19世紀アメリカ・ピアノ作品集 越山沙璃
暮れどきの東京タワー。
この暑い時期の夕暮れは、淡くて、くっきりとした冬の夕焼けとも違って、とても美しいのです。
ゴットシャルク、マクダウェル、スーザ 19世紀アメリカ・ピアノ作品集
ピアノ:越山 沙璃
ゴットシャルク 「バンジョー」
「プエルト・リコの思い出」
スーザ 「ワシントン・ポスト」
「海を越えた握手」
マクダウェル 『2つの幻想的小品』
「物語」、「魔女の踊り」
ゴットシャルク 「アンダルシアの思い出」
「バナナの木」
マクダウェル 『忘れられたおとぎ話』
「王子の戸外での歌」、「仕立屋と熊」
「薔薇の園の美女」、「妖精の国」
スーザ 「忠誠」
「星条旗よ永遠なれ」
マクダウェル 『森のスケッチ』
「野ばらに寄す」、「鬼火」、「昔ひそかに会った所で」
「秋に」、「インディアンの小屋から」、「睡蓮に寄す」
「リーマスおじさんの話から」、「荒れ果てた農園」
「草原の小川のほとり」、「日暮れの語らい」
ゴットシャルク 「ユニオン~国民歌による演奏会用パラフレーズ」
(2015.6.15 @岸和田 むくの木ホール)
いつもお世話になってますEINSÄTZ RECORDSさんの、APPLAUDIRレーベル新録音第2弾、アメリカのピアノ音楽を聴きました。
第1弾は、金田仁美さんによるビゼーのピアノ作品集でした。
そして、今回は、19世紀のアメリカのピアノ音楽という、極めてユニークな1枚です。
これには、唸りましたね。
しかも、ピアノを弾いてるのが、関西を中心に活躍するピアニスト、そして、モデルでもある越山沙璃(こしやまさり)さん。
彼女の経歴を、CDからお借りして簡単にご紹介しますと、幼少期をロサンゼルスで過ごしたあと、15歳で、さらに渡米し、カリフォルニア州立大学音楽部にて学び、帰国後は、神戸山手女学院大学音楽部にて、さらなる研鑽を積み、演奏活動とモデル活動の両輪でがんばってます。
CDのジャケットも音楽とマッチングしたお洒落な1枚だし、リブレットには、モデルとしての彼女のお写真も、多数掲載されてますよ。
さて、一般に、アメリカのクラシック音楽というと、ガーシュインに始まるジャズとの融合や、コーポランドのような土着音楽を取り入れたものなど、ヨーロッパにない、いわゆる「アメリカ音楽」を思い描きますね。
それ以降の、ユニークなアイヴズや、ロマンティシズムに傾いたバーバーやハンソン、そしてシリアス系のシューマンやピストン、バーンスタイン・・・・という系譜が思い浮かびます。
あとは、ミニマルとか、アフリカっぽいものなどが、後続するわけですが。
しかし、これら20世紀以降に確立した、「アメリカ音楽」としてのカラーリングですが、その前、ヨーロッパそのものの音楽しかなかった18世紀とに、挟まれた19世紀に、脱ヨーロッパの「アメリカ音楽」の創世記に活躍した作曲家も多数いました。
その時代の代表的な3人が、このCDに収録されている、ゴットシャルク(1829~1869)、スーザ(1854~1932)、マクダウェル(1860~1908)です。
ゴットシャルクは、ニューオーリンズ生まれ、ヨーロッパに渡り、名ピアニストとして名を馳せたあと、帰国後は、中南米から北米にかけて楽旅して、その風物に則した、ピアノ作品を主とした作品を残しました。
カリブの風を思わせる爽やかさや、快活さ、そして、ちょっとアンニュイな、ヨーロピアンな雰囲気、たとえばショパンの顔もちらほらするような、そんなユニークな作品たちでした。
南国風の交響曲や、オーケストラ作品もあるので、いずれ聴いてみたいです。
この越山さんのCDでは、冒頭と中間と最後がゴットシャルクで締められてます。
その1曲目、「バンジョー」からして、いきなり耳と身体が惹き付けられちゃいました。
技巧的な作品だけれど、バンジョーという陽気な楽器をいかにも思わせる楽しさを感じ、ノリノリですよ。
越山さんの、技量も舌を巻きます。よくぞこんなに指が廻るもんだと♪
だんだんと、クレッシェンドして熱くなってゆく「プエルトリコの思い出」も楽しくも、物悲しいし、南国のショパン風の「アンダルシア」もいい感じです。
こんな多様なゴットシャルクの作風を、越山さんは鮮明に弾きだしてました。
ちなみに、ゴットシャルクさんは、齢40にて早世してます。
スーザは、いうまでもなく、「マーチ王」として、行進曲ばっかりのイメージが強烈です。
もちろん、「星条旗・・・」は、アメリカの第二国家のような存在になってますが、それらを、作曲者自身の編曲でピアノ作品として、ここに聴くのも、面白いものでした。
元気一杯すぎる、吹奏楽やオケバージョンと違って、弾むリズムが、心地よいスタッカートで引き立ち、気分よろしく、越山さんのはぎれのいい演奏が、実にオツなものなんです。
スーザは、ワシントン生まれ、ヨーロッパ人の血を持ちながら、アメリカに完全特化した人ですが、行進曲以外にも、オペラレッタも多数あるものの、その音源はまったくありません。。
マクダウェルは、かつて、2曲あるピアノ協奏曲をこちらでとりあげました(→)
ニューヨーク生まれで、アイルランドとスコットランドにルーツを持ち、フランスとドイツに学び、このCDの3人のなかでは、一番、ヨーロピアンな雰囲気を持つ人です。
ラフやリストに接し、ヨーロッパ本流の流儀を身に付けたマクダウェルは、帰国後、母国の民謡の採取や研究に勤しみました。
その結実が、このCDにたくさん収録されている小品たちです。
個々にコメントをすることはできませんが、それらのタイトルを読んだだけで、その作品の持つ、詩的で、ロマンティックな雰囲気を読みとっていただけると思います。
陽気なスーザのあとに、こちらのマクダウェルを聴くと、そのしっとりとした温和で柔らかな世界に心が和みます。
一転、越山さんのピアノも、女性的で、優しいタッチも美しいです。
親しみにあふれた「忘れられたおとぎ話」、草原や、野辺、河原など、ナチュラルな風景をも心に浮かんでくるような「森のスケッチ」。
いずれも、ステキで愛らしい作品ばかりで、ピアノを聴く喜びも感じさせてくれる越山さんの演奏です。
これらの曲を聴いていて、グリーグの抒情組曲や、小品集を思い起こしましたし、イギリスの作曲家、アイアランドのピアノ作品にも相通じる優しい世界を感じました。
このマクダウェルさんも、早世で、馬車にはねられてしまったことが要因で、48歳で亡くなってしまいます。
前にも書きましたが、この方が、もう少し活躍できたら、ハリウッドが迎えたコルンゴルトらの亡命作曲家たちが造り上げた、保守的な後期ロマン派の系統ともつながった可能性があったかもしれません・・・・。
CD最後におさめられたのが、ラストを飾るゴットシャルクの大曲ですが、アメリカ国歌も扱われ、愛国の志しと、静かな情熱、そして華麗さとが相混ざった桂曲でありました。
1枚のCDで、一夜のコンサートを楽しんだような気分になる、そんな一貫した流れも感じさせるプログラムの妙と、越山さんのアメリカ音楽にかける思いを感じさせる演奏にございます。
まだまだ若い、越山沙璃さん、これらの曲をますます極めて、これからもアメリカ音楽の楽しさをどんどん発信して欲しいと思いましたし、シューマンやショパン、グリーグも聴いてみたいものです。
今年、6月の出来たてホヤホヤの演奏を楽しませていただきました。
雰囲気あふれる録音と、CDの装丁も素敵なものでした。
大阪発のEINSÄTZ RECORDSさんのAPPLAUDIRレーベル、今後の展開が楽しみです。
是非、聴いてみてください
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