バックス 「ウィンター・レジェンド」 B・トムソン指揮
私の愛読書に「酒の細道」という漫画がある。いずれ詳しくご紹介したいと思うが、この作者で、酒好き呑ん平のラズウェル細木氏 には共感しっぱなし。
「酒を飲んでほろ酔い加減になってくると、ウキウキとしてきて脳細胞も活性化して、自分が今抱えている問題や仕事、政治など、思わず膝をたたきたくなるような妙案が次々に浮かぶ」というのだ。 これには、大いに共感。
大事なのはこのとき、必ずメモをとっておくこと。
ほろ酔いから、本格的な酔いに進むと、忘れてしまう。さらに翌日には、頭の冴えていたかに思われた自分は、きれいサッパリといなくなってしまい、何を考えついたか、何を議論したか、すっかり忘れてしまう。でも、その時メモしたり、携帯で自己メールして残したとしてもあとで見ても、何だかわからない。自分の素晴らしさを何も証明できない「しらふ」の自分を発見することになる。トホホの毎日がこうして続くわけである。
今日は、終生アイルランドを愛したロンドン生まれの「アーノルド・バックス(1833~1953)」の「ウィンター・レジェンド(WINTER LEGENDS)」を聴く。「冬の伝説」という文字どおりの直訳で可らしい。
バックスは、すでに第1交響曲を取上げた。
交響曲はいずれも幻想的で、その他たくさんある交響詩やオーケストラ曲、室内楽、器楽、どれもこれもケルト的で、北方的な厳しくシャープな曲が多い。
バックスは女性関係もかなりのもので、ロマンテックでナイーブな気質だったから、もてたんだろう。うらやましいー。
中でも、ピアニスト「ハリエット・コーエン」との不倫関係は、公然の仲だったらしく、彼女に数々の作品を書いている。
そんなひとつが、このレジェンドで、1932年に彼女のピアノ、ボールト指揮のBBC響で初演されている。
そう、この作品は45分を要するピアノ独奏を伴なった7曲の交響曲と同じ構成の、3楽章からなる協奏交響曲なのだ。
古いアイスランドで言い伝え、歌われてきた伝説を意識して書かれたらしいが、英文の解説書はイマイチ私にはわからない。でも、虚心に音楽に耳を傾けているだけで、ジャケットにあるような、寒々しく、荒々しい自然やロマンテックで壮大な光景が目に浮かんでくる。
それぞれに15分あまりを要するが、まず1楽章のダイナミックな響きに、映画音楽を思わせるものを感じる。
「クリント・イーストウッドのダーティーハリー」で、ハリーが犯人を追い詰めるような音楽に聴こえるのは私だけ?
2楽章の静かで荒涼とした調べは極めてロマンテックで、その雰囲気に思い切り浸れる。
残る楽章は神秘的に始まるが、スケルツォ的なリズミックな曲想と夢幻的な曲想とが交互にとってかわりながら終結部まで進み壮麗な幕切れをむかえる。
このCDのピアノは、女流「フィンガーハット」、長崎ちゃんぽんみたいな名前だが、この人も英国・北欧音楽のスペシャリストだ。見事なテクニックと怜悧な切れ味に加え、抒情的な場面での味わいは素晴らしい。
大好きな指揮者「ブライデン・トムソン」は、イギリス音楽しか録音しなかったある意味スペシャリストだが、とりわけバックスの演奏においては、最近こそハンドレイがチャレンジしたものの、かつては第一人者だったわけだ。
雄大なスケール感の表出と、男のロマンをそこはかとなく滲みださせることにかけては、最高の指揮者だった。
早死にが惜しい指揮者だった。ブラームスとか、マーラーが聴きたかったぞ。
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