmaninov-symphpnicdances-maazel

  ロリン・マゼール指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

         (1985 @フィルハーモニー)

第3番と同じく、マゼールとベルリンフィルのCDによって目覚めた。
容赦ないくらいにクールで、べらぼうにうまいオーケストラに快感を覚えたものだ。
マゼールにしては恣意的なくらいのマーラーとは比べ物にならないくらいに慎重さも見せるが、オケの雰囲気も併せ青白いブルーな色調がいい。
長らく聴き、刷りこみにもなってる演奏で、今思えばもっと激しくやって欲しいとも思えるが、でもね、好きな音盤です。

  サイモン・ラトル指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

         (2014 @ロンドン、proms)

正規録音として、バーミンガム時代と2010年のベルリンフィルとの録音もありますが、それらは未聴です。
promsでの演奏を録音したものですが、これが実によろしい。
ラトルらしく重心低めの響きですが、メロディに敏感で、エッジも効いててオケの俊敏さが際立ってる。
マゼール盤が穏当に聴こえてしまう。
ラストのアッチェランドはすごいし、銅鑼もかなり長く引き伸ばし、ファンキーなプロムスリスナーさんたちがよくぞ拍手を我慢したものだと思わせる。

  キリル・ペトレンコ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

                      (2020 @フィルハーモニー)

以外と慎重な演奏、テンポもゆったりめで、タイムも36分越え。
品のよい歌いまわしと、テンポを上げるときはギア切替が見事でメリハリの豊かな演奏。
弦を中心にベルリンフィルの威力を満喫。銅鑼の伸ばしもなかなかのもの。
もっとやれるんじゃね?と贅沢な思いも抱くことも確か。

 【大家たち】

Rachmaninov-previn

  アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団

        (1974 @ロンドン)

ラフマニノフ2番がいま人気曲になった、その立役者がプレヴィン。
リズム感あり、スピード感も伴って、総じてカッコいいと思える演奏。
ワルツのふるいつきたくなるような優雅な歌わせ方もさすがにプレヴィンで、スタジオ録音ながらプレヴィンのうなり声も聞こえる。
銅鑼も正しく鳴っている。久々に聴いてやっぱりいいと大満足。

  マリス・ヤンソンス指揮 バイエルン放送交響楽団

          (2017 @ミュンヘン)

ヤンソンスには3つの録音があり、最初のサンクトペテルブルクでの演奏は燃焼不足、コンセルトヘボウとのものは濃厚な演奏とは反対にある、ヨーロピアン的な演奏。
しかし、バイエルンでの録音では音楽造りのうまさが前にも増して感じられ、コンセルトヘボウと違う機能的なバイエルンのオケの有機的な暖かな音色が大いに寄与している。
大人の演奏で、オーケストラを聴く喜びも味わえる。銅鑼もほどよく長く響く。
思えば、この2年後にヤンソンスは亡くなってしまう。


      レナード・スラトキン指揮 デトロイト交響楽団

       (2012 @デトロイト)

セントルイス響を育て、そこでの初期のころのラフマニノフが懐かしい。
スラトキンらしい、スマートかつリズム感あふれ弾むような演奏で、おなじみのあの指揮ぶりが思い浮かぶような嬉しい内容にあふれてる。
ワルツも歌いまくり、メランコリー充分、ラストの銅鑼もすばらしい一撃が鳴り渡り、決まった。
アメリカのオケのブラスと打楽器のうまさ、明るさも満喫。

      ユーリ・テミルカーノフ指揮 サンクトペテルブルク・フィルハーモニー

       (2008 @ルツェルン)

大御所登場。豪放磊落、大づくりでありつつ、勢いあふれ、ダイナミックな箇所では、オケの威力が爆発する。
豪快に、太筆で一気に書き記したような巨大な演奏。
わたし的にはちょっと疲れてしまう。かも。

 【中堅、大活躍の方々】~ネット放送より

  アンドリス・ネルソンス指揮 ボストン交響楽団

       (2014 @タングルウッド)

ゴージャスな演奏。ホールトーンのよさにボストン響の巧さも加わって、そんな風に聴こえる。
しかしネルソンスの指揮は重心低く、重機関車のような歩みでスケールのデカいもので、一方で緻密もあるから聴きごたえも十分。
ディエス・イレが一番壊滅的に聴こえる演奏で、いろんなか所で気が抜けない面白さがある。
銅鑼も豪快に決まったが、ボストンのお客さん、拍手が早いよ。

     トマス・ダウスゴー指揮 ロイヤル・フィルハーモニック

      (2018 @ロンドン)

快速指揮者ダウスゴーは、わたしの好きな指揮者で、音盤はかなり集めましたがこの曲の録音はまだないので、貴重なライブで、しかもオケがロイヤルフィルという珍しさも。
ダウスゴーらしいスピード感あふれる演奏で、かつサバサバぶりも心地よい。
2楽章の抒情も薄目な響きがかえって透明感を与え北欧風。
3楽章の疾走感もカロリーは押さえつつダウスゴーしてましたね。
銅鑼も見事にきまり、聴衆も沈黙を守りました、気持ちがいいです。

  ヴァシリー・ペトレンコ指揮 オスロ・フィルハーモニー

       (2013 @proms)

これまたカッコいい演奏だ。
快速で緩むことがなく、一気に聴かせる一方で、しっかりとラフマニノフ節のつぼを押さえていて満足させてくれる。
違う方のペトレンコさんが、曲によっては守りに入るような慎重ぶりを示すのに、ヴァシリーさんの方はより好き放題にできるのか、緩急自在ぶりと、適度な荒れ具合があってラフマニノフの心情を映し出しているかも。
銅鑼はプロムス民にかき消されてしまった・・・

 【女性指揮者】~ネット放送

  カリーナ・カネラキス指揮 BBC交響楽団、ボストン交響楽団

       (2018 @proms  、2022 @タングルウッド)

アメリカ出身のカネラキス、ずっと聴いてきました。
オランダ放送フィル首席とベルリン放送響、ロンドンフィルの首席客演のポストにある。
ボストンへのデビューだった昨年の演奏は、慎重な構えがおとなしめの演奏に終始した感があり。
それ以前のBBCでのプロムス演奏では、音楽への共感がにじみ出たような積極的な演奏で悪くない。
彼女のレパートリーはまださほどでなく、ルトスワフスキとワーグナーが好きなようで楽しみ。

  ダリア・スタセフスカ指揮 BBC交響楽団

       (2019 @ロンドン)

昨年のジャパンpromsの指揮を担った彼女、ウクライナの出身のフィンランドの指揮者。
ウクライナ愛が強く、彼女のツィッターをフォローしているが、ウクライナを憂い、ややもすればリアルな戦場の実情をツィートしてる。
そんな彼女の戦渦まえの演奏だけど、重厚かつ生々しいほどのラフマニノフへの共感ぶりがうかがえ、熱くて存外に濃厚な音楽になった。
濃厚さと爆発力も備えた驚きの名演だと思う。


 【若手の面々】

  ステファヌ・ドゥヌーヴ指揮 ミュンヘン・フィルハーモニー

       (2020 @ミュンヘン)

  エドワード・ガードナー指揮 サンフランシスコ響、ベルゲン・フィル

       (2018 @サンフランシスコ、2022 @エディンバラ)

  ジェイムズ・ガフィガン指揮 シカゴ交響楽団

        (2017 @シカゴ)

  ニコラス・コロン指揮 フィンランド放送交響

        (2020 @ヘルシンキ)

  ダニエーレ・ルスティオーニ指揮 アルスター管弦楽団

       (2021 @ベルファスト)

      ラハフ・シャニ指揮 ボストン交響楽団

       (2023 @ボストン)

もう長くなりすぎるので、個別にはコメントしませんが、このように今後の指揮界を担う若手もこの作品を積極的に取り上げてます。

このなかで一番安定感があり、堂々としていたスタンダードな演奏は、ガードナーとベルゲンフィル。
ガードナーは大曲をわかりやすく、しかもかつてのコリン・デイヴィスのように熱いものを感じさせる指揮者で、今年は「パルジファル」も聴くことができた。

あと素敵だったのがイタリアのルスティオーニの演奏。
彼はアルスター管の首席を務め、ヨーロッパの主要劇場とメットでもひっぱりだこのオペラ指揮者でもあります。
旋律の歌わせ方が実にうまく、アルスター管から明るくきらびやかな音を引き出していて、ラストの熱狂もなかなかのもの。
この指揮者は今後ももっと活躍すると思いますね。

注目のイスラエル出身のシャニさん、6月に手兵のロッテルダムと来日するが、プログラムを見てがっかり。
ブラ1と悲愴をメインに、日本人奏者と協奏曲で、チケットもそれで値が張ってる。
イスラエルフィルの首席に加え、ミュンヘンフィルの指揮者になることも決定。
ボストンとのこの演奏も機をてらわない正攻法の演奏で、3つの楽章をそれらがあるがままに聴けせてくれる。
返すがえすも、日本の呼び屋さんの見識を正したいものだ。

Atami-05

今年は寒暖差激しかったものの、3月に入ってから暖かい日が連続。

河津桜も葉が増えて見頃を過ぎ、ほどなくソメイヨシノの開花も始まりそうです。

花粉は辛いが、春は楽しみ。

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