ミレッラ・フレーニを偲んで ②
ミレッラ・フレーニ(1935~2020)の逝去を悼み、2本目の記事は、彼女の音源をいろいろ聴いて偲びます。
始めて買ったフレーニのレコードが、これも初めての「ラ・ボエーム」です。
中学生のとき、発売早々に買いました。
たしか、舞台設定と同じ頃の季節は冬でした。
来る日も来る日も、ミミとロドルフォのアリアと、ふたりの二重唱を聴いてました。
でも、4幕はミミの死が辛すぎてたどり着かなかったです。。。
プッチーニ 「ラ・ボエーム」
ベルリンフィル初のイタリアオペラ録音。
そしてDGではなく、デッカ録音というところが当時は話題になりました。
そう、確かにオーケストラの威力は強力で、録音もソニックステージで、分離が鮮やか、かつ擬音もたっぷり入って雰囲気豊かなものでした。
当時好きな子もいたりして、その子をミミにあてはめたりしていた中坊でした。
だから、このフレーニの愛らしいミミが、今に至るまで、私の「ザ・ミミ」なのです。
フレーニのミミは、かけがえのない唯一無二の存在です。
ミミの死は、ほんとうに泣いちゃいます。
プッチーニ 「マノン・レスコー」
「蝶々夫人」
フレーニには、いずれも他に録音がありますが、シノーポリとのこちらが好きです。
いろんな女性の姿を描き続けたプッチーニの各タイトルロールへの想いが、フレーニによって、そのまま歌い込まれてます。
いずれも最後には、命を落としてしまう、気の毒な役柄ばかりだけれども、それゆえに、フレーニの優しくも暖かい歌声が胸にしみます。
あとは、「トゥーランドット」のリュウと、「ジャンニ・スキッキ」のラウレッタがフレーニらしい可愛さを味わえますね。
モーツァルト 「フィガロの結婚」
フィガロのスザンナと、「ドン・ジョヴァンニ」のツェルリーナもフレーニの得意のレパートリーでした。
コリン・デイヴィス指揮するBBC響とのフィリップス録音は、活気あふれる快速テンポにのって、快活で元気なスザンナを生き生きと歌ってます。
ベームのフィガロの映像盤では、プライのフィガロとともに、抜群のコンビを組んでますが、そちらは以前にビデオ収録したもののいまや見れませんし、正規盤をいつか欲しいと思ってます。
そして、アバドがスカラ座時代に上演したフィガロでは、このふたりが入れ替わって、プライが伯爵、フレーニが伯爵夫人ロジーナを歌ってます。
以前にも、こちらのブログでも取り上げましたが、フレーニの伯爵夫人は、あたりを打ち払うような穏やかさと気品にあふれた歌唱で、とても落ち着きがあります。
でも、わたくしたちには、フレーニはスザンナですね。
ビゼー 「カルメン」
フレーニといえば、ミカエラも忘れちゃいけませんね。
ファムファタールのカルメンに対して、切なさ一杯の待つ女性、ミカエラをこれまた愛らしく歌ってます。
自分なら、おっかないカルメンなんかから逃げて、こんなかわいいミカエラちゃんを、ちゃんと選びますね。
マスカニーニ 「友人フリッツ」
血なまぐさいカヴァレリアのあとに書いたマスカニーニの牧歌的オペラといわれる、ハートウォーミングな愛すべきオペラ。
まだブログで取り上げてませんが、マスカーニのオペラは、レオンカヴァッロ、ジョルダーノとともに、着々とそろえています。
同郷のパヴァロッティとの共演では、ボエームのそれとともに、抜群の声のコンビネーションです。
他愛もないドラマですが、ここにたくさん散りばめられたアリアの数々は、とても素敵なものばかりで、なおかつ優しいフレーニの声向きのものですから、若きフレーニの瑞々しい、フルーティーな歌声が大いに楽しめます。
こういう歌を聴くと、いまやこんな歌声の歌手はいないな、とつくづく彼女の存在がありがたく感じられるものです。
それは同じく若いパヴァロッティにも言えることです。
チャイコフスキー 「エウゲニ・オネーギン」
「スペードの女王」
チャイコフスキーのこのふたつのオペラもフレーニは得意にしておりました。
スーブレットから、徐々に声に力感も増して、リリコ・スピントの役柄までを幅広く歌うようになったフレーニ。
そんな一環としてのチャイコフスキーのオペラ。
夫君のギャウロウの指導などもあったかもしれません。
タチャーナも、リーザもどちらも、私には理想的な歌唱でして、ロシア風のほの暗さやたくましい歌いまわしとは、まったく隔絶した、透明感あふれるクリーンでクリアな歌です。
西欧側のチャイコフスキーとして、最高の歌であり、指揮者もオーケストラも同様の響きを感じます。
大好きな「手紙の場」を何度もここだけ聴きましたし、いまも聴いてます。
不安と焦燥、そしてそれが情熱へと変わっていくタチャーナの心情をフレーニは見事に歌い込んでます。
ヴェルディ 「シモン・ボッカネグラ」
「ドン・カルロ」
「エルナーニ」
「オテロ」
やっぱりヴェルディ。
フレーニの歌うヴェルディは、正統派ソプラノの理想のヴェルディという言葉しかない。
数々の録音あれど、非正規のものもここにあげてしまうほど、そのライブが素晴らしい。
マリア、エリザベッタ、ドンナ・エルヴィーラ、デスデモーナ。
アバドのシモンは、わたくしの生涯の思い出の日本での上演と、完成度の極めて高いイタリアオペラのレコードの最高峰のふたつでフレーニが歌ってます。
父と恋人を愛する純なマリアです。
スカラ座のライブのドン・カルロは貴重な音源で、録音もステレオでよいです。
いつも上演していたメンバーをカラヤンにかっさわれて録音もそちらで行われてしまったので、フレーニ、カレーラス、カプッチルリ、ギャウロウ、オブラスツォワとそろった超豪華キャストは捨てがたいものがありますし、しかも5幕版です。
ここでのエリザベッタは、気品と悲劇性とが見事に溶け合った名唱であります。
アバドとのドン・カルロでは、あとウィーン国立歌劇場でのFMライブも持ってまして、フレーニがここでも最高、聴衆の喝采が止みません。
初期オペラに特有の荒唐無稽ぶりが満載の「エルナーニ」でも、夫君のギャウロウと共演。
3人の男性に愛されてしまうという悩み多き女性ですが、初期ゆえにふんだんなアリアと歌の数々がここにあふれてます。
しかも、まだスカラ座就任前のムーティの強靭なカンタービレに乗ってうたうフレーニの歌声は素晴らしいです。
デスデモーナは、カラヤンの正規録音もいいですが、やはりカルロス・クライバーの情熱ほとばしる指揮と、カプッチルリのイヤーゴが聴けるライブ盤でのフレーニがよい。
運命と夫の妄想にもてあそばれる、この悲劇的な役柄も、やはりフレーニ向きで、実に素晴らしい。
終幕の「柳の歌~アヴェマリア」を聴きましょう。
その清らかなフレーニの歌声に、在りし日の、わたしたちの名歌手フレーニを偲びます。
スカラ座来日公演 クライバー指揮
フレーニを偲ぶ特集。
最後はミミ。
「わたしの名はミミ」そして、最後の場面を聴いて涙をひとしずく・・・・・
ミレッラ・フレーニさん、たくさんの歌をとどけていただいて、ほんとうにありがとうございました。
これからも、ずっとずっと、あなたの歌声を聴いてまいります。
その魂が安らかならんこと、心よりお祈り申し上げます♰
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