ポール・エルミング ワーグナー
「パルシファル」第3幕の野辺での洗礼の場は、こんな美しい花畑であって欲しい。
でも本当は、もっと粗野で、かつ楚々とした花が点々と咲いているほうが、聖金曜日のイメージなのかもしれない。
ワーグナーが書いたこの場面の音楽は、そんな絵のように美しく、禁欲的であるはず。
第2幕の花の乙女たちの誘惑、そしてクンドリーの妖艶な魔の手は、原色のユリの花こそ相応しい。
こんな色のドレスが恐ろしく似合ったのが、ヴァルトラウト・マイアである。
アンフォルタスも、私ら、お父さんチームも、その魔力の元に当然のごとく平伏してしまう。
偉いぞパルシファル!
そんな偉いパルシファル列伝のなかのひとりが、デンマーク出身の「ポール・エルミング」だ。
バレンボイムのリングで1990年にジークムント・デビューしたエルミングだが、本来はバリトン歌手として出発していた。
解説によれば、遡ることバイロイトデビュー10年前には、パパゲーノやシャープレス、フィガロの伯爵などを歌っていたらしい。
まさにシンジラレナ~イ思いだ。
確かにその声は立派なバリトン域に裏うちされた、力強さがある。
独断で申せば、怒られるの承知で、P・ホフマンとイエルサレムを足したような声・・・・。
かなり誉めすぎかもしれないが、90年代の全盛期には、ジークムントの「ウェールゼ・・・!」、パルシファルの「アンフォールタース・・・!」の絶唱が、それこそものの見事に決まりまくり、FM放送を聴きながら快哉を叫んだもんだ。
そんなエルミングも、録音にイマイチ恵まれず、バレンボイムのリング以外、唯一の正規録音といってもいい「ドホナーニのワルキューレ」は未聴だし、廃盤のまんま。
実演でも、結構体調不良でコケル人で、東京での「バレンボイムのワルキューレ」公演では不調を押して出演するとのアナウンスが入った。でもかなりの力投で、満足の出来栄えだったけど。
しかし、別公演の「パルシファル」演奏会形式では、出演出来ず、当時経験不足のアナセンが譜面に顔を突っ込みながら歌った。
その後、「シュタインN響」のパルシファル3幕と、G・アルブレヒトの「パルシファル」の両方共に聴くことが出来て、いいコンディションのもとでのエルミングの素晴らしさを確認できた。
今回のCDは、2005年と6年にデンマークにて録音されたもので、最新のエルミングの様子がいい音で確認できる。
「」からローゲのモノローグ、「ワルキューレ」から2曲のソロ、「パルシファ ル」から2・3幕の抜粋。
もう少し早く録音して欲しかった・・・、というのが正直な感想。
少しぶら下がりぎみの音程の甘さが気になる。
声にも往年の力強さが欲しい。
残念な限りだが、随所に役柄を歌いこんだ味のある歌が聴かれることも事実で、「ジークムント」と「パルシファル」に徹したエルミングの良さが味わえる。
最近は、ローゲやミーメのキャラクター役を演じているらしい。
たっぷり収録された「パルシファル」でのクンドリー役、「Nina Pavlovski」がむしろ素晴らしいと感じた。同じデンマーク出身で、日本(たぶん新国)でも歌っているらしい。
硬質で、キリリと締まった歌声がとても好感。
オケは、日本でお馴染み、D・ハウシルトが指揮する、アンデルセンゆかりの地、オーデンセ交響楽団がなかなかにワーグナーの味を出している。
北欧陣は、歴代ワーグナーに強い。神話とヴァイキングの血が流れている・・・・、な~んてね。
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