R・シュトラウス 「サロメ」 グリゴリアン、ノット&東響
ジョナサン・ノットと東京交響楽団によるコンサート・オペラ、R・シュトラウス・シリーズ第1弾。
「サロメ」を聴いてきました。
コロナ前に、モーツァルトのダ・ポンテ三部作も同じく手掛けたコンビ。
衣装は通常のドレスで、椅子を据えただけで、簡潔な演技でオーケストラの前や後で歌う形式。
演出監修は、サー・トーマス・アレンです。
なんたって、いま、サロメを歌い演じたら世界一とも思われるアスミク・グリゴリアンの日本デビューでもありました。
ミューザとサントリー、どちらに行こうかと悩んだが自身のスケジュールからミューザに。
ほんとは両方とも聴きたかった。
R・シュトラウス 楽劇「サロメ」
サロメ:アスミク・グリゴリアン
ヘロデ:ミカエル・ヴェイニウス
ヘロディアス:ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー
ヨカナーン:トマス・トマッソン
ナラボート:岸浪 愛学 ヘロディアスの小姓:杉山 由紀
ユダヤ人:升島 唯博 ユダヤ人:吉田 連
ユダヤ人:高柳 圭 ユダヤ人:新津 耕平
ユダヤ人:松井 永太郎 カッパドキア人:高田 智士
ナザレ人:大川 博 ナザレ人:岸波 愛学
兵士 :大川 博 兵士 :狩野 賢一
ジョナサン・ノット指揮 東京交響楽団
演出監修:サー・トーマス・アレン
(2022.11.18 @ミューザ川崎シンフォニーホール)
①100分間、金縛りあったように、まんじりとせずに聴き入り、そしてステージでのグリコリアンに釘付けとなりました。
黒いタイトなドレスをまとったグレゴリアンのサロメ。
椅子に腰かけながら歌う場面がなくても舞台の進行のなかでも放つ存在感。
それは気品をまといつつ、または不安を覚えるようでもあり、足を組みつつ尊大であったりと歌わなくてもサロメを演じてました。
そしてひとたび声を発すれば、ホールを圧し、ホールの隅々までに届く強靭さを示す。
登場してナラボートにすがりつつ欲求を満たさんとする少女のサロメも、ヨカナーンを見て欲望の虜になっていくサロメも、ここでは恋をしたような恋情も感じさせた、こんなサロメの揺れ動きを歌でもって見事に表出。
ビビりまくりの義父へダンスの報酬を要求する「ヨカナーンの首を」という数度の返答も、たくみに歌いわけ、最後通告ではしびれるほどに強く、有無を言わせぬ強烈さがあった。
そしてもちろん、最後の長大なモノローグでは繊細なまでにヨカナーンへの恋情を切々と歌い、しかも熱狂の虜となってしまったように、狂える達成感を歌い上げてみてホール全体を熱く、熱くしてしまった!
強大なほどの声のレンジを感じさせ、どんなにノットがオーケストラを煽っても、それをも超えて響いてくるグリコリアンの声。
強さと繊細さ、声による巧みな表現能力。
ここまでやられちゃうと、受け取る側も疲弊してしまう。
そんなにまですごかったグリコリアン様でした。
2018年のザルツブルグ音楽祭でのサロメを視聴して彼女の特異な才能と美貌に魅入られた次第。
その後、さかのぼって「エウゲニ・オネーギン」のタチァーナ、「エレクトラ」のクリソテミス、「イエヌーファ」「オランダ人」のゼンタ、「賭博者」のポリーナ、「三部作」の3人のヒロインなどを聴いてきた。
やはり、一途な思いの役柄が得意なようで、感情移入が巧みな彼女ならではの歌と演技が、いずれも素晴らしいと思った。
リトアニア出身でご亭主はロシア出身の演出家ヴァシリー・バルハトフ 。
初来日の彼女、日本を好きになっていただいたようで、彼女のサイトを見てみたら「I Love Japan」と書かれていて、抹茶アイスの写真などが添えられてました。
カーテンコールでも、人をたてつつ、でしゃばらず、ステージマナーの所作もステキな彼女でした。
②グリゴリアンとジュネーヴで共演歴のあるノット監督率いる東京交響楽団。
日本のオケがこんなに輝かしく、分厚い音と繊細な音色でもって、シュトラウスの万華鏡のような変幻自在の音楽を巧みに表出できるなんて!
ノットの指揮する東響もほんとに素晴らしかった。
歌手たちと事前に細密に打ち合わせてのことだろうが、しかしこの日のノットは思い切りオケを鳴らしていた。
それに負けない歌手たちだろうと踏んでのことだろうし、上に響くバランスのいいミューザのホールの特性も頭にいれてのことだろう。
サントリーでの公演はまた違ったアプローチをするかもしれない。
ピットの中では見ることのできない巨大編成のオーケストラが、分奏したり、打楽器がそんなところで、とか、ともかくコンサート形式のオペラでのビジュアルの喜びも堪能。
スコアで確認したい、ヨカナーンの首を落とすところは、オケ団員が床を踏んで鳴らしていた。
③驚きの太っちょヘルデン、ヴェイニウス。
大きなお腹にもかかわらず、思いのほかスマートですっきりとした明快なヘルデン。
すっとこどっこいぶりは薄めだけれど、この必死なヘロデの声は思いのほか力強く耳に届いた。
ワーグナー諸役を持ち役にしているようで、新国あたりでうまく起用したらいいかと思った。
④トマッソンのヨカナーンは、P席の横で、オケの上、斜め右で歌った。
ここからの声がホールを圧するすごさで、ブリリアント。
そう輝かしいヨカナーンだった。
オケのステージに降りると、グレゴリアンの声は通るのに、トマッソン氏の声がオケに混濁してしまうこともあった。
聴く位置にもよるかもしれないが、それだけグリコリアンの声がすごかった。
トマッソンは、バレンボイム・ベルリン・チェルニアコフ「パルジファル」でユニークな心優しいバーコード頭のクリングゾルを歌ってます。
⑤バウムガルトナー、たぶん初聴きですが、この人の声もよく耳に届き、凛とした真っ直ぐな声のメゾでした。
ワーグナー諸役ではフリッカとオルトルートを得意役としているようで、こうした歌手はほんとに貴重だし、好きですね!
⑥がんばった日本の歌手たち。
直前にナザレ人からナラボートにまわった岸浪さん、リリカルなお声だったけど、ナラボートの必死さをよく歌ってましたし、ほかの諸役、いずれも安心して聴けるレヴェルです。
こうしたみなさんが、日本のオペラをしっかり支えてくださり、日本各地でクラシック音楽を広めてくださる。
裾野は広く、レヴェルはともかく高いと認識です。
⑦トーマス・アレン卿の演技指導は、ともかく的確で余剰な動きなしで、音楽を阻害しないもの。
ヨカナーンをともかく遠くに置き、手の届かない存在に見せつつ、サロメが興味深々になると手が触れるくらいまでに近づける。
こうした空間の活用はうまいし、各人が椅子に座りながらも何気に表情や演技で歌以外でも参画しているのも、コンサートオペラが無味乾燥にならずに息づいて受け止められることで演出が関与する意味合いがあるというもの。
アレン卿、カーテンコールでグリコリアンに促されて出てきて、ダンスをするなど、相変わらずお茶目でした。
サロメをヘロデが断罪したあと、急転直下のエンディングとなりますが、その瞬間ホールの照明は落とされ、一瞬の暗闇となりました。
最後にも驚愕の感銘が。
アレン卿に、グリコリアン、きっとのノット監督の人脈でしょう。
ほんとにありがたいことです。
2023年5月は「エレクトラ」が予定されてます。
ミューザは音がいい。
この日、東海道線で事故があり、ミューザの最寄り駅の川崎駅では各線の混乱が生じた。
あと一本あとだったらたどり着かなかった。
このコンサートも10分遅れでスタート。
ともかく久しぶりの演奏会だし、無事に聴けたし、とんでもなく素晴らしい「サロメ」を堪能しました。
過去記事
「サロメ」 視聴しまくり、聴きどころ、見どころ
「サロメ」 二期会公演
「サロメ」 新国立劇場
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