J・S・バッハ 「マタイ受難曲」 メンゲルベルク指揮
ブログ更新が、物理的に出来ない。だから、安心して大酒が飲める、というとんでもない言い訳を自ら作りだして、二日間は潰してしまった。ああ、神様、なんという弱い自分でしょうか・・・・。
ところがですよ。ココログによれば、メンテナンスの目的であった、データ分散化・バージョンアップが図れず、むしろ状態が悪化したため、メンテ前の状態に戻した。とのこと。
これっていったい???? おばかさんにもほどがある。上場して喜んでる場合かよ。
また、長期メンテをやるんだそうな。はぁ~。
先般のコンセルトヘボウ管の、生の響きが脳裏に残っているうちに、歴代の主席指揮者達の演奏をたどりながら、録音におけるこのオーケストラの響きを改めて確認してみたかった。
そんな若干のブランクを置いて、取り出したのは、廉価盤になって手が伸びやすくなった、「メンゲルベルク(1871~1951)のマタイ受難曲」。
12月の降誕節を控えて、受難物語を聴くなんて不届きかもしれないが、音楽の持つ重みと凄みは、宗教という枠をこえて、私を捉えて離さない。そういえば、「のだめ・・」でも鳴っていたなぁ。
1895~1945年のコンセルトヘボウ在任中、ほぼ毎年復活祭の時期に「マタイ」を指揮したメンゲルベルク、このCDは1939年4月のSP録音に復刻だが、会場の様子をかなり生々しく捉えている。
1939年というと、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻し、事実上第2次世界大戦が開始された年。日本は、独・伊との3国同盟の準備を進め、41年の真珠湾に向けて戦争へ向けひた走っていた。
冒頭から重々しく、まるで聴く側もイエスの重い十字架を背負わされて、ゴルゴダの坂を歩むかのような思いにさせる。 2時間30分、全編にわたりこうした深刻な重々しさは変わらない。
何よりも違和感を生じるのが、そのロマンテックな解釈。
時に思い切ったポルタメントや、リタルダントを効かせるかと思うと、急速なスピードで驚くべき劇的な響きを聴かせる。通奏低音ですら濃く感じる。レシタティーボも情感たっぷり。
カール・エルプのエヴァンゲリストもドラマティックで激情的。
こんなのあり? 昨今の時代考証を経た奏法からは及びもつかない響きに満たされていて、最初は戸惑ってしまうかもしれない。現代楽器によるリヒター盤を最上のものと思っている私からしても、この今からすれば「太古の響き」には驚きだ。
でもこの響きは、人間の本質をえぐり出したような、切実なもので、魂を揺さぶる音楽解釈が永遠に不変であることを強く認識させる。何度も聴ける演奏ではないが、ああした特殊な時代背景の中、人々が平和を望み、神に祈りながらバッハの音楽に集中する様子がよくわかる。
メンゲルベルクの演奏は、多くを聴いてないが、概してロマンテックな時代がかった解釈ながら、マーラーなどは、没頭系の凄い演奏、との印象をもっている。
この人が、コンセルトヘボウを徹底的に鍛え、時として濃厚な音色を植え付けたとみていい。生きたマーラーとの接点もあるし、ニューヨークpoの指揮者もつとめたから、筋金入りのマーラー指揮者でもあった。
コンセルトヘボウのマーラーとバッハの伝統は、この指揮者にある。
私は「ヨッフムのマタイ」をレコードで親しんだ。そこには古雅で優しい響きがあったが、それより古いメンゲルベルクは、先に触れたとおり緊張感をロマンティックな大河のような流れのなかに歌いこめた。
聴衆のリアルな雑音も、音楽の一部となっている。有名な話だが、すすり泣く聴衆の声が何となく聞き取れる。私も涙ぐんでしまう、「ペテロの否認」の場面「憐れみたまえ」のアリアである。
人類にとってこれは、辛い「マタイ受難曲」かもしれない。
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コメント
メンゲルベルクのマタイか・・・。僕はクレンペラーのものでも「重てぇーッ!」と弱音を吐いたのに。でも、第47曲はアルトのアリア、クレンペラーのルートヴィッヒは泣けます。
9種類持っているマタイの中で一番のお気に入りは、軽くて踊りたくなる、でもシリアスなコープマンのDVD。もうひとつ。映像化されればヘレヴェッヘが日本(オペラシティ?)でやったマタイ。いいです。裡にひしひしと迫ってきます(今日は帰ってきてから2時間かかって、カジモト・イープラスにポゴレリッチのチケットをとるため座りっぱなしでした。おかげでゲット。1/12。12/3のサントリーで買っておくべきだったかなぁ)。
投稿: IANIS | 2006年12月 8日 (金) 00時15分
IANISさん、こんばんは。そうです、このマタイはチョー濃厚です。
昨日から二日かけて十字架を背負うようにして聴きました。
私のほうは、これは例外の盤でして、リヒターとレオンハルトを愛聴してます。コープマンはおもしろそうですね。
1月のポゴレリチのチケットは競争厳しそう。
投稿: yokochan | 2006年12月 8日 (金) 00時45分
こんにちは。マタイって言ったらメンゲルベルクですねえ。私もかなり前に「すすり泣き」を聞きたいがために買いましたっけ。
学生時代に「マタイ受難曲を最初から最後まで聴くと性格が変るってよ!」と友人に誘われて、二人で性格改造のため(それだけではありませんが)にマタイ全曲を聴きに行った事があります。が・・・別に変らなかったです。生マタイはすごく感動しましたけどね。
投稿: naoping | 2006年12月 9日 (土) 11時30分
naopingさん、こんばんは。私は生マタイはまだありません。
絶対いいのはわかってながら、いつもどうも決め手に欠ける顔ぶれで二の足を踏んでます。オケの一般定期ででもやってくれればいいんですが。
年とともに泣けるヶ所が変遷してますが、性格が変わっていっているわけではないようです。
投稿: yokochan | 2006年12月 9日 (土) 21時25分
こんばんは。
メンゲルベルクの演奏を数多く聴いてはいませんが、「マタイ」は今まで聴いたどの演奏よりもユニークだと思いました。
仰るようにエルプのエヴァンゲリストはなかなかです。声がつややかで感情的。指揮者のスタイルにバッチリ合っているように感じます。
投稿: 吉田 | 2009年3月22日 (日) 17時52分
吉田さん、そろそろ受難曲の季節ですが、そんな宗教感はともかくとしても、人間ドラマとして深いバッハ作品に、このメンゲルベルク盤はユニークかつドラマティックなものですね。
聴くのが辛い、強烈なマタイです。
投稿: yokochan | 2009年3月22日 (日) 21時18分
このCDはここにもありますね。すすり泣き声が聞こえる名演とされているのですが、どこにすすり泣きが入っているのかは良く知りません。
この演奏時間はスコアを見ながら聴きましたが30分ぐらいの大幅なカットがあるので3時間行ってないのですね。このテンポで全曲ノーカットなら3時間はすぐ越える代物です。
投稿: 菅野 | 2009年10月18日 (日) 06時11分
yokochan様今晩は。またしても過去ログに書き込み失礼いたします。私が最も苦手なクラシック音楽作品の一つがマタイなのです。難しい曲だからではなく、宗教色が非常に強いからではないかと思っております(私は必ずしも無神論者ではありませんが)。高校時代にリヒターの抜粋盤CDで聴いてもよくわからず、大学時代に小澤&サイトウキネンのビデオを見ても良く分からず、比較的最近になってコープマンの抜粋盤を聴いて初めて面白いと思うようになり、去年になってブリリアントのバッハ大全集に入っているクリストファーズという指揮者の古楽器演奏で聴いてやっと楽しんで聴くことができるようになりました。本当に笑っちゃうでしょう?自分でも情けないと思います。yokochan様のホットな文章を拝読してメンゲルベルク盤も聴いてみたいと思うようになりました。ちなみにヨハネ受難曲も苦手です。ロ短調ミサ曲やカンタータは大好きですが。音楽の捧げものやフーガの技法も大好きです。フーガの技法はどんな編曲や演奏で聴いても面白いですね。今はジャン・ルイ・ストイアマンがピアノで演奏したCDを聴いてみたいです。ヘルマン・シェルヘンは戦前にパリで後期浪漫派風の大管弦楽に編曲されたフーガの技法を演奏したのだそうです。ウォルフガング・グレーザーという人の編曲です。このグレーザー版のCDが欲しかったのですが誰も録音していませんでした。ただ、ベルゲルというハンガリーの指揮者が管弦楽に編曲して指揮したフーガの技法のCDがあることを知り、hmvにて購入しました。ストコフスキーを思わせる重厚で渋い編曲と演奏で大いに満足しました。マタイともメンゲルベルクとも無関係なことばかりで申し訳ありません。
投稿: 越後のオックス | 2009年10月25日 (日) 20時34分
越後のオックスさん、こんばんは。
私はバッハの4大宗教曲はいずれも好きでして、ふたつの受難曲は心の宝物のような存在です。
そしてありきたりですが、その原点はリヒターの峻厳な演奏ですが、このところいくつか聴いた、シュナイトの滋味あふれるバッハにも感銘を受けております。
逆に苦手なのが、「フーガの技法」なんです。
真剣に聴くべきですが、いろんなスタイルがあることも焦点が絞りきれない理由になっているかもしれません・・。
私もこの秋は、見習って「フーガの技法」を聴いてみましょう。なんたって、私のライブラリーにはこの曲が1セットもないのです・・・。恥ずかしい~
投稿: yokochan | 2009年10月25日 (日) 23時41分
今日はたまたま暇だったため、エーリヒ・ベルゲル版フーガの技法をまたまた聴いてしまいました。実は私はフーガの技法ヲタなのかもしれません。五種類のCDを持っております。ベルゲル編曲の大管弦楽版、ミュンヒンガーの室内オケ版、ラインハルト・ゲーゲルの古楽器合奏団による演奏、ブロイアーという指揮者(シュナイト先生のお弟子さんのようです)が編曲・指揮した室内アンサンブル版、それにオランダのファン・デルフトというチェンバロ奏者の演奏です。
二十年来の友人に私と同じくクラヲタでガンダムオタクの人物がおりますが、彼もマタイは大好きだがフーガの技法は近寄りがたい感じがして苦手だと申しておりました。ロ短調ミサも派手な感じがするので苦手なのだそうです。フーガの技法って「じっと苦しみに耐えている東洋の老賢者」という感じがするから好きなのですよ。辛い時に優しく心にしみてくる音楽です。黒田恭一さんはドストエフスキーの最後の長編である「カラマーゾフの兄弟」を思わせるとどこかで書いておられましたが、私にとってはそんなの近寄りがたい曲ではありません。
初めて聴いたのはゲーベル盤です。少しキツイ感じがするので最近はあまり聴かなくなりました。ミュンヒンガーの室内オケ版が一番親しみやすいかもしれません。編曲者はミュンヒンガー自身でしょうか。いい意味で優しい感じがします。二枚組ですが、音楽の捧げものも収録されているのが魅力です。ファン・デルフト盤は楽譜にほとんど手を加えずにチェンバロで演奏しているようです。シュナイト先生の弟子であるブロイアーのが一番変わっています。ビブラフォンやファゴットやモダン・ピアノやオルガンやその他色々な楽器が登場するユニークな編曲であり、演奏でもあります。ブロイアー盤はアルテ・ノヴァからでており、1000円を切る激安価格で入手できますのでお薦めです。そして今一番ハマっているのがベルゲル編曲&指揮の大管弦楽版です。ストコフスキーが編曲したらどうなっていたか考えただけで楽しいですね。あの方のことですから打楽器も入れるのではないのでしょうか。レスピーギ編曲のバッハのオルガン独奏曲に匹敵する名編曲になっていたような気がしてなりません。レスピーギ編曲のバッハのオルガン独奏曲はスラトキンのシャンドス盤で聴けます。フーガの技法は結構奥が深いです。私もこれからも色々なフーガの技法を楽しみたいと思っています。グレン・グールドのピアノ版が未聴ですしね。
投稿: 越後のオックス | 2009年10月26日 (月) 17時38分
越後のオックスさん、おはようございます。
ただいま、大阪に入りまして、バスにてさらに西へと向かっております。
しばし留守をしますが、記事更新もありますよ。
フーガの技法がよほどお好きなご様子にございますね!
なかなか詳細にご案内いただきましたので、マジで聴いてみたくなりました。
私の好きなマリナーもありましたね。
マリナーとシュナイト弟子の2種を狙っとつとつみましょう。
ベルゲルはかなり前に、N響に客演していたと思います。RVWとブルックナーを指揮していたように記憶しております。
投稿: yokochan | 2009年10月27日 (火) 09時52分
こんばんは。マタイは聖金曜日にだからという訳ではないが、ワーグナーの「パルジファル」が絡んでいるようだ。また、「ジーザス・クライスト・スーパースター」というミュージカルがあり、「シェルブールの雨傘」形式のセリフはなくて歌だけで通している。最後の大合唱がボリュームがある。
手元にカラヤン、ベルリン・フィルしかないので比較はできないが、バッハの3時間近くの大管弦楽方式。音楽の父・バッハがここまでやってくれた。
こういったところに注目して欲しいですね。
投稿: eyes_1975 | 2009年10月27日 (火) 20時26分
eyes1975さん、こんばんは。blog再開、うれしく存じます。出張中ですので帰還次第お邪魔しますね。
マタイはバッハのオペラだと思うのです。
ストイックな内容だけに、不謹慎と叱られそうですが、バッハが書いた一番劇的な音楽ですね。
ジーザス・クライスト、テレビですが見ました。
ユダを黒人に据えて、全編ロックでソウルフルな音楽で衝撃でした!
カラヤンのマタイもまた劇的なのでしょうか?
聴いてみたいマタイのひとつです!
投稿: yokochan | 2009年10月27日 (火) 23時04分
今晩は。またまた過去記事に書き込み失礼いたします。私が聴いたマタイの全曲盤はクリストファーズ指揮ではなくクレオベリー指揮でした。訂正してお詫びいたします。
最近マタイがすっかり好きになってしまいました。ドン・ジョヴァンニと並ぶ食わず嫌い&苦手作品だったのに・・・昨日リッカルド・シャイーとゲヴァントハウスのマタイを聴いたのです。心が洗われるような演奏でした。第1曲を驚異の5分台で演奏して物議をかもしたあの演奏です。ガーディナーより速いとは・・・抜粋版ではない完全全曲盤でCD2枚に収まるマタイというのも前例が無いのではないでしょうか・・・マズアやブロムシュテットの時とは全然違う音をゲヴァントハウス管が出しています。リヒターやクレンペラーが重過ぎてついていけないという人にお薦めできるのはシャイーかもしれません。次はヨハネですね。これまたブリュッヘンの快速演奏で聴いてみたいと思います。
投稿: 越後のオックス | 2010年10月 9日 (土) 00時02分
越後のオックスさん、こんにちは。
マタイは、正しく聴きこむと、どんどんはまりますよね。
演奏によって全然様子が違うのもこの名作ゆえですし。
シャイーは2CDということで驚いてます。
なるほどの快速ぶりなんですね。
ゲヴァントハウスも変貌しつつあるんですね。
寂しい気持ちもしますが、一度この耳で確かめなくてはならないと思ってます。
クリスマスになってしまう前にそろそろわたしもマタイを聴こうかと思います。
投稿: yokochan | 2010年10月10日 (日) 13時59分
お早うございます。過去記事に書き込み失礼いたします。神奈川フィル来シーズンプログラム拝見いたしました。現代音楽あり、ポピュラー名曲あり、世紀末音楽あり、隠れ名曲ありの万華鏡のように多彩なプログラムでため息が出ました。
フーガの技法大好き人間の私ですが、またまた名盤に巡り合ってしまいした。仏国のピアニスト・エマールのピアノ演奏です。メシアンやブーレーズに才能を認められ、ブーレーズと作曲や演奏を共にしてきた方で現代音楽やドビュッシーが高く評価されているようですね。バッハやバロックにはこのCDが初挑戦だそうですが、バカテクといってもいいほどの超絶技巧を駆使しながら、それをひけらかすことに終わらず、美しい音色でバッハの最晩年の澄み切った心境を描ききっているのに深い感銘を受けました。フーガの技法はチェンバロでもピアノでもオケでも楽しく、奥が深いです。ブログ主様はマリナー盤を狙っておられるそうですが、マリナー指揮フーガの技法の記事、首を長くして待っております。
投稿: 越後のオックス | 2013年11月 4日 (月) 09時07分
越後のオックスさん、こんにちは。
年々グレードアップしていく神奈フィルのプログラムは、ほんとうに楽しみなものばかりです。
そしてエマールのバッハですね。
エマールはDGに移籍してから、現代ものも含めてより広範なレパートリーを手掛けるようになりましたね。
こんな風に素晴らしく紹介されちゃうと、ピアノ版も聴いてみたくなります。
しかし、フーガの技法への苦手意識はまだぬぐえず、マリナーも含めて、もう少し先、お勉強中というところです。
投稿: yokochan | 2013年11月 9日 (土) 13時39分