フェスタサマーミューザ ノット&東響 オープニングコンサート
アロハ着た、ファンキーなサマー・モーツァルトがお出迎え。
2004年に開館、翌2005年から始まったサマーミューザ、18年目の今回、オープニングコンサートに行ってきました。
チャイコフスキー 交響曲第3番 ニ長調 Op.29「ポーランド」
交響曲第4番 へ短調 Op.36
ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団
コンマス:グレブ・ニキティン
(2023.7.22 @ミューザ川崎シンフォニーホール)
真夏のチャイコフスキーを堪能。
めったに演奏されない3番、全集の一環としてしか録音されない、6つの交響曲の中では一番地味な存在。
あらかじめ、ノット監督のチャイコフスキーの交響曲に対する考えを読んでから望んだコンサートで、氏の思いとする演奏になったと2曲ともに思いますが、両曲で解釈が違った。
ノットが東響の指揮者になって10年。
この間、協奏曲はおろか交響曲も一度もとり上げたことがないそうだ。
海外では4番と5番は指揮しているし、「エウゲニ・オネーギン」も何度も取り上げているという。
オペラの叩き上げの指揮者ノットにとって、チャイコフスキーはフォルテが3つも付いた爆音や、勇ましい金管などではなく、詩情とはかなさに満ちた音楽に神髄があると見出しているようだ。
また1~3番をよく見通したうえで、さらにはロシアの他の作曲家についても思いを巡らして検証したとも語っている。
ノットの演奏は、同じ演目でも次の日は解釈が違う場合があるというし、ホールによっても変わって来るともいう。
考える人ノットのこうした思いを、東響は完全に理解して、ほんのちょっとの動きや視線などにもすべて反応できているという。
さて3番。
ワタクシは、ハイティンクやアバドのヨーロピアンな演奏が刷りこみで、ロシア系の演奏はほとんど聴いてません。
ゆえに民族臭を一切感じさせない、スタイリッシュなノットの演奏にはすんなりと入りこめ、ワクワク感もひとしおだった。
5つの楽章で、まるでマーラーの7番を思わせる構成は、ノットも語っている。
両端楽章に挟まれた3つの楽章、その両端はワルツやスケルツォで、ど真ん中が詩的な緩徐楽章。
わたしには真ん中の楽章が夜曲のように聞こえたし、その次の4楽章は、奇異でファンタジックな様相を巧みに表出。
一転して終楽章は、一気にギアを上げた感じで。ポロネーズではあるけれど、一気呵成のロンド楽章のような解釈。
私は手に汗するくらいにこの演奏にのめりこみ、ドキドキが止まらなかった。
バレエっぽい様相もあるけれど、こちらはオペラの大団円みたいな壮大さで、高らかに鳴り渡るオーケストラに留飲が下がりました。
後半の4番。
聴き慣れたこちらもユニークな演奏で、冒頭のホルンの抑えた咆哮ぶりは期待していた向きには、冷水を浴びせるような響きだった。
チャイコフスキーがメック夫人に宛てたというそれぞれの楽章の注釈。
①運命の旋律! これが中間部のメランコリックな雰囲気に浸っていても、人間を現実に戻してしまう。
②仕事に疲労困憊。夜中に過去を想う。
③酒を飲んだときのとりとめない観念。
④生きるには素朴な喜びが必要。どんなに苦しくても、その存在を認め、悲しみを克服するために生き続ける・・・・・。
まさにこれ。
圧倒的な1楽章の悲観的な最後も、さほどの狂気はなく、どこか後ろ髪を引かれるもどかしさも伴った。
東響の素晴らしい木管陣が見事だった2楽章は抑制が効いていて、憂鬱度合いは少なめ。
そして、ここでもムードを一転させたのが3楽章。
テンポを速めにとり、一気呵成に、酒酔いの混乱も次の喜びへの前哨戦のようだ。
アタッカで突入した終楽章は、音色の明るさの爆発で、ミューザの高い天井から輝かしい音たちが降り落ちてくるのを体感でき、暑さも吹っ飛ぶ爽快さに脱帽。
決して圧倒感と効果のための盛り上げ感などとは無縁の明るさあふれるエンディングでありました。
おお盛り上がりの会場。
鳴りやまぬ拍手に応え、ノット監督ひとりで登場し喝采を浴びてました。
さらに、この日退団のため最後のステージとなったトランペットの佐藤さんを伴って再度登場、自身も暖かい拍手を長年務めた団員に捧げておりました。
ノットと東京交響楽団の絆の深さを、あらためて感じたチャイコフスキーでした。
ちなみにオーケストラの配置は、対抗配置で、チェロは第1ヴァイオリンの横、その左手奥にコントラバスといった具合で、この配置が、特に3番の場合、実に効果的であったことを最後に書いておきます。
この日は、遠来の音楽愛好仲間でノットの追っかけをされてますS氏と、アバドの日本一の愛好家のY夫妻と、ほんとに久方ぶりにお会いできました。
短い時間でしたが、みなさんお車関係などで飲めるのはワタクシだけで申しわけなくもビールを一杯。
楽しいアフターコンサートを過ごし、お別れしたワタクシは賑わう川崎の街にひとりフラフラと。
そこで飲んだのが、糖質ゼロのパーフェクトビールの生。
缶では飲んでるけど、生で出てくるのは初めて。
枝豆食って、唐揚げ食べて、ハイボール飲んで、気分よろしく川崎をあとにしましたよ。
サマーミューザ、次は・・・ふっふっふ🎵
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コメント
「有名名曲」ばかり聴き続けてかれこれ60年になりますが、チャイコフスキーのような“有名作曲家”であっても、未だよく知られていない隠れ名作があるものですね。複雑系音楽が大好きなノット監督にとって、交響曲第3番はブルックナーやマーラーの文脈から読み取れた、チャイコフスキー音楽の中で最も彼にとって親和性を感じさせたものではなかったでしょうか。
yokochan様からご指摘頂いた5楽章の配列は確かにマーラーの得意とするものであると同時に、緩徐楽章を中心に置くシンメトリー構造のアイデアは、バルトークのオケコンや弦四第5番にも通ずるものがあったりして。
まだまだ音楽を聴く旅はゴールが見えません。
投稿: IANIS | 2023年7月24日 (月) 01時23分
IANISさん、まいどです。
チャイコフスキーのなかでは、この3番は複雑怪奇な存在かと思いますし、一面、単純明快な曲でもあるとも思います。
この3番とピアノ協奏曲の2番、あとスペードの女王とチャデロイカあたりが面白い存在だと思ってます。
ノットがマーラー7番との比較を述べていたので、そんな風に聴いたもので、まさにそう思える演奏で心から感心してしまったものです。
たしかに、まだまだ音楽の世界は広く、果てしないですね。
投稿: yokochan | 2023年7月26日 (水) 09時42分