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2023年9月11日 (月)

神奈川フィルハーモニー 平塚公演

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昨年オープンした、ひらしん平塚文化芸術ホール。

手前は平塚小学校跡の脇に大樹を誇る樟樹(クスノキ)。

明治28年に芽吹いたものとされます。
平塚は、関東大震災と大空襲と重なる被災がありましたが、立派な雄姿に感心してホールを背景に1枚撮りました。

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  ホルスト 「セントポール」組曲

  ラヴェル  ボレロ

  朝岡 真木子 「なぎさ」

  中田 喜直  「歌をください」

  中田 喜直  「夏の思い出」

  平井 康三郎 「うぬぼれ鏡」

     S:岩崎 由紀子

  ムソルグスキー(ラヴェル編) 「展覧会の絵」

  オッフェンバック 「天国と地獄」ギャロップ

    太田 弦 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

          コンサートマスター:依田 真宣

        (2023.9.9 @ひらしん平塚文化芸術ホール)

ボレロと展覧会という名曲に加えて、惑星だけじゃないホルストの瀟洒な弦楽組曲、そして地元平塚のレジェンド歌手、岩崎さんをむかえてオーケストラ編曲伴奏で歌曲。
クラシック初心者から、ある程度の聴き手までを満足させるプログラムでした。

ヴォーン・ウィリアムズとともに英国の民謡を収集し、愛したホルストの面目躍如たる4編からなる弦楽のための組曲。
神奈フィルの弦楽セクションの美しさが光る演奏で、最後にグリースリーヴスの音色が浮かび上がってくるところは、実にステキでした。

もしかしたら、小澤&新日以来、何十年ぶりに聴くボレロの生演奏。
指揮棒なしで指揮をする若い太田くん。
昔聴いた40歳の小澤さんの指揮は、左手だけでずっと指揮をして、弦が奏で始めたら指揮棒を持った右手で振り始めました。
ともかく全身が音楽をまさにあらわしたような指揮ぶりでした。
もちろん太田くんには、そんな芸風はまだまだはるかに及びませんが、よく頑張りました。
欲をいえば、慎重にすぎたか、展覧会もそうだけど、少しハメをはずしてもいいのかなとも思いましたね。
でも、わたくしは、おなじみの神奈川フィルの皆さんのソロ、ベテランも若い方も、みんなうまくて、それぞれのソロを堪能しました。
とくに今月ご卒業の石井さんのファゴット、味わい深く、しっかりと耳に焼き付けました。

平塚出身の岩崎さん、プロフィール拝見しましたら、私が育ったエリアでもっとも憧れの高校のご出身で、そこから一念発起、郷土を愛するソプラノ歌手になられたとのこと。
二期会の会員でもあり、平塚周辺での活動もかなり活発だった由で、もしかしたら私もどこかで聴いていたかもしれません。
そんな風に、どこか懐かしい、優しい歌声の岩崎さん。
平塚の海を歌った地元産の美しい「なぎさ」、思わず切実な内容に歌唱だった「歌をください」、オペレッタ風、レハールを思わせるような軽やかな「うぬぼれ鏡」。
タイプの異なる3曲を、しっかりと歌い分け、聴き手の耳に優しく届けてくださった。
失礼ながら年齢を感じさせない素敵な歌声でした。
間にストリングスだけで、「夏の思い出」、夏の終わりに後ろ髪ひかれるような雰囲気に。

実は、生演奏で初めて聴く「展覧会の絵」。
いわゆる「タコミミ」名曲なので、リラックスして聴けました。
親しみすぎたメロディばかりなので、思わす、太田くんを差し置いて指が動いてしまうのを必死に押さえましたね(笑)
ここでも堅実・無難な演奏に徹した太田くん。
これまで、ことに「歌」が入るとあまり気にならなかったホールの鳴りすぎる響き。
このホール、前回は2階席で平塚フィルを聴いたときはブレンド感がよく、気にならなかったが、1階席中ほどで聴いた今回は、プロオケが全開したときの威力によることもさることながら、すべての音が前方と上方から降り注いでくる感じで、音が響きに埋没してしまう。
そのかわり、ソロのシーンは実によく聴こえるし、虫メガネで拡大したようにリアルに聴こえる。
一方で、トウッティになるとガーーっと鳴ってしまう。
指揮台は一番苦戦したかもしれませんね。
でも、大オーケストラの迫力を楽しむには充分満足で、多くの聴き手が興奮したこと間違いなし。
平尾さんのシンバルもバッチリ決まった!
展覧会終結と同時に、後ろにいらしたご婦人が、ふぁーーすっごい!と言ってらっしゃった。

思わず、笑顔こぼれるアンコールも、この演奏会のトリとして正解。

あれこれなしに、楽しいのひとことに尽きる演奏会でした。

終演後、ホールをあとにした楽員さんの何人かにご挨拶。
自分にとって懐かしい皆さんに、平塚の地でお会いできたのも嬉しい1日でした。

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これまた久方ぶりにお会いできた、神奈フィル応援メンバーとも再開し、平塚の地の魚で一献。

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鉄火巻は大好物で、最高のおつまみにもなります。

楽しかったーー。

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2023年8月 6日 (日)

フェスタサマーミューザ ヴァイグレ&読響 「リング」

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ベートーヴェンさんも、ヴァケーションを謳歌中。

にやり、としつつも、ほんとはあんまり嬉しくないのかも(笑)

真夏の音楽祭、フェスタサマーミューザのコンサートへ。

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  ベートーヴェン 交響曲第8番 ヘ長調

  ワーグナー   楽劇「ニーベルングの指環」
           ~オーケストラル・アドヴェンチャー~
            ヘンク・デ・フリーヘル編

   セバスティアン・ヴァイグレ指揮 読売日本交響楽団

           コンサートマスター:日下紗矢子

         (2023.8.1 @ミューザ川崎シンフォニーホール)

いうまでもなく、聴衆のねらいは、「リング」。
フランクフルト歌劇場をながく率い、リングの録音もあるし、バイロイトでの経験もあるヴァイグレのワーグナーですから。

しかし、65分ぐらいのサイズは演奏会の後半向きで、前半になにをやるかが、プログラム作成上のおもしろさでしょう。
これまで2度のコンサート鑑賞歴がありますが、ペーター・シュナイダーと東京フィルでは、今回の同じベートーヴェンで4番。
デ・ワールトとN響のときは、シュトラウスの「4つの最後の歌」で、このとき歌ったスーザン・ブロックは、ブリュンヒルデとしても自己犠牲のシーンに登場するという本格ぶりでした。
あと、いけなかったけど、神奈川フィルではスコットランド系の指揮者で、前半はエルガーの「南国から」を演奏している。

そんな前半のベートーヴェン8番は、さわやかで、肩の力がぬけた桂演で、7番と対をなすリズムの交響曲であることも実感できました。
コンサート前、ヴァイグレさんが、プレトークに登場し、この8番のおもしろさを歌いながら語ってくれました。
ヴァイグレさん、いい声ですね、テノールの声域で口ずさむメロディも見事につきます。
日本語もほぼ理解されてるようで、心強い!
ワーグナーの解説では、ワーグナーというと身構える方も多いかもですが、ともかく聴いて、面白いと思ったら帰ったらネットで物語の内容を調べて、長大な音楽にチャレンジを!と語ってました。

低弦から始まる「ラインの黄金」の前奏からリアル・オケリングが眼前で楽しめました。
フリーヘルの編曲は、ヴァイグレさんも語ってましたが、いつのまにか他の場面に自然につながっていく巧みなもので、休止なく、ラストのブリュンヒルデンの自己犠牲に65分でたどり着く、まさにアドヴェンチャー体験です。
ヴァイグレの指揮は、流麗で早めのテンポ設定を崩さず、流れを重視したもので、聴き手は安心して身を任せて聴き入ることができます。
その分、ワーグナーのうねりや、コクの深さのようなものは感じられず、すっきりスマートな今風のワーグナーだと思いまろんした。
もちろんフリーヘルの編曲が、名場面とジークフリートの自然描写的な場面が重きをおいているので、そうしたワーグナーの要素を求めるのは無理かもしれませんが。
そんななかでも、葬送行進曲は、わたしにはサラサラと流れ過ぎて、クライマックスでいつも求める痺れるような感銘はなかったし、最後の大団円でも、あざといタメのようなものも求めたかった。
それでも、全体感と通しで聴きおおせたときの感動はかなり大きく、最後の和音が清らかに鳴り終わったあとも、ヴァイグレさんは指揮する両手を上に掲げつつ、しばし静止し、オーケストラも微動だにしない時間が続いた。
まんじりとしないホール内。
ゆっくりと腕を下ろして、しばし後に巻き起こるブラボーと盛大な拍手。
実によきエンディングでした。
昨今、無謀な早計な拍手やブラボーを非とするSNSなどの書き込みを拝見してますが、今宵はそんなのまったく信じがたい、実に心地よく感動的な大団円でした。
救済の動機を奏でるヴァイオリンの音色が、ハープに伴われてミューザの天井に舞い上がって行くのを耳と目でも実感してしまった。
涙がでるほど美しかった。

鳴りやまぬ拍手に、楽員が引いたあと、ヴァイグレさんは見事だったホルン首席を伴って登場し喝采を浴びてました。

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来年からはワーグナーさんも混ぜてあげて・・・・

短すぎる65分と思う人々に、4楽章形式での「リング」交響曲を提案したい(笑)

Ⅰ「ラインの黄金」 序とかっこいい入城シーンをラストとする第1楽章
Ⅱ「ワルキューレ」 緩除楽章として兄妹の二重唱とウォータンの告別、勇ましい騎行はこの際なし
Ⅲ「ジークフリート」スケルツォ楽章、剣を鍛えるシーンに恐竜退治に森のシーン
Ⅳ「神々の黄昏」  夜明け→ラインの旅→ギービヒ家→裏切りとジークフリートの死→自己犠牲でフィナーレ

1時間45分、マーラーの3番、ブライアンのゴシックなどのサイズでいかがでしょうか。

あとフリーヘル編、存命だったら指揮して欲しかった指揮者はカラヤンですな。

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帰宅してから乾杯。

ヴァイグレさん、アイスラーやるんだ。
歌手が豪華ですよ、さすがオペラの人のコネクション。
ガブラー、マーンケ、ヘンシェル、シュトゥルクルマン。
行こうと思うが平日なのが・・・・

フランクフルトオペラを引退したヴァイグレさんの後任は、注目の若手、グッガイス。
ヴァイグレさんは、どこかほかの劇場に行かないのかな、気になるところです。

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2023年7月23日 (日)

フェスタサマーミューザ ノット&東響 オープニングコンサート

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アロハ着た、ファンキーなサマー・モーツァルトがお出迎え。

2004年に開館、翌2005年から始まったサマーミューザ、18年目の今回、オープニングコンサートに行ってきました。

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 チャイコフスキー 交響曲第3番 ニ長調 Op.29「ポーランド」

          交響曲第4番 へ短調 Op.36

       ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団

          コンマス:グレブ・ニキティン

        (2023.7.22 @ミューザ川崎シンフォニーホール) 

真夏のチャイコフスキーを堪能。

めったに演奏されない3番、全集の一環としてしか録音されない、6つの交響曲の中では一番地味な存在。

あらかじめ、ノット監督のチャイコフスキーの交響曲に対する考えを読んでから望んだコンサートで、氏の思いとする演奏になったと2曲ともに思いますが、両曲で解釈が違った。

ノットが東響の指揮者になって10年。
この間、協奏曲はおろか交響曲も一度もとり上げたことがないそうだ。
海外では4番と5番は指揮しているし、「エウゲニ・オネーギン」も何度も取り上げているという。
オペラの叩き上げの指揮者ノットにとって、チャイコフスキーはフォルテが3つも付いた爆音や、勇ましい金管などではなく、詩情とはかなさに満ちた音楽に神髄があると見出しているようだ。
 また1~3番をよく見通したうえで、さらにはロシアの他の作曲家についても思いを巡らして検証したとも語っている。
ノットの演奏は、同じ演目でも次の日は解釈が違う場合があるというし、ホールによっても変わって来るともいう。
考える人ノットのこうした思いを、東響は完全に理解して、ほんのちょっとの動きや視線などにもすべて反応できているという。

さて3番。
ワタクシは、ハイティンクやアバドのヨーロピアンな演奏が刷りこみで、ロシア系の演奏はほとんど聴いてません。
ゆえに民族臭を一切感じさせない、スタイリッシュなノットの演奏にはすんなりと入りこめ、ワクワク感もひとしおだった。
5つの楽章で、まるでマーラーの7番を思わせる構成は、ノットも語っている。
両端楽章に挟まれた3つの楽章、その両端はワルツやスケルツォで、ど真ん中が詩的な緩徐楽章。
わたしには真ん中の楽章が夜曲のように聞こえたし、その次の4楽章は、奇異でファンタジックな様相を巧みに表出。
一転して終楽章は、一気にギアを上げた感じで。ポロネーズではあるけれど、一気呵成のロンド楽章のような解釈。
私は手に汗するくらいにこの演奏にのめりこみ、ドキドキが止まらなかった。
バレエっぽい様相もあるけれど、こちらはオペラの大団円みたいな壮大さで、高らかに鳴り渡るオーケストラに留飲が下がりました。

後半の4番。
聴き慣れたこちらもユニークな演奏で、冒頭のホルンの抑えた咆哮ぶりは期待していた向きには、冷水を浴びせるような響きだった。

チャイコフスキーがメック夫人に宛てたというそれぞれの楽章の注釈。
①運命の旋律! これが中間部のメランコリックな雰囲気に浸っていても、人間を現実に戻してしまう。
②仕事に疲労困憊。夜中に過去を想う。
③酒を飲んだときのとりとめない観念。
④生きるには素朴な喜びが必要。どんなに苦しくても、その存在を認め、悲しみを克服するために生き続ける・・・・・。

まさにこれ。
圧倒的な1楽章の悲観的な最後も、さほどの狂気はなく、どこか後ろ髪を引かれるもどかしさも伴った。
東響の素晴らしい木管陣が見事だった2楽章は抑制が効いていて、憂鬱度合いは少なめ。
そして、ここでもムードを一転させたのが3楽章。
テンポを速めにとり、一気呵成に、酒酔いの混乱も次の喜びへの前哨戦のようだ。
アタッカで突入した終楽章は、音色の明るさの爆発で、ミューザの高い天井から輝かしい音たちが降り落ちてくるのを体感でき、暑さも吹っ飛ぶ爽快さに脱帽。
決して圧倒感と効果のための盛り上げ感などとは無縁の明るさあふれるエンディングでありました。

おお盛り上がりの会場。
鳴りやまぬ拍手に応え、ノット監督ひとりで登場し喝采を浴びてました。
さらに、この日退団のため最後のステージとなったトランペットの佐藤さんを伴って再度登場、自身も暖かい拍手を長年務めた団員に捧げておりました。
ノットと東京交響楽団の絆の深さを、あらためて感じたチャイコフスキーでした。

ちなみにオーケストラの配置は、対抗配置で、チェロは第1ヴァイオリンの横、その左手奥にコントラバスといった具合で、この配置が、特に3番の場合、実に効果的であったことを最後に書いておきます。

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この日は、遠来の音楽愛好仲間でノットの追っかけをされてますS氏と、アバドの日本一の愛好家のY夫妻と、ほんとに久方ぶりにお会いできました。
短い時間でしたが、みなさんお車関係などで飲めるのはワタクシだけで申しわけなくもビールを一杯。
楽しいアフターコンサートを過ごし、お別れしたワタクシは賑わう川崎の街にひとりフラフラと。

そこで飲んだのが、糖質ゼロのパーフェクトビールの生。
缶では飲んでるけど、生で出てくるのは初めて。

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枝豆食って、唐揚げ食べて、ハイボール飲んで、気分よろしく川崎をあとにしましたよ。

サマーミューザ、次は・・・ふっふっふ🎵

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2023年5月14日 (日)

R・シュトラウス 「エレクトラ」ノット&東響

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ジョナサン・ノットと東京交響楽団のシュトラウス・オペラシリーズ第2弾、「エレクトラ」。

サロメの時と同じく、2公演の一夜目、ミューザ川崎にて観劇。

翌々日のサントリーホールは完売とのこと。

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 R・シュトラウス 楽劇「エレクトラ」

    エレクトラ:クリスティーン・ガーキー
    クリソテミス:シネイド・キャンベル=ウォレス
    クリテムネストラ:ハンナ・シュヴァルツ
    エギスト:フランク・ファン・アーケン
    オレスト:ジェームス・アトキンソン
        オレストの養育者:山下 浩司
    若い召使 :伊達 達人
    老いた召使:鹿野 由之
    監視の女  :増田 のり子
    第1の待女:金子 美香
    第2の待女:谷口 睦美
    第3の待女:池田 香織
    第4の待女:高橋 絵里
    第5の待女:田崎 尚美

  ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団
              二期会合唱団

    演出監修:サー・トーマス・アレン

       (2023.5.12 @ミューザ川崎シンフォニーホール

前作サロメに比べると、日本では格段に上演頻度が下がるエレクトラ。
サロメ以上に、オーケストラメンバーを要してさらに大編成となり、歌手陣も女声ばかり、多くなった。
加えて、劇中の肉親への殺害シーンがあるので、似た筋建てのサロメよりはより残虐になってしまった。

エレクトラの日本初演は、1980年のウィーン国立歌劇場の来演。
そのあと、1986年の小澤征爾指揮で新日フィルのコンサート形式上演、1995年のシノーポリとドレスデンのコンサート形式。
若杉弘&都響(1997)、デュトワ&N響(2003)とコンサート形式演奏が続き、2004年の新国立劇場、2005年の小澤のオペラの森上演。
16年ぶり演奏が、このたびのノット&東響です。
こうしてみると、8回の演奏機会のうち、舞台上演は日本では3度だけなのですね。
今回、最高の演奏を聴くことができて、舞台にぜひとも接したいと思う次第です。
ちなみに、わたくし、小澤さんの新日での演奏を聴いてまして、簡単な舞台を据えての日本語訳上演だったと記憶しますが、小澤さんの抑えに抑えた抑制された指揮ぶりが思い起こせます。

このたびのエレクトラ、なんといってもいまエレクトラ歌手としては、世界一とも言われるクリスティーン・ガーキー。
その圧倒的な声と歌唱に驚かされ、会場の聴衆のまさに息をのむような瞬間が続出しました。
連続する7つの場面の、最初の待女たちによる物語の前段以外、ずっと舞台に立ち続け、歌い続けなくてはならないエレクトラ。
咆哮するオーケストラに対峙するように、その上をいくように声をホールに響かせなくてはならない難役、しかもオーケストラはピットでなく、舞台の上。
昨年のグリゴリアンのサロメもオケに負けない声を飛ばす能力にあふれていたが、ガーキーのエレクトラはまさに、パワーそのもの。
エレクトラが決意を歌い上げたり、母を攻めたり、妹に復讐を迫ったり、弟と歓喜を分かち合ったり、最後には念願成就で爆発したりと、都合5回もエレクトラには絶唱部分があり、それらがみんな鳥肌ものの歌唱だったのがガーキーさんだ。
ガーキーのエレクトラは、海外の放送をいくつも聴いており、2013、2014、2020年のものがある。
これらと比べ、さらにはメットでのブリュンヒルデも含め、私は彼女の発声、とくに喉の奥を揺らすような独特のビブラートがあまり好きではなかった。
その特徴は、ルネ・フレミングにも通じていた雰囲気だ。
しかし、実演を聴いて、ガーキーの声からそうした揺らしは霧消したように感じ、声はよりストレートになったやに感じましたがいかに。
アメリカンな体形の彼女だけれど、その眼力を伴った演技もなかなかで、トーマス・アレン卿のシンプルで的確な演出に味わいを添えてました。
ちなみに、ガーキーさん、滞在中に千葉の震度5の地震を体験してしまい恐怖を味わってしまった様子。
彼女のSNSでは「WHOOP WHOOP WHOOP EARTHQUAKE」と驚愕されてました!

ダークグリーンのドレスのエレクトラ、それに対比して鮮やかなレッドのドレスの妹。
クリソテミスのキャンベル=ウォレスの素晴らしい声にも驚いた。
まっすぐな声で、こちらも耳にビンビン届くし、情熱的な表現も申し分なく、この役の女性らしさもいじらしく、平凡な生活を送りたいと願う場面では感動のあまり涙ぐんでしまった。
このあたりのシュトラウスの音楽は実に見事なものだ。
彼女のジークリンデあたりを聴いてみたい。

レジェンド級のメゾ、ハンナ・シュヴァルツのクリテムネストラは、79歳という年齢を感じさせない彼女の健在ぶりに舌を巻き、逆に苦悩に沈む姿を淡々と歌い、その味わい深さは忘れがたいものとなった。
憎々しい役柄だけど、母の姿も見せなくてはならないが、老いた母の娘の言葉にすがる様子は素晴らしく、ガーキーとの静かな対話が感動的。
シュヴァルツさんは、数々のフリッカ役、ブランゲーネ、アバドとのマーラーなど、いずれも私も若き日々から聴いてきた歌手。
これだけでも忘れがたい一夜になったと思ってる。

ヘロデ王にも通じる素っ頓狂なロール、エギストだけれど、もっと歌ってもらいたいと思ったのがファン・アーケンの声。
トリスタンもレパートリーに持つアーケンさん、バイロイトでタンホイザーを歌っていたようで、調べたら私も録音して持ってました。
エギストの断末魔は、コンサート舞台だと、袖から出たり入ったりでやや滑稽だったがしょうがないですね、すぐに死んでしまう風に書かれてないので。

若いアトキンソンのオレスト、美声だけれど、オケにやや埋もれがちだった。
この声で、英国歌曲などを静かに味わいたいものです。

5人の待女に、日本のオペラ界の実績あるスターが勢ぞろいした贅沢ぶり。
禍々しいオペラのプロローグが引き締まりましたし、エレクトラに唯一同情的な第5の待女の存在も、これでよくわかりました。
いろんなオペラで必ず接しているのは、男声陣も同じくで、安心感ありました。

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ノットと巨大編成の東京交響楽団。
サロメ以上の大音響を一点の曇りもなく、クリアーの聴かせることでは抜群。
場をつなぐ、いくつかのシーンでは、リミッター解除ともいう感じで、ガンガン鳴らしてまして、これまさにシュトラウスサウンドを聴く喜びを恍惚ととにに味わいました。
一方、緻密で精妙だったのがエレクトラとクリテムネストラとの会話で、シュヴァルツの老練な歌いぶりに合わせたもので、耳がそば立ちましたね。
あと、感情的な爆発のシーンも思い切りオーケストラを歌わせ、そのピークのひとつ、姉と弟の邂逅のシーンでの陶酔感は鳥肌ものでした。
コンマスのひとり、ニキティンさんを第2ヴァイオリントップに据えたことも、ソロや分奏が多くあるシュトラウスのスコアを反映してのもので、オケがいろんなことをしているのを見つつ、歌手と字幕を目まぐるしく見渡すことに忙しさと快感を覚えました。
ヴィオラが2度ほどヴァイオリンを持ち換えで弾くシーンがあると事前に読んでいたが、実はそれはわかりませんでした。
ちょっと気になる。

ということで、このコンサートに備え、昨年のサロメいらい、手持ちのエレクトラ音源と映像20種以上をずっと確認してました。
そのあたりの仕上げを次回はしようと考えてます。
しばらく、頭の中がエレクトラだらけとなります。

次のシュトラウスシリーズは、何になるのかな?
無難に順番的に「ばらの騎士」か?
いきなり、「影のない女」を期待したいがいかに。



大喝采のミューザの模様。
youtubeに動画をあげました。

満員の東海道線に乗り帰宅。
乾いた喉をビールで潤し、狂暴なまでに空いたお腹をラーメンで満たし、エレクトラをまた聴きました。

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若い頃なら終演後は、街へ繰り出し一杯やったものですが、もう若くない自分はもうこれで十分。
耳もお腹もご馳走さまでした。

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2023年3月23日 (木)

神奈川フィル @小田原三の丸ホール 

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毎度おなじみ小田原城。

自分の育った神奈川西部エリアに帰ってきてから1年。

小田原と平塚には始終行くようになりましたが、鶴首していたのがこのふたつの街に出来た新しいホールでのコンサート。

平塚のホールは先月に行きました。

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昨年オープンした小田原三の丸ホールでは、待望の神奈川フィルの演奏会♪

お堀のすぐそばの、まさに三の丸が位置した場所にできたホール。

長年、小田原の文化の中心だった市民会館が閉館し、その跡を継いだのがこちらのホール。

市民会館は何度かその舞台にも立ったこともあり、寂しいものですが、この美しい新ホールには今回まったく心奪われました。

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2階のホワイエから望めるお城と背景は丹沢連峰、この左手奥には箱根の山々も見えます。

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落ち着いた雰囲気のホール、先日聴いた平塚ひらしんホールよりも天井高で、音の広がりのよさを予見できる造り。

そして実際に聴いてみて、素晴らしい音響に感嘆。

フォルテからピアニシモまですべてがよく聴こえ、どんな強音でも楽器ひとつひとつが聴こえる分離の良さと、併せて音のブレンド感も豊か。
ずっと浸っていたい安心で気持ちのいい響きと聴こえの良さでしたね。
サントリーホールはいいけど、響き過ぎる。
実にちょうどいい三の丸ホールで、県立音楽堂を新しくしたような音だと思いました。
次は声やピアノも聴いてみないものです。

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  ブラームス    ハンガリー舞曲第1番、第5番

  ドヴォルザーク  チェロ協奏曲 ロ短調

  マーク・サマー  Jukie-O~ジュリー・オー
                     (アンコール)
     チェロ:宮田 大

  チャイコフスキー 交響曲第5番 ホ短調

    飯森 範親 指揮  神奈川フィルハーモニー管弦楽団

        (2023.3.19 @小田原三の丸ホール)

ブラームス、ドヴォルザーク、チャイコフスキーという同時期に活躍した民族色の強い作曲家たち。
しかも昨年のホールオープニングに来演した都響のオールブラームス・プログラムからの流れを意識して飯森さんが選んだものとありました。

それで付け足しとも思われたハンガリー舞曲の意味がわかった。
オーケストラを乗らせ、整える意味、観客も乗せるという意味では短い舞曲はよかったかも。
5番のラストではパウゼに溜めをつくって、飯森さん、観客を振りむいて、どう?っていう仕草をしましてリラックスムードも作り上げましたね。

前半の目玉、宮田大さんのドヴォコン。
ほんとは、エルガーが聴きたかったと思いつつ、実に久方ぶりのドヴォルザーク。
まさにメロディーメーカーだなと楽しみつつ聴きました。
1楽章はソロとオケがしっくりくるまで見守りましたが、楽譜なしの暗譜の飯森さんの指揮がなかなか的確でありつつも、ソロとの齟齬もややあったかな、と思いました。
でもですね、2楽章の牧歌的かつ詩的な演奏はもう絶品。
神奈川フィルの木管のソロの素晴らしさにみちびかれ、チェロソロが入ってくるところなんざ感涙ものでした。
この楽章でのソロとオケとの幸せな交歓の様子、聴いて、見て、本当に幸せな気分になりましたね。
終楽章も好調のまま、なんやら自然に囲まれた小田原の街の緩やかさと、温厚な機微をその音楽と演奏にと感じることができたのでした。
宮田さんの豊かで繊細なチェロの音色は神奈川フィルにぴったり。

アンコールがすごくて、ドヴォルザークを食ってしまったかも。
ジャズチェロというジャンルがあるかどうか知らないが、まさにそんな感じで、ファンキーさリズム、そして歌にあふれた佳曲で、ピチカート、胴たたきも駆使した技巧的な作品。
めちゃくちゃよかった、大拍手でしたよ。

後半は、神奈川フィルも出演のドラマ「リバーサルオーケストラ」でみなさんにすっかりお馴染みのチャイコフスキー5番。
ドラマではこの作品がちょこっとアレンジされて、運命的なあの動機と2楽章のロマンテックな旋律が随所で流れてました。
最終回、オーケストラの存続を決めるコンサートでは、まさにこの交響曲が勝負曲となり、晴れやかなラストシーンとなっておりました。
わたしの席のお隣には小学校高学年ぐらいの少女を伴ったお母さまがいらして、後半が始まるときに少女はお母さんに、「いよいよチャイ5だね」とささやいてました。
こうして、クラシック音楽も広がりを見せていくことに、音楽を聴く前から感動しちゃいました。

この曲が自分も小学生以来大好きで、もう半世紀以上はいろんな演奏で聴いてきましたが、神奈川フィルでの実演はこれが3度目で一番多い。
その神奈川フィルの演奏会も仕事のこともあり、生活環境の変化もありで、実に7年ぶりとなりました。
舞台に並ぶ神奈川フィルのメンバーのみなさん、半分以上は懐かしく、知悉の方々。
そんな神奈フィルメンバーが奏でるチャイ5は、ドラマでも田中圭演じる指揮者、常葉朝陽の言葉によれば、チャイ5はみんなに聴かせどころがある交響曲。
ほんとその通りで、スコアを見ると、どの楽器も、第1も第2もみんなまんべんなく活躍するし、めちゃくちゃ難しいし音符の数もはんぱなく多い作品。
それぞれのソロや聴かせどころでは、〇〇さん、〇〇ちゃん、頑張れとドキドキしながら聴く始末。
プロのオケだからそんな思いは不要だけれども、自分にとって神奈川フィルは、そんな思いでずっと聴いていたオーケストラだった。
聖響さんの時代のときの公益社団法人への法人格見直し時における存続危機に一喜一憂しながら応援したオーケストラ。

7年もご無沙汰してしまった反省と後悔も、このチャイ5の素晴らしい演奏で気持ちの高ぶりをとどめようがない状況になりました。
冒頭のあの動機を奏でる管楽の演奏から、こりゃまずい、涙腺が・・となりました。
オーソドックスな飯森さんの指揮にみちびかれ、観客もすぐにチャイ5に入り込みました。
アタッカで続いた2楽章、若いホルン首席の方、マイルドでブリリアント、完璧でした、心配した自分がバカでした。
めくるめくような甘味さと、感傷の交錯、ロシア系の濃厚さとは真反対にある神奈川フィルの煌めきのサウンドは、かつてずっと聴いていた音とまったく同じ。
石田組長はいなくても、小田原で聴いてるこの音は神奈川フィルサウンドそのものだった。
もうここで泣いちゃうと思いつつ聴いてた。
休止を置いて、まろやかな3楽章。
終楽章もアタッカで続けて、さて来ましたと会場の雰囲気、おっという感じになったのもドラマの効果でしょうか。
堂々と、でも軽やかに、しなやかにすすむ。
指揮の飯森さんも、ときにオケに任せつつ、ときにドライブをかけつつ、すっかりのりのり。
お馴染みの楽員さんたちが、隣同士で聴き合い、確認しあいつつ、体を動かしつつ、そしてなによりも楽しそうに演奏してる。
もうめちゃ嬉しい、テンションめちゃあがり。
そして、ラスト、コーダで金管の堂々たる高らかな咆哮、指揮者は指揮を止めてオケに任せ、その開放的なサウンドが三の丸ホールの隅々に響き渡る。
それを五感のずべてで感じるかのような喜びたるや!
込みあがるような感動と興奮を味わいつつ終演。

声掛けはお控えくださいとの開演前のアナウンスに、ブラボーは飛ばせませんでした。
もう、いいんじゃね、と思いますがね。



飯森さんの合図で、撮影タイム30秒。
しかし、みなさんあわてて起動しても、なかなか間に合いませんねぇ(笑)
こんどは起動タイム1分、撮影タイム30秒でお願いね。

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こちらは1年前の城址公園の桜。

2022年4月8日の撮影ですが、今年はその頃にはもう散ってしまうでしょう。

桜の花は儚いですが、音楽はずっと変わらず、わたしたちの傍らにいてくれます。

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神奈川フィル、また聴きに行こう。

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2023年2月23日 (木)

平塚フィルハーモニー演奏会

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昨年開館した平塚市のひらしん平塚文化芸術ホール

地元のアマチュアオーケストラである平塚フィルの演奏会に行ってきました。

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  シベリウス  交響曲第5番 変ホ長調

  ブルックナー 交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」

  シベリウス  アンダンテ・フェスティーボ(アンコール)

 田部井 剛 指揮 平塚フィルハーモニー管弦楽団

       (2023.02.19 @平塚文化芸術ホール)

ともに変ホ長調の交響曲で自然を賛美するような音楽。

この2曲をプログラムに据えるという果敢な演奏会で、新しいホールでの新鮮な響きにも大感激でした。

30年の歴史がある平塚フィルは、意欲的なプログラムで年2回の演奏会を開いていて、前から聴きたいと思っていました。

人口25.7万人の都市、平塚は私のいまいる町の行政管轄都市で、商業でも栄えた街なので、子供の頃からお買い物は平塚でした。
長く親しんだ街のオーケストラをようやく聴くことができたのも、昨年実家に帰ってきたからでした。

そんな思いを抱きながら聴く、2つの私の大好きな交響曲。
まったく個性の異なるふたつの作品を、しっかりと聴かせてくれた平塚フィルです。
ここまで見事な演奏になるとは思いませんでした。
オーケストラに敬意を表したいと思います。

爽やかなシベリウスは、3楽章に至ってだんだんと熱っぽくなって、見事なエンディングに至りました。
5番はやっぱり好きだな、とつくづく思います。

休憩後のブルックナーも誠意あふれる演奏で、奏者のみなさんが共感しながら演奏しているのがよくわかります。
平塚からは、丹沢連峰と大山が見渡せます。
山々と、湘南の海、自然にも恵まれた平塚でブルックナー。
新しいホールの鮮度高い響きは、過剰な響きがなく、木質感あふれる柔らかなもので、ブルックナーの音楽が響きに埋もれることなく、一音一音、和音のひとつひとつがよく聴き取れました。

田部井さんの熱意溢れる指揮もときおり小さなジャンプも交えつつ、とてもいいと思いました。
なによりも余計なことはせずに、ストレートに速めのテンポを維持しつつ聴かせてくれた。

見渡すと年配の方も多い聴き手のみなさん。
うつむく方はほとんどおらず、この2曲をしっかりと聴いておられました。
 
最後のシベリウスは暖かくも熱い小曲で、わたしも好きな作品。
ストリングスだけで進み、最後にティンパニが締めました。

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平塚といえば七夕。

シートの色にも仕掛けがありました。(気が付かなかったけど)

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コンサートが終了すると、左手奥の壁と窓がすべて解放され、目の前の広場が広がりました。

気持ちいいホールでした。

平塚には以前、平塚市民センターがあって、そちらが文化芸術の中心でしたが、老朽化から閉館し、この文化芸術ホール開館となりました。
中学生のとき、合唱団に入っていたので、地域の合唱コンクールの際は、かつての市民センターの舞台に立ちました。
上位入賞し、都内の虎ノ門ホールの関東大会まで進んだことも懐かしい思い出です。

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平塚駅。

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2022年11月19日 (土)

R・シュトラウス 「サロメ」 グリゴリアン、ノット&東響

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ジョナサン・ノットと東京交響楽団によるコンサート・オペラ、R・シュトラウス・シリーズ第1弾。
「サロメ」を聴いてきました。
コロナ前に、モーツァルトのダ・ポンテ三部作も同じく手掛けたコンビ。
衣装は通常のドレスで、椅子を据えただけで、簡潔な演技でオーケストラの前や後で歌う形式。
演出監修は、サー・トーマス・アレンです。

なんたって、いま、サロメを歌い演じたら世界一とも思われるアスミク・グリゴリアンの日本デビューでもありました。
ミューザとサントリー、どちらに行こうかと悩んだが自身のスケジュールからミューザに。
ほんとは両方とも聴きたかった。

 R・シュトラウス 楽劇「サロメ」

   サロメ:アスミク・グリゴリアン      
   ヘロデ:ミカエル・ヴェイニウス
   ヘロディアス:ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー    
   ヨカナーン:トマス・トマッソン
   ナラボート:岸浪 愛学 ヘロディアスの小姓:杉山 由紀
     ユダヤ人:升島 唯博      ユダヤ人:吉田 連
   ユダヤ人:高柳 圭   ユダヤ人:新津 耕平
   ユダヤ人:松井 永太郎  カッパドキア人:高田 智士
   ナザレ人:大川 博    ナザレ人:岸波 愛学      
   兵士  :大川 博    兵士  :狩野 賢一

  ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団

    演出監修:サー・トーマス・アレン

     (2022.11.18 @ミューザ川崎シンフォニーホール)

100分間、金縛りあったように、まんじりとせずに聴き入り、そしてステージでのグリコリアンに釘付けとなりました。
黒いタイトなドレスをまとったグレゴリアンのサロメ。
椅子に腰かけながら歌う場面がなくても舞台の進行のなかでも放つ存在感。
それは気品をまといつつ、または不安を覚えるようでもあり、足を組みつつ尊大であったりと歌わなくてもサロメを演じてました。
そしてひとたび声を発すれば、ホールを圧し、ホールの隅々までに届く強靭さを示す。
登場してナラボートにすがりつつ欲求を満たさんとする少女のサロメも、ヨカナーンを見て欲望の虜になっていくサロメも、ここでは恋をしたような恋情も感じさせた、こんなサロメの揺れ動きを歌でもって見事に表出。
ビビりまくりの義父へダンスの報酬を要求する「ヨカナーンの首を」という数度の返答も、たくみに歌いわけ、最後通告ではしびれるほどに強く、有無を言わせぬ強烈さがあった。
そしてもちろん、最後の長大なモノローグでは繊細なまでにヨカナーンへの恋情を切々と歌い、しかも熱狂の虜となってしまったように、狂える達成感を歌い上げてみてホール全体を熱く、熱くしてしまった!
強大なほどの声のレンジを感じさせ、どんなにノットがオーケストラを煽っても、それをも超えて響いてくるグリコリアンの声。
強さと繊細さ、声による巧みな表現能力。
ここまでやられちゃうと、受け取る側も疲弊してしまう。
そんなにまですごかったグリコリアン様でした。

2018年のザルツブルグ音楽祭でのサロメを視聴して彼女の特異な才能と美貌に魅入られた次第。
その後、さかのぼって「エウゲニ・オネーギン」のタチァーナ、「エレクトラ」のクリソテミス、「イエヌーファ」「オランダ人」のゼンタ、「賭博者」のポリーナ、「三部作」の3人のヒロインなどを聴いてきた。
やはり、一途な思いの役柄が得意なようで、感情移入が巧みな彼女ならではの歌と演技が、いずれも素晴らしいと思った。
リトアニア出身でご亭主はロシア出身の演出家ヴァシリー・バルハトフ 。
初来日の彼女、日本を好きになっていただいたようで、彼女のサイトを見てみたら「I Love Japan」と書かれていて、抹茶アイスの写真などが添えられてました。
カーテンコールでも、人をたてつつ、でしゃばらず、ステージマナーの所作もステキな彼女でした。

グリゴリアンとジュネーヴで共演歴のあるノット監督率いる東京交響楽団。
日本のオケがこんなに輝かしく、分厚い音と繊細な音色でもって、シュトラウスの万華鏡のような変幻自在の音楽を巧みに表出できるなんて!
ノットの指揮する東響もほんとに素晴らしかった。
歌手たちと事前に細密に打ち合わせてのことだろうが、しかしこの日のノットは思い切りオケを鳴らしていた。
それに負けない歌手たちだろうと踏んでのことだろうし、上に響くバランスのいいミューザのホールの特性も頭にいれてのことだろう。
サントリーでの公演はまた違ったアプローチをするかもしれない。
ピットの中では見ることのできない巨大編成のオーケストラが、分奏したり、打楽器がそんなところで、とか、ともかくコンサート形式のオペラでのビジュアルの喜びも堪能。
スコアで確認したい、ヨカナーンの首を落とすところは、オケ団員が床を踏んで鳴らしていた。

驚きの太っちょヘルデン、ヴェイニウス。
大きなお腹にもかかわらず、思いのほかスマートですっきりとした明快なヘルデン。
すっとこどっこいぶりは薄めだけれど、この必死なヘロデの声は思いのほか力強く耳に届いた。
ワーグナー諸役を持ち役にしているようで、新国あたりでうまく起用したらいいかと思った。

トマッソンのヨカナーンは、P席の横で、オケの上、斜め右で歌った。
ここからの声がホールを圧するすごさで、ブリリアント。
そう輝かしいヨカナーンだった。
オケのステージに降りると、グレゴリアンの声は通るのに、トマッソン氏の声がオケに混濁してしまうこともあった。
聴く位置にもよるかもしれないが、それだけグリコリアンの声がすごかった。
トマッソンは、バレンボイム・ベルリン・チェルニアコフ「パルジファル」でユニークな心優しいバーコード頭のクリングゾルを歌ってます。

バウムガルトナー、たぶん初聴きですが、この人の声もよく耳に届き、凛とした真っ直ぐな声のメゾでした。
ワーグナー諸役ではフリッカとオルトルートを得意役としているようで、こうした歌手はほんとに貴重だし、好きですね!

がんばった日本の歌手たち。
直前にナザレ人からナラボートにまわった岸浪さん、リリカルなお声だったけど、ナラボートの必死さをよく歌ってましたし、ほかの諸役、いずれも安心して聴けるレヴェルです。
こうしたみなさんが、日本のオペラをしっかり支えてくださり、日本各地でクラシック音楽を広めてくださる。
裾野は広く、レヴェルはともかく高いと認識です。

トーマス・アレン卿の演技指導は、ともかく的確で余剰な動きなしで、音楽を阻害しないもの。
ヨカナーンをともかく遠くに置き、手の届かない存在に見せつつ、サロメが興味深々になると手が触れるくらいまでに近づける。
こうした空間の活用はうまいし、各人が椅子に座りながらも何気に表情や演技で歌以外でも参画しているのも、コンサートオペラが無味乾燥にならずに息づいて受け止められることで演出が関与する意味合いがあるというもの。
アレン卿、カーテンコールでグリコリアンに促されて出てきて、ダンスをするなど、相変わらずお茶目でした。

サロメをヘロデが断罪したあと、急転直下のエンディングとなりますが、その瞬間ホールの照明は落とされ、一瞬の暗闇となりました。
最後にも驚愕の感銘が。

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アレン卿に、グリコリアン、きっとのノット監督の人脈でしょう。
ほんとにありがたいことです。
2023年5月は「エレクトラ」が予定されてます。

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ミューザは音がいい。

この日、東海道線で事故があり、ミューザの最寄り駅の川崎駅では各線の混乱が生じた。

あと一本あとだったらたどり着かなかった。

このコンサートも10分遅れでスタート。

ともかく久しぶりの演奏会だし、無事に聴けたし、とんでもなく素晴らしい「サロメ」を堪能しました。

過去記事

 「サロメ」 視聴しまくり、聴きどころ、見どころ

 「サロメ」 二期会公演

 「サロメ」 新国立劇場

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2022年4月10日 (日)

アンサンブル ラディアント 第23回定期演奏会

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神奈川県二宮町の町営生涯学習センター「ラディアン」。

そのメイン施設が「ラディアンホール」で531席のコンパクトなサイズです。

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このホール開設時に創設されたのが、湘南・西湘地区のアマチュアとプロの奏者たちの皆さんによるアンサンブルラディアントです。

創設者の白井英治さんはずっとこの楽団のコンサートマスターを務めていらっしゃいましたが、残念ながら昨年お亡くなりになりました。

小田原の高校を出た私ですが、そのころ、小田原フィルハーモニーにちょっとしたご縁で打楽器で出演することとなりました。
そのときの客演ソロ奏者が、当時読響におられた白井さんでした。
ラロのスペイン交響曲がその演目でした。

白井さんのご家族もそろって音楽家でして、引き続きこの楽団のメンバーです。
そして娘さんの白井彩さんが、今後団長を引き継いでいかれます。
ラディアンという素敵な響きを持つホールとともに、地元に根差した活動をこれからも是非期待したいと思います。

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 第22回 アンサンブル ラディアント定期演奏会

       ~音楽とめぐるヨーロッパ~

  グリーグ   二つの悲しき旋律
          
          胸のいたで、過ぎし春

  ウォーロック  カプリオール組曲

  ヴァイネル   ハンガリーの古舞曲によるディヴェルティメント

  メンデルスゾーン 弦楽八重奏曲 変ホ長調 ~弦楽合奏版~

  ガーシュイン  ララバイ ~アンコール

      アンサンブル ラディアント

      ゲストコンサートマスター:白井 篤
      賛助出演:松本 裕香
           ソモラ・ティボール 
           百武 由紀
           安田 謙一郎
           藤村 俊介  

      (2022.4.9 @ラディアンホール 二宮町)

追悼をこめて演奏されたグリーグは、晩春にさしかかり、まさに桜の散る季節に相応しい音楽と演奏でした。
北欧から始まったい欧州の旅は、透き通るような哀しさと自然の美しさを味わいました。

ついで、悩める作曲家でディーリアスの研究家でもある本名ヘセルタイン、ウォーロックの組曲。
ウォーロックは36歳の自らの命を絶った謎多き作曲家で、「たいしゃくしぎ」という絶望の深淵をのぞいてしまったような歌曲が昔から好きなのですが、それと真反対のルネサンス調のゆかしき舞曲集は、英国王朝の伝統と格式、そしてユーモアも感じさせる音楽。
実演で聴くのは初めてでして、軽やかでしなやかな演奏でありました。
北欧から英国へ行くと、そこは格式豊かな社交の場で、お紅茶でもいかが?という感じになります。
でも英国はタダモノでないですな、表面はそうでも、英国音楽も深すぎる。

さて次はハンガリーのヴァイネルという作曲家の作品で初聴きでした。
ここでは、自国の音楽と言うことでソモラ・ティボールさんがコンマスに。
そして、立奏となりまして、音の圧と自在さがより高まることとなりました。
5つのハンガリー風の舞曲は、なかなかに味わい深く、かつ濃くて独特な響きを醸し出してました。
こういう音楽は、日本人が聴いても血が騒ぐといいますか、リズムを取って動きたくなるもんでして、ホールも熱い雰囲気に満たされましたし、ティボールさんに導かれた奏者のみなさんも、ノリノリで体を大きく動かしながら、アイコンタクトをしながらの熱演ぶりでございました。
東欧の国、ハンガリーに行くと、血の濃さといいますか、民族色が音楽にモロに反映されている感じがします。

後半は、音楽の本場ドイツへ到着。
メンデルスゾーンはユダヤ系だけれども、本物のドイツロマン派の中心人物であり、その伸びやかで明るい音楽は、いつでも癒しになり、そして温暖でうららかな町、二宮にぴったり。
メンデルスゾーンはメロディーメイカーだと、この曲の1楽章を聴いてつくづくわかるし、なんたって17歳の頃の作品とは思えない。
一度聴いたら忘れられないメロディーだと前から思っていたけれど、弦楽合奏版で聴くと、さらにスケール感と立体感が増して、より大きな音楽に聴こえました。
それにしても、ホールを満たすアンサンブルラディアンの響きが輝かしくも感じられたのは、メンデルスゾーンの豊かな音楽ばかりでなく、後半に入って皆さんの集中力と音楽にかけた思いが高まり、それが音にしっかり乗って、聴くわたくしたちにしっかり届いたのでした。
終楽章ものめり込んで聴いてしまった圧巻の盛り上がりで、曲の終結とともに大きな拍手が巻き起こりました!
佳曲、佳演とはこのこと。
ドイツに着くと、やはりそこは豊かで深みもあり、音楽の可能性が幾重にもあると感じる、まさに本場でございました。

コンマスの白井さん(ご自身で5号とおっしゃってました(笑))のご案内で、アンコールはヨーロッパで閉めると思いきや、渡米です、と会場を笑わせていただきました。
旅の終わりに、こ洒落て、小粋なガーシュイン。
誰しもがほっこりと笑みを浮かべてしまうステキな作品で、羽毛のようなサウンドで、4人のソロのみなさんの美しい弱音にも聴き惚れましたし、こうした静かな音楽でスゥイングしちゃうのもいいもんだ。
お休みまえのウィスキーを飲みたくなった。
そんな気分にさせてくれた終点のアメリカ。

なんたって平和がいちばん!

アンサンブル ラディアント、来年は何を聴かせていただけますでしょうか。

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夕景のラディアン。

奥には新幹線が走ります。

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山手には八重桜と、ずっと奥には丹沢山系。

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3月の河津桜もラディアンの見どころでした。

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2021年4月 8日 (木)

アンサンブル ラディアント 第21回定期演奏会

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地元での演奏会、神奈川県二宮町を拠点とする弦楽アンサンブル、ラディアントの演奏会に行ってきました。

家から徒歩数分で味わえる、素晴らしい音楽、何もないけど、そこが魅力の郷里で、それを噛みしめるように楽しめた2時間でした。

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吾妻山の中腹から見た町の様子。

左端にあるのが、町の生涯学習センター「ラディアン」です。

隣接して「花の丘公園」や、ちょっとした小山もあって、家族でも楽しめるエリアです。

法務局もできましたが、ここ一帯は、かつて、神奈川県の園芸試験場でして、広大な農園と2階建てぐらいの試験場建物がありました。

家がこの試験場に、それこそ隣接していて、そもそも出入りはフリーだったので、小・中学校時代の自分にとって、恰好の遊び場でした。
真っ直ぐの舗装された通路は、自転車の練習にもうってつけで、補助輪を外したのもここだし、猛スピードで友達とレースをしたのもここ。
さらに、建物の横には、当時、町内では珍しかった、コカ・コーラの自販機があって、瓶のコカ・コーラを毎日夢中になって飲んだもんです。
あとね、果実の研究もメインでもあったようで、眼前に広がる桃の畑は見事で、春先には、ピンク色の花が鮮やかに咲き乱れるのでした。

こうして昔のことなら、いくらでもすらすら思い出せます(笑)

若い方が、たくさん移住してきて町も新しい風が吹いてますが、こんな昔のことも知って欲しいな、と思う自分です。

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  第21回 アンサンブル ラディアント定期演奏会

       ~弦楽アンサンブルの極み~

  ラター    弦楽のための組曲

  ポッパー   3台のチェロと弦楽のためのレクイエム op.66

      チェロ:安田 謙一郎、藤村 俊介、白井 彩

  シューベルト 弦楽五重奏曲 ハ長調 D956 ~弦楽合奏版~

      アンサンブル ラディアント

      ゲストコンサートマスター:白井 篤
      賛助出演:松本 裕香  百武 由紀
           藤村 俊介  安田 謙一郎

      (2021.4.3 @ラディアンホール 二宮町)

1)英国音楽好きの自分にとって、その美しいレクイエムしか聴いたことのなかったジョン・ラターの弦楽作品を、ここ二宮で聴けるとは思わなかった。
英国民謡をベースに、①「流浪」②「私の青い縁どりのボンネット」③「オー・ウェリー・ウェリー」④「アイロンをかけまくる」。
4曲に、おしゃれなタイトル。アイロンかけまくる、って(笑)
そして、いずれも可愛くって、親しみやすくって、愛らしい曲でした。
現代の作曲家でありながら、保守的な作風で、英国の抒情派の流れをしっかり汲んだラターの音楽でした。
活きのいい1曲目で、ラディアントのアンサンブルもすぐに乗りを得て、聴き手もみんな音楽に入りこむことができた感じです。
ステキだったのが白井さんのソロも含む2曲目で、英国音楽ならではの背景描写も心和むものでした。
同じくメロディアスなソロに始まる3曲目も郷愁さそうもので、涙が出そうになりましたね、いつまでも浸っていたい音楽です。
オスティナート風のくり返しのパターンが楽しいアイロンかけるぞ、の4曲目は、みなさん楽しそうに演奏してました。

今回の3演目のなかで、このラターの作品、いちばん二宮町に相応しい音楽に思います。
慎ましい英国音楽がちょうどいい町。

2)ポッパーのレクイエムも初めて聴く曲。
チェロ3挺がソリストとして、前面に並ぶと壮観ですが、奏でられた音楽は荘重かつ悲しみにあふれた音楽でした。
でもメロディが豊かで、嘆き節というよりは、亡き人を優しく包み込むような、そんな癒しの音楽にもとれました。
いい曲ですね、ご紹介ありがとうございます。
重鎮、安田さんの味わい深い音色、藤村さんのチームを締めるような安定感、白井さんの艶のある音、それぞれに聴きものでした。

MCもつとめられたゲストコンマスの白井さんが、コロナ対策で通気をよくするために、舞台左右の反射板を外して、かわりに幕を設置した。
しかし、これでは音がデッドになりすぎるので、ステージマネージャーの松島さんが7キロもある鉄板を何枚も用意して奏者の足元に敷いたとご案内されました。
これによりかなりの音質改善がなされたはずだとのことです。
確かに、ステージ自体、そのものが弦楽器の胴みたいに響いて鳴ったのかな、とか思いました。

3)「次は長いです」白井さんが(この日、ステージには白井さんが5人)、これだけは言っておいて欲しいと言われたので、ということでお話しされ、場内は笑いに包まれました。
確かに、シューベルト、ことに晩年の様式による作品は長いです。
でも、われわれ聴き手は頑張って聴きました、名作を堪能しました。
 ビオラでなくて、チェロを2挺としたシューベルトの五重奏曲は、重厚さがそれだけでもあるが、ここではオリジナルの5人の奏者をソロのように仕立て、弦楽合奏をそこに配し、さらに低弦にコントラバスも追加したもので、白井さんが言われてましたが、コンチェルト・グロッソのような構えの作品となりました。
これが実に面白かった。
ときおり、通常の5人によるオリジナル演奏が入り、また、それを伴奏するかのように弦楽合奏が入り、さらには5つの楽器と合奏がユニゾンで、という感じで飽きることなく目も耳も楽しめました。
シューベルトの音楽には歌があふれていると同時に、死というイメージが影のようにつきまとっていることをいつも聴きながら思うのですが、ここでもそれは感じました。
大きな編成である意味シンフォニックに演奏されたので、よけいにドラマテックになりました。
そしてあのどこまでも美しい第2楽章は、まさに天国的ともいえるうつくしさと儚さを感じた。
こんな素晴らしいシューベルトを、実家の近くで聴けるなんて、アンサンブル・ラディアンとソリストの皆さまたちに感謝、感謝です。

アンコールは、楚々たるシューベルトのセレナーデが演奏されました。

来年も楽しみにしております🎵

ラディアン花の写真館

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満開の桜、逆光ですが奥がラディアン。

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かぐわしい香りがしてたライラック。

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もう咲き終えてしまったけど桃の花。

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初秋の収穫が楽しみな梨の花。

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翌朝は、ラディアン朝市にも行ってきましたよ。

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2020年2月16日 (日)

アンサンブル・ラディアント演奏会 広上淳一指揮

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ほころびだした河津桜。

悲しい音楽家たちの訃報、不安な感染の蔓延、国策への大いなる不満・・・・いろんな出来事が継続します。

しかし、季節は確実に進んでます。

春はやってきます。

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これを聴きに、実家のある神奈川県の二宮町へ。

家と目と鼻の先にある町の生涯学習センター「ラディアン」の大ホールでの演奏会。

このホール開設時に創設された、湘南・西湘地区のアマチュアとプロの奏者たちの皆さんによるアンサンブルがラディアントです。

今年で、ラディアンも20周年、このアンサンブルも20周年です。

年1回のコンサート、ずっと気になっていたけれど、なかなか帰ってくるタイミングに合わず、今回が初の鑑賞となりました。

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  ヴィヴァルディ 「調和の霊感」より第11曲

  バッハ     ヴァイオリン協奏曲第2番

      Vn:白井 英治  長岡 秀子
     Vc:安田 謙一郎

  バルトーク   弦楽のためのディヴェルティメント

  武満 徹    3つの映画音楽

     「ホゼー・ドレス」~訓練と休憩の音楽
     「黒い雨」~葬送の音楽
     「他人の顔」~ワルツ

  アンコール~「ダニー・ボーイ」

    広上 淳一 指揮 (後半)

     アンサンブル・ラディアント
       コンサート・マスター:白井 英治
       賛助出演:長岡 秀子 安田 謙一郎
            Vla 百武 由紀

        (2020.2.15 @二宮町 ラディアンホール)

地元や周辺の方々で満席。
町長もいらっしゃいました。

広上さんの登場は後半。

のびやかなヴィヴァルディ。
次のバッハよりは、このアンサンブル向きかも。
おだやかな二宮町の風土には、バッハよりはヴィヴァルディだな、とほっこりしながら聴いてました。
各パートが、プロの皆さんがトップで引き締まります。
ただ、チェロパートが厚く、ヴィオラパートが薄い、これはアマチュアアンサンブルでは付き物の悩みかもです。
それが、広上さんの指揮が入ると、まったく関係なくなるのが、やはり指揮者という存在の大きさと、広上さんの実力。

リーダー白井さんのかくしゃくたるヴァイオリンソロ。
艶もあってなかなかのもの。
そのお名前と、お顔、聴きながら、わたくしの遥か昔の遠い記憶をたどってました。
高校生のとき、小田原フィルハーモニーのお手伝いをしたことがありました。
打楽器をやらせてもらって、定期演奏会のステージにのりましたが、そのときの、ヴァイオリンのソリストが、当時、読響に在籍されていた白井先生でした。
曲目は、ラロのスペイン交響曲だった・・・・
 そんな風に思いながら、自分の育った町の、自分の育った家の真ん前のホールで聴いた、前半のヴィヴァルディとバッハなのでした。

後半は、広上さんが登場して、そんなノスタルジーに浸っている暇はなくなりました。
そう、緊張感のたぎる、集中力の高い演奏に、わたくしも、おそらくバルトークや武満なんて、日頃は聞いたことがない多くの聴き手も、ステージの演奏に釘付けになってしまったのでした。

バルトークでは、協奏交響曲のように、各首席のソロが腕達者な皆様の見事さもあって、その構成が浮き彫りにされます。
同時に新古典的な簡潔さと、バルトークならではの土臭さ、というかマジャール的な音のウネリが1楽章から湧き上がるのを感じました。
そう、前半と大違いの雰囲気に、ホールの空気もガラリと変わってしまったのです。
2楽章のミステリアスな美しさはこの日の演奏のなかでも白眉のものです。
3楽章も、ハンガリーを感じさせる民族色もよく出ていまして、気合の入った広上さんの指揮のもと、奏者のみなさんは、食らいつくようにして熱の入った演奏を聴かせてくれました。
 とてもいいバルトークが聴けました。

最後は、組曲のように編まれた武満の映画作品。
これもステキな音楽。
ピチカートが楽しかった第1曲。
深刻なレクイエムのような「黒い雨」。
小説で読みました、スーちゃんの演技も映画では素晴らしかった。
そんなことも去来しつつ聴いた、音楽に、そして繊細な演奏でした。
最後は、聴衆を乗せてしまう魅惑の禁断のワルツ。
これも本で読んだ安部公房作品。
デカダンなその音楽、ハチャトゥリアンのあの曲も感じさせながら、でも日本人の気持ちのツボを押さえたようなワルツの音楽。
シンプルだけど、いろいろ意味深な武満シネマサウンドを、広上さんは、わかりやすく、ひも解くように指揮。

会場も大いに沸きました!

最後に、白井さんと、マエストロ広上さんのトーク。
茅ヶ崎ゆかりの出自などを、楽しくお話しされ、会場も大いに親近感がわいたマエストロ。
コバケンさんの、という前触れ付きで、アンコールは、「ダニー・ボーイ」

郷愁とともに、盛り上がりましたね!

来年はなにを聴かせてくれるのかな、いまから楽しみです。
最愛の地元で聴く音楽。
ありがとうございました。

Radian-5  

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