R・シュトラウス 「サロメ」 神奈川フィル演奏会
音楽監督、沼尻竜典と神奈川フィルハーモニーとのドラマテック・シリーズ第1弾「サロメ」。
みなとみいらいでの神奈川フィルは、実に7年ぶり。
桜木町からの道のりは、変わったようでいて、変わってない。
ロープウェイが出来たことぐらいかもですが、やはり観光客主体に人はとても多い。
昨年11月に世界1のサロメ、グリゴリアンが歌うノット&東響演奏会を聴き、今年4月は、「平和の日」日本初演を観劇し、さらに5月には、世界最高峰のエレクトラ、ガーキーの歌うエレクトラをこれまたノット&東響で聴いた。
そして、これらのシュトラウスサウンドが、まだ耳に残るなか、神奈川フィルのサロメ。
シュトラウス好きとして、こんな贅沢ないですね。
R・シュトラウス 楽劇「サロメ」
サロメ:田崎 尚美
ヘロデ:高橋 淳
ヘロディアス:谷口 睦美
ヨカナーン:大沼 徹
ナラボート:清水 徹太郎 ヘロディアスの小姓:山下 裕賀
ユダヤ人:小堀 勇介 ユダヤ人:新海 康仁
ユダヤ人:山本 康寛 ユダヤ人:澤武 紀行
ユダヤ人:加藤 宏隆 カッパドキア人:大山 大輔
ナザレ人:大山 大輔 ナザレ人:大川 信之
兵士 :大塚 博章 兵士 :斉木 建司
奴隷 :松下 奈美子
沼尻 竜典 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
首席ソロ・コンサートマスター:石田 泰尚
コンサートマスター:大江 馨
(2023.6.23 @みなとみらいホール)
※救世観音菩薩 九千房 政光
ご覧のように、オーケストラを舞台の奥にぎっしりと引き詰め、その前のスペースで歌手たちが歌い演じるセミステージ上演。
P席と舞台袖の左右の座席も空席に。
ヨカナーンは、P席の左手を井戸の中に想定して、そこで歌うから音像が遠くから響くことで効果は出ていた。
字幕もP席に据えられているので全席から見通しがよい。
ステージ照明は間奏や7つのベールの踊りのシーン以外は、暗めに落とされ、左右からのブルーや赤、黄色のカラーで場面の状況に合わせて変化させていたほか、パイプオルガンのあたりには、丸いスポットライトもときに当てられたりして、雰囲気がとてもよろしく、舞台上演でなくてもかなりの効果を上げられたのではないかと思います。
今後予定されているドラマテック・シリーズはこうした設定が基本になるのだろう。
すべての客席から、前面の歌手エリアがよく見えるようになることを併せて願います。
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①この日、もっとも素晴らしかったのはオーケストラだと思う。
神奈フィルをずっと聴いてきて、途中、移動や仕事の不芳などもあり遠ざかった時期があり、本拠地での演奏体験は久方ぶりだった。
お馴染みの楽員さんたちも多数、そして若い楽員さんたちも多数。
ほんとうに巧いオーケストラになったものだと、今日ほど実感したことはありません。
華奢すぎる感のあったかつての神奈フィルは、それが個性で、横浜の街を体現したかのような洒落たオーケストラだった。
現田さんとシュナイト師によって培われた、美音極まりない音色はずっとそのままに、オペラの人、沼尻さんの就任によって、本来もってた神奈フィルの自発的な開放的な歌心あるサウンドが導き出されたと思う。
細部まで緻密に書かれたシュトラウスのスコアは、物語の進行とともに、微細に反応しつつ、リアルに描きつくしてやまない。
ヘロデがサロメの気を引こうと、宝石やクジャクなどの希少な動物をあげると提案すると、音楽はまるで宝石さながら、美しい動物の様子さながらのサウンドに一変する。
私の好きな、サロメとヨカナーンのシーンで、サロメが欲求を募らせていくシーンでも、音楽は禍々しさとヨカナーンの高貴さが交錯。
ガリラヤにいるイエスを予見させるヨカナーンの言葉は、清涼かつ神聖な音楽に一変してしまう。
それでも、サロメはさらなる欲望を口走り、ヨカナーンは強烈な最後通告を行う。
このあたりの音楽の変転と強烈さ、演奏する側は、その急転直下の描き分けを心情的な理解とともに描き分けなくてはならないと思う。
沼尻さん率いる神奈川フィルは、このあたりがまったく見事で、目もくらむばかりの進行に感銘を覚えたものだ。
このようなシーンに代表されるように、シュトラウスの万華鏡のようなスコアを手中に収め、指揮をした沼尻さんと、それを完璧に再現した神奈川フィルは、ふたたび言うが素晴らしかった。
②日本人でサロメを上演するなら最強のメンバー
田崎さんのサロメは、剛毅さよりさ、繊細な歌いまわしで、シュトラウス自身が「16歳の少女の姿とイゾルデの声のその両方を要求する方が間違っている」と、自分に皮肉を述べたくらいに矛盾に満ちたサロメ役を、無理せず女性らしさを前面に打ち立てた、われわれ日本人にとって等身大的な「サロメ」を歌ってみせた感じに思った。
そんななかでも、数回にわたる首のおねだりの歌いまわしの変化は見事で、ラストの強烈な要求は完璧に決まった感じだ!
長大なモノローグも美しい歌唱で、このシーンでは恋するサロメの純なる心情吐露なので、沼尻指揮する極美で抑制されたオーケストラを背景に、煌めくような歌声だった。
田崎さんとともに、先月のエレクトラで待女役のひとりだった谷口さん。
わたしの好きな歌手のおひとりで、ソロアルバムもかつて本blogで取り上げてます。
アリアドネ、カプリッチョなど、おもにシュトラス諸役で彼女のオペラ出演を聴いてきましたが、こんかいのヘロディアスも硬質でキリリとした彼女の声がばっちりはまりました!ステキでした!
谷口さんのCDに、神奈フィルのクラリネット奏者の斎藤さんが出ておりますのも嬉しい発見でした。→過去記事
福井 敬さんの代役で急遽出演した高橋さんは、ヘロデを持ち役にしているし、キャラクターテノールとしての役柄で聴いた経験も多い歌手。
役柄になりきったような明快な歌唱と、その所作はベテランならではで、舞台が引き締まりましたね!
P席から歌った大沼さんのヨカナーンは、高貴な雰囲気がその声とともに相応しかったが、井戸から出されて、舞台前面でサロメと対峙するとなると、声がこちらの耳には届きにくかった。
また井戸に召喚されると、またよく通る。輝かしいバリトンのお声なのに、ホールによっては難しいものだ。
気の毒なナラボート役の清水さん、恋する小姓役の山下さん、よいです!
ほかのお馴染みの名前やお顔のそろった二期会の層の厚さにも感謝です。
③この1か月の間に、ミューザとみなとみらいで、ふたつのシュトラウスオペラを聴いた。
どちらも響きのいいホール。
その響きが混ぜ物なくストレートに耳に届く「ミューザ」。
その響きそのものが音楽と溶け合ってしまうかのような「みなといらい」。
どちらも長らく聴いてきて好きなホールだけれども、いまは「ミューザ」の方が好きかも。
でも「みなといらい」にはいろんな思い出もあり、脳内であの響きが再生可能なところも愛おしい。
ノットの次のシュトラスは「ばらの騎士」のはず。
神奈川フィルは、次は・・・。
勝手に予想、フィガロ、オランダ人、トスカ、夕鶴・・・、な~んてね。
終演後は西の空が美しく染まってました。
久しぶりだったので、パシャリと1枚。
野毛に出向いてひとり居酒屋をやるつもりだったけど、いい時間だったし、もうそんな若さもないので、サロメで乾いた喉は、お家に帰ってから潤しました。
【サロメ過去記事】
「サロメ 聴きまくり・観まくり」
「グリゴリアン&ノット、東響」
「二期会 コンヴィチュニー演出 2011」
「ドホナーニ指揮 CD」
「ラインスドルフ指揮 CD」
「新国立劇場 エヴァーディンク演出 2008」
「ショルティ指揮 CD」
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コメント
僕は新国の「サロメ」観ました。ガーキー=ノット=東響を聴いた後だったので、「どうかな?」と思っていたのですが、ネットで観た妖艶な(R18指定)のペンダチャンスカを見たさに(動機が不純だ!)4年ぶりに初台へ。
感想はそのうちアップしますが、踊りを云々貶める論評が多いものの、僕的には楽しめました。
神奈フィル、本当にいい指揮者をシェフに戴きましたね。今年は川崎中心ですが、次年度は横浜に足を伸ばして沼尻=神奈フィルを聴きたいと強く思います。
投稿: IANIS | 2023年6月26日 (月) 21時02分
IANISさん、まいどです。
新国はベンダチャンスカだったんですね。
まあ、演出が古式ゆかしいエヴァーデングのものですので、歌手にちゃんと躍らせてしまい、そこで嘆息してしまうパターンです(自分が観たときがそうでした)。
それそれ新演出が欲しいところですね。
神奈フィルの沼尻指揮は、就任以来初でしたが、こうした作品では、実にうまく、安定感あり、オペラのつわものと思いました。
通常のコンサート演目で、次は聴いてみたいと思ってます。
投稿: yokochan | 2023年7月 2日 (日) 10時46分