ブリテン 歌劇「ピーター・グライムズ」 ハイティンク指揮
今日も東京は朝寒く、昼以降は春のようなぬるさ。不気味な一日だった。
このまま春を迎えてしまうんだろうか・・・・。
今日は、ブリテンの歌劇「ピーター・グライムズ」を。
月曜からこんな暗い作品なんて、と思われるかもしれないが、週末に楽しんだものを取上げる次第。
「パルシファル」と「ピーター・グライムズ」を1日で聴くヤツって普通じゃないかもしらん。
ブリテン 「ピーター・グライムズ」
ピーター・グライムズ:A・ロルフ・ジョンソン エレン:フェレシティ・ロット
バルストロード :トマス・アレン アーンティ:パトリシア・ペイン
スワロー判事 :スタフォード・ディーン キーン:サイモン・キーリンサイド
ベルナルト・ハイティンク指揮コヴェントガーデン王立歌劇場
この作品のドラマには本当に救いがない。全編に、北海の厳しい波と嵐が吹き荒れていて、重たい雲が垂れ込めている。
漁師ピーターが村の集会でつるし上げを食っている。
漁の帰りにシケに会い、助手の少年を死なせてしまったのだ。
村人はなじり、ピーターは嵐のせい、と反発。
以降少年は雇わないことを厳しく勧告されるピーター。
数日後の村、助手がいないと漁に支障がでるとピーターは主張、ピーターに好意的な寡婦エレンが必死にとりなす。
そしてこれも好意的な元船長のバルストロードは村を出ることを進めるが、意固地なピーターは拒むばかり。
それでも孤児院から新しい助手を得てしまったピーターは、エレンが止めるも聞かずに、安息日にも係わらず少年を連れ立って漁に出ようとする。
この顛末を聞いた村人は憤慨し、ピーターの家に押しかけようとする。
泣いていやがる少年をせき立てつつも、死んだ少年の幻影に悩ませるピーター。
村人たちが向かってくるのを見たピーターは、家の裏の崖口から浜辺へ出てしまおうとするが、少年は足を滑らせ悲鳴とともに・・・・・。(陳腐な2時間ドラマのような出来事)
数日後、少年の衣服が見つかり、村人は憤慨。
おりから放浪に疲れたピーターが錯乱状態で帰還。
彼を追う村人の遠くからの怒声・・・・。
唯一の理解者、エレンとバルストロードが現れるが、彼女の声ももはや耳に届かないピーター。
バルストロードはピーターに「舟に乗り沖に出て、舟を沈めよ・・・・」と自決を促す。
舟を沖に押す二人。エレンはNO・・・、と涙にくれる。
翌朝、沈没船の情報を聞く村人たち。
そしてこの日も、日々と変わらぬ漁師の生活がまた始まった・・・・。
いやはや、なんという暗澹たる内容であろうか!
弟子を少年に固執するピーターも、何だかブリテンしてるが、まるで「ヴォツェック」のように自らを疎外者として振舞ってしまい、そしてその通り社会からはじき出され、行くところまで行き着いてしまう。
おまけに、こんなピーターを追い詰めてしまう、社会たる村人たち。
事件後は、日常に回帰するだけの第三者だが、なんと恐ろしい加害者たちなのだろうか!
このようなオペラを書いてしまったブリテンに恐ろしいものを感じる。
イギリス人は伝統的に「フェアー(fair)」を極度なまで重んじる。
「バカだチョン」だ、という言葉より「フェアーじゃない(Its not fair)」と言われてしまうことの恥辱を極めて重大視するらしい。
そうした、フェアを外れた人間がいとも易々と陥ってしまう深淵がこのドラマなんだろうか。
ブリテンがここに描いた音楽は素晴らしい。ドラマの緊迫感と救いのない切実さが、実に生々しい響きとなって襲いかかってくる。
前奏曲と5つある間奏曲が曲の繋ぎとして効果的で、オーケストラ・ピースとして、そこから
いくつかまとめたものが良く聞かれる。
私はこれも超大好きで、数々聴いてきた。これらを馴染んで、オペラ全曲を聴けば、親しみやすい。天才的なまでのオーケストレーションに加え、英語で考え抜かれた思考力、といったような英国独自の頑迷さを感じる。
作曲者自演盤とデイヴィス盤が有名だが、ハイティンク盤は日本では未発売。
92年、コヴェントガーデン音楽監督時代の作で、録音は効果音を適度に配し、音だけで聴くドラマを見事に演出している。
それ以上に、ハイティンクの作り出す熱気と強靭な響きに、ブリテンがこの音楽に込めた問題意識を聞いてとることが可能。
歌手陣も文句なし。ことにロットの優しく女性的な血のかよった歌は素晴らしい。
R・ジョンソンの多少リリカルな迫真の歌唱もスゴイ。どこかイッテしまった感のあるヴィッカースや、白知美的なピアーズとも異なる。
救いのないドラマだからこそ聴いたあとに圧倒的な感銘を受ける。
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コメント
このハイティンク盤‥EMI/0777・7・54832・2・2,2CD‥実は最近聴きました。某輸入盤店の難ものコーナーで、プラケースがゆるゆるの割り引き品を買った次第です。LPのC・デイヴィス指揮のPhilips盤に次ぎ、やっとこさ二組目でございます。で、演奏の印象ですが、この些か重々しいとも言えるオペラが、乾いた土に水が染み通る如く、耳と心にズンズン入って来てくれる感じで、ありますね。ファースト・チョイスには持ってこいの一組では、ないでしょうか?何か1958年頃のステレオ初期にDeccaレーベルの制作した、作曲者の自作自演盤にも、耳を傾けたく成って参りましたね。サー・ゲライント・エヴァンスが船長をまだ任せて貰えず、ネッド・キーンなる端役を受け持って居られますけれども、このディスクの御印象も宜しければ、お教え下さい。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年10月12日 (月) 10時43分
PGは、音源でも、舞台でも、映像作品でも、いずれも説得力あるオペラだと思います。
デイヴィスの2度目のもの、ヒコックスのものが、このところのお気に入りですが、ハイティンクの豊饒なサウンドもやはり魅力的です。
本家本元は、これだけたくさん出てくると、ややいにしえ感がありますが、それでもデッカの目覚ましい録音とピアーズのすさまじい入れ込みぶりの歌唱が素晴らしいです。
ちょうど、ショルテイのラインの黄金と同じ時期で、本来、カルショーが録音監修です。
投稿: yokochan | 2020年10月14日 (水) 08時21分