東京都交響楽団演奏会 カネラキス指揮
梅雨明け間近の東京サントリーホール
涼しげなエントランスのグリーン、奥の水辺も夏は気持ちよい
不快指数高めの日々に、爽快な気分にさせてくれたコンサート
人気のピアニスト、沙良=オットがソリストとあって、こんな素敵なスタンド花が。
華美にならない飾らない彼女のピアノにマッチした色合いかと。
ラヴェル ピアノ協奏曲 ト長調
サティ グノシエンヌ 第1番
アリス・沙良=オット
マーラー 交響曲第1番 ニ長調 「巨人」
カリーナ・カネラキス指揮 東京都交響楽団
コンサートマスター:水谷 晃
(2025.7.5 @サントリーホール)
前日の定期とともに、ソールドアウトのコンサート。
ふたりの女性、さらにはメインがマーラーということで人気を呼びました。
わたくしは、カネラキスを前々から海外オケの放送で聴き及んでいて、こんかいの初来日に即座にチケットゲット。
おまけに、ソロが沙良=オットというオマケつきで狂気したものです。
はいそうです、ワタクシはオジサンです。
カネラキスとほぼ同じ背格好、華奢で小柄な沙良=オットがステージに現れるだけで会場の空気が華やいだような気がした。
シルバーに近いドレスはシックで、この日のラヴェルの2楽章の落ち着いた美しさを早くも予見させる。
トレードマークともいえる素足で軽々と登場し、深々と一礼。
カネラキスと目を合わせすぐさまに軽やかに弾き始める、この流れるような一連の所作から、すべてが彼女の音楽だ。
彼女のピアノの音、その弾き姿、聴いて観て、すべてが音楽そのものに奉仕するように没頭感があり、それが嫌味にならず、聴き手の共感を呼ぶ客観性も帯びているところがよい。
完璧な技巧を感じさせるが、それが強調されることなく、音楽を掘り下げて切りこんでゆく必死の姿をそこに感じ、聴き手も同感の思いで彼女の音楽に没頭することになる。
その点で、某YWさんとは大違い。
オーケストラをよく見ながら一緒になって楽しんでる様子も可愛く、正面から見える席だったので、足の指先まで音楽してる感じでよく動いてましたね。
ともかくステキすぎたのが2楽章。
楚々たるオーケストラ、そしてコールアングレのソロとともに、透明感あふれるピアノは、天にも昇るばかり、シルクのようなしなやかさと、清流のような澄み切った透明感を感じさせるもので、ずっとずっと聴いていたい、続いて欲しいと思いつつ聴いた。
急転直下の3楽章では、オーケストラとの活発なやり取りが面白く、息つく間もない。
ふだん聴こえないような音がオーケストラに見出したのもカネラキスの目線か、次のマーラーでもそんなシーンはあった。
ステージから去る沙良=オットは、少し小走りに、ぴょんぴょんと跳ねるように楽屋へ向かいます。
そんな姿もオジサンは見逃しません。
何度かのコールで弾いてくれたのは、得意曲のサティ。
まさにアンニュイ感ただよう、儚さと切なさも味わうことができた一瞬でした。
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マーラーの1番は、カネラキスの得意曲のひとつ。
BBC響との2022年promsライブ録音も所持してまして、promsならではの活気あふれる演奏ですが、また彼女ならではの落ち着きも感じられるものでした。
欧米のメジャーオケをたくさん指揮し、オランダ放送フィルの首席、LPOの首席客演といった有力ポストにもあるカネラキス。
オランダ放送というレパートリーを磨くには好適の立場にあり、コンサートにオペラに、かなり通好みのプログラムを手掛けております。
海外の放送音源から、2018年あたりからカネラキスの名前を注目していて、相当数の音源を保有するに至りました。
そんななかで、いちばん気に入ってるのがラフマニノフのシンフォニック・ダンスと、トリスタンとイゾルデ、法悦の詩、ルトスワフスキ・オケコンなどです。
いまの指揮者にありがちな、後期ロマン派以降の作品に強く、古典系はまだまだ、というところではありますが、オペラでの活動も含めて、こんごともにカネラキスは目が離せない指揮者だと思います。
小柄な彼女ですが、指揮台のうえでは伸び上がったり、左右によく動いて、かなり綿密に指示を出します。
横顔を見ながらの位置でしたが、その眼力や表情の変化などもなかなかのもの。
左手での表情付け、タクトの明快さ、身体能力の高さがうかがえる柔軟性ある動きなど、拝見していてとても気持ちのいい指揮者でありました。
小柄でオット嬢にも負けないスリムなお姿とブロンドを束ねた可愛さ、でもどこからそんなパワーが出るのかと思うくらいに統率力があり、人を引き付ける後ろ姿でありました。
慎重すぎるきらいはあったが、盛り上げも充分なよく歌う1楽章、面白いフレーズが聴こえてくるのも発見だった。
緩急豊かでメリハリのよく効いた2楽章が面白かった。
リズム感のいい指揮に都響がよく反応し、こんなに楽しいスケルツォってないなと思いながら聴き、対するレントラーもよく歌いあげ気持ちが極めてよろしい。
ともかく明朗快活なカネラキスの指揮は2楽章で明確になった。
都響の各奏者の巧さにも助けられ、重さや物憂ささよりは、明るい前向きな歩みを感じさせた3楽章。
このあたりに陰りや若さゆえのほろ苦さを今後、彼女は表現できるようになることだろう。
ちゃんとアタッカで緊張を止めることなく突入してくれた終楽章。
弦への指示も熱く、都響の分厚い弦楽器セクションも大いに荒れて興奮を呼び覚ます。
ヴァイオリン出身のカネラキスの指揮のこの日のハイライトは、このあと静まってからの第2主題。
静やかに、でも細心の丁寧さを持って歌われる弦によるこの美しい旋律、それが徐々に高まる情熱が加わり、気持ちを込めて指揮をするカネラキス、とても感動的なシーンがここで繰り広げられた。
次いで出現する1回目のクライマックスとの対比も鮮やかに決まり、また静まってから第2主題が奏でられるが、ここでの静寂シーンでの緊張感はさらなる精度を求めたくもあり。
でも繰り返される波動のように徐々に迎えるクライマックスの前兆、このあたりはオケの見事さもあり聴きごたえあり。
テンポも少し早めつつ、やってきたコーダは若々しい情熱の発露のようであり、堂々たるフィナーレというよりは、明朗で爽快、一気に駆け抜ける早春譜のようでもあった。
こんな若々しいマーラー、久しぶりに聴いた。
聴き手によっては、もっと爆発的なフィナーレを期待したかもしれないが、わたしには、こんな健康的ヘルシー・マーラーは新鮮だったのです。
女性指揮者と、いまや「女性」でくくることはナンセンスではありますが、しいていえば、若手女性指揮者のトップスリーは、グラジニーテ・ティーラとマルヴィッツ、そしてカネラキスと思ってます。
ミルガたん、カネラキスたん、なんて女の子みたいに呼んでた自分を恥じたい。
また日本に来て欲しいし、オランダ放送、またはロンドンフィルとはガードナーと一緒にやってきて欲しいな。
アメリカのメジャーオケの指揮者になることもありうるな。
鳴りやまぬ拍手に応えてひとり登場したカネラキス。
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