ワーグナー 「ジークフリート」 ブーレーズ指揮
ブーレーズによる週末リング、「ジークフリート」の登場である。
ジークフリートは、ほとんど男のドラマで、大きな動きもなく地味。
他の3作が、単独でまたは、一部を取り出して演奏されるのに、このジークフリートは「森のささやき」を除いては皆無。
でも、私のようなテノール好きにとっては、実にうれしい演目。
ヘルデンとキャラクターの両テノール役の歌がたっぷりと楽しめるから。
76年プリミエのシェローのバイロイト100年リング。
初年度は散々だったと、何度か書いたけれど、歌手は次年度からガラリと変わってしまった。
76年のジークフリートは、「ジークフリート」が「ルネ・コロ」、「黄昏」が「ジェス・トーマス」というベテランによる豪華版だった。
たしか、コロのジークフリート初挑戦だった。儚い記憶だが、FMで聴く限りはちゃんとした歌だったけれど、1年で降りてしまった。おまけにコロは音楽祭の会期中怪我をして舞台に立てなくなってしまった。
動きの激しい極めて演劇的な役に代役とてなく、コロは舞台そでで歌唱に徹し、シェローが演技のみを担当したエピソードがある。笑えるような、シンジラレナイようなお話。
次年度から登場したのが、当時無名の「マンフレート・ユンク」だった。
初めて聴いた時の印象は、ずいぶんと明るく丸っこい声だなぁ、という印象。
以来4年間、ジークフリートを歌いぬいた彼は、抜群の声量と体力を持っていて(多分?)その名のとおり、若々しさでは、黄昏よりは野生児のジークフリート向きのいい意味でのオバカさんテノールだった。力強さといい意味での個性が欲しいところか。
このユンク、次の「ピーター・ホール」演出でもジークフリート役だった。
1年で降りてしまった「ショルティ」が指名したのは、たしか「ライナー・ゴールドベルク」だったが、極度に本番に弱いゴールドベルクもコケて、またもやユンクとなった次第(のはず)。
ユンクも頑張ったが、そのジークフリートより、シェローの演出と相まって見事な成果を上げたのが「ハインツ・ツェドニク」。ローゲもいいが、やはりこの人はミーメだな。
映像で見ても、あんなに細かい演技をしながら、なんで歌えるんだろう、と感心してしまう。
CDで聴くだけでも、抜群の歌唱力が味わえる。歌のないところでも、鼻歌みたいのが聞こえるし、ひぃ~ひぃ~言って笑うところもいやらしい。歌と合わせて、まさに声による演技がここに極まれり。
歴代、キャラクターテノールによるミーメの中でもツェドニクは最高。笑いながら凶暴ジークフリートに刺されて死んでしまうのが哀れを誘う・・・・。 かつては「シュトルツェ」に親しんだもんだが、今聴くと過剰にうますぎる歌が、ちょっと古臭いかもしれない。ベームの「ヴォールファールト」もいいがちょいと真面目すぎ。
「ハーゲ」もよかったし、忘れられないミーメはあと一人、「グラハム・クラーク」。
ちょっと「ミーメ特集」になってしまった。イヒヒヒ・・・・。
ついで、恐竜ファフナーのお話。
恐竜または大蛇を舞台でどのように登場させるか、舞台ではひとつの見所。まぁ、どんな演出でも、吹き出してしまうのだけれど。
シェロー演出は、ごらんのような滑車付きの恐竜が、ガタゴトと黒子に押されて出てきて、笑いを誘う。
ウォーナーのトーキョーリングの竜は、すごくよく出来た仕掛けだったし、二期会のものは、ヤマタノオロチのようなトグロ巻きに大蛇だった(記憶は曖昧)。
ヴィーラント演出では、恐竜の怪しい目だけが光っていたようで、
これは、これで象徴的な演出の典型かと。
これに向かってジークフリートは、どうやって戦ったのかしら?
ブーレーズの指揮するオーケストラは、ここでも明晰な響きが新鮮。
1幕の鍛冶の場面では、剣を精錬するジークフリートは自分でトンカンせずに高炉で自動精錬するが、金床を叩く音がここでは遠い工場から聞こえる。にも係わらず手ぶらのユンクの歌はやや精彩が上がらないが、その分オーケストラの音が明瞭に聞こえ、歌よりオケに耳を奪われてしまった。
録音のよさも手伝って、第1ヴァイオリンはバイロイトの特殊配置通り、ちゃんと右側からすっきりと聞こえる。まったく音が混濁していないのだ。 ジークフリート:マンフレート・ユンク
ミーメ :ハインツ・ツェドニク
さすらい人 :ドナルド・マッキンタイア
アルベリヒ :ヘルマン・ベヒト
ファフナー :フリッツ・ヒューブナー
エルダ :オルトルン・ウェンケル
ブリュンヒルデ:グィネス・ジョーンズ
森の小鳥 :ノルマ・シャープ
Ⅰ:75分 Ⅱ:74分 Ⅲ:75分
最近はジークフリートは、1、2幕の方が聴きやすい。3幕と「黄昏」は、作曲技法が極めて円熟しつくしていて、その錯綜する音楽を受け止め続けるのが辛い時もある。
でも聴いちゃうんだろけど・・・・。
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コメント
「ジークフリート」、遂に来ましたね。
実を言えば、僕も「リング」の中では「ジークフリート」が一番なんです。「ワルキューレ」は第2幕がだれるし、「ライン」は、ドラマとしての集中度が・・・。「黄昏」は長すぎるっ!特に序幕+第1幕。
といっても、「第3幕は冗漫ですけどね。でも「ワルキューレ」第2幕ほどじゃあない(あくまで個人的見解です)。しかしまあ「リング」という楽劇は常に過去の物語をするという台本のくどさににこそ特徴があって、どこをとっても金太郎飴だなぁ。そういっちゃうと身もふたもありませんが。
話は「ジークフリート」に戻って。どのCD、DVDを見聴きしても、第2幕まではノンストップ。yokochanさんの慧眼のとおり、ミーメがひたすらに哀れだからであります。「リング」のキャラクターの中でただ一人、リアリティがあって僕も好き。「ジークフリート」はミーメをみてから良し悪しを決めましょう!
投稿: IANIS | 2007年5月20日 (日) 22時33分
IANISさん、こんばんは。
リングは長大なだけに、皆さんそれぞれに好きな場所、苦手な場所をお持ちですね。ジークフリートの3幕は、まさに冗漫です。
わざわざ、エルダを呼び出してかってに喧嘩して追い返してしまうウォータン、ジークフリートにとおせんぼして、孫をからかうジイサン。
極めつけは長い、伯母と甥の二重唱。最近ツライものがありますけれど、聴けば聴いたで、ハッピーエンドは心躍ります。
でもミーメはいいヤツ。同感ですよ。
ジークフリートを喰っちゃうミーメとしては、ツェドニクが最高でした。
投稿: yokochan | 2007年5月20日 (日) 23時09分
今までに見た映像の中では、やっぱりこれが一番おもしろいと思います。生の舞台は新国しか見たことありませんが、なかなか楽しめました。テレビ放送があったので録画しましたが、なんだか見る気がしなくてしまい込んだままです。今回も以前の記事、TBしますので、よろしくお願いします。
投稿: edc | 2007年5月20日 (日) 23時16分
yokochan様 こんにちは
私もミーメはツェドニク派です。METの映像だけですがいいですよね。
ところで、バイロイトのオケの特殊配置、どんな感じですか。勉強不足ですいません。
投稿: HIROPON | 2007年5月21日 (月) 12時37分
euridiceさん、こんばんは。TBありがとうございます。
ユンクのことについて、たいへん参考になりました。同時にユニークで憎めないテノールですね。
シュタインN響の定期演奏、エアチェックして楽しんでます。
確かに、ユンクはジークムントやローエングリンの柄じゃあないです。
相方は、J・マーティンでしたが、とても立派でここでも喰われてましたぁ。
投稿: yokochan | 2007年5月22日 (火) 00時03分
HIROPONさん、こんばんは。
そう、メトでもツェドニクでしたね。ご賛同いただきありがとうございます。
聖地バイロイトには、行ったことがありません。
ものの本などで、確認した話では、そのピットは舞台の内側に掘り下げられ、客席からはまったく見えない。第1ヴァイオリンが右、第2が左。真中が管で、その両脇にチェロとコントラバスが分割される・・・、といような感じのようです。
従来と違う独創性がここにも現れてますが、指揮者によっては、その独特の音響に苦戦するようです。
「死ぬまでに、一度行きたや、バイロイト」
投稿: yokochan | 2007年5月22日 (火) 00時16分