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2024年12月29日 (日)

ブルックナーを演奏する会 交響曲第8番(第1稿)

Hiratsuka-03

2024年も押し迫り、隣町のひらしん・平塚文化芸術ホールに行ってきました。

生誕200年のアニバーサリーイヤーだったブルックナー、内外ともに数多くの演奏会で取り上げられました。

自分にとっては今年、最初で最後のブルックナーのコンサートが平塚で。

2011年の大震災を受け、翌年の7番から始まったブルックナーの演奏専門の神奈川中西部で活動するアマチュアオーケストラ。

8番は2回目だそうですが、前回は通常耳にする第2稿ハース版で、このたびは初稿版・第1稿を果敢にも取り上げてくれた。

Hiratsuka-01

       ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調 1887年初稿版

  河上 隆介 指揮  ブルックナーを演奏する会

         (2024.12.28 @ひらしん 平塚文化芸術ホール)

初稿版を演奏会で聴くのは今回が初めて。
今年、ルイージがN響で取り上げたが、そちらは録音で済ませました。
そのルイージ、かつての手兵のウィーン・トーンキュンストラと2022年にも演奏していて、ORFでの放送を聴いたものですが、チューリヒでも正規録音を残しているので、よっぽど初稿版が好きなのな・・という程度の認識だったその初稿版。

ブル8視聴歴半世紀あまり、ベームやカラヤンで痺れるほどの感銘をいだき、あまりの畏れ多き大作に、おいそれとは聴くことのできない崇高な名曲と思い込んで過ごしてきた。
ハース版もノヴァーク版2稿も、自分にはさしたる変わりはなく、クナッパーツブッシュだけが演奏はいいのに改訂版とはなんぞや・・でした。
そんな自分がインバルの全集を買ったときに聴いて驚いた8番の初稿。
え?なに?あまりの違いに拒絶反応しか出なかった自分も思えば若かった。
以来、ロクに聴いてこなかった8番の初稿版。
そして今日でした。

「河上氏とブルックナーを演奏する会」の真摯で夢中の演奏が、ブルックナーのまるで新しい曲を聴くかのような新鮮極まりない感銘と驚きを与えてくれたのでした。
初稿以外を聴き慣れた耳にとって、あれ?どこいった?あ、そう、そこ・・・と思いつつもすっかり慣れて音楽に集中して浸りきることができたのも、ひらしんのホールの鳴りっぷりの良さと響き、その反応の良さにもありました。

洗練された7番のあとに、こんなにも粗削りで感性の赴くがままの8番がどうして来たんだろう。
聴き慣れた2稿以降での主旋律に、また違う聞き慣れないフレーズが絡んだりしてくる。
パウゼもまた唐突にやってくるし、表情の変化も激しく、強弱もまったく違うか所も多発。
 深淵さがしっかりあるも、その1楽章の終わりはファンファーレ的にフォルテで終わる。
2楽章スケルツォの中間部はぜんぜん別物になっていて、これはこれで平和感がありよろしいし、牧歌的。
背筋を伸ばして聴き入ってしまう3楽章アダージョは、おなじみのとおりに進行し、ハープのアルペジオも美しい。
がしかし、シンバルの高鳴るあそこ、若い頃には、そこで身を震わせてきいたあの場面では鳴らずに、クライマックスは持ち越され、ちょっとすると3発のシンバルがトライアングルもともなって2回にわたって連発して驚きと同時に、これもありだなと納得。
その後のホルンとワーグナーチューバを伴う弦の慰めと癒しの場面はこの版でも実に美しく、この日のオーケストラも最高の音をかもしだしていた。
続く胸わきあがるフィナーレの冒頭も、ほぼ同じくで、オケの金管群もブリリアントでした。
大好きな木管による鳥のさえずりのようなパッセージは出現の仕方がぜんぜん異なり、全体のなかに埋もれてしまう感じ。
以降も驚きながらも、すっかり音楽と演奏に魅せられつつ、いよいよ遠大なエンディングがくるかと待ち構えると、じわじわ高鳴っていくどころが、音楽は意に反して静まり、じわじわ感で攻めてくるかと思いきやふんわりと終わってしまう。
前から初稿版に感じていた不可思議な残尿感伴う印象は、ここだったか・・と思い起こした次第。

しかし、90分の全曲をじっくりと、誠意あふれる演奏をまじかで聴いた印象は自分には「初稿版は宝の山」だったということ。
すっかりなじんだマーラーの7番も若い頃は、なんでもありの謎にあふれた曲に感じらたが、たとえは悪いがそれと同じように、まだまだわからない8番初稿版。
これから楽しめるという喜びをもたらせてくれた。
2017年に神奈川フィルでやったとき、公私ともに忙しく会員でなくなってしまい、聴き逃したのが残念です。
ノット&東響の4月シーズンオープニングは聴きに行く予定。

終演後、ブルックナーのスコアを掲げて作曲者を讃える指揮の河上さん。
10年以上、同じメンバーでブルックナーを演奏し続けてきたオーケストラのみなさま。
素晴らしい演奏、ありがとうございました。

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2025年9月には、大船で9番(ハース&オーレル版)の演奏が予定されてます。

異なる版でブルックナーを聴く楽しみも、今後の目標のひとつとなりそうです。

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平塚駅から西方を望むときれいな空が。

小高い山は大磯の高麗山。

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コメント

yokochan様

師走も押し迫った中、ブルックナーの大曲との対峙、まことにお疲れ様でございます。でも、この作曲家の交響曲は202同一曲に異なる版があり、その聴き比べもまた一興ですよね。
今年一年、御世話になりまして、有り難うございました。2025年がブログ主及びここに集う投稿者の皆さまにとりまして、良き一年になりますように。

投稿: 覆面吾郎 | 2024年12月30日 (月) 11時49分

覆面吾郎さま
いつもコメントありがとうございます。
まさかの年末に、身近な場所でブルックナーのしかも8番、しかも初稿が聴けるなんて思いもしませんでした。
ご指摘のとおり、さまざまな版をおいかけると、これまた大いなる楽しみとなりそうです。

自分でも忘れていた記事にコメントくださり、あのとき自分は・・なんて驚いたり、懐かしんだりしてまして、まことにありがたきことです。
来年も引きつつづきよろしくお願いいたします。

投稿: yokochan | 2024年12月31日 (火) 22時59分

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