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2006年4月12日 (水)

ヨーハン・ボータ ワーグナー集

Botha_1 「ヨーハン・ボータ」のワーグナー曲集を聴く。ボータはクラシック系には珍しい、南アフリカの出身で40歳。最近売り出し中の旬のテノールで、イタリア系ではリリコからスピントまで、ドイツ系では軽めのヘルデン系を持役にする貴重な存在だ。
しかし、本格的に聴いたことがなく、昨年セールでこのCDを590円で購入したが、未開封のまま放置していた。ジャケット写真が濃くて何だか怖かったのである。(それにしても何で目だけ青いのか?) 週一のテノール祭り(何じゃそれ)の一環として、意を決してプレーヤーのCDを装着してみた。

冒頭「マイスタージンガー」1幕のヴァルターの試験に歌「Fanget an!(始めよ!)」の第一声から、ジャケットの印象は見事に裏切られた。柔らかくもハリのある声で、高域も見事に鳴り響く。その高域は力強くピーンと張りつめていて実演でもオーケストラに負けていないであろう。品格も良く清潔な感じ。いわば言うことがないのだ。ペーター・ザイフェルトに似た感じと言ったらよいか。
収められた作品は「マイスタージンガー」「オランダ人」「ローエングリン」「ワルキューレ」「パルシファル」で、歌いこみが豊かでドラマ性を感じさせるのが、「オランダ人」のエリックと「ローエングリン」で、他も声は素晴らしいものの、それ以上の言葉の練磨が欲しいような気がする。しかし、新鮮な声で次々とワーグナーの名場面が歌われていくさまは快感でもある。

もうひとつ、このCDの良いところは、無用な編曲で尻切れトンボのように各曲を終わらせていない点にある。場面を大事にし、ちゃんとエンディングも収めているし、「ワルキューレ」は15分に及ぶ第3場後半をそっくり演奏している。よって、相方のソプラノ歌手も登場していて、無名ながらなかなかに健闘している。
 そして、このCDの成功の半分は、オーケストラの見事さにある。このレーベルのオペラ・リサイタルはいつも、「アンゲーロフとスロヴァキア放送響」がバックをつとめ、伴奏以上のことをしない平板さに不満があった。先日の「ケルル」でも不満はそこにあった。(3月29日)
今回は、女流「シモーネ・ヤング指揮ウィーン放送響」でハンブルク歌劇場の監督に就任した一流オペラ指揮者であるヤングの素晴らしい指揮ぶりが聴ける。このみずみずしくもオペラテックな雰囲気に満ちた演奏はどうだろう。ワルキューレにおける気品とロマンティシズムの両立はなかなか聴けるものではない。日本の某国営劇場は、こういう人を招聘すべきであろう。

ともあれ、南アフリカ産テノールの「ボータ」君とオーストラリア産指揮者「シモーネ」嬢の南半球コンビのワーグナーは生き生きと輝く聴きものであった。

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