プッチーニ 「ラ・ロンディーヌ」(つばめ) アンナ・モッフォ
今日はプッチーニ行きます。
プッチーニといっても、ただ「ボエーム」や「トスカ」じゃ芸がないから、「ラ・ロンディーヌ」つばめ、というオペラを取上げてみた。
1917年、プッチーニ59歳の円熟期の作品で、この後は「三部作」と「トゥーランドット」が残されている。こんな充実期にありながら、このオペラは全然上演されず、CDもごく僅かしかない。
何ゆえに、人気がないのか? 有名なのはピアノのオブリガートを伴った、主人公「マグダ」の歌うアリア「ドレッタの美しい夢」ぐらいで、名アリアがないこと。
人が死んだり、殺されたりする生々しさがなく、ドラマ性に乏しいことなどが想像される。
でも始めはさりげなく聴いたつもりでも、優しくなじみやすいメロディーが次々と現れるし、オーケストレーションも相変わらず巧みだ。長さも2時間足らずだし、ほんとうは愛すべき魅力的なオペラだったのだ。
大まかな内容は、「ラ・トラヴィアータ」を思い起こせばいい。
舞台はパリ。銀行家「ランバルト」の愛人である主人公「マグダ」は美人だが、ちょっと嫌われ者。よくあるように、サロンに芸術家を呼んで楽しんだりしている。
詩人「プルニエ」は、彼女が「つばめ」のようにロマンスと冒険を求めて飛び立つが、やがて巣に帰っていくように元の生活に戻るだろうと歌う。この「プルニエ」は狂言回し的にも重要な役柄かもしれない。
あるとき、銀行家の友人の息子「ルッジェーロ」が都会パリに憧れ出てくる。この青年に引かれた「マグダ」は、お針子に変装して、夜のパリで「ルッジェーロ」と会い、二人は恋に落ちる。
二人はリゾートの別荘で数ヵ月愛の巣を営むことになる。「ルッジェーロ」は故郷の母に結婚の許しを請うていて、晴れてOKが出て、喜んで「マグダ」に告げる。
折から、詩人「プルミエ」と以前の彼女の小間使いが遊びにきていて、銀行家のオヤジが「いつでもパリに戻っておいで」と言っていることを告げる。
結婚の申出を受けた「マグダ」は、自分の穢れた身の上を語り、偽って結婚するこはできないと涙ながらに別れを告げる。
こんな起伏の少ない内容に付けられた音楽は、放っておくにはあまりに勿体無い。
有名なアリアはもちろん素晴らしいし、2幕のパリの夜の賑やかな社交の場では、ウィーン風のワルツも聞かれる。その幕の最後に、恋人となった二人が楽しそうに立ち去りながら、小間使いのリゼッタが歌いルッジェーロが小粋に口笛を吹いてそれに応えながら遠ざかっていく場面のセンスのよさといったらない。
そして、終幕の別れの場面。初めて知った真実の愛にもかかわらず、自ら身を引いてゆく女性の優しさと悲しさを表わしきった音楽にはホロリとさせられる。
マグダ :アンナ・モッフォ ルッジェーロ:ダニエーレ・バリオーニ
リゼッテ:グラヅィエッラ・シュッティ プルニエ:ピエロ・デ・パルマ
ランバルド:マリオ・セレーニ
フランチェスコ・モリナーリ・プラデルリ指揮RCAイタリアオペラ管弦楽団
(1966年 ローマ)
今年、世を去ってしまった「アンナ・モッフォ」の1966年の録音は、この愛らしいオペラの魅力を味わえるCDだ。
心持ちほの暗い声は、陰りをもったこの役にぴったりだ。
モッフォの美しいお姿を雑誌などで、若い頃から拝見してきた身にとっては、マグダ=モッフォと完全にダブってしまい、終幕の部分などその切ない別れにきゅん、となってしまう。
アンナ・モッフォは、その美貌ゆえ映画にも出演したり、そこでは大胆なヌード!!にもなったりと、大活躍したが、その後スランプに陥り、もの凄い努力を伴なって復調した。70年代のカルメンなど、イメージを一新する活躍を見せた。
私はあまり多くを聴いてはいないが、「ルチア」や「ミミ」などを改めて聴いてみようと思う。
相手役のテノール(バルトーニという人)がなんともオヤジ臭い。そして頼りない。でも要役のピエロ・デ・パルマが実に味のある歌を聴かせて救いをもたらしてくれる。
モリナーリ・プラデルリと生粋のイタリアオケは申し分なし。
そう、舞台にかかりにくいのは、主役に相応しいソプラノがなかなかいないからなのかもしらん。
それから、「トラヴィアータ」とともに、潔く引き際を美しくかざる主人公のオペラとして、「ばらの騎士」、そして素敵なレハールの「微笑みの国」がある。
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コメント
yokochan様今日は。
「つばめ」の日本語字幕付DVDが出るそうです!
しかもマグダはフィオレンツァ・チェドリンスです。
私は彼女の蝶々さんが大好きです。
今年収録されたばかりの最新映像だそうです。
シューマンの「ゲノヴェーヴァ」の日本語字幕付DVDも出るそうですし。
私めもheartbreakの痛手から立ち直れるかもしれません(笑)
投稿: 越後のオックス | 2008年10月31日 (金) 14時10分
越後のオックスさま、こんばんは。
朗報ありがとうございます。
先だってネットラジオでパッパーノの「つばめ」を聴いて、あらためてこのオペラの美しさに惹かれました。
DVD、そしてチェドリンスのマグダとくれば最高に楽しみです。
ゲノヴェーヴァは私の守備範囲外ですが、シューマンのオペラは希少ですねぇ!
最近の要チェックDVDの嵐にワタクシもうお手上げであります。
heartbreakなんて吹き飛ばしましょう!
投稿: yokochan | 2008年10月31日 (金) 23時41分
yokocahn様今晩は。
チェドリンスがマグダを歌い、カルロ・リッツィが指揮した待望のDVD「つばめ」を第2幕の途中まで鑑賞したのですが、複雑な心境です。音楽は確かに放っとくにはもったいない立派なものです。でも脚本とドラマ性とがこのオペラは弱いような気がします。このディスクの演出もうまく言えませんがどこかミスマッチな感じがします。第2帝政時代(ナポレオン3世時代)のフランスが舞台のはずなのですが、いつの時代の何処の国なのか判然としない演出です。こういう演出が好きな人もいるのだと思うのですが、私などはゼッフィレリかシェンクあたりに演出をやって欲しかったと思ってしまいます。大好きな作曲家であるプッチーニのオペラのDVDで退屈感を覚えてしまったのは今回が初めてなので「この映像作品が悪いのではなくオレの鑑賞の仕方が悪いのではないか?オレにセンスが無いからではないか?」などと大いに戸惑っています。「居酒屋」や「ナナ」など第2帝政時代を舞台にした長編を何作も書いた仏文豪エミール・ゾラの小説が結構好きな私としては「つばめ」の演出は第2帝政時代を忠実に再現したオーソドックスなものでやって欲しかったです(ゾラの赤裸々な自然主義文学とヴェリズモオペラの精神には相通じるものがあるのではないかと以前から思っていましたし)。今はそういう演出は時代遅れなのかも知れませんが…大いに期待していたDVDだけにかなり落胆してしまいました。でもチェドリンスは歌唱も容姿も素晴らしいですね。
明日もかなりハードな早朝勤務があります。rvwの交響曲第2番か5番を口直しに聴いてから床につこうと思っております。オペラ鑑賞歴が短い上に、大して沢山オペラを鑑賞しているわけでもない若造が生意気なことばかり書いて申し訳ありません。
投稿: 越後のオックス | 2008年12月 5日 (金) 19時22分
越後のオックスさま、こんばんは。
そうですか!私も以前の朗報を思い出し、見つけたら購入しようかと思っておりますが、音楽と演出のバランスが悪いのですか。
初期2作もそうですが、プッチーニの音楽が素晴らしいのとは裏腹に、劇作の弱さは痛恨ですね。
いずれにしても、私も機会があれば視聴してみたいものです。
レビューをどうもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2008年12月 7日 (日) 23時23分
お久しぶりです。お元気にお過ごしでしょうか。
アンナ・モッフォを検索していたら、懐かしい部屋にたどり着きました。
年度末・年度初めは忙しく、そのうえ母の脳手術後の回復が思わしくなく、クラヲタ様のお部屋が閉じられたこと、あまり実感が伴っていません。
母を見舞って、片道1時間余りの道中でラジオから聞こえてくるアンナ・モッフォの歌声に巡り合いました。没後10年の特集だったようです。
モッフォが番組中母と同い年なことを知り、モッフォの歌手としての道のりに、母の人生を重ね合わせ、しみじみと耳を傾けました。
あんなにおしゃべりが好きだった母がすっかり衰え、こちらの問いかけにやっと答えを返すだけになってしまったことが悲しくて、最後の曲の、あまりにも美しいヴォカリーズを聴きながら、運転中にもかかわらず、涙を禁じえませんでした。
投稿: 聖母の鏡 | 2016年5月21日 (土) 23時42分