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2024年11月28日 (木)

ヴァイル 交響曲と7つの大罪 マルヴィッツ指揮

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横浜のランドマークタワーのツリー。

今年の横浜は、ベイスターズ日本シリーズ優勝もあり、ブルー系のカラーで包まれてます。

半世紀あまりにおよぶ横浜大洋DeNAホエールズベイスターズのファンであるワタクシ。
前回のリーグ優勝は甲子園で立ち会えたし、そのときの日本シリーズも球場には入れなかったものの、近くで応援。
もう若くもないので、今回は冷静にテレビ観戦で、じんわりくる喜びをかみしめました。

Landmark-02

横浜はあかぬけた都会だけれども、東京とはまったく違う、ちょっとローカル感もある都会。

あか抜けた都会に憧れ田舎から出てきた娘の物語・・・クルト・ヴァイルの「7つの大罪」を真ん中に据えた見事なアルバムを聴きました。

Kurt-weill-album-joana-mallwitz-konzerth

 クルト・ヴァイル (1900~1950)

  交響曲第1番「ベルリン交響曲」(1921)

  バレエ「7つの大罪」(1933)

  交響曲第2番 「交響的幻想曲」(1933)

  ヨアナ・マルヴィッツ指揮
         ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 


   アナ1とアナ2:カタリーネ・メールリンク
   家族:マイケル・ポーター、ジーモン・ボーデ
      ミヒャエル・ナグル、オリフェール・ツヴァルク

            (2024.1.3~5、2.5~7 @コンツェルトハウス、ベルリン)

ヨアナ・マルヴィッツのDGへの本格録音の第1弾。
マルヴィッツは、私が以前より注目していた指揮者でして、幣ブログでも2度ほど記事を起こしてます。
ヴァイオリンとピアノを学び、ピアニストとしてスタートしたあとは、オペラハウスで指揮者として各地の劇場で活躍。
ニュルンベルク州立劇場の音楽総監督を2018年から6年間つとめ、そこでオペラ・コンサートのレパートリーを拡充し、オーケストラも躍進した。
そしてエッシェンバッハのあとを受けて、ベルリン・コンツェルトハウス管の芸術監督に2023年に就任してDGとも契約。
バイロイトへの登場も必ずあるし、欧米各地のオーケストラに客演中のなか、手兵と日本にも1~2年内にはやってくると思います。
その際には、お願いだから名曲路線や人気日本人ソロとの共演でなく、本格的なプログラムでやってきて欲しい!
これ、ほんと切実に思う、昨今の外来オケの演目は悲しすぎるから・・・・

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ご多分に漏れず、ユダヤ系であった戦中を生きたドイツ人作曲家、クルト・ヴァイルは多難な50年の短い生涯だった。
ブレヒトとの「三文オペラ」(過去記事あり)ばかりが有名なヴァイルだけれど、それ以外の本格作品はあまり聴いたことがなかった。
印象として、晦渋な雰囲気を常に持っていて、プフィッツナー、ブゾーニ、ヒンデミット、アイスラーなどとともに、どうも苦手意識を持ってました。
そんな思いを一掃、というわけにはいかないけれど、交響曲とアイロニーに満ちた声楽付きバレエを聴いて、ヴァイルという作曲家の時代ごとの変遷や、オーケストラ作品としての面白さなども実感できました。

20歳の交響曲第1番、ブゾーニの弟子であった頃で、同じころには弦楽四重奏やピアノ作品なども書いている時期。
マーラーやシュトラウス、無調の影響、さらにはシェーンベルクやシュレーカーなどを思わせる雰囲気があり、現代人の耳みは案外と聴きやすいし、あとベルクの退廃と甘味の響きも感じた。
単一楽章ではあるが、このCDでは4つのトラックに分割されていて、交響曲の体を立派になしていることもわかる。
不協和音も心地よく感じられ、とっつきの悪さよりは、辛辣さが交響曲の形式をまとった結果がそうなったのだと思われた。
マルヴィッツによると、この楽譜はイタリアの修道院に保管され、道女たちがそれを隠し、ユダヤ人の手によるものとわからないように最初のページは切り取られていたそうだ。
生前は演奏されず、初演は1957年に、N響でお馴染みのシュヒターの指揮だった。
表現主義詩人のロベルト・ベッヒャーの劇と関連付けられているとされるが、ヴァイルはそのことに関してスコアや文章になにも残していないとされる。
私は2番よりも1番の方に魅力を感じ、曲の最後に平和なムードが一瞬でも訪れる場面が気にいった。
ヴァイルは、本格作品を書くかたわら、困窮から作曲や音楽学を教え、その門下には、クラウディオ・アラウやアブラヴァネルがいることも、歴史のひとコマとして興味深いです。

やがてヴァイルは1幕もののオペラなど、劇作品も書くようになり、ロッテ・レーニャにも出会う。
ブレヒトと共同で、乞食オペラの改作「三文オペラ」を書いたのが1928年。
人気のあがったヴァイルは、ナチスに目を付けられ、ドイツでの活動に不自由さを感じパリへ向かった。
パリで合流したブレヒトと、裕福な英国人から委嘱を受け、歌うバレエ「7つの大罪」を作り上げたのが1933年で、同年にシャンゼリゼ劇場で初演。そのときの指揮者がモーリス・アブラヴァネルで、ソプラノも妻となったロッテ・レーニャ。

7つの都市を1年間づつ滞在し、遍歴する女性の物語で、アナというこの女性は分身のようなふたつの性格を持ち、「『罪人』に内在する相反する感情を伝えるために、ブレヒトはアンナの性格を、実用感覚と良心を持つ冷笑的な興行主のアンナ1世と、感情的で衝動的で芸術的な美しさを持ち、非常に人間的な心を持つ売れっ子のアンナ2世に分割した」。
姉妹は、ミシシッピ州のルイジアナから出て、幸運を求めて大都会を遍歴、メンフィス、ロス、フィラデルフィア、ボストン、テネシー、ボルティモア、サンフランシスコと続き、それぞれが「怠惰、高慢、激怒、飽食、姦淫、貪欲、嫉妬 」という人間の持つ闇ということで象徴。
男声はそれを見守り、揶揄する家族の役柄となっている。
最後はミシシッピ川の流れるルイジアナに帰る姉妹は、7年の月日を回顧して、小さな家に帰ってきたと神妙に曲を閉じる。

32分ほどのリズム感あふれる曲だが、とても聴きやすく、三文オペラを聴いた耳にはまったく問題なく楽しめる。
本格シンフォニーである①とはまったくの別世界で、軽妙さとジャズのイディオム、さらにはメロディアスなドイツの声楽作品なの延長的な存在が極めて皮相なこの題材を多彩に描いている。
結構楽しめましたね。
バレエ最新の上演映像のトレーラーをネットで観たりもしましたが、内容が内容だけに、けっこう🔞的に描かれてましたよ。

ベルリンを去る直前に書き始めた交響曲第2番は、パリの社交界の著名人から依頼を受けたもので、1934年にパリで完成。
ヴァイルの最後の純粋クラシカル作品で、こちらはうって変わって3楽章形式の新古典主義的な明快な音楽。
初演はコンセルトヘボウでワルターの指揮で、ワルターはこの作品がいたく気にいり、ニューヨークやウィーンでも指揮した。
ワルターは、この交響曲に名前をつけるように提言、フランスでは「幻想」とも呼ばれたらしい。
コンサートでの演奏機会も多く、音源も2番は多くあり、事実ワタシのヤンソンスのものを持っていた(でもすっかり忘却してる)
シンプルな2管編成で、リズミカルでかつメロディも明確、無窮動的な終楽章も面白く盛り上がるし、全体に1番よりもずっと聴きやすい。
金管や管楽器のソロもみんな楽しいし、オーケストラとしては演奏しがいがある作品なんだろう。
CDを持っていたことを忘れてしまう、演奏会で聴いても、もしかしたら忘れてしまう、そんな印象がヴァイルの2番なのかもしれない。
第1交響曲が、当時のドイツの伝統の流れを汲むものだったのに対し、ドイツを出て遍歴の経験を経たあとの第2交響曲は、これで本格クラシカル作品が終わってしまったけれど、世界を観たヴァイルの心情の吐露なのかもしれない。

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マルヴィッツのヴァイルに対する思いと熱意を感じる1枚。
CDリブレットでも、彼女はその思いを語ってます。
ニュルンベルク劇場時代、ピアノを弾きながら、曲目解説をよくやっていて、いくつか見たことがありますが、彼女は学究肌でもあり、その探求心と分析力な並外れた才能だと思います。
劇場で培った全体を見通し、構成を大切に、オケや舞台を統率してゆく指揮者としての能力の並外れている。
ベルリン・コンツェルトハウスの高性能ぶりも、優秀録音でよくわかりました。

次のDGへの録音が待ち遠しいです。

ちなみに、ここ数年で各放送局から録音したマルヴィッツの指揮した音源を列挙しておきます。
モーツァルト「リンツ」、ヴァイオリン協奏曲、「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トウッテ」
ベートーヴェン 7番、シューベルト 9番 、マーラー 1番
ワーグナー 「ローエングリン」
コダーイ ハーリ・ヤーノシュ、ガランタ舞曲
チャイコフスキー ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、ロココ
ラフマニノフ ピアノ協奏曲3番
シュトラウス ティル、「影のない女」
プロコフィエフ 古典交響曲
ベルク ルル交響曲
ブリテン 戦争レクイエム
あと夏の野外コンサートでは、ガーシュイン、バーンスタイン、新世界など
逃した録音としては、プロコフィエフ「戦争と平和」もあります。
どうでしょう、多彩でしょう。

Landmark-03

もう女性指揮者とか、「女性」をつける必要性のない、あたりまえの時代になりました。
マルヴィッツさん、次のバイエルン国立歌劇場の指揮者になると予感します。
来年はベルリン・フィルにもデビューです。

 ヨアナ・マルヴィッツ 過去記事

「ローエングリン」 2019.5.25

「戦争レクイエム」 2021.8.14

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