ヴェルディ 「オテロ」 ヴィントガッセン&F・ディースカウ
暑いですな。
じゃあ、熱(厚)い暑苦しい、変り種「オテロ」を一発。
ワーグナー専門といっていいくらいの、ヘルデンテナー「ウォルフガンク・ヴィントガッセン」の歌う「オテロ」をば。
DGが60年代にいくつか録音した、ドイツ語によるイタリアオペラの抜粋シリーズ。
約1時間の内容ながら、ズシリと文字通り重い。
オテロ:ウォルフガンク・ヴィントガッセン デスデモーナ:テレサ・ストラータス
イャーゴ:D・フッシャー・ディースカウ カッシオ :フリードリヒ・レンツ
オットー・ゲルデス指揮 バイエルン国立歌劇場管弦楽団
(1966年頃録音)
ヴィントガッセン(1914~1974)といえば、ワーグナー。それもトリスタンとジークフリートという重量級を生涯歌い続けただけに、それらのイメージがあまりに強いし、実際ワーグナー以外の音源は、第9か「こうもり」、R・シュトラウスの一部ぐらいしか思いつかない。
そのヴィントガッセンのオテロが聴ける貴重な1枚。
ベームのトリスタンやリングと同時期の記録であることも嬉しいぞ。
爆発的な冒頭の場面から始まる。以外や録音優秀。オケもものすごい迫力。
この指揮者、「ケルテス」じゃなくて「ゲルデス」は、カラヤンのプロデューサーとして高名だが、DGにベルリン・フィルを振った新世界や、「タンホイザー」、ヴォルフなどいくつかあって不思議指揮者の一人。ここでは、まずまずですよ。
合唱が「帆だ、帆だ・・・」と歌いはじめるが、ここはドイツ語。おっとっと・・・・。
喧騒を静めるかのように、ヒーローの登場!
「喜べー!」 原語では「エッスルターテ!」とピーンとスピントを効かせてオテロ登場となるが、・・・・・・ここでは「フロイント ヤーレ!」(たぶんこんな風に歌っているみたい)と歌って登場となる。そして、その声があのヴィントガッセンである。
熊を追って登場のジークフリートのようにくるかと思ったが、以外や颯爽たる登場で、これはこれでインパクト充分!
デスデモーナとの美しい二重唱でも違和感は強い。なんとなくモッサリとしていて、「口づけを・・・」という場面は「ウン バーチョ」となるところが「アイン キッシン」となるわけ。
でも、3幕の苦悩のモノローグのド迫力は実際問題すさまじい。
機関車に乗ってズンズンと迫ってくるみたいで、この怒りと嘆きは誰も止められないと思われる。
「オテロの死」は、さながら傷に倒れた「トリスタン」だ。死の淵にある歌だ。
私にとって唯一無二の、デルモナコの直情的・ヒロイックなオテロをある意味忘れさせてくれる、ヴィントガッセンのオテロだ。
器用とはいえないヴィントガッセンが運命に翻弄されるままに演じたものだから。
もう一人の主役、F・ディースカウのイャーゴはさすがと思わせる、実に堂々たるもの。
言葉の魔術師FDさま。一語一語が意味慎重で緊張感が高い。
完全にオテロを操縦している様が、ヴィントガッセンとの二重唱でもわかる。
そしてFDが歌うと、ドイツ語が原語の作品であるかのように聴こえる。
バルビローリ盤が聴いてみたい。
若きストラータスもよい。
もう30年以上前、二期会「オテロ」を観劇した。若杉弘の指揮、宮原卓也、栗林義信、鮫島有美子(デビュー!)の面々の上演は、日本語訳詞によるものだった。
オテロの数々のカッコイイ場面は、日本語で「よろこ~べ・・・」「剣を捨て~ろ~」なんて歌われていて、ちょっと恥ずかしかったり、おかしかったり。
ドイツ語でも違和感を感じるのだから、やはり作曲者が音符を付けた原語のほうがいいに決まってる。
このシリーズには、FD、コツーブ、シュタインBPOの「リゴレット」や、ボルク、FD、トーマスの「仮面舞踏会」、「運命の力」、ステュワート、リアー、シュタインの「ナブッコ」・・・・こんな魅力的なものも出ている。
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コメント
>「フロイント ヤーレ!」
>その声があのヴィントガッセン
ウケました! すごい聴きたくなってしまいました!!
フィッシャー=ディスカウのイァーゴも(怖いものみたさで)体験してみたいデス。
イタリア語←→フランス語だと(ワタシの場合は)さほど気にならないんですが、イタリア語→ドイツ語だと悶絶します(笑) 子音がっ……子音がっ……!!!!
日本語の場合、言葉の意味がダイレクトに伝わってきちゃうのが「気恥ずかしさ」の原因のような気がします。
投稿: しま | 2007年6月16日 (土) 08時58分
しま さん、こんにちは。
そうなんです。どこからどう聴いてもヴィントガッセンなんです。
愛の二重唱なんて、知らない人が聞いたら、やる気なさそうに聴こえますので、悶絶するかもしれません。
F=ディースカウは至極まともです。真面目風知能犯って感じです。
オペラはやはり原語ですね。
そんな言葉を恥ずかしげもなくいっちゃうの?って、椅子からズリ落ちそうになったもんですよ。
一昔前は、各国の言葉に置き換えるのが普通でした。
字幕の登場と歌手の国際化で、原語上演が当たり前の世の中になりました。日本の歌手はホント、頑張ってますねぇ。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2007年6月16日 (土) 13時24分
録音は聴いたことがないのですが、同じころのビデオを見ました。けっこうやさしげな顔立ちのせいか、オテロに限らず、他にはトリスタンを見た程度ですが、どうも映像では「英雄」らしくみえにくいです。声だけのほうがいいかもしれません・・
投稿: edc | 2007年6月17日 (日) 07時05分
euridiceさん、こんにちは。
映像は、大阪でのトリスタンでしょうか。あのお姿を見ちゃうと、たしかに声だけの世界の方がいいですね。
映像では、ベームのこうもりがあります。
こちらは田舎のおっさん、という感じですが、その雰囲気をキャラクター化してしまってるようです。
晩年は演出も手掛けたようですので、もう少し存命であればよかったです。
投稿: yokochan | 2007年6月17日 (日) 09時32分
イタリアやフランスのオペラを独語訳で収録した盤は、ドイツ国内のドメスティックな市場では、結構需要が在り存在していたようですね。C・ルートヴィヒのタイトル・ロール、H・シュタイン指揮の『カルメン』が、当時の西独エレクトローラ・レーベルに在り、聴いてみたいな‥と、思ったものです。
投稿: 覆面吾郎 | 2021年12月13日 (月) 13時16分