アクセルロット&東京都交響楽団 小田原公演
真っ暗な中に浮かび上がる小田原城。
夜間はイベントの時以外は、人がまったく行きませんので周辺は真っ暗です。
それでいいと思いますね、街が明るすぎるのです。
都響が小田原まで来演してくれましたので、喜び勇んで聴いてまいりました。
出色の音響の良さを誇る三の丸ホールは、お城の堀に接していて立地も抜群。
高校時代、私もその舞台に立ったことのある旧市民会館とは、場所も変わり、そのデッドだった昭和の音響もまったく見違えることとなった新ホール。
同じ時期に開館した平塚のひらしんホールと、双方を楽しむ最近の私ですが、どちらもほどよい規模で大好きです。
シルヴェストロフ 「沈黙の音楽」(2002年)
シベリウス ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47
イザイ 無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番~1楽章
Vln:アレクサンドラ・コヌノヴァ
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 ニ短調 op.47
ジョン・アクセルロッド指揮 東京都交響楽団
(2023.11.13 @三の丸ホール、小田原)
ウクライナの作曲家シルヴェストロフ(1937~)の小編成の弦楽による「沈黙の音楽」、初めて聴きました。
シルヴェストロフも初ですが、ワルツ、セレナード、セレナードの3曲からなる全編静かな雰囲気の10分あまりの作品。
ともかく美しく、懐かしさも漂う夢想と追憶の音楽で、わたしには武満徹を思い起こす印象でした。
解説を読むと、ソ連時代での作曲開始時は前衛的な作風で、その後70年代以降、調性を伴った穏やかな作品作りに転じたという。
繊細ながら、哀しみの影も感じるデリケートな音楽、時が時だけに、ウクライナを現在逃れている作曲家のいまの音楽も知ってみたいものだと思いましたね。
次のシベリウスも、強国にあらがった愛国者、さらにはショスタコーヴィチも二面性、いやそれ以上の顔を持ちながら体制に追従しつつも抵抗した・・・
そんな3人の作曲家の一夜、すぐれたプログラムかと思いました。
コヌノヴァの技巧と美音に加えてホールを満たす精妙な弱音に酔ったシベリウス。
そのスマートなお姿からは想像できないパワーとともに、どんなピアニシモでもオケに負けずに聴衆の耳にしっかり届けることのできるヴァイオリン。
とりわけ、2楽章は美しかった。
モルドヴァ生まれの彼女も、思えばソ連の支配下にあった国で、ウクライナのお隣。
熱く切々と訴えかけるこの2楽章は、オーケストラのしなやかなサポートを受けて秘めたる情熱の吐露と聴いた。
もちろん、技巧の冴えも抜群で、速いパッセージにおける音程の正確さと、その明快な音の出し方は、オケがフォルテでもしっかり聴こえる。
女性的な所作と、一方でガッツリとオケと対峙する逞しさ、そのあたりも見ていて楽しかった。
その繊細な音色と超絶技巧、美しいピアニシモは、アンコールのイザイでも特筆ものでありました。
ホワイエからの景色、この日は期間限定でお城のライトアップもありました。
もう少し遅くまで点灯して欲しかったな・・・
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休憩後のショスタコーヴィチ。
若い頃に聴きすぎて、長じて大人となってからは、どうも醒めてしまった名曲のひとつ。
ともかく大好きになって、中高時代に聴きすぎた。
演奏会では、ヤンソンス&BRSO、ゲルギエフ&キーロフ、マゼール&NYPO、プレヴィン&N響と聴いたものの、いずれもぼんやりと聴いてしまうのでした。
今回は、この曲14年ぶりの実演ということ、さらには地元で都響が聴けるというワクワク感もあってか、やたらと興奮しながら聴いた。
バーンスタインの弟子筋にあたるアクセルロッドの指揮は、ともかく明快。
後から見ていても的確かつ、動きがときおりバーンスタインのように舞うようで楽しい。
しかし、音の圧はなかなか強く、都響が全力を出した時のすごさも実感できたし、フォルテの段階がいくつもあったようにも感じた。
真偽不明の証言や、批判を恐れた超大作4番のあとの、あざとい「成功狙い」の真偽など、そんなややこしいことは抜きにして、演奏としての完成度が極めて高く、ほぼ完璧な出来栄えだった。
指揮台にあがると、すぐに振り始めるし、楽章間の合間も少なめで、全体をアタッカでつなげたような一気通貫の演奏スタイルは、聴き手に緊張を強いるし、それでこそオケも聴衆も集中力が増したというものだろう。
1楽章は意外なほどスラスラと進行し、そのカタストロフ的なクライマックスも難なくすいすいと進行。
しかし、先日、ミッチーの壮絶な4番を聴いた耳には、1楽章の後ろ髪引かれる終結部には、あらためて作品の関連性や、ショスタコーヴィチの常套性なども感じることができた。
絶品だったのは、2楽章で、そのリズム感の冴えはアクセルロッドならではだろう。
ほんとに生き生きしていたし、何度も言いますがちょっと飽きぎみだった5番、この2楽章でなぜか目が覚めた感じです。
痛切な3楽章も、この演奏では爽やかささえ漂う美しさで、分割して弾かれる弦の様子をまんじりとせずに見つめ曲がら聴くのも新鮮だった。
はったりもなにもなく、こけおどし的な大音響に溺れることもなく、純音楽的に自然なクライマックスを築き上げた終楽章。
いつもは醒めてしまう自分も普通に感動したエンディング。
5番は、あれこれ考えず、こうした素直でストレートな演奏がいい。
この指揮者で6番を聴いてみたいと思った。
そして三の丸ホール、素晴らしい音響と確信しました。
次は小田原フィルだけど、都合が・・・・
景気が悪い、物価高、個人消費の減少でGDPも下降。
そんな日本には、いま、チェコフィル、コンセルトヘボウ、ウィーンフィル、ベルリンフィル、ゲヴァントハウス、NDRエルプフィルがいます、先月はチューリヒトーンハレ、オスロフィルも来てたし、オペラ団もローマとボローニャも。
プログラムによっては触手も動きましたが、過去、さんざん聴いてきたし、いまの自分にはもういいかな・・・という気分です。
都心からほどよく距離があり、でも遠くもなく、そこそこな田舎で過ごして、たまに音楽会に繰り出す。
外来オケの高額チケットに大枚をはたく余裕もございません。
でも、外来オペラがワーグナーとかシュトラウスを持ってきたら・・・・飛びついてしまうんだろうな(笑)
小田原で一杯やろうとも思ったが、月曜だしあきらめて、またお家に帰って晩酌でプシュっと。
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コメント
シュスタコービッチの5番には確かに、昔聞いたなとという感覚があります。都響名演で良かったですね。
私も昨年、地元で大野氏とのマーラー5番を聞き、とてもしっかりした響きや指揮に感銘を受けました。
どうぞ、外来のオーケストラにもお出かけください。
私も年齢にあらがって、財布事情にもあらがって
がんばっています。国内オケですが、
来春の春の東京音楽祭のNHK交響楽団「トリスタンとイゾルデ」とかいかがですか?
投稿: beaver | 2023年11月20日 (月) 18時54分
beaverさん、こんにちは。
食傷気味のタコ⑤ですが、今回は新鮮な演奏で、アクセルロッド氏の実力とオケの力も十分に感じ取ることができました。
お財布事情もともかく、都心から距離を置いたことと、年老いた親も心配で、なかなかに遠出に踏み切れません。
来春は、ふたつのトリスタン、悩ましいです・・
タンホイザーもありますし。
はい、がんばって行きましょう!
投稿: yokochan | 2023年11月25日 (土) 09時37分